異世界TS転生曇らせ愉悦部員が失敗するだけの汚話   作:アスタロット

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狼狽するティアナ

 

「そこがダンジョンの入り口です。古文書によると、道は山頂ではなく地下深くまで続いているようですね。そして…秘宝の在処は間違い無く、この最深部です」

 

俺たちは麓まで来たところで、ティアナが山頂ではなくその遥か下を指差した。

その先をよく見ると、穴が山肌に存在している。

麓からは然程、遠くはなさそうだ。

 

「山が目的地と聞いていたから、てっきり登るものだと思っていたが…」

 

エリナも登山を覚悟していたのか、地下へ潜ることに驚いているようだ。

 

「ふむ…その穴の大きさならば、人も入れよう。よもや、禁足地にダンジョンがあったとはな。おい、クソ聖女。キサマどこまで知ってる」

 

サティアは魔族以上に禁域に詳しいティアナを怪しんでいる。

確かに、調査していたとは言えあまりにも具体的過ぎる。

 

「そうですねぇ、山頂にも特別なエリアがありますけど。やり込み要素というか、今は倒さなくて良いというか、そもそも秘宝とは無関係ですし。トロコンしたくなったら、また来たらいかがです?たぶんですけど、魔王陛下も再び許可を下さると思いますよ」

 

俺にはティアナが言ってることはよく分からなかったが、山頂にも強大な存在はいるらしい。

 

「トロコン?トロロコンブの事かしら、美味しそうな響きね………ン゛ん゛ッ!!あっ!そうだっ!!今回はホントに秘宝があるのよね!?前回は宝物殿に無かったのよ?言っちゃ悪いけど、アンタのせいで皆んな大変な目にあったんだからね」

 

「それについては、申し訳ないと思っています。ですが、そのダンジョンを攻略したお陰で、アーシャさんをはじめとした皆さんは飛躍的に成長出来たじゃあないですか。おそらく以前の私達では、このダンジョンの浅い層ですら攻略なりませんよ」

 

「ふむ、確かに。道中に出現した魔物はどれも宝物殿のソレに引けを取らなかった。ならばダンジョン内部の敵は、尚のこと強いはず…という考えか。魔族はこんな環境に住んでいるのか、王国と比べて大変なのだな」

 

エリナは、魔族の置かれる過酷な状況に興味があるようだった。

 

「ここの魔物が異常なだけだ。魔族の私でも、禁域周辺の魔物が強力とは知らなかったぞ」

 

どうやら、サティアも霊山周辺の魔物は異様に強いと感じている。

 

「いずれにせよ、霊山の魔物が都市部へ流出しないに越した事はありません。なので都市の安全推進とレベリングも兼ねて、見つけ次第浄化していきましょうね」

 

「アンタねぇ…これ以上アタシ達を鍛えて、いったい何と戦わせたいんだか…まぁ良いわ、じゃあさっさと行くわよ」

 

アーシャが急かすようにダンジョンへ突き進む。

それに釣られて皆が、陣形を整えるように歩き出した。

前衛の俺は遅れまじと、歩みを早める。

 

「そうですねぇ…神、ですかねぇ」

 

俺はパーティーの前列に向かう際、ティアナがこっそりと呟いた言葉を聞き逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

洞窟の内部は、というと…

下層に向かう際に階段があり、どう考えても人の手が入っていた。

自然と形成された空洞を生かして、作られたダンジョンのようだ。

アーシャが光魔法で辺りを照らすと、内部が思った以上に広大な洞窟である事がうかがえた。

 

 

俺たちはそんな霊山ダンジョンに挑み、何層も、深く深く進んだ。

 

ダンジョンでは宝物殿にいた骸骨騎士をはじめとする、王国の遺跡によく出る魔物はいなかった。

代わりに滅多に見ない翼竜のような、強力な魔物が道中絶えず襲ってくる。

地下にも関わらずだ。

しかも、地上にいる連中とは段違いの強さだった。

 

だが楽勝とまでは行かずとも、鍛錬の甲斐もあり、それなりの速度で進むことができた。

宝物殿での経験も大きく俺たちを助けてくれたようだ。

 

結果俺たちは、最深部で待ち構える大型の魔物を退け、遂に霊山の地下に広がるダンジョンを踏破した。

 

 

しかし…

 

 

「え…うそ…ない…ない!…確かに、秘宝はココにあったはず!なのに…どうして!」

 

