【完結済】気付いたらパワプロで適当に育てた選手に転生してた話   作:いちごケーキ

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2年・春季大会編
88球目 変化球


 

 

 

薬師高校野球部員が寮に戻ったら、理事長が大量の高級肉やお菓子と共に待ち構えていた。

 

試合に出場していた選手達が風呂で泥を落とした後食堂に戻ると、肉をキラキラした目で見ている選手達から歓声が飛ぶ。

 

轟監督が頬を緩ませながら、乾杯の音頭を取った。

 

 

「えー、関東大会優勝を祝って……カンパーイ!!」

『カンパーイ!!』

「監督、なんか酒飲んでる様なテンションっすね……?」

 

もちろん、彼らが飲んでいるのはジュースだ。

オレンジジュースにコーラ、ウーロン茶など色々なドリンクをコップに入れて乾杯していた。

甘い物を禁止している野球部もある位なので、随分とゆるい空気のチームである。

 

 

「そりゃそうなるだろ、関東大会優勝だぞ?! ……まあ優勝に慣れてる真田キャプテンからすれば? その程度の事かもしれませんけど?」

「いやいや、優勝喜んでますって!」

 

そう監督に返事をしながらも、真田は内心「言われてみれば、俺はめちゃくちゃ喜んだりしてないな……チームの打撃力に慣れすぎたか?」などとと考えていた。

春のセンバツ優勝の時の熱狂感が強すぎて、関東大会優勝では驚かなくなってしまったのである。

 

 

 

部員達が楽しげに肉を食いまくるのに対抗して食べまくりながら、轟監督が北瀬に話題を振った。

 

 

「むしゃむしゃ……じゃあ関東大会で1番活躍した、北瀬になんか話して貰おうか!」

「え、無茶振りっすよ! ……優勝出来たのは、ここにいる皆さんのお陰だと思います。ありがとうございます」

 

つまらない事を少しだけ言って、お茶を濁した北瀬。

まあくだらない話を長々とされるよりはマシだが、もう少しなんとかならなかったのだろうか?

下級生達も和牛を食べながら聞いている人が多く、あまりしっかりとは聞いていなかった。

高級肉が美味すぎるとはいえ、薬師野球部のゆるさに汚染されていると言えるだろう。

 

 

つまらない事しか言えないエースに対して、轟監督が不満げな顔をしながらもう少し話せと促した。

 

 

「もうちょい何かないのかよ?! じゃあ……自分以外で1番活躍したと思う人の名前と理由を上げてみろ!」

 

轟監督が、北瀬でも自分の考えをちゃんと言えそうな事を捻り出した内容に対して、北瀬は特に悩まずにこう口にした。

 

 

「えっ、まあ真田先輩っスかね。先発として登板もしてるし、出たら点も取ってくれてるし、チームを支えるキャプテンなんで」

「涼……!」

 

尊敬している薬師高校有する大エースの一言に、真田が感動した様な声を上げた。

言ってくれた相手が後輩という事は、彼にとってどうでもいい事なのである。

 

真田キャプテンは、雷市や伊川を差し置いて2番目に活躍したってのは言い過ぎだよなぁと分かってはいながらも、照れ笑いしていた。

誰もが認める天才にここまで認められている事が、とても嬉しかったのである。

 

 

 

「じゃー真田キャプテン、何か一言どうぞ!」

「そっすね……俺達3年生は2年前まで、普通の弱小校野球部のプレイヤーでした。なのに轟監督や現2年生の天才達が来てくれたお陰で、甲子園優勝っていうスゲェ体験をさせて貰えたと思ってます

そして熱心な1年生達が沢山入って来てくれて、薬師野球部は大きく変わろうとしています! 俺はこのチームに入れて、本当に幸せです!

