天才少女有栖ちゃん(憑依) 作:ロリロリローリコン
_______意識が覚醒する。
目が覚めて真っ先に、自分の体の違和感に気付いた。
「上手く体が動かせない……?いや、そもそも私は誰ですか?」
自分という人間に対する違和感、記憶喪失というモノだろうか?それにしてはあまりにも意識がしっかりとし過ぎていないか?
記憶を取り戻そうと遡ろうとしてみる、するとすぐにこの“肉体”の情報を思い出した。
名前は坂柳有栖、先天性心疾患を抱えている為普段は杖を使って歩行をしている小柄な少女。
高校一年生で今年の春から高度育成高等学校に入学し、ここの学園の理事長の娘でもある。そしてこの学園の仕組みなどを推測しながらも特に目立ったことはせず模範的に過ごし、凡そ一カ月になろうとしている頃……か。
幼少期の事も思い出せる、意識もしっかりしている。
けれども、この体は私という人間ではないという違和感だけが拭えない。
「精神的なストレス?いえ、その様なストレスを抱える程大きな心理的ショックを受ける場面に遭遇していません。二重人格……という訳でもないでしょう」
なら何故だ?
様々な思考パターンが脳を駆け巡っていく、なるほどこの少女の頭脳は極めて優秀らしい。自分の事を天才だと思っているのも頷ける程に。
否定はしない、秀才というよりは天才の類だろう。この少女の頭脳でなかったら気付きようのない仮説をたった今確信できた。
「憑依、ですね。この体に別の意識、魂が乗り移って主人格を支配している」
突拍子のないオカルトのような結論だ。だがこの少女の頭脳と優れた直感がその結論を是として肯定している。
その思考を第三者の様に極めて冷静に客観的に判断出来る事自体にも驚いている。この体の持ち主……本来の坂柳有栖は元々強い精神力が備わっている人物だったのだろう。
身体的疾患はあるモノの類稀な頭脳、将来有望の学生の体に、自分という異物が混じっている事に嫌悪感のようなものを感じてしまう。
代われるの代わってあげたい。けれどもその方法については流石に皆目見当も付かなく、そして何よりもっと重要な事に私は気付いた。
この肉体に憑依していると推察している、”私“という自分自身の情報が一切思い出す事が出来ない。
男か女か、それとも人間以外だったのか。年は、職業は?自分の名前すらも、その全てが空のマグカップの中身の様に空白になっている。
一体全体何だというのだ。元々のこの肉体を持っていた坂柳有栖本人は、同じこの肉体の中にいないのか?試しに呼びかけてみるが、何一つ反応がない。
……私という坂柳有栖が、おかしくなってしまったというのだろうか?否、それはありえない。少女の優れた頭脳と、私という魂が強烈にその事を否定している。
「……はぁ、もうこんな時間ですか。時間は待ってはくれませんね」
ふと気になって部屋に飾られている時計を見て、思わずそう呟いてしまう。
不自由な肉体を持つ少女だ、常人よりも早く身支度を整えて学校に登校しなければならない時間が刻一刻と迫ってきている。
自分に起きた現象にかまけて、この少女本人である坂柳有栖の人生を蔑ろにしてはならないだろう。それはしたくないしやりたくない。
申し訳無いがこの状況を解明し解析し、原因を特定し解決しない限りは“坂柳有栖”として生きる必要があるようだ。
困惑と諦観、それ以上の罪悪感がある。私は坂柳有栖という少女の人生、その性格や思考を理解出来るが、全く同じ人間とはならない。
……本来の体の持ち主では無い私は何れ時が来たら坂柳有栖の魂と入れ替わる、或いは私が消滅すれば意識が呼び戻されるだろう。
その時が来た時にこの少女が生きやすい、過ごしやすいような環境、人間関係を構築する必要がある。
その上で、坂柳有栖として生きなければならない。
「……憂鬱ですね」
君も同じ気持ちなのかな、有栖。
⭐︎
「あのさ、待たせるなら連絡の一つぐらい欲しいんだけれど?」
憂鬱な気持ちを抱えたまま身嗜みを整え、学校へ登校する準備を済ませて寮の自室の扉を開けた時、廊下で寄りかかっていた女子生徒と目があって、開口一番にそう言葉にされた。
有栖の記憶がこの少女が誰なのかを教えてくれる。
