異世界TS転生曇らせ愉悦部員が失敗するだけの汚話   作:アスタロット

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すれ違い、魔都

 

木扉を叩く音が子供の喧騒に混じり、古びた家屋に響く。

 

「ホラお前達、静かにしな!ったくしょうがないねぇ…さて、こんな所に誰が来たのやら」

 

やや嗄れた声で、ノック音に気が付いた妙齢の魔族の女が正面玄関へ向かう。

 

ここは魔都にある児童福祉施設。

この女が私費により設立した孤児院である。

 

「はいよぉ、どなたで……!!」

 

扉を開けた先にいたのは、純白のローブを纏った人間の女であった。

 

戦争中、人間と触れ合うことが少なかった魔都の民ではあったが。

この魔族は、人間を何度も見たことがある。

彼女は嘗て魔族の傭兵であり、前線では人間と幾度となく相見えてきた。

 

ある戦場では、王国側の兵士に混じり治癒魔術師がいた。

その人間は、目の前の女と似たような白いローブを着用していた。

だから、魔族の女は眼前の人間が治癒魔術師とすぐに理解した。

 

先刻、魔族の長から、人間が魔都にいることは布告された。

また、敵対することも固く禁じられていた。

 

故に、市中に異人がいてもおかしくは無いと考えてはいた。

まさか自らが営む孤児院に来訪するとは露思わなかったが。

孤児院の主人は驚きを隠しつつ、戦場で洗練された精神が自らを平静に至らしめる。

 

またこの主人は、眼前の女が放つ只ならぬオーラを感じた

実際に戦場を体験し、生きのびてきた兵士には、危機に関して独特の嗅覚が備わっているものだ。

故に警戒した。

 

「…人間の女が、こんな所に何の用だい」

 

「わたくしは王国の聖職者でティアナ、と申します。こちらが孤児院と御伺いして、参りました。貴方様が院長様で?」

 

「院長ってガラじゃないが、まぁ一応はね。それで…アンタが都に来てるって言う、話題の人間どもかい。悪いが、人間様はお呼びじゃないよ」

 

院長である魔族の女は、突っ慳貪な返答で人間を追い返そうとし、扉を閉めようとした。

 

「院長、どうかお話だけでも。お役に立てるかもしれません」

 

ティアナと名乗る女は、ごそごそと懐から何かを取り出し、それを手のひらに載せた。

その動きを察して、咄嗟に院長の女は警戒した。

 

「ッ!……これは…魔石?しかも、素人目にも良さそうなモノじゃないか。和平が成ったと聞いちゃいたがねぇ…たけど、ウチは奴隷商じゃないよ」

 

魔石の使い道は多岐にわたる。

魔道具の作成、武器の錬成、魔力の抽出。

また、高濃度のモノは高額なため取引の担保に。

ティアナが取り出した高濃度の魔石は、孤児院の子供を引き取るには十分に過ぎる手付金であった。

 

だからであろう、院長の女は、ティアナが魔石を対価に孤児を引き取りに来たと考えた。

 

「いえ、これは御挨拶がわりの寄付です。わたくしは聖職者です、施しには決して対価を求めません。なので、どうかお話だけでも」

 

「ほう…アンタ達が信じるカミサマの教えだか何だかは知らんが、まぁいい。なら入りな、話しは手短に頼むよ。ガキどもがうるさいんだ」

 

「感謝いたします」

 

♦︎

 

簡素なテーブルとイスが置かれた応接室。

院長はそこにティアナを通した

 

「ホラ、座んな。で、ウチみたいな寂れた孤児院で、どんな大層な事がしたいんだい?さっきも言ったがね、ウチの子は人間様には預けらんないよ。ま、懐が寂しいのはあるけどね」

 

「何かお困りの事はありませんか?その…先程のように、寄付を続けるのは難しいので、それ以外で」

 

「ふぅん…アンタ、聖職者って言ったね。治癒はどこまでできるんだい?」

 

「魔力が保てば、病から身体の欠損まで」

 

「ほぅ…相当な腕前だね。ふむ、ウチにいるのは主に戦災孤児だ。いるのさ、五体満足じゃない子が、何人も」

 

「では、早速わたくしが!」

 

「待ちな」

 

「是非、行かせて下さい。わたくしにはその実力があります」

 

