▶いまから──年前
それは、レフィリがまだ彼女ではなく……彼として生きていた頃の忘失された記憶。
「山田ぁ〜、まーた寝てんのかよ〜? 湿気てんなぁ、もっと人生楽しくしていこうぜ! ほらほら!」
「…………比べてお前は元気そうだな。昼時にお前の声を聞いてたら、眠気も覚めてくよ」
「おう、礼は不要だぜ」
「ありがたがってねぇんだよなァ……ッ」
クラスメイトであろう男子生徒に、山田と呼ばれる少年。彼がこの世界で生きていた、レフィリの原型となる人間だった。
顔は普通寄りではあるものの、嫌悪感を与えない程度には整っており、清潔感もそこそこに出来ている。
パッと見の印象としては、磨けばモテそうなのにが第一印象として出てくるような人間だった。
第二印象として、やる気のなさそうな生気の抜けた陰キャというのが着いてきそうな雰囲気と性格をしてもいた。
そんな彼は、いつものように窓際から当たる陽の光に当たりながら、授業を全て爆睡でこなしていた。
そこを、友人に咎められている……というところだったようだ。
「確かにお前ほど明るかったら人生楽しそうだな。良いよなぁ」
「俺はいつも明るいからな! しかぁし! 人生の楽しさというのは、明るいからと言って付いてくるものでは決してない! 何かの付与価値で来るもんだぜ!」
「……はぁ、例えば何だよ?」
「そう、例えばこの小説!」
「何だそれ」
クラスメイトである友人が手に持っていたのは、アニメイラストが表紙にデカデカと書かれた書籍だった。
表紙には碧眼、銀髪のシスター服を着た少女が描かれており、一見するだけではどんな内容か分からなかった。
「知らねぇの!? 『とある』だよ! 『とある』!」
「……ラノベってやつか、おもしれぇの?」
「ああ、面白いぞ。この小説の物語はな、魔術師達に追われる銀髪シスターの禁書目録─インデックス─が、あらゆる異能を打ち消す右手を持った主人公、上条当麻と共に、超能力者が集まる学園都市で、ハラハラドキドキ……そしてワクワクするような事件を拳ひとつで解決していくっつぅ、クソ熱くて面白い小説なんだよ!」
「ほーん」
「ほーん、てなんだよ! ほーん、って! いや、マジで面白いから! 1度読んでみろって! ほら、貸してやるから」
元から貸すつもりだったのだろうか。クラスメイトの鞄から出てくるのは10冊程度の『とある』と呼ばれていた小説達。もう既にその物量に、辟易としそうな顔をしている山田を他所に、また1人クラスメイトがやってくる。
「いかん、いかんぞ。確かに『とある』シリーズは面白い……しかし! この世は既に令和! 平成よりある長寿な『とある』シリーズを追うのには、オタク文化には触れていない山田には少々酷と言ったところだろう……! そこで、俺から推薦するのは…………コレだァ!!」
仰々しく、そう言いながらやってきたクラスメイトB。眼鏡を掛けているので、メガネと呼称することにする。
メガネが懐から取り出したのは、クラスメイトA─金髪─と同じように書籍と、これまた違うのはスマートフォンだった。
書籍の方は、金髪とは違い漫画のようで、寂れた風景に4人のキャラクターが表紙に描かれている。
そしてスマートフォンに映るのは、恐らくこの漫画の映像化されたものなのだろう。表紙にいる杖を握ったキャラクターが喋り動いているようだ。
「『とある』シリーズは多少文化に触れたモノでも、少々見るにはキツイ代物だ。何せ、設定が難解、主人公が強くないという点で離れてしまうモノが居るからな。その分、ストーリーに味の濃さが増しているのだが……そんなことを山田に言っても仕方なかろう。まずは令和最新、そして尚且つ見やすいファンタジー、この『葬送のフリーレン』から入るのはどうだろうか」
「それ言うなら、ファンタジーじゃなくて日常からじゃね?」
「…………ッ!?」
金髪の返しに思わず驚愕の面なメガネ。なぜ気が付かなかったのかと、額を机に伏せてしまった。
「それにそろそろ『とある魔術の禁書目録』が出て20周年だしな。色んなところが盛り上がるだろうし、俺は『とある』シリーズをおすすめするぜ。このシリーズがハマれば、あとは大抵のものでもハマるからな」
「20周年……めちゃめちゃ長いな」
「もうそろそろ全60巻に届く長寿シリーズだからな。他にも、『とある科学の超電磁砲』『とある科学の一方通行』『とある科学の心理掌握』とか番外編シリーズも多数ある。他のやつは漫画だけど」
