異世界TS転生曇らせ愉悦部員が失敗するだけの汚話 作:アスタロット
時は勇者一行が、王都の宝物殿ダンジョンを探索していた頃まで遡る
かのダンジョンに”あるじ”はおらず、最奥には空の玉座のみ。
だか、その道程にはダンジョンを守る”つわもの”がいた。
守護の老騎士
老騎士とは名ばかりの巨躯。
頑丈かつ魔力耐性も高い優秀な鎧に身を包み、洗練された戦技をもつ宝物殿の守護者。
アーシャの攻撃魔法では、その鎧に傷は付けらず。
その鎧は、アルト、エリナ、サティアの猛攻を受けても簡単には砕けない。
しかも、アルト達の攻撃後に待っているのは、巧みな剣術による反撃。
だが最も特筆すべきは、老騎士の再生力にある。
苦労して鎧の上や、隙間からダメージを与えても、傷はたちどころに塞がってしまう脅威の持続回復が常時発動。
ゆえにアルト達は彼に決定打を与えられない。
ダンジョンから何度も撤退している要因の一つだった。
そんな敵を攻略する上で、結果的にアルトが習得したのが”致命の斬撃”である。
実際にそれが完成したのはダンジョン攻略後の鍛錬中であったが。
しかし、未完成状態の”それ”でも守護の老騎士を倒すには十分な効果であった。
“致命の斬撃”は、使用者に莫大な力の消費を強制させる。
それと引き換えに聖剣に宿る力を増幅させ、破邪のオーラを剣に纏わせる。
そうすることで、真の力を発揮するのだ。
それは太古において、邪神やその眷属を打破するために人間と魔族の手により創造された力であった。
魔術や物理攻撃が通りにくい”特別な相手”に抗うすべである。
勇者アルトは幾たびの戦いによる”経験値”により成長し、その技の解放が聖剣により許された。
”致命の斬撃”は勇者の練度により効果が上がる。
段階1:斬撃を受けた相手に回復量減少の”祝福”を付与する。(勇者アルトは、その効果で以て守護の老騎士をからくも撃破した)
段階2:相手に持続回復無効の”祝福”を追加で付与する。
段階3:相手に一定時間回復そのものを無効化する”不可逆の祝福”を付与する。
斬撃を受けた敵は一定時間内、あらゆる回復が阻害される。
その状態ならば、神すらも殺せるだろう。
それは、邪神やそれに連なる者達も例外ではない。
♢
アーシャ、エリナ、サティアはティアナの裏切りにより斃された。
場に佇むのは、勇者と邪神の眷属のみ。
「アルトさん、一つ戯れをしましょう」
ティアナが無邪気な笑顔でアルトに語りかける。
「…」
「あそこに転がっている三つの肉塊、と呼ぶにはまだ早いですね。あれらですが、実はまだ息があります」
ティアナは三人が倒れている所を指差して、そう言った。
「っ!?な、なんだって!?」
「一つは心臓を潰して確実に殺した筈なのですが…肉体が強靭なのか、何故か死んでいません。そこで、一つ賭けをしましょう」
「賭け…だと?」
「その肉塊の下には、蘇生の陣が敷いてあります。発動条件は私の活動停止です」
「俺に君を、殺せというのか」
「そうです。さもないと、間も無くあれらも本当の肉塊に成り果てますよ?まあ、私は別に構いませんが」
「ティアナ、そんな事を言わないでくれ!はやく!彼女達を治療してくれ!」
ティアナはアルトの懇願を無視し、話を続けた。
「ああ、それと、私がアルトさんに勝った場合なのですが、そこの肉塊(仮)は勿論として…各所の人々を我が神への生贄に捧げようかと思います」
「生贄?」
「ええ、生贄を捧げるために襲撃しますよ。王都、魔都、イカーサの街、国境の砦。それと、アルトさんの故郷も加えましょうか。根こそぎは本意ではありませんので、何割かは残しますが。あ、アルトさんの両親はご健ざ」
「…ざけるな」
「?」
「ふざけるなァァァァァァア!!!」
激昂したアルトはティアナに斬りかかった。
瞬時に間合いを詰められたティアナは、聖剣による袈裟斬りを真正面から受けた。
「あ…あぁ…あら…あらあら?」
切り口から鮮血が吹き出し、純白のカソックは朱に染まる。
「あ…私…私…死………」
「ッ!?あ…ティ、ティアナ!!ちがっ、俺は」
血塗れになったティアナを見て、アルトは狼狽えた。
自身がやったにも関わらず。
しかし
「死………にませぇーん!!」
ティアナは即座に二つのメイスを両の手に携え、不意にアルトへ殴り掛かった。
アルトは反射的に聖剣でその打撃を受けた。
金属が衝突する音が鳴り、その衝撃でアルトは吹き飛ばされた。
「うふふっ、素晴らしい一撃ですね。私でなければ即死でした♪」
「うっ…くっ…うぅ…な、なんで」
アルトは咄嗟に受け身を取ったが、衝撃によるダメージは受けていた。
「アルトさん…私こう見えても、中身は邪神の分け身なんですよ。そこらへんの化け物共とは再生力が違います。思い出してください、サティアさんにやられた時の事を。それに、私は教会の聖女ですよ?ほら、みるみるうちに傷も、衣服も…これこの通り」
ティアナの出血は止まり、無惨に切られ鮮血に染まったカソックも元通りになっていた。
