天才少女有栖ちゃん(憑依)   作:ロリロリローリコン

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五話

 

 幼い頃の有栖の記憶を呼び起こされる。

 

 今から8年ほど前の記憶になるだろうか、幼い有栖が実の父である坂柳成守に連れられて来たとある施設に見学に向かった記憶だ。

 

 確か有栖の父はそこが自分にとっての「先生」という人物が運営する教育機関であり、外部と隔離し乳幼児の段階から徹底した英才教育を施す施設であること。

 

 世代ごとで子供を教育・競争させサンプルとすることで天才を作り出す教育システムを確立することを目的としている施設……と言った内容を、幼い頃の有栖に分かりやすく説明しているのを思い出す。

 

 その事に有栖が何を思ったのかは、記憶の中では完全には読み解けないが……これは、憤りのようなものだろうか。

 

 自分という天才とは違って、偽りの天才という存在に対しての、怒りのようなものに近い感情だろうか?

 

 その気持ちを抱えながらガラス越しに自分と同い年ぐらいの人物を見て。

 

 そのガラス越しにいる同年代の少年と目が合い、そして。

 

 

「っ……ゲホッ……ぁあ、彼がその少年、なのですか?」

 

 

 船内で用意された室内で一人。

 

 ベットで横になっていた私は頭痛からくる吐き気を整えながら、幼い頃の有栖の記憶から情報を探っていた。

 

 ……恐らく、その少年が、デッキでのちょっとした騒動の際に接触した少年なのだろうか。

 

 他人の空見という言葉もある、8年も経つ記憶だ、有栖の頭脳であっても100%鮮明に思い出せる訳じゃ無い。

 

 有栖の記憶で知るその施設は、安易に外の世界に子供が出られるような場所じゃ無いのも知っている。

 

 それを踏まえた上であの少年を有栖は一方的に知っていると、有栖の体が、脳が私の魂に訴えかけてくる。

 

 私という何者でも無い空っぽの存在を殴りつけるように強い感情が何処からともなく溢れてくる、それを深呼吸を繰り返して抑えようと気持ちを整える。

 

 わかったよ、有栖。君にとって大きな出来事、なんだろうね。分かったから、考えさせて?

 

 ……深呼吸を繰り返せば少し、ほんの少し頭痛が治る。思考を回す余裕が出来た、思考に専念する事にする。

 

 そのガラス越しに見ていた少年の名前は有栖の中の記憶では綾小路清隆という名前の少年だ。

 

 橋本くんと神室さんが集めたDクラスの生徒の中にその名前の人物の情報は無い、例の施設……ホワイトルームと言っていたか、あの場所は有栖の言葉を借りるなら偽りの天才を作ろうと実験している教育機関だという事。

 

 つまりは存在X=綾小路清隆なら、橋本くんにも神室くんにもその存在を掴ませなかったと考えても辻褄が合う。

 

 ホワイトルームは様々な教育を幼い頃から半ば拷問のように繰り返すと有栖の記憶で判断出来る。まるで暗殺者の様に影に隠れて自分の存在を秘匿する事は、確かに可能かも知れない。

 

 実際、この有栖の強烈に訴えかけて来た感情が無ければ、私の中の彼の第一印象は「目立たない生徒」だったかも知れない。

 

 では、仮に存在X=綾小路清隆であり、ホワイトルームを見学した際に出会ったその人物が同じ学園にいるとする。

 

 ……それで、有栖は何故こんなにも強い感情を私に促したのだ?私は有栖の魂を自分では感知出来ない。だからこの現象がどういうことなのかまるで理解出来ていない。

 

 偽りの天才を自分の手で屠りたいという強い敵対心?

 

 ……なんだろう、しっくりこない。ではなんだというのだ、私は……違う、有栖は何を感じたの?

 

 様々な感情が渦巻いて絡まって、表現が出来ない。言語化する術が思い浮かべない。

 

 っだめだ、わからない、わからないよ。

 

 初めて有栖の事でわからないケースができてしまいそうになる現実に、強い拒否感を感じる。私の思う有栖の像が、崩れるような感覚がする。

 

「……っ、違う!」

 

 それはダメだ……ッ。

 

 私は有栖、君じゃ無いのはわかってる。自分のこともわからない何者でもない魂だ。

 

 だからこそ有栖のことを全て分かっていないといけない、私にはそれしかない。だって君の体に憑依している私は、けれど他者から見たら「坂柳有栖」なんだ。だから私は、坂柳有栖に憑依しないといけない。

 

 わからないままじゃ私は有栖じゃなくなってしまう、有栖になれなくなってしまう。

 

