ほぼギャグ
「行ってしまいましたか」
魔術師達と、レフィリ達との一触即発の空気の中、最初に動いたのは、やはり上条当麻だった。
そして上条当麻に追われるように、赤髪の男と一緒にいまでは、遥か後方へ下がっていってしまった。これは勿論、もとよりレフィリと上条当麻との間で考えていた作戦。というのも、難しい話ではない。単に、魔術師を分散させ、お互いにやれるであろう敵を各個撃破しようということだけだった。
「ちょうどいいんじゃない? 男2人、女2人で戦う。適材適所、上条くんには流石に君の相手は難しいだろうしね」
「────何をふざけたことを……はぁ、それにしても聞いていませんよ。ここに魔術師が居るなんて、どこの所属の魔術師ですか?」
「……ふむ、何をどう見てそう思ったのかわからないけれどそうだな……答えるとするなら、"大陸魔法教会"所属の第1級魔法使いと言うのが正しいかな?」
「大陸、魔法教会……? それに、魔法使いだって? ふざけてるんですか?」
「……いや、ふざけてないんだけどなぁ。魔術師ってみんなそうなの? いいじゃん、魔法使いが居たって……」
自信満々に、自身の役柄を答えるレフィリに、無情にも、知らないし、頭のおかしいやつ認定を言外でする魔術師。
これには多少、心に来たらしく、レフィリの顔は目尻が下がり、口をモニョモニョさせて明らかに凹んだ顔をしていた。
これを見た目、10代前半のような見た目の女がやるのだから、魔術師も流石に部が悪くなり、罪悪感でも感じたか、目線をあちらこちらへと右往左往していた。
「んん、とにかく。私が言いたいのは、そうではなく、最初から1つです。彼女を、インデックスをこちらに渡してください」
「…………それは、無理な相談だね」
「何故? あなた達からすれば、あって間もない、ただの少女でしょう? 交流が深い友人でもない、それなのに何故?」
「んー」
レフィリは考えた。何故? と聞かれたら、確かに何で助けてあげようと思ったのかパッと理由が出てこなかったからだ。
誰かが困っていて、尚且つ命の危険がある=助けなきゃいけない。の方程式が、勝手に頭のなかで組み立てられていて、自然で助けないという考えが彼女の中にはなかった。
上条当麻に影響された訳では無い、元来から持っていた彼女の素養だった。
結論、レフィリには困ってる人を助けるのに理由はないのである。誰かのために、手を差し伸べるのは、勇者の仲間として正しいことだからだ。
そう考えていくうちに、彼女はひとつの考えが思いつく。自分でもバカバカしいと、そう思わなくもなかったが、それでも自身にとってコレが、一番の理由たりえるだろうと。
「──インデックスちゃんが可愛かったから、ですかね」
「………………………………え?」
硬直する魔術師、そしてどこからともなく聞こえてくる、驚きの黄色い叫び───恐らく、この会話を聞いていたインデックスだろう。
思いも知らない理由が飛んできたレフィリに対し、魔術師は少しの間思案する。
この子はもしかして、彼女のことが好きなのではないか? とか、いやしかし女性同士での恋模様など分かりませんし、など。
直面した事の無い、その状況に身体の動きを止めて1人思い悩んでいた。魔術師という身の前に、聖人という前に、彼女も1人の歳頃の少女である。
「と言っても恋愛対象ではないよ? 庇護対象の方が近いかな……。可愛いものは守っていかなきゃね、生きているだけで、その世界には価値が生まれる。インデックスちゃん然り、小萌先生叱り、妹ちゃん達叱り、方向性は違うけれど、白井ちゃんや……うさぎくんだって可愛いと私は思うけどね」
勿論、変な誤解をされる前にレフィリも否定はする。
「………………つまり、なんですか? 貴女は、彼女の容姿に惹かれて、助けようと思ったと?」
「まあ、理由のひとつだよね。もちろん、キミ達の言うように、魔導書が気になるかと言われれば気には無らないこともないけど……そんな近道をするより、私は直で色んな人間たちが魔法──異能の力を扱ってるところを見たいんだ。そっちの方がきっと有益だろう?」
「変な人ですね、貴女は」
「よく言われるよ、困ったもんだよね」
やれやれと言ったように、肩を竦めてみせるレフィリに、明らかに変なモノを見るような目線を向ける魔術師。
お互いに少し空気が緩んでしまったのを感じてしまう。レフィリ的にはこのまま、魔術師とは戦わずに上条当麻が、赤髪の男を打倒してくれないかと思っている為、いまのこの状況はとても好ましいものであるのには違いなかったが。
「それにしても、キミ……ええと、魔術師って呼ぶのも味気ないね。名前とか教えてもらってもいいかな」
「……神裂。神裂火織です」
「カンザキちゃんね、厳つい名前してるねぇ……私はレフィリって言うんだ、家名はないよ。名前と、この髪の通り日本人じゃないから、よろしくね」
