天才少女有栖ちゃん(憑依) 作:ロリロリローリコン
私という坂柳有栖の元に集まる情報を統合させて整理させる。
その集まった情報を元に有栖の天性の頭脳を駆使して思考を回転させ加速させる、試験に呼ばれた時間にはまだ早いが、20時40分よりも前に集まって説明を受けている生徒がいるという事は、既に試験は始まってると言って良い。
先ずは試験のおさらいだ。
各グループに割り当てられた「優待者」を基点とした課題。定められた方法で学校に解答することで、4つの結果のうち1つを必ず得る。
試験の日程は明日から4日後の午後9時までで、試験開始当日午前八時に一斉メールが送られ優待者に選ばれた者には同時にその事実を伝える。
1日に2度グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。1時間は退出禁止。その際の話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。
試験の解答は試験終了後、午後9時30分~午後10時までの間のみ優待者が誰であったのかの答えを受け付ける。解答は1人1回までで、回答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。
優待者にはメールにて答えを送る権利が無く、また自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。
試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。
ここまでが今回の特別試験のルールだ、次に4つの結果の詳細をおさらいする。
結果1。グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員に50万プライベートポイントを支給する。
ただし、結果1に導いた優待者には、褒賞として他メンバーの倍の100万プライベートポイントが支給される。(優待者の所属するクラスメイトもそれぞれ同様のポイントを得る)
結果2。優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する。
以下二つの結果に関してのみ試験中24時間いつでも解答が可能。また、試験終了後30分間も同じく解答を受け付ける。
結果3。優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合。答えた生徒の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得ると同時に、正解者に50万プライベートポイントを支給する。
また、優待者を見抜かれたクラスは逆にマイナス50クラスポイントのペナルティを受ける。なお、優待者のクラスメイトが正解した場合は、答えを無効として試験は続行となる。
結果4。優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げて不正解だった場合。答えを間違えた生徒が所属するクラスはクラスポイントを50ポイント失い、優待者はプライベートポイントを50万ポイント取得すると同時に、優待者の所属クラスはクラスポイント50ポイントを得る。
答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。なお、優待者のクラスメイトが不正解した場合は、答えを無効として受け付けない。
Aクラスの生徒で早い時間帯に説明を受けていた生徒からの情報を纏めると概ねこの様な内容になるだろう。
さて。
現実的かそうでないかはさておきAクラスの目指すべき結果は全ての結果を結果1にする事だろうな。
各グループ、干支を因んでいる事から12グループまであると断定出来る。この12グループ全てが結果1になるとして優待者を除いた場合全ての生徒に50万PP。
自身を含め1クラスで回収できるPPは合計2250万PP……丁度他クラスへ移籍出来るポイント数か。
クラスポイントが左右される結果が無く、全クラスにメリットしか及ばないこの結果が一番好ましい。
Aクラスが優待者を全て的中させて結果3を狙う事が一見狙うべき結果だと思考するかもしれないがハッキリってこれは愚策だ。