 それはダメだ、絶対に許容出来ない、有栖の姿をしている以上私は坂柳有栖にならないといけない。

 

 この感情を知る必要がある。

 

 さてそう決めたら、どうやって知る?どうすれば知れる?……協力して欲しいんだ、有栖。

 

 君の頭脳で彼に対して何を思っているのか、その証明をしないと……私はずっと気持ち悪さを感じてしまう。

 

 我儘でごめん有栖、でもそれは……それは、いやだ。

 

 

「……憂鬱、ですね」

 

 

⭐︎

 

 

 多少取り乱したとはいえ時間が経てば落ち着くもので。

 

 時刻は夜。改めて私は船内のベットに座りながら、今回不参加を言い渡された無人島試験について考察をする。

 

 不参加である私ではあるが予めどの様な試験なのかは、無人島に付いた際に一学年の生徒達がジャージを来て無人島に向かう際に真崎先生の計らいで教えてもらっている。

 

 簡単に言えば七日間のサバイバルを生徒に実施し、予め用意されたポイントを如何に残せるかといった内容だ。

 

 無人島の中にスポットと呼ばれるものを占領するとポイントを追加で貰えることや、その際に扱うリーダーカードの存在、そのリーダーを当てる事による追加ポイントなど、追加ルールは幾つかある。

 

 それに対しての私の思考はしかし、有栖が指示するAクラスに対して十全にどうすれば良いか、何をして欲しいかどうかなどを葛城くんや橋本くんなどに共有できていない。

 

 私が居ない試験だと言うことは直ぐに露呈するだろう。それを狙って動くであろう人物が行う作戦もある程度は予想できる。

 

 有事の際私が居ない時に、私の最終決定がない状態でAクラスの命運を左右する様な判断はしない様には言っている。

 

 動揺を狙われた場合その指示をきっちりと守ってくれるかは……いや、信用はしている。きっと大丈夫だろうし、最悪何か不利益を被っても有栖の優れた頭脳ならば何とでもなるだろう。

 

 懸念としては一つ、存在Xであるとほぼ確信している有栖の記憶の中の少年と合致した生徒の存在。

 

 綾小路清隆がどう動くかどうかだ。

 

 存在Xが彼であると知る前の人物像はクラス争いにさしたる興味もなければAクラスの特権も特に欲しいとは思っていない人物という判断。

 

 彼であると分かった以上、この人物像は少し語弊がある様に思える。と言うのも有栖の記憶の中のホワイトルームの教育方針は過激も過激、軍隊のような厳しさを持っていた。

 

 高度育成高校に入学した理由は何であれ、何かの拍子でその実力を発揮した場合……私の予想も有栖の頭脳も一学年の中で、いや学園にいる全生徒と比べても彼に並ぶ“天才”は片手で足りる程度になるだろうと結論が付いた。

 

 彼が動くなら荒れる、その確信がある。

 

 ……現状1080クラスポイントあるAクラスに、Dクラスが辿り着くには一回や二回の特別試験で大きな結果を残しても辿り着かないだろう。

 

 クラス争いという点に関してはポイントのアドバンテージが非常にこちらに分がある、一学年時点ではまず捲られないとは思う。

 

 綾小路清隆が動くならそれでも良い、私は彼を知らない事には、有栖が彼に強烈な感情を抱いている現状を解決出来ない。

 

 この無人島試験が終わった際に改めて接触の機会を作るのは必然としてはてさて、この試験どの様な過程でどの様に結果として反映されるのか。

 

 どの道、私には干渉できない試験だ。

 

「……そろそろ眠りますか」

 

 まだ眠るにはやや早い時間で体力的にも問題なく起きていられるが、起きてすることも特になく。

 

 就寝する体制を整えて、暫くして目を閉じた私の思考がどんどん愚鈍になってゆき。

 

 そしてパソコンの電源を切る様にシャットダウンした。

 

 

⭐︎

 

 

 無人島についてから二日目は一日目と特に変わりはない。

 

 ……いや、変わりはあった。二日目の朝の船内にあるレストランで優雅な朝を迎えていた高円寺六助の存在が居たか。

 

 無人島から泳いで客船まで戻ってきたのだろう、容易に想像できる。

 

 クラス争いに興味の無い彼にとって無人島生活は魅力的に感じなかったのだろう、無人島から客船まで中々の距離があると思うが、彼のフィジカルなら別段驚くこともない。

 

 二日目の夜にはCクラスの生徒達が客船に戻ってきた。体調不良というよりは遊び疲れたような表情を浮かべての集団でのリタイア。

 