「眼が見えない子ならともかく、ウチには人間に傷めつけられてる子も多い。女だろうと、人間のアンタが部屋に入った途端、大騒ぎさ」

 

「ッ!?それは本当ですか!?なんと…なんと言うことを……も、申し訳ありません…」

 

「アンタが謝る必要なんて無いさ。そっちでも似たような被害があんだろ?和平が成ったんなら、お互い言いっこ無しさ」

 

「その…割り切られているのですね」

 

「こう見えても、元傭兵だからね。割り切らなきゃ生きられないよ」

 

「成程。ですが、そうなると子供達に目隠しをしながら治癒を行う、と言う事ですか?人間たるわたくしは姿を見せられない訳ですし」

 

「それも難しい。ガキンチョの中には嗅覚に鋭い子もいてね、今も人間の匂いを感じ取ってるかもしれないよ。近づけば、間違いなく錯乱するだろうね。ま、医療費にも困ってるウチとしても渡りに船だ。目隠しで出来る子だけでも、やってもらおうかね…」

 

「…」

 

「どうしたんだい、黙りこけて。ここまで来て、出来ないってのはナシだよ。人間様の沽券にもー」

 

「あります。皆さんを、治療できる手段があります」

 

「いったいどんな手を使うんだい?」

 

「あの、ちょっと…ここで着替えさせてもらっても良いですか?」

 

「?まぁ、構わないけど」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

そう言うと、聖職者の女は院長の眼前で衣服を脱ぎ始め、気が付けば一糸纏わぬ姿となった。

 

「まず、人間の匂いが付いた衣服を全て収納します。消臭魔法でも匂いが完璧に除去出来ない可能性もあるので」

 

突然、人前で服を脱ぎ始めたティアナの奇行であるが、院長は阻止する事ができなかった。

脱ぎ捨てられた衣服が、瞬時に消えたことに驚きを隠せなかったが。

それよりも、ティアナの肢体に魅入ってしまったのだ。

その裸体を見た院長は、同性ながらも芸術的な美しさをティアナに感じ言葉を失っていた。

 

「次に、収納欄にあると思われる魔族スキンを使用します。あるかなぁ…あーっと…えーっと…あー!!もう!ソート機能マジで使いにくい、クソが。うーん…確かにあった筈なんだよなぁ……あ、あった!それ、ポチッとな」

 

ティアナが訳の分からないこと云々している間、院長はボーッと彼女を見つめていた。

すると、人間の女は瞬く間に姿形が変わった。

 

「!?!?!?」

 

院長は絶句した。

黄金に輝く長髪は燻んだ銀色になり、所々は黒髪が垣間見える。

澄んだ蒼眼は鮮血のように赤く染まり、瞳孔が楕円に歪む。

桃のような血色の良い肌は、みるみるうちに青ざめた。

そして、最も目を引くものは側頭部に渦巻く角である。

 

院長は未だ言葉を紡げぬ。

 

「っと、ふぅー。後は、まだ着たことのない男装コスを…と」

 

唖然とする院長をよそ目に、ティアナは何処からともなく男性向けらしき服や布を取り出した。

まずティアナが誇る豊満な双子山は、完璧には隠せないもののサラシで押さえつけられた。

そして、髪を後ろで結えた後、衣服を着込んでいく。

漆黒のスラックスに、灰色のジャケットはさながら魔王に連なる貴族である。

 

院長が我に帰れば、聖職者の女はいつの間にか魔族の貴人へ様変わりしていた。

 

「姿見がないな…どれ、出すか」

 

ある筈のない姿見がたちどころに現れて、ティアナは自信をまじまじと観察している。

 

「うむ、大丈夫そうだな。どうだ院長、私は人間に見えるか?」

 

「…ッハ!!あ、あんた何なんだい!?アンタが垂れ流していた空気、何となく人間のソレじゃなかったが…得心した。今のあんたは、間違いなく魔族だよ。それもとびきりの上位者さ」

 

話しかけられた彼女は、我に帰った。

 

「ほう…ならば、子供達の前に躍り出ても問題ないな?」

 

ティアナは物腰柔らかな言葉遣いは打って変わり、堂々とした指導者たるものとなった。

 