現時点で独走状態に近いAクラスがこの試験で決定的に他クラスより圧倒的にクラスポイントに差が付いた場合、Aクラスを除いた三つのクラス間で共闘状態になる恐れがある。
三つのクラスを同時に相手をする状況は流石の有栖でも疲弊するだろう、何より“私”が保たない、就寝するその時まで気の休まる状況が出来ないと考えた場合、私は坂柳有栖を維持出来る保証は出来ない。
何よりそうなった場合の共闘状態はAクラスがAクラスでなくなるまで続くだろう。三年間Aクラスを維持するという目的はないが、時期と状況によっては再度Aクラスへ浮上することが困難になる可能性もある。
極力、目に見えるクラスポイントの差は現時点でのBクラスとの差を縮まる事は良くても広がる事はしたくない。
今回の試験、この説明を受けた段階で私は膨大なプライベートポイントを稼ぐ事の出来る試験だという事に視点を向けている。
今後似た様な内容の試験が起きたとして1クラス2000万PP程稼ぐ事の出来る試験はそう無いだろう、一学期では恐らく、ここを見逃すと次は無い可能性が高い。
プライベートポイントには多くの使い道がある、そしてそれはポイントが多ければ多い程、その選択肢は広がる。
私はこれを上手く使用する事が出来れば”他のクラスの生徒を自身のクラスに迎え入れる“という事が可能なのでは無いか、と考える。
有栖の頭脳には一つの悪魔的発想に繋がる計算式が出来上がっている、それを実行するかしないかはさておき、保険は幾つでも用意していた方が良い。
よって、私はこの試験を完封させる必要がある。そしてそれに成功した後に、私がAクラスのため……というよりも有栖の為に向けて起承転結の全てを導く必要がある。
骨の折れる試験だ、けれどもそれ以上に今後の学園生活に大きな影響を促す試験であると考える。
……一先ず、優待者が誰にどのクラスに何人の比率でどのような採点で割り振られるのか、先ずはそれが明らかに成らなければ推測の範疇を出ないだろう。
考えを中断させると、タイミング良く扉をノックする音が自室に響いた為、ベットの上から車椅子に移動して扉を開ける。
「こんばんは矢野さん、時間通りに来てくれてありがとうございます。お手数をおかけしますが集合場所まで一緒に連れていってくださいね」
「は、はいっ」
やや緊張しているが仕方ないか。一部を除けば私という坂柳有栖は、Aクラスの生徒と1対1で話す事は無い。
同学年だというのに不思議なものだな、それに良いも悪いも無く有栖のカリスマ性がそうさせているのだろうが。
この時間に割り振られたのは私の他に葛城くんと、他Aクラスの生徒と比べ優れた学力を持つ的場くんもいる。
他のクラスの生徒の面々によっては、私の予想の一つが的中するかもしれない。
⭐︎
「ひとつだけ分かったことがある。この組は学力の高い生徒が集められていると思っていたが、おまえとそのクラスメイトを見る限りそうではないかも知れないな」
「学力だ?くだらねーな。そんなものには何の価値もない」
所定の場所に向かえば、何やら龍園と葛城くんが睨み合って話している。
全体を見通せばCクラスを除いて比較的学力の高い面々が集まっている。その中にDクラスから堀北鈴音の姿が居る事を確認できた。
Cクラスの龍園が居るという事は、やはり全クラスからリーダーをこの時間に集めているのだろうか。
とすると不可解な点はこの場に一之瀬さんが居ないことだが、これはおいおい考察するとして。
……やっぱり居た。少し離れた所に平田洋介のすぐ近くで、綾小路清隆が無機質に観察する様な目で私の居る場所に目を向けている。
改めて冷静に綾小路清隆を見つめる事が出来た為、その表情を初めて見たが……異質だな。彼のバックボーンにホワイトルームで教育を受けていたことを踏まえても、あれ程人間は自身の感情を露呈させる事がないのか。
私という坂柳有栖に憑依する私も似た様なものか?……なんてね。
「そうでしょうか?国語は語学、数学は論理的思考。社会は社交性に繋がると私は考えますよ。龍園くん」
全体の観察を終わらせた私は龍園に向けて言葉を放ちその舞台に上がる、すると先程より好戦的な目で彼は私を視界に捉えた。
「坂柳か。ククッ……良くこの堅物のハゲを駒に出来たな?テメェの躾が良いお陰で無人島試験では散々だったぜ」
「作戦自体は評価しますよ、私には実行出来ない手段ですしだからこそ詰めが甘かったですね。もう少し他クラスの生徒へ目を向けるべきでした」
