──とある工業地帯
時間は日も落ち始めた、夕方頃。
アレ以降、作戦を建て始めたレフィリ達は、魔術師達を打倒する為に、この場所を選んだ。
この時間帯ならば、人も居らず、尚且つ十分な場所を確保出来る上に、最悪大きな事が起こったとしても、工場で不具合が起きて、爆発でも起きたとでも思われるかもしれない……とはレフィリの談だった。
当初は、こちら側にステゴロ一辺倒の上条当麻が居るのであれば、広い立地を取るより、袋小路や一体一を強いるような狭い立地の方が良かったのではないかとも、言われていたが、相手側が高火力で押し潰してくるタイプや、それ以上の暴力で押し潰してくるゴリラタイプなら、何も出来ずに首を飛ばされて終わりだと言う話になった。
魔術師達もバカではないだろうということもあり、態々このような、誘い込む様が丸見えな状態で大丈夫かと、上条当麻は言っていたが、それはレフィリの勘で大丈夫だと全ていなされてしまった。
「しかし、大丈夫だったのか?」
「それは君が、今日補習をすっぽかした件についてかな?」
「いや、それもそうなんだけど、そうじゃなくて。インデックスをここに連れてきて良かったのかってことだよ」
「……んー、その質問は正しいともとれるし間違っているともとれるね。現状私たちは、インデックスちゃんの『歩く協会』の魔力を辿って追ってきていると仮定して動いているワケだけど、そうなら、歩く協会が意味を成していないいまでは、別の安全な場所に彼女を隠していた方がいいんじゃないか……とそう思うワケだ」
「いや、そこまでは考えてはないけど」
「ああ、そうなんだ。まあ、続けるけど、その仮定が間違っている場合も考えなきゃならない。もしかしたら、歩く協会じゃなくて、彼女自身の魔力を辿ってきているのかもしれないし、彼女の体の内側自体に"そういう魔術"を掛けてる可能性だってあるわけだし、そう考えたらヤツらへの釣り針としてインデックスちゃんは近くに居てもらった方が都合が良い」
レフィリはそう上条当麻へ説明し、しかし若干どこか納得のいかない顔をしている上条当麻にレフィリは『どうせ、女の子が危ない場所にいることが我慢ならんのだろう』と当たりをつけて、心の内だけで唾を吐いておいた。
「それにしても、本当に来るのかねぇ」
「なに? 私の勘を侮ってるの?」
「いや、そりゃそうだろって返してもいいか?」
「私の勘は当たるよ。仲間の人が宝箱に惹かれて近付こうとすれば、それは間違いなく罠だよ。と言い切れる程の勘の良さだからね」
「その話、確か仲間のヤツの罠的中率が100%に近いって話じゃありませんでしたっけ?」
「……なんのことかな、難しい話はよく分からないよ」
「どの口が言うんですかねぇ」
「2人とも、これから戦うかもしれないって言うのに、緊張感が無さすぎるんだよ……」
「戦闘前なんてコレくらい気負わない方がいいもんだよ、インデックスちゃん。一世一代の魔王撃退の前でもないんだしね」
「ごめん、レフィリが何言ってるのかちょっと分からないかも」
「そりゃそうか」
多少気の緩む空気感。
しかし、上条当麻もレフィリも気にしている節はなく、インデックスだけがソレに違和感を感じているだけだった。
お互いに、この空気感が1番居心地の良いものと認識しているからだろうか。インデックスに言われ多少、気が引き締まったものの、2人の顔はどこか気楽そうだった。
「そこの彼女の言う通り、少し気が抜けすぎてや居ないかい?」
そんななか、上条当麻、インデックス、レフィリの誰でもない声が、人のいない工場地帯に響きわたる。
ガレージの影の暗闇から現れたのは、この現代社会に似合わない、異風な風貌の男だった。
身長は2mもあろうかという程の大男、しかし筋肉が着いている訳ではなく、細身で威圧感はない。だが、それとは真逆に、男の格好は其れを覆い隠すかのように、強烈な姿をしていた。
インデックスとは真逆に、漆黒の修道服に身を包み、髪は染めているのだろうか。髪は真っ赤だった。
指には多くの指輪を嵌めており、耳にはピアス。極めつけには、目の下には奇妙なタトゥーに、口に煙草まで咥えていた。
修道服に身を包んでいる癖に、宗教者として神父を名乗ろうともしないその姿はあまりにも、誰の目から見ても奇妙であった。
「私たちの気が抜けている、とはつまり気を固める必要がないという裏付けに他ならないから、とは思わないのかな?」
「冗談を言うなよ。所詮、ただの一般人の学生風情に遅れを取る僕らじゃないさ」
「……ふむ、歳上への口の聞き方がなってないクソガキだね。叩き潰してやりたくなるよ」
「…………歳上だと? 僕も大概だと思っていたけど、そっちは逆の意味で大概だな。その背格好でか?」
「私は人より、成長が遅いだけだよ。それにしても良かったのかい相方は連れてこなくて?」
「何度も言わせるなよ、お前ら如きに遅れを取るわけがないと、そう言っているんだ」
「そうか」
レフィリの煽りに、相手側は大層気分を害されたようで、眉間に皺が寄っていた。
その煽りも、自身の体型をバカにされたが故なのかもしれないが。
そんな様子をハラハラとして、見守っているインデックスに悪いと思ったのか、それ以上レフィリが追撃することはなかった。それとは逆に、今度は上条当麻が男へと話を掛ける。
「何故、インデックスを追っている」のかと。
「ふむ、そうだね……。それへの回答としては、僕たちの目的は彼女の『回収』だ」
「回収……だと?」