「ま、まぁ大丈夫だろうけど。頼むから子供達の前で、その威圧感は抑えておくれよ。ったく、ほんと何モンだい」

 

「無論、子供達の前では抑えるさ。それと、私は人間さ。ただのお人よしの聖職者、ティアナだよ」

 

「訳わからんねぇ、ったく…んまぁ、その姿でやろうってんなら、人間としての名声が目的って訳でもなさそうだね」

 

「勿論さ。私は君達に見返りを求めない。ただ、ここで施しを行ったと言う事実があれば良い」

 

「いいさ、案内したげる。騒がしいガキばかりだから覚悟するんだよ」

 

「ふっ…子供の世話は慣れている」

 

 

♦︎

 

 

ー孤児達の前にてー

 

ティアナ「みんな!我に力を!具体的には、ティアナマン頑張れと言って応援してくれ!」

 

孤児達「「「ティアナマン、がんばれー!!」」

 

ティアナ「きたきたぁ!いざ!月輪の力を借りて今、必殺の!ルナ!アターック!!」

 

ババババー!(効果音)

 

ティアナ「ティアナマン、クラーッシュ!」

 

どーん!(効果音)

 

幻影魔物「ぐわー、やーらーれーたー」

 

どかーん!(効果音)

 

孤児達「「「キャー!カックいぃー!!」」」

 

ティアナ「悪は滅びた!必ず最後に愛は勝つ!」

 

孤児達「「「あいはかつ!」」」

 

ティアナ「よしよし…さぁ、良い子のみんな!後楽園でボクとあk…じゃなくて、我の施しと言う名の、治癒魔法を受けるのだ!あ、治癒は魔力がすぐ切れちゃうから、今日できなかった子はまた後日ね!絶対やるからね!」

 

孤児達「「「はーい!」」

 

 

「「「ティアナおじさん、ありがとー!またきてね!!」」

 

「ふっ…ではな!!サラダバー!!」

 

「「「さらだばー!!(さらだばーってなんだろ)」」」

 

ティアナは孤児達と瞬時に打ち解けた。

尊大にも取れる態度は何処へやら。

孤児達と戯れるように接し、果ては寸劇まで行った。

娯楽に飢えていた孤児は大いに喜び、その後の治癒もうまく行った。

嵐の如く現れた人間の女は、魔族の貴人となり嵐の如く去って行った。

 

正味、約1時間の事である。

 

「はぁ、あたしゃ疲れたよ」

 

院長はティアナに感謝しつつも、心なしか数年、年老いた気分になった。

 

♦︎

 

ティアナは姿を変えたまま、孤児院を後にした。

 

「ふぅ、孤児院ではこんなところか…残った子供は数日に分けて、と。さて次は………ん?まだ見張ってるのか。アルト君達も飽きないねぇ」

 

アルト達の尾行は、あっさりとティアナに見抜かれていた。

挙動不審に振る舞いながら出て行けば、尾行されるのも当然の事だが。

またアーシャの隠匿魔法が完全でなかったことも、ティアナにとっては幸いした。

 

「んん!?おやおや?おやおやおやぁ?サティアもいるじゃあないか…皆雁首揃えて私の監視かね、ご苦労な事だ。ふむ、視線が私から離れないな…どうやら、この姿が見抜かれているようだ。完璧に仕上げた筈だが…どう言う事だ……まぁいい、ここで考えても仕方がない」

 

ティアナは訝しんだが、原因を特定することを諦め次の目的地に向かった。

 

「しかしながら、困った。皆、私の肉体に依存している。サティアまでもがティアナの身体に溺れるとはね。このままでは、アルト君達は私を殺せないかもしれん。ったく、あのクソ女神どもめ。頭を弄られていたとは言え、おかげで酷いものだ」

 

ティアナはブツブツと、独り言を呟きながら歩いて行く。

 

ちなみにティアナは約束通りその後、孤児院を数度にわたって訪れ、寸劇と治癒を行う。

 

これを遠目の魔法で監視していた魔王は、幾度か噴飯するもののティアナに対して好印象を抱いた。

 

またティアナによる福祉活動の結果…

魔都にいる子供達の間で、孤児院発のティアナマンごっこなる遊びが流行した。

 

後に魔都にて、劇団による公演まで行われる、一大ムーヴメントを巻き起こすが、これはまた別の話である。

 

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