「はッ、確かにDクラスの何処ぞの奴にはしてやられたが、今回はそうはいかねぇ、テメェのその余裕綽々の態度も崩してやるよ」
話は終わったとばかりに龍園はこの場から去る、宣戦布告のようなそれにもう少し言葉を続けても良かったがまあ良いだろう。
20時40分に集まる事を指示されたAクラスの生徒は既に集まっている、私もこの場から去っても問題ないが……その前に挨拶程度の会話はするべきか。
「こうして話をするのは初めましてでしょうか?私はAクラスの坂柳有栖、あなたが堀北鈴音さんですね?」
「ええ。だから何?用があるなら手短にお願いしたいわね」
「ふふっ、特段なにが、という訳ではございませんよ、同じ学生として仲良くしましょうね?……それでは、また後日お会いしましょう堀北さん」
私は堀北鈴音のその言葉を続けながら、視線だけはこちらを観察する様に見てくるその視線と目を交わしながら話をする。
綾小路清隆がどれほどの実力を隠しているか、私の予想の中での範疇を越える事はできないが、今この瞬間に互いが互いを認識しているという状況は分かっているはずだ。
……今回の試験中に会って話す事は出来そうにないから諦めるけど。
この特別試験が終わって船から降りて学園へ帰った後、折を見て綾小路清隆に接触を試みる。
だからもう少し待っててね有栖、ちゃんと会いに行くから。
⭐︎
「……なるほど」
優待者に選ばれた場合の戦法もあったけど、これは破棄だな。
試験開始当日午前八時過ぎ、用意された客室にて。
私はAクラスに共有された優待者の情報を得て、構築した思考の結論の内の三通りのパターンに類似していた事に今回の試験についての全貌、その内容をより正確に掴もうと思考を転じる。
Aクラスの優待者は三人、一件何も規則性や法則性と言った事には無縁にも思えるが、ランダム性があるというのなら優待者の数もランダム性があって然るべきだ。
仮にクラスに三人ずつ優待者が居るとした場合、何故この三人が選ばれたかを考える必要がある。
まさか真嶋先生がくじ引きで決めた訳でもあるまい、何らかのからくりがあると先ず真っ先に思考した場合、今回の試験の際に起きられたメールの中に一人のヒントが隠れているだろう。
『厳選なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの一人として自覚を持って行動し試験に挑んで下さい』
以降の文面は除くとして、この文面の一番最初の書き出しである“厳選なる調整の結果”という文面に違和感を感じる。
つまりこれは調整された結果有栖は優待者になれなかったという事だ。
次に優待者の三名の名前や性別、学力などを有栖の頭脳で記録している情報と考察を合わせていくと……幾つかの可能性が示唆される。
断言は出来ない、現時点でこの予想が的中している確率は五割程にも満たないだろう。
情報が足りないが時間をかけてられないのもまた事実。私の予想では二日目夕方もあればこの試験における何かしらの“答え”に勘づく可能性が高い。
次に勘づく可能性の高い人物は堀北鈴音と一之瀬帆波だが……後者は兎も角前者は、クラスとしての組織力が低い欠点から、答えに勘づく可能性は私が思うよりも低いと有栖の頭脳は語っている。
さてこの試験、どうパーフェクトゲームを果たせば良いだろうか。
チェスは先手が有利なゲームだ、それはデータからも証明されている確かな事実。
この試験の有利を取るには誰よりも早い“先手”を取る必要があると私は判断する。
そしてそれは有栖の頭脳ならば可能だと考えている、現に確証は無いがこの試験の解答はこれでは無いか?という思考は出来ている。
先に先手を打ちそのままチェスの駒を運び続けて一回もミスをする事無くチェックメイトを告げる必要がある。
……筋道はある、この筋道を最後まで辿れる自信もある。
ならば私の行動は決まったようなものだ。
「憂鬱ですが……ふふっ、少し楽しみだね有栖」
漸く、君の天才性を他の人達に知らしめる場が出来たよ。
⭐︎
「ご大層な身分だな?テメェが最後だぜ坂柳」
「すいません龍園くん、何分車椅子で移動しているので」
時間を見計らって私という有栖を迎えに来た矢野さんに車椅子を押してもらい指定された個室に辿り着く。
時間ぴったりだ、一回目のグループディスカッションという事もあるだろう、遅れるような生徒がいる訳もなく、必然的に最後に部屋に入った私に方向が向く。