「おはようございます神室さん、気が回らずすいません、今日は少し体調が優れなくて」
神室真澄、同年代であり同じAクラス。
入学当初に万引きをしている所をこの体の持ち主に見られ、それをきっかけ脅す側と脅されている側という構図になっており何かと便利に使っているようだ。
友達というには少し違う、部下や程の良い駒のような扱いに近い印象を受ける。実際それは間違っていなそうだ。
「……驚いた、あんたから謝罪の言葉が出るなんてね。体調が良くないなら休めば?」
「そうしたいですけれどね、気付いてますか?4月の時に支給された際には10万ポイント、本日5月1日に支給されたポイントは94000ポイント。この差異についての説明がクラスで起きる筈ですよ」
「どうせあんたの頭の中では大体の見当はついてるんでしょ」
「答え合わせついでに新しい発見にも巡り合えるかもしれませんね……ああ、鞄代わりに持って下さいますか?……ふふ、ありがとうございます」
「別に……何?普段はこんな事で感謝なんてしないくせに」
「神室さんとお友達になって暫く経ちましたから、信頼の証ですよ」
「……あっそ」
向けていた目が逸らされる、あまり表情には出さないが仕草はわかりやすい少女のようだ、可愛らしいその様子に微笑ましい気持ちになる。
……ふむ、ある一点でズレはあるもののしっかりと坂柳有栖という少女の仕草や口調、思考を憑依出来ているようだ。
この“ズレ”というのは有栖が本来持ちえていない、或いは不必要だと判断している他者を思い遣る思考だ。
本来の坂柳有栖という少女は私が演じている坂柳有栖と違い、随分と攻撃的な性格をしていると判断する。
正直これはあまり宜しくない。
有栖の天才性は認める。元の記憶を何一つ有していない私はここまでの優れた思考能力に長けた人間では無かっただろう。
そういった環境下だったからだろうか、若さも含めて多少……いやかなり傲慢で自分本位の性格をしているのが坂柳有栖だ。
悪いとは言わない、プライドが高い=自信があり向上心を持っている事と同義だ。
ただ行き過ぎた傲慢は自分自身の首を絞める、私は坂柳有栖にそうなって欲しくないのだ。老婆心に近い感情だが信用ではなく、信頼の置ける友が有栖には必要だと判断した。
その第一候補にこの少女は同じAクラスである事を含めて最優だと判断する。
「神室さん、本日の放課後は空けておいて貰えるでしょうか?色々と頼みたい事が出来ると思いますので」
「それって強制?私にもプライベートってのがあると思うんだけど」
「ただのお願いですよ、何か予定がありましたか?それでしたら其方を優先してもらっても構いません」
「別に無いけどさ……そもそも私はあんたに逆らえないんだから、拒否権なんてないでしょ」
「何だかんだ言って尽くしてくれる神室さんの事はお友達だと思ってますし、ちゃんとした予定や理由があるなら無理強いはしませんよ?」
「お友達、ね……都合の良い言葉だね。私はあんたの事、友達だって認めてないから」
「ふふっ……そうですね。今はそれぐらいの関係が丁度良いかも知れませんね、お互いに」
話して確信したが、神室真澄は自分より能力の高い人間の下に付いている方が能力を発揮し易いタイプの人物だ。
そして本人の能力も決して低くない、いや寧ろ優れている部類だろう。それはこの頭脳の記憶が証明している。
だからこそ入学して間もない時にこの肉体の持ち主は彼女に目をつけて、自身に逆らえないようにして手元に置いたのだろう。
話していてある程度推察出来るが、神室真澄は私に苦手意識があるものの弱みを握られている事自体にはそれ程の嫌悪感は無いように見える。
期待のような感情を向けているように感じた。出会ったきっかけが万引きだというのなら恐らく、坂柳有栖という人間の下にいれば退屈な日々を満たせるという思考を持っているのではないだろうか。
だとしたら彼女の思考は的を得ている、私としても有栖としても彼女の欲求は当たり前のように応えられる。
ある意味で有栖と相性がとても良い。打算の無い友情関係を結ぶ事が出来れば今後の有栖の人生に良い影響を与えてくれるはずだ。
逃す手はない。
「今後ともよろしくお願いしますね、真澄さん」
「……はいはい」