自身の青みがかった、薄い緑色の髪の毛先を弄りながら言うレフィリ。
その髪は毛先に行くほど、色が抜け落ち、少し向こう側の景色が透けて見えるほどだった。
日本人どころか、この世の人間でそんな髪色をしているヤツは居ないだろうという、もっともらしいツッコミを空気を読んだのか神裂がすることはなかった。
「……聞くんだけどさ、キミ達って何のためにインデックスちゃんを追ってるの?」
「それは…………彼女を保護するためです」
「"保護"か」
神裂のその言葉はレフィリの違和感を助長させた。
赤髪の男は、インデックスを回収すると言い、神裂はインデックスを保護すると口にした。
そこに何か違和感を感じたのだ。見るに、神裂という女は、赤髪の男より少し感情が表に出過ぎている節が見えると、レフィリは感じていた。
いまの言葉もそうだ、レフィリからすれば、彼女のその言い回しは、回収という言葉を、インデックスを物扱いしたくないような、そんな冷徹になりきれない素顔が見え隠れしているような気がしてならなかった。
赤髪の男もそうだ。
インデックスを前にして、どこか言葉を選んでいたように見えた。この違和感は、今回の事の解決の足掛かりになり得るだろうと、そう予感していた。
▼
▼
▼
「…………大丈夫か、お前」
「これが大丈夫そうに見えるか、上條くん」
「案外大丈夫そうに見えるけど」
「……いや結構、この体勢キツい。引き抜いて欲しい」
某犬神家のような状態で瓦礫に埋まっている私を見て、大丈夫かなどと宣う上條は、置いておいて。
魔術師との戦闘の結果、と言うより過程の話なのだが。
なんとか辛勝、と言いたいところだったが、惨敗と言っても過言ではなかった。
勿論、上條が戻ってくるまで、どうにか戦闘をせずに時間を稼ごうと頑張ってはみたのだが……。
どうやら、そのときに地雷を踏んでしまったようで、敢え無く戦闘へ移行。
最初は、こちらも徹底して手札をなるべく見せず、彼女──魔術師カンザキの動向を見ようとしていたのだが、やはり地雷を踏んでしまったせいなのか、初っ端から殺す気満々と言っても差し支えない状況になってしまった。
永く生き過ぎてしまうと、こういう時に不便だ。
人の気持ちが徐々に分からなくなってしまう。
最初の方は問題なかった。彼女の扱う戦闘方法が、主に物理的な手法に則る戦い方だったのはマズかったが、それも"民間魔法"でどうにかなる程度だったし。
ただその後に出てきた、あの物干し竿かと言わんばかりの長尺の刀から放たれる『唯閃』。
それで勝負が決してしまった。防御魔法に、自身の得意とする魔法を使っても、太刀打ち出来ないほどの威力。あれは人間じゃない。ゴリラだ。
モンクに戦士を足して、僧侶と魔法使いの風味を足したようなバケモンに勝てるわけもなかった。
ガチでキレそうだった。
「ただ、向こうも……なんというか、青少年が見てはいけないような状況になっているんですが……なにごと?」
「……向こうの必殺をなんとか最小限に被害を留めたけど、すっごく痛くて腹が立ったので、ひん剥いてやった。反省も後悔もしてない、逆に清々しさまで感じる」
「お前ってやつは! お前ってやつはァ!!」
「せめてもの情けに布を掛けてやっただけマシだろう!? こっちはねぇ! 両足吹っ飛んでんだよ!?」
「俺にはお前の生脚が瓦礫から生えてるように見えるけど」
「生やしたんだよ! ……いや、そういう意味じゃなくて!」
「流石にこの状況で冗談を言わないのは分かってるって。てか生やしたって……お前、バケモンかよ……」
「伊達に長生きしてないよ、というか早く引き抜いて」
「…………あー」
こうして上條と話しているものの、私の視界は真っ暗で何も見えないし。
どこから生やしたか覚えてないから、最悪下半身が真っ裸になってる可能性だってある。あんなシスターを家に引き入れるくらいだから、私の身体を見て欲情しないとは限らな「いたたたたたたたっ!?」
「おっと、すまん。引っ張り方が良くなかったか」
「痛いよ! もっと優しくして! 丁重に扱ってよ!」
「つってもなぁ、周りの瓦礫退かしたほうがいいかこれ……?」
「何でもいいから早くしてよぉ……」
「仕方ない、おーいインデックス手伝ってくれ!」
「……う、うん」
どうやらインデックスちゃんは無事のようだ。
良かった良かった。巻き込まれてないか不安だったけど、そんなことなかったみたいで「痛い痛いっ!?」
「えっ! あっ、ごめん?!」
「が、瓦礫が良い感じに積み上がってこの体勢をキープしてるから、こう……綺麗に退けてもらえたら助かるよインデックスちゃん……」
そんな風にギャーギャーと騒ぎながら、なんとか助けてもらい───。
話はまた翌日に