「ああ……。もう聞いているんじゃないか? 彼女のもつ10万3000冊の魔導書のことを」
男が言うのは、やはりインデックスの語った通り、考えていた通りの内容だった。
インデックスの頭の中に抱える、魔導書の利用。回収という言葉にレフィリは少し気に掛かったが、1度その違和感を考えることはやめておいた。いまこの場では、余分な思考になり得るからだった。
そして、男が長々と語り始める。
インデックスの特異体質である"完全記憶能力"
その体質が故に、全ての魔導書の情報を頭に抱えることが出来ること。そしてインデックスには魔力がない故に、それを活用することは出来ない……しかし、それを扱える連中に使用されては敵わない、故に『保護』すると、男は言ったのだ。
男の語り草に、聞いていた上条当麻は限界だった。
怒りだけでは無い、もっと何か人間的嫌悪から感じるおぞましさで、身体に鳥肌が立っていた。
隣にインデックスが、レフィリが居なければ、いままさに男の方へと飛び込んでいってもおかしくないほどだった。
「ふむ、つまりキミ達はインデックスちゃんを渡して欲しい、私達はそれは阻止したいと思っているわけだ。うんうん、実に意見が違ってしまっているね」
「あまり、暴力沙汰は控えたいんだけどね」
「いやぁ、まあ、君たちの態度がもう少しまともなもので、インデックスちゃんが君たちを怖がっていないのなら、何も問題はなかったんだ。渡して、はいおしまいで済んだからね」
「……何が言いたい」
「こんなにも怖がってる女の子が居るのに、私が彼を止める術はないということだよ」
その言葉と共に、それを合図と見なした上条当麻が、男の方へと駆け出した。
溜めていた怒りを原動力にしたかのように、上条当麻はその右手を握り締め、男との距離を詰めていった。
「……チッ、仕方ない」
上条当麻と、男との間にはまだ距離がある。
男が、動きを見せるのには十分な距離がある。
男が咥えていた煙草を、投げ捨てた。
それは、いまから戦闘を始める故に邪魔なものを捨てる動きか──それは否だ。
既に日が落ち始め、周囲も暗くなり始めたいた、工業地帯では、その光はよく目立つ。
煙草の火が、軌跡を描くように飛んでいく。
「炎よ──
男が紡ぐ一小節。
ただ一言、そう呟いた瞬間。煙草の火の軌跡は、爆発したかのように音を鳴らし「───巨人に苦痛の贈り物を
しかし、上条当麻は恐れない。
魔術という未知への恐れは、確かに彼の中にあった。だがしかし、彼の中にはもう一つ、自身の行為を止めない、インデックスとレフィリが居たからこそ、自身の動きを止めようとは思わなかった。
自身へと叩き付けられる、炎剣へその右手を当てる。
掴む必要も無い。
軽く触れるだけで、男の持つ炎剣は───
「……な、なんだと!?」
───霧散した。
あまりにも呆気なく、それが当然かのように。
上条当麻の持つ右手は、あらゆる異能を打ち砕く。
「歯ァ食いしばれッ! 魔術師!」
炎剣を、自身の魔術を消された男は、自身へ起きた突然の予想外に身体を強ばせ、そのガラ空きの頬へいままさに、上条当麻の握りしめた拳が突き刺さる。
上条当麻もインデックスも、男へ一撃入ることを確信していた、その瞬間。
先程まで何も言わず、上条当麻の勇姿を見ていたレフィリが始めて動く。
「上条くん! ダメだ下がれ!」
レフィリの静止の声と、男と上条当麻の間に何者かが割り込んだのは同時だった。
あまりの勢いに、上条当麻はレフィリたちの方へと飛ばされてしまう。
声を出すと共に、既に動いていたレフィリによって怪我なく上条当麻は受け止められ安心するものの、レフィリは乱入してきた相手の動きを、一瞬でも逃すまいと睨んでいた。
「やっぱり居るんじゃないか、相方も」
「そこの少年だけならステイル単身で行かしても良かったですが、貴女が居ましたので」
「随分と買われているようで、嬉しいな」
ステイルと呼ばれた男の目前に、堂々と立つのは、レフィリが警戒していたもう1人の魔術師。
インデックスが言うには、聖人と呼ばれる化け物人間だった。
「それにしてもステイル、コレはまた手酷くやられましたね」
「……はあ、まだ僕は負けてなんかないさ。まさか魔術を打ち消すとはね、ただの一般人だと思っていたんだけど、考えを改めなきゃいけないみたいだ」
文字通り、降って沸いてきた難敵に、レフィリは少し、どうしたものかと頭を回していた。
勿論、もう1人の魔術師が来る可能性を考えていなかった訳ではない。
しかし、それでも、来なきゃ良いなとは思っていたのは事実だったのだ。それだけレフィリは、目の前の女を警戒している。
「キミ、そこの赤髪くんより強いでしょう?」
「…………さあ、どうでしょうね。私も、それなりに強い自信は無くもないですが」
「言外に貶されるのは、いい気分じゃないな全く」
「うーん、さて困ったな。どうしようか上条くん」
どうしようか。レフィリが上条当麻へ、回答を求めている。それはつまり、レフィリが誰かに回答を求めるほど、この状況を不味いと感じているためだ。
上条当麻の選択次第で、これからどうなるか決まる。
ただ難しいことを考える必要はない。レフィリと上条当麻との親交は深くはないが、コイツは必ず答えてくれるという、謎の確信があった。
「誰かを傷つけるやつが居るってんなら、止めなきゃいけないだろ」
「ハハ、私好みの答えだね」
「……はあ、どうしてこんな事になっているんですかステイル。さておき、彼女を前にして油断すれば死にますよ、覚悟していきましょう」
「予想外だ、全くのね」