目を向けて微笑みかけると、やや居心地悪そうな表情で、毛先を弄りながら神室さんはぶっきらぼうな言葉を返した。
⭐︎
やはり、というべきだろうか。Aクラスの担任である真嶋先生が各クラスのポイント数が書かれたプリントを見て、有栖の予想は的中していた事を実感する。
Aクラス940ポイントから順にそれぞれ、650、490、最後のDクラスに至っては0ポイントと書かれている。
クラスポイント制度の概要及び、毎月振り込まれる個人用のプライベートポイントはクラスポイントの100倍となることなどの詳しい説明をなされている中、私は思考を回す。
序列付けをする学校のシステムについて思うことはあるがここで口を挟む事はお門違いだろう……はてさて、どうすれば有栖にとっての最善だろうか。
「今から小テストの結果を掲示する、各自確認するように」
一通りの説明をした真崎先生は新たなプリントを黒板に提示した。ふむ、やはり平均的に高いな、赤点に近い生徒がいるが赤点を取った生徒はいないようだ。
有栖の順位は……堂々の一位、95点か。
記憶を探れば、最後の問題は答えはわかっていたが時間がなかったといった所だろう、高校一年の範囲外の問題でも解答を答える辺りやはり極めて優秀だな。
さて……思考は済んだ。行動するとしよう。
「失礼、皆さん談笑しているご様子ですが、発言をしても?」
ホームルーム後の未だざわついた様子であるAクラスの教壇に立って教室を見渡しながらそう発言する。
するとパッと静かになって視線が私に集中する。
「先ずは、皆さんが優秀な生徒な事を嬉しく思います。今後のクラスの方針としては、現状維持でよろしいと判断しています。勿論1学期中間テストに向けての勉強会などは実施した方が宜しいですが……こちらも強制ではなく自由で宜しいかと。異論はありませんか?」
私という第三者が坂柳有栖がどうしたいか、どうするべきかを考えた時。やはりクラスのリーダー的存在になるべきだという結論に至る。
これは本来有栖が現状のAクラスの中で、彼女以上に能力が高く上につける人間が居ないからというのもあるが、やはり誰かを束ねて率いる能力をこの少女は持っている。
クラスを統一し纏められる人物だと他人に認めさせる必要がある。そう思い行動した時、先ず最初に解決しないといけない問題は……やはり、彼の存在をどうするか。
「待て坂柳。勉強会はグループに分かれて定期的に開催するべきだ、勿論参加できない理由がある生徒を無理強いする訳では無いが、今回の小テストで平均より下回っている生徒は参加してもらうべきだ」
立ち上がって私の意見に対して発言するスキンヘッドの男子生徒、葛城 康平。
記憶の中の彼と実際に話して会う彼にそこまでの相違はない、成る程優秀なのだろう、Aクラス全体の事を見据えて発言しているように思える。
ただ私個人の主観になってしまうが……この生徒は確かに常人よりリーダーシップを持っている人物ではあるだろうが、有栖を押し退ける程かと問われると、それは無理だろうな。
秀才と天才では超えられない壁がある、優秀止まりなら有栖を超える事はできない。彼は秀才の類の人間だと現時点では思っている。
優秀な人間、それ以上の有栖に並ぶような人物じゃないなら私の思考を上回るとは思えない。
なら……そうだな、こうしよう。
「そうですね。では勉強会は葛城くんが纏めて貰ってもよろしいでしょうか?私個人としては、小テストの結果も踏まえて今回の中間テストに一丸となって勉強会を実施する程、Aクラス全体の学力が不安だとは感じませんでしたので」
「……では坂柳派としては、今回の中間テストは勉強会を実施しないという事か?赤点を取るような生徒が出るとは思わないが、遊び呆けてAクラス全体の学力を下げるような事はしないで貰いたいのだが」
「ふふっ。そんなことにはなりませんよ?……そろそろ授業が始まりますね、私からは以上です、充実した一日にしましょうね」
今のやり取りで有栖の記憶の中の葛城康平という人物の評価と、私個人の彼に対する評価は殆ど変わらなかった。
物事の裏を読み解く能力がないわけではないだろうが、気付かないものなのだな。というよりも、この体の持ち主の頭脳がより広い視野を持っているという事だろうか?