視線は集まった、さてこの場での最初の切り出しは私からさせてもらう。
「先ずはそうですね、Aクラスから順に自己紹介からしましょうか?私の名前は坂柳有栖です、次に葛城くんからお願いします」
先ずは義務付けられている自己紹介から始まる、Bから始まりCクラスも同様。これは協調性の無い龍園であっても避けられない自己紹介だ、ぶっきらぼうに自分の名前だけ告げて後は沈黙を貫く様だ。
「Dクラスの堀北鈴音よ。早速だけれど私たちDクラスの狙う結果は結果3、即ち優待者を当てる事。それはあなた達他クラスも同じ事、そういう認識で良いわよね」
「いいえ、私達Aクラスは結果1を目指します、そしてそれは可能だと考えています」
Dクラスの自己紹介が終わった所で堀北鈴音がそう切り出してきたので否定から入り自身の思考を一部展開する事に決める。
話の主導権を握ろうとしたのだろうがその切り出しで話を展開するなら私にとっては好都合。
「結果1を目指すにはグループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解する必要があります。つまりはこの場にいる全ての生徒が協力し優待者を試験が終わるまで抜け駆けせずにいる状況を作らないといけません」
「……それは不可能だろうな。仮にBクラスである我々や、Dクラスが協力したとしよう、だがこの場にいるそこの龍園が、抜け駆けをしないとは言えないな」
「おいおい、そりゃあ言い掛かりだぜ神崎?そもそも俺が抜け駆けをしなくとも、他の奴らが抜け駆けしねぇっていう保証もねえだろ?」
「そうですね。ですが誓約書などによる書面でのやり取りを行えば信用問題は解決すると思いますよ?そして何より、結果1はお互いがメリットで終わる方法です」
「……確かに、貴女の言うその作戦には一理あるかもしれないけれど、ならより具体的にどうするかをこの場で言うべきよ」
「ははっ本気か鈴音?それともう少しマシな提案しろよ坂柳、笑っちまうぜ。そりゃクラスポイントの左右されねぇAクラスのお前らはそうだろうが、B〜Dクラスの欲しいのはPPじゃねえ、CPだ」
議論が発展していく、主に私とBクラスからは神崎隆二、Cクラスは龍園、Dクラスは堀北鈴音が主に言葉を交わしていく。
グループディスカッションというには少し殺伐としているがそんなものだろう。元より仲良く談笑をするという場でもなければ、その様に誘導する生徒もいない。
この場に一之瀬帆波がいたならばもう少し穏やかな話し合いになっていたのかも知れないが。
それを言うならばこの話し合いをその方向に持っていける人物は居るのだが、堀北鈴音が前に出て喋っているからか?曖昧な表情で私達の議論について行こうとしているだけだ。
……疑惑が確信に近付く。
次は少し狙いを澄まして議論を発展させるか。
「結果3を狙う。しかしそれは成功しなければ意味が無い行いだという事は理解できますね?仮に私が優待者だとして、結果3を狙っているとわかっている状況で、自分が優待者であると明かす様な証拠を残すでしょうか?」
「それは……そうかも知れないけれど、だからって必ずボロが出ない訳では無いでしょう」
「そうかも知れませんね、否定はしませんよ?では龍園くんや神崎くんはどう思いますか?」
「はっ、テメェに俺の思考を答える理由が何処にある?」
「癪だが龍園と同感だ。極力君に自分の思考を開示したくはない」
「連れないですね、でも良いですよ?答えない事も一つの手です……そうですね、私の思考をもう少し展開させましょうか。私が結果1を推奨している理由の一つはPPなのは凡そ想像が付くと思うますが、ではそれは何故だと思いますか?堀北さん」
「……それを私が言う理由は無いわね」
「ふふっ、自分の思考を隠す事は時として相手に思考を読ませてしまう事になりますよ?……答えは単純に獲得出来るPPが多い事にあります。デメリット無く150万PP相当のポイントを獲得出来るのは、CPを獲得するよりも後々に有利に働くと考えますよ?」
「悪いが坂柳、それは君達Aクラスだからこそ言える話だ。確かにデメリットは無いが、50CPを得られる結果3もまたメリットだけ見たら同等、いやそれ以上に価値のある結果だ。二つのグループが挑み、そのどちらとも優待者当てに成功した場合100CPの距離を縮めることが出来ると考えれば、結果1を狙うよりも優先すべき結果だと思っている」