「あっはっは!ほらほらぁ!早くしないと皆んな死んじゃいますよぉ♡仲間も、家族も、友人も、あの人も、この人も、皆んな!みーんな!!」
「なんで!なんでだ!クソ!クソ!クソォオオ!」
ティアナは、二つのメイスを両の手に携える。
勇者アルトはそれに応えて、聖剣を構える。
双方の死合いが始まった。
しかし、打ち合うこと数十回。
アルトは決定打を与えられない。
ティアナにダメージを与えても、彼女は即座に回復してしまうのだ。
一方のアルトは致命打を受けることはないが、確実にメイスによる衝撃ダメージが蓄積されていく。
聖剣が刃こぼれしないのが幸いか。
たがアルトにとって得意でない回復魔術を使う程、その戦闘に余裕は無い。
パーティーでは当たり前だった、仲間による連携や補助もない。
残酷なことに、そのサポート役で最も貢献していたティアナが敵なのだから。
アルトのジリ貧は自明の理であった。
だが、そこに天啓が降る。
“致命の斬撃を使え”
「はぁ…もういいです、飽きました。私、武人でもありませんし。はいっ、死合い終了です。そうだっ!ええ、そうしましょう!アルトさんは殺さず、四肢を落とします!そして、傍観してもらいます。この始末を」
アルトはティアナの戯言に耳を貸さなかった。
「分かった、分かったよ。こうすれば、良いんだな」
アルトは姿勢を正し得物を構えた。
聖剣に破邪のオーラが宿る。
覚悟を決めた彼の表情を見て、ティアナはメイスを構えた。
「さて、これを最後の一撃と致しましょう。あなたの頭蓋を打ち砕いた後、四肢を切断して頭部だけ蘇生します」
「…」
「あら、言葉は無用ですか。なら…脳味噌ぶち撒けて、いったん死になさいっ!!」
アルトとティアナ。
渾身の一撃が交錯する。
・
・
・
「ごふっ…あぁ…やはり……わたくしには…できませんでしたね…」
双撃はアルトの頭部から逸れ、空振りした二つのメイスは地面に放られた。
アルトから見て、それは明らかに意図的なものだった。
それに反して、聖剣はティアナの胴体を貫いていた。
彼女は力無く項垂れた。
傷口と聖剣から血が滴る。
カソックに鮮血が滲みていく。
大量に吐血もしている。
先程まであった脅威的な回復もない。
アルトは”致命の斬撃”をもってティアナを貫いたのだ。
「どうして…ティアナ!…なぜ!なぜ手を抜いた!仲間だって…殺せたはずだ!」
「ふふっ…無理でしたね……長い旅で…情が…移って…ごほっ……しまいました…。これでは…邪神の…眷族…失格…です。アルトさん…あなた方を裏切っておいて…なんですが……もう少しだけ…貴方達と…旅を…したかった」
血みどろの身体をアルトが抱きしめる。
「死ぬな!ティアナ!生きろ!頼む!ホラ、いつもみたいに、回復するんだろ?回復魔法使って!…使えよ!…だから…俺を…俺達を置いていかないでくれ!」
致命傷を受けたティアナは、達成感に満ち溢れた表情で脱力した。
彼女の身体が光の粒子となって、少しずつ足元から消えて行く。
「無駄…です…アナタのこれは…致命の、一撃…じゃないですか…こほっ……それは、不可逆の力…治癒魔法は届きません」
「なにも…そこまでしなくったって!!…良かったじゃあないか…」
「もとより…この…身体は…造られた仮初の命……邪神の思惑を挫くには…こうするしか…ありませんでした……ですが、どうか…悲しまないで…」
「いやだ!死ぬな!ティアナァ!愛してるんだ!君を!!」
アルトは生まれて初めて、愛の言葉を放った。
彼の願いは、ティアナと人生のパートナーになることだった。
その思いは打ち砕かれた。
「ふふ…偶然ですね…私もアナタを…愛して…いたんですよ…共に歩む事叶わず、残念です………だけど私の代わりに…アナタは…生きて…」
ティアナの肉体は光となって、手足の末端から霧散していく。
「やめろ…ティアナ…死ぬな!行くなぁ!」
「あぁ…愛しのアナタ…私に…愛を…教えて…くれて…ありが…と…ぅ…」
「ティアナ…?ティアナ?…ぁ…ぁ…あ…あ…あぁ…あぁああああああ!!!!!!」
ティアナは光の粒子となり、彼の腕の中から完全に消滅した。
アルトの腕に残ったのは、彼女を貫いた聖剣に、傷ついた衣服と装備品だけだった。
その衣服には僅かにティアナの温もりが残っていた。
ティアナの消滅と同時に、蘇生の陣が光り輝く。
魔法陣が発動した。
彼女は無造作に三人を、一箇所に投げ捨てた訳ではなかった。
蘇生の陣の上に来るように、彼女達を巧みにスローイングしたのだ。
重体だったアーシャ、エリナ、サティアはそれによりほぼ完全に治癒された。
ようやく意識が回復した三人が最初に目にしたのは、嗚咽しながらティアナの遺品を抱きしめるアルトだった。
彼女達はその光景を見て、ただただ立ち尽くすしか無かった。
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