「いや、ちょっと待て詳しすぎないか? そんな番宣みたいな感じでオススメしてくるやつが居るか?」
「ああ、そりゃそうだろ! いまのお前の居る世界は────」
「なんだって? ちょっと待て!? 気になること言ってから言うのを止めんじゃねぇ! ……おい! おぉい!」
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「…………はっ!?」
どうやら夢から覚めたようだ。
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とある鏡面の魔法使い
第2話 学園都市
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レフィリがこの"学園都市"に迷い込んだ日から、数週間後。
彼女はいま、ある1人の家の中で寝食を行っていた。
「いやぁ、助かったなぁ……あのままじゃ飢え死ぬところだったから、キミには感謝してもしきれないね」
「……なンで、俺がこンなやつの面倒見なきゃ行けないんだァ……?」
「まあまあ、日本の"おもてなし"の心だと思えばね。この味噌汁薄いね?」
「ハッ、ンな高尚な心は俺にはねェよ。それとその味噌汁が薄いのはテメェが湯を多く入れ過ぎたからだ」
「ああなるほど。こういうのにはあまり慣れてなくてさぁ……いやぁ、困った困った。時代というのは止まらず進歩していくものなんだねぇ。私の知ってるところなんか、スープを作るのだって一苦労だよ。それをこんなお湯を入れてすぐに飲める……だなんて、画期的だなぁ。画期的だよね、私もそう思う」
「そォかい……」
彼女の目の前に座り缶コーヒーを片手に、彼女の方を見ている少年の名前は"
当初、学園都市という名の日本に来てしまったレフィリの慌てようは半端じゃなく、無意識に人知れず、薄暗い影のある場所を求め、1人ふらふらと路地裏へと足を運ぶ程だった。
そこで偶々偶然運命的出会いをしたと思ったほど、レフィリはこのときの出会いを喜んだことは無いと、後に語る予定らしい。
出会ったのが、この少年。白髪赤眼のアルビノの少年
この邂逅は、レフィリにとっては最大の幸運で、少年にとっては最大の不幸だった。
レフィリにとっては学園都市で勝手知ったる、この都市の"生徒"に出会うことが出来、そして雨風を凌げる拠点が出来、少年はたいそう金持ちだった為食事にも困らないという、とても素晴らしい幸運を勝ち取った訳だが。
少年にとっては、厄介事と日々煩くて敵わない子供が周辺に常に着いて周り、挙句の果てには自身の能力が上手く作用しないというのも含めて、追い出すことが出来なかった。
「さて、
「もう充分話しただろォ……。お前が俺に付き纏い始めてから、何度も何度も話してきたが、そろそろネタギレだっつゥの……」
「いやいやそんなことは無いよ。私がキミに教えてもらったことなんて、カスのみそっぱち程度の知識だよ。学園都市とは何か……その学園都市に君臨する5人の超能力者……能力者のレベル制……あとはキミがその日に飲んだコーヒーくらいしか教えて貰ってないよ」
「最後に関しちゃ教えてねェ……」
「勝手に把握してるからね。最近の流行りはU〇Cのブラックだろう? よくあんな苦いの飲めるよね、舌バグってる? 大丈夫? 私が治してあげようか?」
「そろそろよォ……! 俺の癪に障るようなこと言うのやめてくれませんかねェ……ッ!?」
「おー、こわ。コレが能力者1位の風格か? こんなんで大丈夫、学園都市?」
「…………はァ。それで、次は何が聞きてェンだ?」
「話してくれる気になってくれて嬉しいよ。キミの気の変わらないうちに聞いておくけれど、次に聞きたいのは、転移系の能力者の話を聞きたいんだ」
「転移つゥと……テレポーターか。まァ居るには居るな。そう見るモンじゃねェが」
「おお、やっぱり居るんだ。いやぁ、キミから聞いていた話通りだと多種多様な能力者が居るみたいだからね。もしかしたらと、思ったけど。そうかそうか、良かった居るのか」
「何を喜ンでのか知らねェが、生憎だがテレポーターの居る場所なンてのは知らねェからな」
「それに関しては大丈夫。居るって分かっただけでも大きな進歩さ。地道に探すとするよ」