ふむ……思考の速さや閃きだけで言ったら一之瀬さんよりも神崎くんは早いな。少し彼のことを低く見ていたかもしれない。
だがまあ、今回のターゲットは彼じゃ無い。
「ではDクラスはどうでしょう、私の推測でしかありませんが未だクラス間での団結力は他クラスよりも低いと見ています。手持ちのPPも満足に無いでしょう、無人島試験で凡そ200クラスポイント程獲得した今、次に狙うべきはPPではありませんか?」
「いいえ、私はここでクラスポイントを稼ぎ先ずはDクラスをCクラスに上げるべきだと考えているわ」
「それはDクラスの総意ですか?それとも堀北さん単体での意見ですか?櫛田さん、貴女は今の発言の回答は、Dクラスの総意という事でよろしいのですか?」
「えっ?う、うんっ、Dクラスの総意だよっ」
「……何が言いたいの?揺さぶりを掛けているのなら無駄よ、不必要な発言はしないわ」
「であるならば貴女達は私に情報を与え過ぎましたね、この場での発言は控えさせて貰いますが、大方の見当は掴めたと発言をしておきましょうか」
「……何ですって?」
……優待者はDクラス、そして櫛田桔梗の可能性が最も高い。
櫛田桔梗という人物像からの、グループ内での話し合いであるにも関わらず堀北鈴音に任せっきりであるという発言低下。
堀北鈴音の自身の思考は隠したがるにも関わらず他者の意見は突こうとするその姿勢もまた一つの材料となる。
この試験そのものについては発想力や思考力によって答えに導ける試験ではあるが、グループディスカッションという場ではある種の人狼ゲームのようなものだ。
優待者という“黒”を見つける、凡その見当を付けていれば誰が人狼なのかはある程度明白なモノになる。
自分が人狼であると自覚をしていて視線言動表情行動、この四つ全てを普段通りに出来る人材はこの一学年の中で4人程度、片手で足りるだろう。
話の主導権を握らせる事無く話させてもらったがもう十分理解した。後は法則性だけだな、サンプルがもう一つあれば確定する。
そして私は今の発言を“あえて”彼がいる状況の中、発言した。
蛇の様に狡猾、それでいてこの場で私の次に思考の展開が素早くそれでいて鋭い人物は龍園翔だ。
視線を龍園の方に向ければ私の期待を裏切る事無く与えられたヒントに彼は閃いたかの様に笑い出して、言葉を放つ。
「っくく、ハハハッ!そういうことか?坂柳、お前の思考が読めてきたぜ?」
「ふふっ……さてどうでしょう、私が妥協出来る展開以上の結論を龍園くん、貴方は提示出来ますか?」
「あァ?そりゃてめえ次第だろーが、勘違いすんじゃねえ、今俺の考えている思考が正しいなら、如何様にもテメェをAクラスの座から降ろす事が出来んだよ」
「……あなた達、さっきから何の話をしているというの。下らない適当な話をしているというのならノイズでしかないわ」
「あーあー黙ってろって鈴音、澄ました顔していても焦ってんのはバレバレなんだよ、自分が優待者ですって言ってる様なもんだぜ?」
……そろそろ時間か。
私は有栖の優れた頭脳による展開された結論、その思考に全般の信頼を置いている。何故なら私は有栖という人間の記憶の全てを知っており、そして坂柳有栖でないからこそ、第三者の目を持ってしても有栖という少女は天才なのだと理解したからだ。
先ず真っ先に疑問に思った所は、ただ単なるグループ分けでは無く干支という特殊な記号を使った事。
説明に際に都度言い聞かせるようにいう「グループで共闘」という単語。
次に厳選なる調整の結果、優待者に私が選ばれなかった事。そして選ばれた優待者の一見何も法則のない様に思える、しかし確かな法則性。
やはりというべきか、ある程度辺りを付けて表情を窺いつつ話を展開させれば、人狼ゲームの様に簡単に浮き彫りになる。
……これが優待者がDクラス以外の生徒ならばもう少し特定に時間が掛かったかもしれないが。
未だに優待者をクラス間で共有出来ていないんだろう、やはり組織力の低さに差があったな。
環境を改革させる能力を持っている人間が行動を起こしていないのならそれはそうなるのか?
元々クラス争いは乗り気じゃ無かったはず、元より自分のクラスを纏めて何かをしようとはしていなかったと思われる……だとしたら尚更疑問だな。
綾小路清隆は何故無人島試験でその実力の一端を示したんだろう?