俺たちは勝利による達成感で、まさに満ち足りた中にあった。

 

一方で、一人だけ異なる雰囲気を醸し出す女性がいた。

ティアナだ。

彼女は目的地の台座らしい物に辿り着いた途端に、狼狽えはじめたのだ。

 

台座らしき物の上には何もなかった。

それに気が付いた彼女は、途端に青ざめた。

視線は泳ぎ、声も震えている。

 

「スゥッ……はぁー…ホラ、アタシの言った通りじゃない。ないんでしょ?例の秘宝とやらが」

 

呆れているのか、アーシャはそんな彼女を若干侮蔑するように言葉を掛けた。

 

「アーシャさん!信じて下さい!本当にある筈なんです!」

 

ティアナは焦った様子で、台座のようなものを中心に、周囲をキョロキョロと見回している。

 

「ククッ…たしか”秘宝は間違いなくあります”的なアレだったかぁ??惨めだなぁ、クソ聖女。ククククッ…もっとよく探してみたらどうだぁ?地べたを這いずり回ってなぁ!それとも陛下の城でも漁るかぁ?それこそ陛下の怒りを買い、殺されると思うがなぁ!」

 

サティアもアーシャに乗っかり、これ見よがしにティアナを揶揄う。

 

「サティアさんは黙って下さい。探し物の邪魔です。ほら、どいたどいた」

 

文字通りダンジョンの地面を這って探し物をしているティアナは、首だけをサティアへ向き直して冷静に喋った。

少し怖い風景だ。

 

「なんで私には冷静なんだ!!ムキィ!!」

 

サティアは口論があまり得意ではないようだ。

魔族の将軍らしからず、げしげしと地団駄を踏んでいる。

 

「なぁティアナ、本当に秘宝はここにあるのか?確かに、それっぽい雰囲気はあるし。最深部にまで来た事で、強くなれた気はするけど…目的の物が無いってのはどうも、ね」

 

俺はティアナをフォローしつつ、彼女に対する疑念を投げかけた。

 

「ぞん゛な゛ぁ…アルドざぁん…信じてぐだざいよぉ゛!」

 

今にも泣きそうな勢いで、ティアナが地面に膝をつき俺に縋り付いてくる。

俺の腰回りを掴みながら。

位置が位置なので、下世話な妄想で興奮してしまった。

 

「そう言われてもなぁ…秘宝の影も形も無いんじゃ、どうしようも無いよ」

 

すると今まで黙り込んでいたエリナが、何か呟いている。

 

「山頂」

 

山頂…それは霊山の頂のことだろう。

 

「あるどざぁん!ズビィッ…じんじでぐだざぁい…ひほうはありまずぅうう!ズズズッ…あるんぇすぅ!!ちーん!!」

 

しかし騒がしいなぁ。

ティアナが俺に抱き付いて、ぎゃあぎゃあと鼻水を垂らしながら、喚いている。

あ、ズボンに鼻水が付いた。

っていうか、俺の服で鼻を擤んだ…

 

せめて、少し静かにしてほしい。

 

「ん?どうした?エリナ」

 

「山頂はどうだろうか?ティアナ…このダンジョンに入る直前、霊山の頂にも何かあると言っていたな?」

 

「アルトしゃん、しんじてくらさいよ゛ぉ゛ぉ…秘宝は、秘宝はあるんですよぉ………はぇ?…あの、エリナさん今なにか仰りました?」

 

「だから、山頂にも行くべきだと言っているんだ」

 

「えっ…山頂!?山頂ってどこの??もしかしてここの??…………えぇー!?ムリッ!!無理無理無理ですよぉ!準備が足りませんっ!!アルトさん達の実力じゃあヤツの消し炭になるだけですってぇ!!」

 

「いったい山頂に何があるんだ?」

 

ティアナは、まだ俺たちに開示していない情報がある。

俺はそれを質した。

 

「ヴェッ!?……えええっと…その…あの……りゅ、りゅー?」

 

「あ゛あ゛ん?何ですってぇ??よく聞こえなかったかしらぁ??」

 

余程苛ついているのか、アーシャが凄みながらティアナに詰め寄る。

 

「はひぃっ……り、龍です…霊山のヌシである龍がいます」

 

「龍ってあれか?翼竜じゃなくて、御伽話のあれか?」

 