そんな話をしつつ、レフィリは朝食を食べ終え、適当にポリ袋の中にゴミを放り捨てた。
今日の朝食はコンビニで買ってきた、カップ味噌汁、おにぎり、野菜ジュースだったようだ。
「さてと、それじゃあ私は今日もこの学園都市を探索するとしようかな。キミはどうする?」
「……適当に」
◆
◆
◆
私が学園都市に来てから早数週間。
かつて見た事のある日本とは、色々とルールや形相は違うものの、何とか馴染んでいた。
目立つ髪色は魔法で染髪して黒色に、綺麗な白い服は魔法でしまって、目立たないような服──
多少顔立ちが綺麗で目立つものの、それを除けば中学生が私服で出歩いてるように見えなくもない、と信じることにしておく。
ここに迷い込んで早々、幸運だったのは
聞くところによれば、この学園都市の人口の大多数が学生─子供─で占められていて、その学生たちはこの学園都市で怪しげな実験をされ異能を扱う超能力者になっているらしいという話だ。
ただそれ以外では普通の学生らしく、学校で勉学を学んでいるみたいだ。それでも、普通の学生よりレベルが数段も上らしいが……。
普段、都市内で扱うのはあまり宜しくはないようだが、人によっては使うことを推奨されている場合もある。
例えば、能力を使い暴れ回る暴徒を抑えるための能力者の機関、
それとは別に、大人たちで構成された警備員などもあったりする。
学園都市外の本国である日本とは違い、能力者が多数存在する以上、この学園都市内は治外法権となってしまう。道徳的な法などは外と一緒だろうが、それでも被害は外と比べれば凄まじいモノになってしまうに違いない。
その為に能力者で構成された
───今日はそんな
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そんな私がやって来ているのは、廃工場だったり、人の出入りが多いデパート、はたまたデカイ病院に、路地裏。事件が起きそうな場所を重点的に渡り歩いている。
事件が起こりそうな場所を渡り歩いている私の方が、傍から見れば
と言ってもやることはそんなに多くない。
行く場所に鏡があれば、魔力を通してマーキングする。無ければ、事前に魔力を通して鏡を置くだけの作業だ。
私にはこの学園都市にいる生徒と同じように、異能を扱えることが出来る。学園都市が"科学"で異能を作り出したのとは別に、魔力を扱いイメージ力で補強して、理論で構成する"魔法"という異能。
向こうでは、私たち魔法を扱うモノ達を、魔法使いと呼称していた。
魔法の中にも様々なものがある。生活を豊かにするための魔法や、戦闘で扱うための魔法。人には解析できないとされている"魔族"の魔法。
魔法使いが扱う魔法は千差万別であり、それとは逆に、魔法使い達は自身の得意とする魔法をひとつ必ず持っている。
それが戦闘で扱うものか、そうでないかは、それこそ魔法使い1人1人によって違うが。
そして、私が得意として扱う魔法は『鏡面を操る魔法』。その名の通り、光を反射し、こちらの風景を映し出す鏡の面を条件設定し、それを操る魔法だ。
この魔法によって起こせる効果は様々だ。
1、鏡面を起点とした転移
2、魔法効果の反射
3、資源の収納
基本的にはこの3つが主な効果。
これに関しては何も鏡である必要はなく、一定の鏡面光沢があれば最悪水面でも構わない。
ただ水に魔力を通すのは、時間も手間も掛かるために、最悪の場合以外は多用しない。
しかし、この魔法の真髄はそこではなく、転移をする際にイメージとして使用する"鏡の中の回廊の空間"を作り出し、出入りすること。
向こうでは私が何年も、何十年、何百年と掛けて、全大陸のどこにでも行けるように回廊を作成することに時間を費やしていたけれど、こっちの学園都市ではその回廊も使えない。
───1度、回廊を通じて向こうへ帰れないかと試しては見たものの、ぶっつりと途切れていて、向こう側には行けなかった。
この学園都市に何時までも居座っているつもりは毛頭ない為、あまり力を入れはしないけど、ないよりはあった方が良いので、こうして回廊作りのために学園都市中にマーキングを施しているわけだ。
回廊からは鏡の外側を覗くこともできるし、他の鏡を介して、他の鏡から見える光景を見ることも出来る。
そんなこんなで、色んなところを歩き回った私なんですが…………。
「