───どこかの高原。その一本杉の木の下
そこに、4人の人間達が居た。1人は耳の長い銀髪の少女、どうやら何かに怒っているのか少し不機嫌気味に他の3人に背を向けている。
もう1人は、不思議な髪色をした少女。どうやら銀髪の少女を怒らせてしまったのは、こちらのようで……バツの悪そうな表情をして座って、頬付きをしていた。
その渦中の2人を見る、2人の少女より若干身長の高い、紫髪の少女と、赤髪の少年。
「レフィリさん? 言うことがありますよね?」
「私は何も悪くない……。悪いのはあっちの方だし」
2人の喧嘩を窘めるのは、どうやら紫髪の少女の役目のようだった。
手慣れているのか、まずレフィリと呼ばれた少女に話を聞こうとする、紫髪の少女。だがそれも虚しく、向こうが悪いと責任転嫁を初めてしまった。
然し、紫髪の少女は其れを良しとしたのか、次は銀髪の少女に話を掛ける。
「……と言ってますが?」
「いやいや、あれはレフィリの方が悪いよ。私の魔導書を勝手に焼き芋の火種にしちゃったんだよ!? 怒って当然でしょ 」
銀髪の少女はそう言って憤る。
どうやら、大事にしていた本を燃やされてしまったようだった。それを言われて、頬を付いていた少女は、ビクリと肩を震わせて、反論する。
「で、でもあれもう読んで、ここ最近どころかずっと読んでなかったじゃん。書いてた魔法は3人とももう覚えてるし、要らないでしょ?」
「要るよ!」
そこから、どれだけあの魔導書が如何に大事で大切かを銀髪の少女が語る。
曰く、鍋の下敷きだったり、寝る時に頭の上に置いておくと、丁度いいサイズ感だったり。
叩くとちょっといい音が鳴ったりするだのなんだの。
一通り語って、これで自身の方が悪くないよね! と言った感じに少しドヤって見えた。
その結果
「"フリーレン"様、要らないものは捨てましょう」
「なんでだよぉ!」
フリーレンと呼ばれた少女が負けた。
「……でも、大切にしていたものを燃やしてしまったのはいけません。レフィリさん? 謝れますよね……?」
「う、うぅ」
「ごめんなさい、ごめんなさいですよ?」
幼子に諭すように、ゆっくりと話す紫髪の少女に、レフィリは弱かった。
そこに、歳上としてのプライドは木っ端もなかった。
「ごめん……フリーレン」
「やだ! 許さない!」
「なんだよ! 人が謝ったのに!」
そんな騒がしくも楽しげな日々。
レフィリがもう夢見ることしか出来ない世界での話だった。
◆
◆
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少し薄暗い、人の住んでいるとは思えないような場所で……上条、インデックス、レフィリの3人は居た。
そこは数ある中のひとつ。学園都市にひっそりと暮らす魔法使いの巣穴だ。
元々は、商業用事務所が組み込まれたビルが建っていた場所で、今回はその地下部分を魔法使いが改築し住み着いている。
当然、おいそれと人に見つかる訳にはいかないので、出入口は別の場所から通しており、他の一般人でも入れようになっている。
普段は他の巣穴や、よく行く場所に設置されている鏡から、魔法を使い行き来しているので、彼女がその出入口を使うことは少ない。今回のような客人が来る場合を想定して作っているだけのようだ。
「それにしても、この2人どうしようか」
「学園都市外に放り出すのも、流石にな」
「いまは気を失ってるからいいけど、目を覚ましたら危ないかも……。魔術には声を鍵に発動するものもあるし……」
「なにかしようとしたら叩けば良いし。まあこの魔法なら多少は大丈夫だよ。魔力すら練れない筈だよ」
そう言う3人の目の前には、昨夜戦った赤髪の男と、聖人の魔術師 神裂火織が気を失い縛られた状態で、魔法をかけられていた。
2人の身体を囲うように、二重の交差する光がインデックスと上条の目にも見えていた。
「あの鏡のやつ以外でお前の使う魔法は始めて見るな」
「他にも色々使えはするけど、この魔法は便利でね。昔、一度見たことがあって、便利だから勝手に使わせてもらってるんだよね」
「魔法ってそんな、借りパク出来る感じなんだ……」
「ねぇねぇレフィリ! このまじゅ……魔法はどんな効果なの?」
「言い直さなくても別に構わないよ。そうだね、対象の全身を目に捉えることが出来たら、動きと魔力を出す行為を強制的に制限する魔法かな。『見た者を拘束する魔法』って言うんだけど」
「……? にしては、2人の方全然見てないよね?」
「まあ私には、コレがあるからね」
レフィリが指差すのは、互いに鏡面が映るように向かい合わせられている、"合わせ鏡"だった。互いに宙を浮いてレフィリの周りで停滞している。
「ずっと不思議だったが、レフィリの使う魔法って何処で覚えたんだ? 魔術……てのは、昨日見て少し知ったけど、お前のそれはどう見てもアレとは異質というか」
「うん、改めて魔術とは違うってのがわかったんだよ。昨日もレフィリの鏡で見せてもらってたけど、どこの宗派や神話にも則ってないし、かと言って錬金術とかでも無さそうだったんだよ」
「……あー、まあその話はおいおいね」
軽くあしらいながら、レフィリは部屋の隅にあるバケツを手に魔術師たちの目の前までやってくる。
「あのぉ、レフィリさん? そのバケツはいったいなんでせう……?」
「見て分からない?」
「いや、そこはかとなく何をするかわかってしまっているから、聞いているんであって」
「こういうの、一度やってみたかったんだよね」
「ちょ!? レフィリさん!?」
その言葉を皮切りに、容赦なく中身を魔術師達にブチ撒ける。
中に入っていたのはただの水だったらしく、魔術師達の衣服が溶ける……なんてことは起きなかった。
ただ、勢いよくぶつけられた衝撃と、気道に入ってしまった水分で咳き込む形で起こされてしまう。
「…………君たち、性格が悪いとよく言われないか?」
「このような形で起こされるのは、いったい何時ぶりでしょうか……」
そう2人して、引き起こしたであろう上条とレフィリを睨む2人。上条に関してはただのとばっちりである。
「性格が悪いかどうかの話は、NOと答えておこう。好奇心が抑えられなかっただけだよ」
「悪意が無いのが尚更質が悪いなァッ!?」
声を荒げて激昂する魔術師に対して、何でもないような風でバケツを後方に投げるレフィリ。
後ろで誰かが小さく悲鳴を漏らしたような気もするが気の所為だろう。
「さて、魔術師の御二人さん。いまの状況は把握出来てるかな」
「ああ、嫌でもね。僕達は負けた、そして拘束され監禁されているといった所か。潜ませていたルーンの札も無くなってるようだし」
「私も……分かっています」
努めて冷静に表情を取り繕う赤い髪の魔術師に対し、何処か恥ずかしげに顔を赤らめる神裂の対比が少し不意に笑いを誘うものになっていた。
赤い髪の魔術師が、神裂に対して何をされたのか気になるのか、すごい目線を向けていたのもあるだろう。
「そっちのカンザキちゃんのことは気にしないで……えぇと、赤髪の魔術師くん?」
「…………はぁ、ステイルだ。ステイル=マグヌス、見て聞いての通りだが、ルーンを扱う魔術師だ」
「ならステイルくん」
「君に頼みたいことがあるんだ」