 その中に龍園の姿が見えなかった事から、彼なりのこの試験に対する作戦があるのだろう。

 

 有栖の優れた頭脳で弾き出す限り、二通りの可能性が高い事に気付いた。その二つのうち最初に思いついた作戦を取ったと、私は判断する。

 

 初日の段階でポイントを使い切り大多数の生徒を客船に帰して自身の存在を隠し、リーダー当てに専念するという作戦を取った可能性が最も高い。

 

 邪道も邪道、けれども面白い作戦ではある。思いついたとしても有栖には実行出来ないししないだろう。

 

 彼にしか出来ない作戦だ。物事の先を見通したその作戦は果たして上手くいくのだろうか。

 

 そんな風にただただ静観しながら三日、四日と日数が経過していき。

 

 六日目の夜、雨の降る中に明らかに体調不良で客船に運ばれた生徒の容姿を遠巻きに確認して、気付く。

 

 あれはDクラスの生徒だ、私の手に入れている情報では確か堀北生徒会長の妹だった筈。

 

 能力的には優秀だが致命的なコミュニケーション能力の欠落を抱えているらしく、そこがDクラスに査定された理由だと私は判断する。

 

 その生徒が、明日に無人島の試験が終わるというタイミングで体調不良によるリタイアが行われる。

 

 いや?やや疑問が残るな。有栖の頭脳と私の思考によって導き出した回答なら今回の試験、Dクラスが多大なポイントを稼いだ可能性が高い。

 

 分からないな……この考察が正しかった場合、人物像と一致しない。であるならば外的要因が内的要因かはさておき、何らかの心境の変化があった可能性がある。

 

「もうすぐ結果発表の時間でしょうか」

 

 客船が無人島に着いて七日目朝、客船のレストラン内にて。

 

 客船の船員の方の監視の元、朝のモーニングアイスコーヒーをちびちびと飲みながら、客船の外から無人島で集まってる生徒を眺めながらそう一人呟く。

 

 真崎先生がマイクを持って生徒に今回の試験の結果を教えているのだろう様子は見て取れるが、その内容までは流石に客船の方にまで届かない。

 

 ただあの生徒達の様子を見るに龍園にとっては想定外、私という有栖にとっては幾つかのパターンの内の一つのケースに収まった可能性が高いな。

 

 ……さてどこまでポイントを残す事に成功したのだろうか。

 

 出来れば150ポイント前後は残せていたら良いのだが。

 

 

⭐︎

 

 

「_____以上がこの無人島試験の順位及びポイントの結果だ」

 

「……なるほど、報告ありがとうございます葛城くん」

 

 私を含めた数人のAクラスの生徒が客船内の広いテーブルを囲むように陣取っている。

 

 ここに居るには葛城くんに橋本くん、鬼頭くんに真澄さんの四名に私を加えた五人となり。私は葛城くんから改めて今回の無人島の結果を聞き出していた。

 

 まず四位はCクラスの0ポイント、クラス当てに専念していたと思うが結果0ポイントということは、予想を外したか他クラスに当てられたのか。

 

 Aクラスの生徒が当てたという報告は特に無い、Bクラスではないだろうし……当てられたとするならほぼ間違いなく、綾小路清隆だろう。

 

 次に三位であるBクラスは140ポイント、二位のAクラスは170ポイントという結果を告げられた。

 

 クラス当ての有無だろうな、Bクラスが勝算無く他クラスのリーダー当てをするとは思わない。龍園に当てられたかDクラスに当てられたか。

 

 無人島試験の際一時的に葛城くんが指揮を取る形になっていたことは予想が付く、その場合リスクのある手段は極力取らないように行動したと思われる。

 

「私の予想では、Dクラス若しくはCクラスから接触があったと予想します。龍園くん辺りに取引を持ち掛けられませんでしたか?」

 

「……ああ。今回の無人島試験で使うポイントを明け渡す代わりに、毎月Aクラスの生徒から3万ポイントの譲渡をするといった契約内容だ」

 

「どう思いましたか?」

 

「今回の試験を勝つだけならばメリットの方が上回っていると考えた、龍園のやり方はともかく、その実力は認めている……しかし」

 

「それを決める決定権は葛城クンには無いっしょ。毎月Cクラスにポイントを渡す契約も後々響いてくるだろうし何より我関せずの姿勢の方がポイント残るんじゃん?」

 

「……ということだ」

 

 葛城くんの説明の途中に橋本くんがそう告げて、葛城くんは頷いてその様なことがあったことを私に告げてくれた。

 

 今回の無人島試験に対して、私という坂柳有栖の作戦を誰かに伝える時間は無かった。仮に共有していた場合、状況によってはDクラスへのリーダー当ては不発で終わっていた可能性もある。

