【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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87球目 センス

 

 

 

 

4回表が終わって1-5、稲城実業は圧倒的に追い詰められていた。

その理由は単純明快……164kmでコントロールが抜群なピッチャーの球なんて、キャッチャーがマトモなら打てる筈が無いのである。

 

確かに相手は「変化球が使えない」 そう、使わないのではなく「使えない」のだ。

1年生キャッチャーの由井は、4回までで5回ボールを後ろに逸らしている。

日本最強ピッチャーと組むには明らかに実力不足だが、それでも尚、北瀬という大エースの価値が完全に損なわれる事は無い。

 

確かに160km代の速球を打つ練習はピッチングマシーンでして来たが、その程度の努力で生きた球が打てるようになる筈がない。

たった1年努力しただけで部員達が打てるようになる、そんな簡単な話なら速球派などとっくに絶滅しているだろう。

 

 

___ずっと目を逸らしていた。

相手の弱点が消えれば、こちらは手も足も出ないという事を。

そしてその弱点は、たかが1年生であろうとも簡単に消せてしまうだろうという事も。

 

そのツケを今、稲城実業は払わされていた。

 

 

 

 

 

 

とは言っても薬師高校も、1年生キャッチャーをノーリスクで出場させられていた訳では無い。

薬師野手陣というデバフがありながらも、キャッチャーとして4回1失点に抑えた立役者は大きく息を切らしていた。

 

 

「ハァ……ハァ……」

「由井、大丈夫か?」

「大丈夫です!! ……ゲホッ」

 

MAX164kmのストレートを受け続ける由井は、本番の緊張感もあり相当疲弊している。何回も何回も剛速球を受け続けた腕や胴体も、赤黒く腫れている。

 

彼の疲労がレッドゾーンに突入していると見た轟監督。

関東大会決勝という場面で、今まで大活躍だったキャッチャーを入れ替える決断をした。

 

 

「あー由井、交代だ」

「待ってください……俺はまだ、行けます!」

 

由井の悲鳴じみた声に対して轟監督は、あくまで冷静な声でこう説得した。

 

 

「勘違いすんなよ? お前が使えるって事は、今回の試合で既に示した。これ以上、身体に負担を掛ける必要はない

甲子園が掛かった試合でも無いんだ! 無茶する必要はないだろ……分かったか?」

 

 

その言葉を聞いた由井は自分の実力不足を嘆きながらも、気丈に振る舞って返事をした。

 

 

「……はい。伊川さん、後をよろしくお願いします!」

「由井位うまくやるのは無理だけど……後は俺達に任せろ!」

「そうだな。俺達が打って打って打ちまくって、関東大会も優勝するから!」

 

 

 

 

 

 

「代打をお知らせします。キャッチャー由井くんに変わりまして、増田くん、増田くん……」

 

 

5回からキャッチャーに移る伊川が居たセカンドを埋める為に、2番手セカンドの増田が打席に入る。

ミート力もパワーも同じ位高い、稲城実業の主砲位の実力を持つバッターである。轟監督が来てからの2年間で、大きく成長し過ぎではないだろうか?

まあその分、守備力は大幅に犠牲になっているのだが……

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

堂々とバッターボックスに立った彼は、あっさり三振していた。

まあ相手は、ドラフト1位競合クラスの成宮鳴だから仕方ないだろう。

 

 

「ドンマイ増田ー!」

「惜しかったですよー!」

「次はホームラン決めろよー!!」

 

 

 

 

薬師ベンチはワイワイ好き勝手に騒ぎつつ、打順は1番秋葉まで戻った。

今日は2打席1ヒットと、まずまずの成績を残しているらしい。

薬師の1番と考えると物足りない気がするが、相手は高校3強のピッチャーだから仕方ないだろう。

 

それに成宮は変化球を大量に持っているのが、薬師にとって相性が悪い。

今まで積み重ねてきた努力がない分、あまり打ったことがない変化球には対応し辛いのである。

 

 

___ガギン!

 

何とか打ちはしたが、鉄壁の稲実内野陣によってあっさりアウトにされてしまった。

 

 

「あーやっぱりな。ぶっちゃけ、打った瞬間ヤバいと思ってたわ」

 

一応走って1塁に向かった秋葉は、ベンチに帰る時にこう零していた。

なんか普段より足が遅い気がしていたが、コイツは内心諦めていたのである。

まあ実際、彼が全力で走っていてもアウトにされていただろうが……いくら何でも、決勝で手抜きは良くないのではないだろうか?