……3ヶ月後、最後はまた甲子園優勝で締めくくりたいと思ってます! 最後まで、よろしくお願いします」

 

『わっ!!』

「良い事言うじゃん!」

「真田先輩カッコいい……!」

「絶対優勝します……!」

 

真田の大演説で盛り上がった部員達。

理事長も、ワシも得難い経験をさせて貰ったと思ってるわい……と共感していた。

真田キャプテンのカリスマによって、一致団結しようとしている薬師野球部。

真田俊平は、色々な才能に恵まれ過ぎているプレイヤーだった。

 

 

 

 

 

 

肉や米におやつをお腹いっぱい食べて大満足だった北瀬達は、自分の寮の部屋に戻ってワイワイと話していた。

ちなみに火神だけは、素振りが足りないとか言って出かけている……休息という概念を取り入れた方が良いのではないだろうか?

 

 

「いやーマジで由井凄かったな! 稲城実業相手に4回1失点なんて、考えもしなかった!!」

「俺も、リードってけっこう大事なんだなって思ったよ……これから、ピッチャーとしての北瀬をよろしく頼む」

 

 

北瀬や伊川のの褒め言葉を聞いた由井は、それは違うんですけどねと苦笑いをしていた。

無理に笑おうとしてはいるが、苦しげな表情を隠せていない。

 

 

「いえ……俺なんて、全然……北瀬さんの球種をストレートしか投げさせられなかった上に、5回も捕逸しましたし……

でも俺、絶対甲子園までには全球種取れる様になって見せますから!」

 

実力相応にプライドが高い由井は、自分の能力不足が公式戦で露呈した事が悔しかったのだ。

 

だがそんな気持ちは分からない伊川は、練習ばかりしている由井を心配して、こんな的外れな慰めの言葉を掛けていた。

 

 

「……そんなに無理しなくても良いんじゃないか?

春のセンバツ準優勝校の稲城実業相手に4回1失点って成果は、既に示したんだ

成宮さん相手でも俺達の打線なら10点位は取れるし、ストレート取れるなら大丈夫なんじゃねぇの」

 

元正捕手だった伊川さんの言葉を聞いた由井は、内心一瞬怒っていた。

そんなピッチャーに寄り掛かるだけのクズみたいな行動を、俺がする訳ないですよねと思ったのだ。

 

……だが、甲子園を優勝する事を考えた場合でも、それで何とかなってしまうだろうと直ぐに悟った。

だからこの意見は自分のプライドに過ぎないかもしれないと思いつつも、由井は自分のキャッチャーとしての主義主張をハッキリと口にした。

 

 

「…………確かに北瀬さんが投げるなら、キャッチャーがその程度の奴でも問題ないのかもしれません

___でもそんな事をするのは、俺のキャッチャーとしてのプライドが許せません

凄いピッチャーである北瀬さんを、ちゃんと活かしたいって思ってますから!

2ヶ月も使ってストレートしか取れないキャッチャーが、何言ってるんだって思うかもしれないですけど……」

 

 

北瀬は由井の言葉を聞いて由井の実力不足を否定した後、感慨深げにこう言った。

 

 

「何言ってるんだなんて思わないよ! 稲城実業相手にあれだけ抑え込んだのは、紛れもなく由井の実力なんだから

でも、そっか……なんか由井の言葉を聞いてたら、バッテリーの事を相棒って言う理由が分かった気がする」

 

「ありがとうございます。今の俺の実力で、北瀬さんの相棒を名乗れる程厚かましくないですけど___いずれ、そう言って貰えるような、キャッチャーになりたいです」

 

 

伊川は北瀬や由井の言葉を聞いて、もし俺が野球を好きで練習を続けていたら、バッテリーとして相棒になれていたかもしれないのにと少し悔しがっていた。

今だって野球の事を、勉強より掃除より面倒臭いと思っているのは変わらない。

将来の為の勉強を捨ててまで、野球に打ち込むなんて有り得ないと思っている。

 

 

(でも俺だって、野球を好きになりたかったよ……)

 

伊川が野球を好きになれないのには、特に深い理由はない。

目立つ事が好きではないとか、運動が好きではないとか、その程度の理由である。

単純明快な理由だからこそ、伊川が野球を好きになる可能性は極端に低かった。

仲の良い友達や先輩がやっているからとか、成功すれば稼げるかもしれない位しか、彼が野球を好きになる要素が無いのだ。

 