まあ良いか、それよりも……今は良いがこの先も同じクラスにリーダーが二人いる状況なのは、全体の意見を統一し難くなるだろう。
リーダーを一人にする必要があるな。それには彼にリーダーの座から下りて貰わないといけないのだが。
さてどうするかな。
有栖なら、悟られないように機が熟したタイミングで失脚させる様な状況を意図的に起こして、彼を支持する生徒を減らして取り込んでいくというやり方を取ると思われる。
悪くはない、愉しみ甲斐もある。ただこのやり方をする際のデメリットもある。
それはあまりよろしくないデメリットだ。私という人物がこの体から消滅し、有栖の魂が主人格として現れた際、彼女にとって都合の良い状況を整えたい。
その為にはこの天才少女の思考のままのやり方で進めると、将来的に問題が起き、その時私が居なかったら……うん、迷惑がかかってしまうな。
……そうだな、リーダー問題は早いうちに解決した方が良いだろう。
私は携帯端末に打ち込んだ文章のメールを神室さんに送り、そのタイミングで授業が開始するチャイムが鳴る。
私の結論は付いた。
答えは“説得”……言葉による対話で葛城康平には自主的にリーダー争いから下りてもらい、坂柳有栖の下に付いて貰うことにする。
それで良いかな、有栖。
⭐︎
授業、昼休みと特に明記する様な事が起きることもなく、放課後。
私が指定した落ち着いたカフェの角のテーブル席に神室さんを連れて向かうと、律儀に先に席に座って待っている人物がそこにいた。
「すいません葛城くん、待たせてしまいましたか?」
「いや、そこまで待っていない。それに体が不自由なのは仕方の無い事だ。待たされたとしても不満などは無い」
「そうですか、それは安心しました」
神室さんに目配せをすると、やや小さいため息と共に彼女はカフェから退出した。
カフェの一般客を除けばここにいるのは私と葛城康平だけになる。
「意外だな、俺はてっきり、さっきの神室を含めて何人か連れてこの場を用意すると思っていた」
「これが他クラスとの話し合いならそうでしたが同じクラス同士。お互いが信用をする為には、私の隣は空けておくのが良いと判断しただけですよ」
授業が始まる前に指示したのとは別に、放課後にすぐこの場のセッティングを神室さんに任せてみたが……悪くない席選びだ。角のテーブルを選んでくれたから、盗聴の心配も少ない。
最も盗聴されて困る様な事を話す訳ではないのだが。
神室さんは“今の所”ちゃんと行動してくれている、次の指示もきちんとこなしてくれたら褒美をあげないとな。
そうだね、分かりやすくポイントを支給してあげるべきか?
報酬は出した方が円滑な関係に運べるし何より、こういった事で渋るのは私としても坂柳有栖としてもしたくない。
……さて、思考を切り替えて対話に集中しよう。
「単刀直入に言いますね。Aクラスのリーダーの座から降りてもらえませんか?」
「直球だな。それはつまり今後Aクラスは坂柳、お前が指示すると。そういう事だな?……悪いが断らせてもらう」
「それはどうしてですか?」
「坂柳の実力を疑っている訳ではない、だが完全にAクラスの今後を任せられる程坂柳を信用している訳でもない。今回の中間テストに対しての姿勢も、俺の思想と相違が見受けられた。俺はそれに納得をしていない」
「なるほど、思想の相違という点では、確かに私と葛城くんとでは見えているものが違うと思いました。そうですね……まずそこから、擦り合わせてみましょうか」
私がそう仕切り出した時、一通のメールが私の携帯に届く……ふむ、やっぱりそうか。となると恐らく……そうだな。殆ど有栖の頭脳による推察と変わらないだろう。
私はそのメールを確認して改めて葛城康平に向き合う。
「失礼。相違というのは恐らく勉強会などの実施、働きかけを私が意欲的にしなかったからだと推察します。合っていますか?」
「……そうだな。テスト勉強に向けた勉強会をしないのは、些か疑問だと思っている」
「理由としては2点、1点目はあの場で言ったようにAクラスの全生徒が協力して今回の中間テストで勉強会をする程、中間テストの内容が難しい問題ではないと判断した事」
「言いたいことは分からなくもない。もう一つの理由はなんだ?」
「一般的な高校にも当て嵌るケースですが、こういった中間テストは前学年……私達の上級生が似た範囲で中間テストを受けた可能性が高いです。上級生の持つ過去のテスト用紙を譲って頂ければ、傾向と対策が掴めますよね?後は簡単です、それを元に勉学に励めば良いだけです」