 

 このポイントを見るにどこのクラスにもリーダーの存在は露見しなかったように思える。物事の思考は違うが葛城くんに足りない所は橋本くんがそれとなく補ってくれていた筈だ。

 

 実際それは成功したようで、Cクラスが提示した誘いに葛城くんは乗らなかったし、有栖としてもその契約内容は後々のデメリットの方がでかいと判断する。

 

 仮に現時点でAクラスのリーダー争いが終着していなかった場合だが、手柄欲しさに葛城くんは受けていたのかもしれないな。

 

 可能性はあった、だがその可能性を考える必要は無いだろう。

 

「しかしまさか……Dクラスが205ポイントをも所有した状態で一位を取ることなど俺は予想出来なかった。この結果について坂柳はどう思っているんだ?」

 

「妥当だと思いますよ。ポイント当てに成功した結果でしょう。組織力という点ではどのクラスよりも劣りますが個人の能力が高い事は高円寺くんなどの生徒が在籍している事からわかると思います」

 

「だからってこの試験で一位になるのは私も不可解なんだけど、あんたなら何か知ってるんじゃない?」

 

「心当たりはあります。これが瞬間的なものじゃ無いのなら自ずと今回の結果に導いた人物は露見すると思いますが、これは必ずしも今回の結果に導いた存在が、Dクラスのリーダー的立ち位置になる生徒だという事にはならないことは頭の片隅に置いていて下さい」

 

「んー……?あ〜そゆこと?リーダーとは別として参謀的な役割をする生徒がDクラスにはいるって事ね?だとしたら俺のセンサーに引っ掛からない事に納得いかないなぁ」

 

「可能性の一つとして、目立つ生徒を隠れ蓑にして自身の存在を隠している可能性が考えられます。橋本くんと真澄さんから見て、消去法的にDクラスのリーダーを補っている人物は平田洋介くん、櫛田桔梗さんの両者以外に存在しますか?」

 

「……Dクラスの女子の意見の中心にいるのは平田の彼女の軽井沢って奴だと思う、けどリーダーが出来るとは思わない」

 

「補えてるかは知らないけど、堀北鈴音ちゃんは能力的にはかなり出来そうって印象はあったなぁ。さっき客船に戻る時チラッと聞き耳立てた感じ、Dクラスの中では堀北ちゃんがこの結果に導いたって事になってるぜ?」

 

 なるほど。ならやっぱり堀北鈴音が体調不良でリタイアしたのは、私の思考が正しければ直前にリーダー当てを回避する為にリタイアさせたのだろう。

 

 大体分かってきた。綾小路清隆は堀北鈴音を隠れ蓑として暗躍に徹していて今後も徹していく可能性が高い。

 

 リーダー当てを避けるのと同時にクラス内でも外でも今回の結果は堀北鈴音が起こしたと広める事で自分の姿は隠したまま堀北鈴音の存在感を強める事に成功している。

 

 目立ちたくない理由については分からないが、単純に性格的な問題だと片付けるには綾小路清隆がホワイトルームの教育を受けていたという有栖の記憶が、性格的な問題で片付けるのは納得し難い。

 

 理由がある。これに触れるべきか触れないべきか、さてどうしようか。

 

「……一先ず、皆さんお疲れ様でした。Dクラスが一位を取る結果に終わりましたが、Aクラスの結果もまた悪くないと思っています。難しい話は一度終わりにしましょうか」

 

「あ、じゃあじゃあ打ち上げでもどうです姫さん?無人島試験を無事に終わることが出来た祝いも兼ねて!」

 

「まだ祝い事をするには早いだろう橋本。明日明後日の内にまた新しい試験が起きないとは限らない、浮かれる時期では無いと俺は考えるぞ」

 

「いやいやっ、それでも息抜きは必要だろ?そう固くなんなよ葛城、真澄ちゃんもそう思うよねー?」

 

「気安く話しかけないで、別にどうでも良い。したければすれば?私は参加しないけど」

 

「ふふっ……そうですね。では自由参加の軽いパーティーでも開催しましょうか。橋本くんはAクラスのグループチャットに周知して貰いますか?」

 

「おっ、乗り気じゃん姫さん、場所の手配も任せてくれよ。って事で葛城、お前も来いよ?ここで来ないのはノリ悪いぜ〜?」

 

「……羽目を外されても困る、監視も兼ねて参加するしか無いか」

 

 橋本くんの提案に坂柳有栖として受け入れる事にする。私的には情報の整理も兼ねて部屋で一人の時間を作りたかったが、あまり橋本くんを蔑ろにするのも信用関係の構築に繋がらない。