守備は汚染されなかった秋葉だが、テキトーさはしっかり受け継いでしまっていた様である。

 

 

 

 

ツーアウトランナー無しで、打順は2番伊川になった。

成宮-多田野バッテリーは、絶対打率10割を阻止してやると意気込んでいる。

 

 

___カキーン!

 

だがそう上手くはいかず、簡単そうに掬い上げられて2塁打を放たれてしまった。

 

威圧感を出しつつもボケーっとしているという、矛盾が起きそうな顔をしている伊川。

彼は、とりとめもなくこんな事を考えていた。

 

 

(これで、得点圏にランナーを置いた。確か、得点圏って打率が上がるんだよな……この打席は勝ったな)

 

そんな事を考えている伊川。

だが昔と違い、ちゃんと盗塁しようとする姿勢は見せていた。

盗塁のフリをするだけで、バッターが打ちやすくなるらしいと漸く分かったのである。

彼は打率10割の男だから感覚では理解出来ていないが、そういう事もあるのかと一応頭に刻んでいたのだ。

 

 

 

 

そして3番には、エース北瀬。

どんなボールが来るかなぁと、内心ワクワクしながら打席に立っていた。

 

 

___バシ!

 

「ストライク、バッターアウト! チェンジ!!」

 

「あちゃー、チェンジアップ系苦手なんだよなぁ!」

「あれ? 俺は帰れると思ってたんだけど」

「仕方ないだろ、俺だって打ちたかったんだけどー!」

「いや、別に良いけど……」

 

北瀬はてへっという顔をしながら、ホームランを打てなかったと残念がっていた。

まあ打てない事は仕方ないのだが、成宮のチェンジアップアップが苦手だという情報を漏らして良かったのだろうか……?

 

 

伊川はナチュラルに、嫌味とかではなく、本塁に帰れなかった事を不思議がっていた。

何故か、今回の北瀬は絶対に打つ感じがしていたらしい。

……実際、今回の打席の北瀬は調子が凄く良かったのだ。誰も気付いていないが、メンタルとフィジカルが良い感じにマッチして、普段よりも実力が出せていたらしい。

成宮が三振を取れたのは、完全にラッキーだった。

 

 

 

……

 

 

 

4-9で迎える7回裏を、青道高校のメンバーは試合会場で見守っていた。

ラジオで解説も聞きながら、片岡元監督が務める薬師高校をなんやかんや応援している。

ライバルだという意識が1番強い為愚痴混じりではあったが、一応薬師野球部を応援している様だ。

 

 

『いきなり101マイルで2ストライク……さあつい先月、全国最強を争った二校の再びの戦い!

駆け引きやチーム全体のプレイに注目したいところですので、あまり球速を注視したくはないのですが』

 

ラジオの声を聞きながら、沢村がキラキラした声でライバルを褒めていた。

この間の試合で落ち込んでいた筈だが、いつの間にか復活していた様だ。

 

 

「やっぱり北瀬は凄いなぁ……流石、俺のライバルと言った所ですかね!」

「いやお前、あの発言をまだ擦るのかよ」

「完全に実力不足だぞー」

 

ダラダラと話しながら試合を見ている様に見えるが、彼らはその実真剣に観戦していた。

自分達が甲子園に行くために、絶対に倒さなければならないライバル達だ。当然彼らだって、少しでも弱点を探そうと真剣に見ている。

 

 

___バシッッ!

 

北瀬が伊川のミットに投げ込んだ瞬間、ボールを投げただけとは思えない爆音が鳴り響いた。

そして電光掲示板に現れた球速に、観客達はまた度肝を抜かれていた。

 

 

『ーーー三振速球165キロォ!薬師のエース北瀬涼、日本史上最速を更新したああああああ!!!これが、これが!!!日本球界を背負うであろう男の実力だあああああああ!!!』

「なんやねんこのオッサン、即落ちしとるやんけ」

「いやマジですげえわ…これプロになるころにはマジで170行くんじゃねえの?」

「本当に凄い…僕もすぐそこに…!」

「今目指したら故障するわ」

 

 

 

……

 

 

 

8回裏が終わり6-11、稲城実業が圧倒的に劣勢。

この回で負けない為には最低限5点、逆転する為には6点、薬師打線の攻撃力を考えたらそれ以上の点数が必要だ。

 

稲城実業バッターに掛かる、強いプレッシャー。自軍からの必死な応援に対して応えようと、神宮寺は固く決心していた。

 

対して関東大会決勝戦にも拘らず、余裕の顔をした北瀬と伊川。

テレパシーで雑談をしながら、相手バッターが打席に経ち終わるのを待っていた。

 

 

(相手は7番のなんちゃらからか)

(確か、神宮寺だったな。パワーに優れてるらしいけど、真田先輩の方が明らかに上だよなぁ

……だからと言って、俺が打たれない訳じゃないけど)

(まぁ5点差あるし、多分大丈夫だろ。俺は普段通り指示をだすから、北瀬は普段通り投げればいいよ)

(だよな!)