私、というよりも有栖の優れた頭脳による思考がそのパターンが最も可能性のあるケースだと考えた。
私個人の考えも概ねその思考に賛同する。
……なんとも不思議だ、自身の肉体ではないという第三者の意識がそうさせているのだろうか?二つの異なる思考が同時に頭の中で連鎖している。
さぁ有栖、この先の対話も君の優れた頭脳で解決していこうか。
「……成る程、仮にその言葉が正しいとしても、上級生がただでテスト用紙を渡すとは考えられないな」
「自分で発言していて気付きませんでしたか?それに打ってつけのものがあるじゃないですか」
「……そうか、プライベートポイント!あのポイントはいかなるケースにも適用すると真嶋先生は仰っていたが、成る程そういった取引にも使えるという事か?」
「はい。では仮に手元にその用紙を手に入れた場合、葛城くんはそれをどの様に使いますか?」
「それは……テストの前日、いや三日前がベストだろうか、その日に同じAクラスに共有し、テスト結果の向上を計る」
「それだけですか?」
「何?坂柳には他の手段があるというのか?」
「はい。私なら他のクラスの方が気付く前に他クラスのリーダー格に売りつけますね」
「何?それは敵に塩を送るようなものじゃないのか?」
「この程度、少し悪知恵の働く人ならその内気付く発想ですよ。それなら他クラスに元出より2倍高く売り付けてプライベートポイントを稼ぐ方が賢い選択だと思いますよ」
「……いや、そもそも大前提。その言葉が正しいという証明は無い」
「ふふっ、それなら既に手元にありますよ」
ここだな。
私は携帯端末を取り出して、先ほど送られたメールの画像を葛城康平に提示する。
その画像は神室さんに上級生から受け取った小テストと一学年時に受けたテストの紙だ。この内容を見る限り小テストの内容が全く一緒だという事がわかる。
チェスで例えるならここでチェック、後はダメ押しのチェックメイトでゲームセットだ。
「賭けをしませんか、葛城くん。私は数日後に今のテスト範囲が変更されると考えています、その際にこの画像が示しているテスト用紙と殆ど同じ解答が、私達一学年の受けるテストになると思います」
「……賭けと言ったが、その内容はなんだ」
「的中したら、私の指揮の元で働いてくれませんか?正直、二人リーダーがいる現状はあまり好ましいとは思いません。私と葛城くんの作戦に相違が起きた時、クラスの内部分裂に繋がると思っています」
「それは俺も思っていた。だからこそ自分がリーダーと認められる様努力して行こうと思っていたが……いや、賭けはいい。こうして俺に会って話したということは、そうなる自信も尊大にあるのだろう?」
「はい。9割程的中すると見ています……賭けはよいと言うことは、私の元で働いてくれるという事でよろしいですか?」
「条件がある。俺は俺が間違っていると思ったことは言わせてもらうし、時と場合によっては従わない。盲信的に君の事は支持しない、都合の良い駒にはならない」
「ふふっ……それは、私にとっても好ましいです。ただ葛城くん、守るだけが作戦ではないのですよ?」
「……そうだな、ただ攻めることだけでは零れ落ちるものもある筈だ」
……チェックメイトだな。
条件付きではあるが葛城康平を私の下につけた事に成功した。その条件も特に不都合がある訳ではない。
都合の良いだけの人形は要らない、多少反抗的で上からでも下からでもない対等の位置でものを言える立場の方が私にとってはやりやすい。
有栖にとっては、駒として便利に使える方がやり易いのだろうしそれ自体は否定しない。
ただ対人に於いて自分の思考を鵜呑みにするだけの人間しか周りに居ないとなると、どんな人間であれ助長し失敗するケースが起こり易い。
それはこの少女の為にはならない。
「さて、細かい話はまた別の機会に。そろそろお開きにしましょう」
「先に言っておくが、俺が君の思考に賛同したからと言って、他生徒全てが君の思考に頷くとは限らないぞ」
「そうですね、ですから皆さんが納得し易い様、これでも色々考えているんですよ?」
「……ふ、謙遜のつもりなら下手だな。ともあれ、当初の印象より君は思慮深い人間だと理解した。これからよろしく頼む、坂柳」
軽い会釈をする葛城康平もとい葛城くん。ふぅ……先ずは目の前の問題は片付いたな。
やれやれ、優秀な人間というのも中々苦労するな。なまじ正義感の強い生徒だからか、入学してそれ程日数も経たないうちに、坂柳有栖の持つ攻撃的思考に漠然と気づいたのだろうか。
近いうち、また彼とはクラス間での戦略や戦術で相違が生じるだろう。その都度彼を説得する必要はあるだろうが……まあ、今は良いか。