龍と言えば大昔に大暴れしたいう、伝説の存在だったはずだが。

古の勇者が何とか撃ち倒した、って結末だった気がするけど。

 

「はい、そのアレです」

 

「冗談も程々にしろ、クソ聖女。龍は、古の魔族により辛くも退治された!そんな馬鹿げた存在が霊山にいたら、とっくの昔に魔族は大騒ぎだぞ。仮にいたとして、陛下はご存知なのか?」

 

どうやらサティア達の間では、魔族自らの手で撃退したという伝承らしい。

もしかしたら本当は魔族と人間が手を取り合って、戦ったのかもしれないな。

 

「そんなの知りませんよぉ!メインストーリーに関係ない腕試しのエンドコンテンツなんですからぁ!」

 

「よし、向かおう」

 

「決断早スギィ!!」

 

ティアナは俺の決断を、拙速だと言うが。

俺は直感的に、そこに行くべきだと踏んだ。

それにここまで来たのだから、霊山の頂上を目指しても悪くないだろう。

物資はティアナが、謎の空間から湯水の如く出してくれるし。

 

「そうね、癪だけど…ここまで来たら引き下がれないもの」

 

アーシャが俺の提案に乗る。

向上心の高いアーシャなら、山頂に行けばさらなる成長があると考え賛同してくれると思った。

 

「くふっ…その龍とやらはどんな攻撃を仕掛けて来るんだ…楽しみだなぁ」

 

エリナはまだ見ぬ龍と、既に戦う気に満ちている。

 

「禁域の霊山の主に挑むか…まぁ、陛下に怒られてもクソ聖女に全部擦りつければ良いか」

 

サティアは何か問題があったら、ティアナに全て投げる心算らしい。

実際それが正しいと思う。

 

まぁティアナなら、問題の矢面に立たされても何とか出来るだろう。

知らんが。

 

「嫌ですぅ!皆さんが死なれたら、蘇生するのすっっっっごく大変なんですよぉ!!だから嫌ですぅ!せめてぇ、秘宝の存在が確定してから、準備バンタンで行きせんかぁ??そうだ!せっかくなら15ターン以内で倒したいので!」

 

「そこは、自分だけ死なない自信があるんだな」

 

ティアナが生き残る前提なのは、いったいどこから来る自身なんだ。

いや、パーティーの中でも異様に硬いから分からなくもないけど。

 

「当たり前じゃないですか、私ですよ?そこらへんの三下聖職者と一緒にしないでください。それより嫌ですよ。消し炭にならずとも、四人分の棺を引いて山から撤退するのなんて。嫌すぎて、そのまま皆さんの棺を振り回して龍に攻撃しちゃうかもしれないです」

 

棺を打撃武器にする聖職者とか想像するだけで恐ろしいな。

いったいどんな発想でそんな事を思い浮かべるのか。

 

「ティアナはどっちがいいかしら?山頂へ頑張ってアタックするのと、撤退して皆んなから徹底的に折檻されるの。アタシはどっちでも良いんだけど」

 

「えっ!皆さんから責めて貰えるんですか?やったぁー。今すぐ帰りましょう。それで、5Pしましょ………あっ…あが…あぎぃ…ちがっ…やめ…許し…あっ…あっ………あぁ…」

 

ん?何だこの違和感。

ティアナに何かあったか?

 

「………失礼しました。ならば行きましょう、山頂へ。わたくしが至らないまでに、皆さんにご迷惑を掛けてしまいましたが…次こそ全力でサポート致します。きっと秘宝はそこにありますから。行きましょう、人間と魔族の平和のために」

 

「お、おう。ティアナがその気になってくれて嬉しいよ。じゃ、支援頼むからね」

 

急に大人しくなったと思ったら、凄い変わり様だ。

一通り騒いで満足したのか?

まぁ冷静になってくれて何よりだ。

 

さて、少し休憩してから麓に戻るとしよう。

魔物は往路で掃除済みだから、それほど苦労はしない筈だ。

 

 

 

 

 

TIPS:勇者のスラックス

 

感情が溢れ出した聖女により祝福されたスラックス。

それだけで不思議な防御力を持ち、経年で劣化することも無い。

洗濯をしても取れない謎のシミがある。

識者によれば、そのシミこそが祝福の根源だと言う。

見た目は汚いが、腰回りに防具を装着すれば何ら問題は無いだろう。

 

 

 

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