 

 

 

 

 

関東大会から数日が立ったある日、北瀬と由井はグラウンドで変化球を投げたりしながら、まずどの球種から練習するかを話し合っていた。

 

 

___バシッ!

 

「ナイスキャッチ、由井!」

「ありがとうございます! ……カーブもやっぱり、凄く良いですね! これを俺が捕れるようになれば、40km位の緩急が付いて凄い事になりそうです!」

 

運良くカーブのキャッチに成功した由井は、嬉しそうに北瀬のカーブについての感想を話していた。

やはりメジャークラスのピッチャーのボールを受ける事は、キャッチャーにとって凄く楽しいらしい。

 

 

___バッ、ガツ

 

「おい由井、大丈夫か?!」

「大丈夫です、ちゃんとプロテクターに当たったんで!

……やっぱり、スライダーを練習するのが1番良いかなと思います。こんな凄い変化をするボールなら、絶対バッターも当てられないですよ!」

 

取りこぼしはしたものの、身体でガードして後ろに逸らさなかった由井。

北瀬さんのボールにしては少し軽いとはいえ、凄まじい変化量を考えるとこのボールが1番打ちづらいのではないだろうかと考えていた様だ。

痛みに少し呻きながらも、この変化球が1番取れるようになりたいなと思い、キラキラした目で語っていた。

 

 

___バッ、ガシャン!

 

「すみません! フォークを先に練習するのは厳しそうです……」

「へーそうなんだ……」

 

 

ワンバウンドする位急激に下に曲がるフォークは、キャッチャーが取り辛い球として有名である。

由井はこれは今の所取れないなと考えて落ち込みながら、この変化球は後回しだなと考えていた。

ボールのキレが良すぎて、ボールゾーンに投げてもらった場合ワンバンしてしまうらしい。

 

 

___バシッッ!

 

 

「あ゛ッ」

「大丈夫か由井」

 

一瞬苦しげな声を出した由井だったが、ピッチングに神経を注いでいた北瀬にはあまり聞こえていなかった。

なんか起きたか……? 気のせいな気がするけどという感じて、由井の体調を一応伺う程度の気付きである。

 

 

「いえ、全然大丈夫です!

……全力ストレートは1番最後に習得する方が、俺的には助かります。北瀬さんは全力ストレートが1番好きだって分かってるのに、すみません」

「別に、無理に取ってくれなんて思わないよ! ……ていうか俺、全力ストレートが好きだって事話したっけ?」

「俺だって薬師高校のキャッチャーですから、それ位は見ていれば分かりますよ!」

「へー……マジのキャッチャーって凄いんだな!」

 

 

ミットに当てて前に落としつつも、しっかりと取れずに指に痛みが走った由井は、虚勢を張って大丈夫だと口にしていた。

今回は怪我まではいかなかった様だが、念の為冷やした方が良いのではないだろうか?

 

……全力という枕言葉が付いているとはいえ、ストレートを一球受けただけで手が少し痛いというのは、プライド的に言えなかった様である。

それに北瀬さんの甘過ぎる性格からすると、それを言っちゃうと全力で投げてくれなくなりそうだしと、由井は痛かった事を全力で誤魔化していた。

 

 

 

 

何回か変化球を投げた後、彼らはベンチに座りながら今後を決める重要な会話をしていた。

 

 

「……やっぱり俺は、スライダーを最初に取れるようになりたいです!」

「良いんじゃないか? じゃあそれで行こう!」

 

北瀬は特に異論もなく、あっさりと次に練習する変化球が決まっていた。

 

北瀬は、欲を言うなら全力ストレートを投げたいが、由井に負担を掛ける様な事は出来ないなと考えていた。

スライダーも防具にぶつけていたから危なそうだけど、本人が大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうと適当に考えていたのだ。

 

極亜久中にいたくせに、北瀬は無条件に人の言う事を信じやすい人間である。

彼が再起不能の怪我を負わなかったのは、伊川の尽力が大きいだろう。

 

 

 

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