_______それにしても。
私は一体何者なのだろうか?坂柳有栖の頭脳が、私の思考を飛躍的に向上させているとは思うのだが、何一つ“私“という記憶が無いのに、しっかりと自意識がある。
不思議な感覚だ。気持ち悪さも感じる程に。
……軽い頭痛を表情に出さない様にして、次のタスクを消化しに向かう為に席を立つことにする。
さて、仕事の労いをしなければな。
⭐︎
夕暮れ時、そろそろ太陽が沈む時間だ。
「お疲れ様でした。良い仕事ぶりでしたよ真澄さん」
葛城くんと別れた後、噴水の近くで座って待っていた少女にそう告げた後に携帯端末を操作して、彼女に報酬を渡した。
「……は?何このポイント、この程度の事で8万ポイントもくれる訳?あんた生活出来るの?……返さないからね」
「ふふっ、良いですよ?上級生と取引した際のポイントの補填も含めれば、寧ろ少ないぐらいだと思いますから」
「これで少ないって……ねぇもしかして、プライベートポイントを稼ぐ方法でも知ってるんじゃないの?」
「ふふ、さてどうでしょう?」
おや鋭い。
これは私ではなく憑依する前の有栖の記憶で分かるのだが、彼女は4月の段階でボードゲーム部で主にチェスでポイントを賭けて上級生に対してPPを荒稼ぎしている。
その額凡そ30万プライベートポイントになる、そこから8万ポイント程失ってもまだ20万程度の余裕がある。
Sシステムの制度自体は私も面白いと考えている、元出をもう30万程増やして事業の様なものを作ることも可能かもしれない。
……やはりクラスポイントよりもこっちのポイントの方が重要だな?上手くAクラスを維持するならプライベートポイントは出来るだけ多く手元にある状態を継続させた方が良いな。
確か他クラスに移行する権利を獲得するには、2000万プライベートポイント程必要だったか?
Aクラスから落ちるつもりも他クラスに向かうつもりも今はないが、保険として2000万ポイントを貯める目標を作っても良いかもしれない。
思考を回せば回す程色々なプランが出てくるな。これも有栖の頭脳が優秀だからか?天才なのも考えものだ。
贅沢な悩みだが様々な選択肢が見出せる中、どれを手始めにするか考える必要がある。
「……で、今度は何をしたら良いの」
「そうですね。では私を自室までおぶってくれますか?今日は体調も悪い事もあって少し疲れてしまいました」
「は?……それ本気で言ってる?周りの目とか気にしないあんたじゃないでしょ」
「存外人は他人に興味がないものですよ。それに、私は真澄さんにおぶられている所を見られても困らないですので」
「そこは困って欲しいんだけれど……」
何だかんだ言いつつ神室さんは私の前に立って背を向けてくれた。半分ぐらい冗談のつもりで言っていたのだがなんとまあ優しいじゃないか。
いや。それとも私の表情に気付いたか?この少女は他人の表情に鋭い洞察力を持っている節がある、恐らく無自覚だろうが。
隠しているつもりなのだが……実を言うとそろそろ限界だ。
思考も完全には纏まらない。自分が何者かも理解出来ていないまま他人を演じると言うのは存外、心理的ストレスになる事が判明した。
重いモノではない。ただこれが私にとっての人生の“初日”なのだ。
睡眠を取り脳を休めた後に自分という存在を自認し受け入れれば、このストレスからは脱却出来ると踏んでいる。
「あのさ、もっと食べた方が良いんじゃない?」
「ふふっ、軽い方が女の子らしくて素敵だと思いませんか?」
「……何それ」
有栖、君は他人に体を預けることをあまり良しとしないだろう。
けれど弱点は必ずしも自らの手で克服しなければならない事ではない、どうしようもない事柄は他人を頼る事がもっと早い近道でもある。
私は君にはなれない。ただ私は何れ消える存在だと自覚している。きっとそれは必ず起きるのだ、いつまでも私が有栖の体の中に居座っている訳にはいかない。
その時が来た時、この少女にとって少しでもより良い未来を送れる様にしていくつもりだ。
……うん。
改めてそう決意した、改めて謝っておくね有栖、暫くの間君の体を借りる。
君の魂が目覚めるまで、私が代わりに坂柳有栖を演じるよ。
相違点1・他者による駒扱いの軟化
他人を駒とは思っていないので他者との距離感が原作よりも近い
相違点2・原作より攻撃的でない。
これにより対話による問答でリーダー統一を早める事に成功した。
相違点3・他人を演じる事による心理的ストレス
ふとした時に苦しそうな、何処か暗い表情を浮かべるのでより儚さが増す。は?儚げ美少女ロリとか守りたくなるだろ