 

 

この状況下で余裕そうな会話を脳内でしながら、薬師バッテリーは結局、普段通り投げる事しか決めていなかった。もう少し話し合う事は無かったのだろうか?

そして由井のリードを見て、伊川は今までのリードを反省しようとすら思わないのか?

 

……伊川からすれば結局、たかが部活のスポーツに過ぎない。

まあアメリカで数年マイナーリーグでプレーするかもしれないが、俺は北瀬のオマケでしかない。

そこそこ野球が上手いのは、面接で良い感じに言えるかなぁ位の感覚でしかなかった。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 

 

 

北瀬-伊川バッテリーがあっさりワンアウトを取った後、次のバッターである江崎がバッターボックスに立った。

 

 

(絶対、俺が打ってみせる!)

 

強い決意を持ちながら、日本最強の左腕北瀬に挑む江崎。

……だが、決意だけで強くなる事は無い。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク、バッターアウト!」

「あぁ……クソッッ!!」

 

強く気持ちを持とうとするあまり、力が入りすぎてしまった江崎。

咄嗟にバットを投げ捨てそうになりながらも、そんな無作法な真似は稲城実業のメンバーとして出来ないと、固くバットを握り締めたまま離さなかった。

 

 

 

 

ツーアウトランナー無し。打席には、都のプリンスと呼ばれる大エース、成宮鳴。

 

 

(無被本塁打、一桁自責点、伊川の打率10割崩し……どの目標も達成出来なかった

だから、このままじゃ終われない!!)

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!」

 

 

___バシッッ!

 

「……ボール」

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク!」

 

 

追い詰めた薬師バッテリー。相手は最強クラスのピッチャーである、成宮鳴。

テンションが上がっている北瀬は、テレパシーで伊川にまたお願いをした。

 

 

(よし、追い詰めた! じゃあ全力ストレート使って良いよな!)

(お前、ホントに成宮さんの事ライバル視してるよなぁ……別に良いけどさ)

 

 

一方成宮も、次は何となく全力ストレートが来ると分かっていた。

だが___あの165kmを打てる気がしない。

それでも俺は打つと、自分の不可能だという予測を覆さんと、短く持ったバットをもう一度握りしめた。

 

 

___バシッッ!

 

「ストライク! バッターアウト! ……試合終了!!」

『わああぁぁ!!』

 

「最後も165kmかよ?!」

「流石は北瀬!!」

「伊川も轟も凄かったぞー!!」

「稲実も良く頑張った!」

「成宮ー! ナイスファイト!!」

 

観客達も大騒ぎし、今の激闘を称えた。

点差で言えば5点、早々勝敗は変わらないレベルだっだが……稲城実業の奮闘を称えない者は、野球ファンは殆どいないだろう。

彼らは165kmのビタビタストレートを相手に、最後まで諦めず戦い抜いたのだから。

 

当然、勝利した薬師高校も素晴らしい!

あのドラ1競合と言われる成宮相手に11得点。今までの薬師高校の打撃からすると大人しいが、素晴らしいスイングだと一目で分かる動きをしていた。

 

 

「6-11で、薬師高校の勝ち! 礼!!」

『ありがとうございました!!』

 

成宮は北瀬に手を差し伸べ、大胆不敵に笑いながらこう宣言した。

 

 

「やっぱり、北瀬は凄かった……それでも、いつかお前に勝つから! 俺の事、絶対覚えておきなよ!」

「成宮さんも凄かったです。俺、2回も三振させられましたし……出来れば夏の地方大会で、また戦いたいです!」

「当然だし! 次は俺達が勝つからな!!」

 

北瀬は成宮の手を握り返し、笑顔でまた戦いたいと口にしていた。

それに当然だと返した後、成宮は後ろを向いて歩き出し……ボタボタと涙を零していた。

 

 

「……ううっ、グスッ」

「これだから成宮は……意地っ張りだな」

「坊やだからさ……クソッ!」

 

 

 

彼らの涙を全く見ていない北瀬や伊川。勝者は敗者を振り返らないと言うが、これは気付かなすぎではないだろうか?

まあ彼らは負けて泣くほど野球にハマっていないので、名門稲城実業野球部の気持ちなど分からなくて当然かもしれない。

 

 

かつて関東最強と謳われた、都のプリンス成宮鳴。彼の高校最後になる戦いは、もう目前まで迫っている。

 

 

 

 

 

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