 

 ……息抜きか、ちょうどいい。有栖の頭脳を休ませるのも必要だ。

 

 私も少しだけ考えることを休めよう。

 

 

⭐︎

 

 

 

 無人島試験が終わってから三日程時間が過ぎた。

 

 その間別段何か起きることも生徒たちの気も緩み始め、大半の生徒が試験は終わったと楽観的な空気が立ち込めている。

 

 個人の自由だ、楽観視することに否定的な気持ちはないが、無人島試験だけでは終わらないだろうというのが有栖の頭脳で弾き出した答えだ。

 

 気の緩み出した頃合いに追加の試験を言い渡されると踏んでいる、今日か明日のうちには何かしらのアナウンスが客船のスピーカーを通して言い渡されるだろう。

 

 その際有栖が参加できる試験なのかどうなのかだが……客船という狭い空間で実施するのなら、参加できる可能性は高いと踏んでいる。試験に直接介入が出来ないとしても、無人島試験と違ってAクラスの生徒と物理的な距離感が発生している訳ではない。

 

 どの様な形であれ有栖にとっての最善を選ぶ、その第一優先は変わらないだろう。

 

「それ程落ち込まなくても貴女は十分リーダーを努めていると考えますよ。ですが見て分かるスパイをクラス内に入れるのは、失策でしたね」

 

「にゃはは……でも、ほっとく訳にも行かなかったから、そこを龍園くんにしてやられちゃったにゃ〜……」

 

 神室さんに車椅子を支えて貰いながら客船のデッキで涼んでいると、向こうから話しかけてきたので雑談を返す事にした。

 

 一之瀬さんは自分のクラスの中にCクラスから放たれたスパイを疑いながらも受け入れてしまい、その事でリーダーが当てられた事に多少のショックを感じていた様だった。

 

 そのCクラスの生徒は怪我をしていたらしく、お人好しの彼女は放っては置けないと判断したのだろう。

 

 暴力事件の際もそうだったな。善意を持つ心は好感は持てるが試験中でもそれを発揮してしまうのは、何処か行き過ぎている善意にも思える。

 

 非情になれないというのも考えものだな、有栖の頭脳はそういった善意や悪意に捉われる事なく様々な思考を展開させてくれる。

 

 善意も悪意も、有栖の人生に有益であると判断出来る事ならその感情の思考は不必要だ。

 

「リーダー当てが無ければ190ポイント残っているという点では、Aクラスより良く立ち回れたと考えられますよ」

 

「にゃはは、でもそれはやっぱり、坂柳さんが指揮をしていなかったからだと私は思うなぁ」

 

「ふふっ、それはどうでしょうか」

 

「……坂柳さんはこれで試験が終わると思う?」

 

「それについては、そろそろアナウンスが発表されると思いますよ?」

 

 聞かれた事にそう答えるとタイミングよく、私と一之瀬さん、それに神室さんの携帯が同時に鳴った。

 

 学校からの指示や行事の変更などはあった際に送られるメールの受信音、程なくしてほぼ同時に船内アナウンスも入った。

 

『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほど生徒宛に学校から連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を確認し、その指示に従って下さい』

 

 ……始まったな、私は船内のアナウンスを聞きながら送られたメールの中身に目を通すと“20時40分”に指定されていた。

 

 全クラスの生徒が同じ時間に集まるとは思えない。メールを確認した後Aクラスのグループチャットにてそれぞれ何時何分に指定されたか共有する様に指示する。

 

「うにゅ……そろそろ行かないとっ、お話ししてくれてありがとう坂柳さん!今度の試験は負けないよっ」

 

「ふふっ、頑張って下さいね一之瀬さん」

 

 携帯を忙しなく打ち込みながら、恐らくBクラスの生徒たちに呼ばれたのだろう、やや早足でそう言葉にして立ち去る一之瀬さんに手を振って別れを告げる。

 

 さて今回の試験、有栖も参加できるという事なら無人島試験のようにアクティブに行動するような内容では無いだろう。

 

「私達もお部屋に戻りましょうか、神室さん」

 

「はいはい」

 

 どの様な試験になるのだろうか?

 

 ……心配はしてないよ。有栖の頭脳で解き明かせない試験なんて無い。

 

 そうでしょ?有栖。




相違点10・綾小路くんに対しての感情
原作よりも別の意味で執着心が芽生えている、ただそれがどう変化するかははてさて。
相違点11・無人島試験の結果及び過程
そこまで変わっていないがCクラスとAクラス間で行われたはずの契約は白紙になっている
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