人物像が掴めた様で掴めない、彼だけが私の中で定まらない。そしてそれは有栖の天才の頭脳であってもだ。
これはおそらく知的好奇心に近い感情だ、だがそれだけだと切り捨てる感情ではない。
わからない。私の……有栖の経験した事のない感情は、何も無い私には憑依が出来ない。
……ともあれ、今は目の前の試験に集中させる。
「そろそろお時間ですので手短に。次の二回目のグループディスカッションの際に改めて私は結果1を望む旨を伝えます。答えは早く決めた方がよろしいですよ?……ふふっ、それではまた」
⭐︎
一回目のグループディスカッションが終わってすぐ、私の結論及びその思考の一部をAクラスの幹部達を招集させた個室の中で共有する事にした。
「はは、いやぁマジか……姫さんが凄いのはわかってたけどさ、流石に答え見つけんの速過ぎでしょ」
「確定させる証拠は手元には御座いませんが、私は私の思考に間違いはないと発言します。そしてそれを踏まえて、私を信用してくれますか?みなさん」
「信用している、それは神室や橋本も同じだ……お前はどうなんだ葛城」
葛城くんに視線が集まる、元々有栖とは分たれていた思考を持って別の派閥として対立をしようとしていた彼だ、それに何か思うことはあるのだろう。
私もここで意見の擦り合わせは行っておきたい、今後を見据えた上でこれから行う作戦について葛城くんと意見が合わないのなら、その都度修正させる必要がある。
視線を葛城くんに合わせると、葛城くんは神妙な面持ちで口を開き始める。
「坂柳の考える今後の動きについては分かった。その上で問うが……その作戦は他クラスにも多くのメリットを運ぶ作戦だ、敵に塩を送る行為ともとれる。そして何より確実性に乏しい、君の思考を疑っている訳ではないが、君の予想からズレた時、代案はあるのか?」
「仮に、私の予想が外れているとします。予想を外しAクラスがここで大敗する。そうなった場合だとしてもこの試験で失うポイントは150CP、一見大きなポイントに見えるかも知れませんが無人島試験で得たポイントが帳消しになるだけです、その場合でも私たちは1000以上のCPを維持出来ます」
「それは分かっている、だがクラス全体のポイントに余裕がある状況で、それを他クラスにも共有する様な状況を作りかねない作戦ではないのか?」
「いいえ?必ずしもそうではございませんよ。今後他クラスとの共闘や敵対は増えていくでしょう、その時に最も簡単な解決策はPPによる交渉です、そしてそれは他クラスにとっても同じこと。攻めにも守りにもそれは一つの武器になるでしょう」
「まて、まさか」
元々は優秀なAクラスの生徒だ、有栖の言葉でここまで話せば私が何故“全クラスが“PPをある程度保有している状況を作りたいのか、ある程度見えてきたようだ。
目先の事ではなく今後の事を考えた時、私はその方が様々な選択肢が取れると踏んだ。その思考を元に有栖の頭脳から導き出される選択肢が格段に広がるからだ。
「君はこの試験の概要を知った時から、そのことに気付いていたのか?」
「ふふっ、それはどうでしょうか。改めて問いますが、私の事を信用してくれますか?」
「……分かった、少なくとも俺にはその思考を元に作戦を実行出来る自信はない、坂柳の判断に従おう」
そう言って葛城くんは納得した様な表情で私の判断に一任する事を改めてこの場で発言した。
分かっていた事だが万が一ここで離反されても困る。この発言を取れた以上、今回の試験中に内部でゴタつく事は無いだろう。
……一つだけ、Aクラスの生徒に嘘を付いている事はある。
何者でもない“私”は、しかし坂柳有栖の中にいる。よって全ての行動の指針はこの肉体の将来、より良い人生に繋がるようにと行動している。
その際、有栖と有栖にとって有益だと私が判断した生徒以外の保証は何一つしていない。結果的にそれがAクラス全体にとって良い未来になるとしても、それはそれとしてだ。
しかしこの思考は私の中で蓋をしている、気付く事はないはずだ。
「では葛城くんは神崎くんを、真澄さんは龍園くんにこれから呼び出す場所に来るよう連絡をして下さい」
さて______チェックだ。
この盤面は有栖が完全にコントロールさせてもらうよ。
相違点12・客船試験への参加。
有栖ちゃんの中の”誰か“さんの計らいにより起きた大きな相違点の一つ。
天才の頭脳はこの試験をどう攻略するのだろうか