幼馴染ちゃんを笑顔にしたかったけど失敗しちゃったオリジナルウマ娘ちゃんが、仲直りを果たすまで。   作:・。・

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本作品の個人的テーマは『ウマ娘×ゲーム情報学』

楽しんでいただけたら幸いです。




 あの子には、笑顔で居てほしい。

 

 気が付けば、わたしの中ではこれが全てだった。

 小さい頃からいつもわたしを照らしてくれた。いつもわたしの傍にいてくれた。

 

 いつも、その笑顔でわたしを埋め尽くしてくれた。

 

 ずっと笑顔でいて欲しい。幸せな気持ちのままでいて欲しい。楽しませたい。あわよくば、その笑顔を一番近くで見ていたい。

 

 だからそのために、色々やった。全てはあの子を笑顔にするため、なのに──

 

 

「──なんで、あんなことしたんだよッ?!」

 

 

 ──なんで、君は笑顔になってくれないの?

 

 

 

 ●

 

 

 

 ある日、わたしは発見した。あの子の笑顔が一番輝いている瞬間を。

 それはレース。勝利し、嬉しさで高揚した時。その時のあの子が、一番素敵だった。

 

 聞いてみた。レースの何が楽しいかを。

 

「"何が楽しいか?" そりゃお前、決まってるだろ? 勝つことだよ。全員が思いっきりぶつかり合って、いい勝負をして、その中で勝つ! この時ほど楽しいって思えることはないよな!」

 

 レースは、相当抽象的に言ってしまえば一種の娯楽。わたし達ウマ娘が主役の、勝敗が確実に決する遊戯(ゲーム)。その上で、あの子の楽しさに繋がるのは『勝利』。

 

 最初は、見ているだけでよかった。でもどことなく物足りなさを感じ始めてきたんだ。なんでだろうって考えて気が付いた。きっとこれは今までで最高の笑顔を見てみたくなったからだって。

 一体どうすれば、あの子は笑顔になってくれるんだろう? どうすればあの子を笑顔にすることが出来るだろう? 色々浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。

 

 そんな時、ある記事を見つけた。

 ジャンルはゲーム情報学っていう分野。タイトルは『人間を楽しませるAI』とかそんな感じ。これを見た時、びっくりした。そんな研究がされているだなんて。人間より強いAIっていうのは良く耳にするけど、人間に合わせるようなAIの研究もされているだなんて。

 

 そこから興味を持って、その分野の論文を漁ってみることにした。将棋や囲碁のようなターン制のボードゲームから、格闘ゲームや対戦テトリスみたいなリアルタイムのゲームまで。幅広いゲームにて人間を楽しませるAIの研究が行われていた。

 

 中でも気になったのは後者のリアルタイムゲーム。これに関しては『動的難易度調整』という手法が使われていた。

 読んで字のごとく、動的に難易度を調整するというもので、状況に合わせて強さを変えていくってもの。逆にCPUのレベル1、レベル2みたいなものは静的難易度調整って言うらしい。

 

 この論文を読んである程度中身を理解したとき、わたしはふと思い至ったのだ。

 

 ──これ、使えるって。

 

 レースはリアルタイムで状況が変化する。比較的格闘ゲームや対戦テトリスに近い。またレースも一種のゲームだ。この手法を応用することだって出来るはず。

 

 上手く難易度を調節することが出来れば、良い勝負だって出来るはず。あの子の望むレース展開を作り上げることが出来るはず。

 

 ──そうすれば、今までの中で一番の笑顔を見せてくれるはず。

 

 わくわくが止まらなくなった。これが実現できれば、わたしは一番の特等席であの子の笑顔を見ることが出来る。

 

 今はまだ想像上のものでしかない。だけど、とびっきり最高のものになってるはず。

 

 だからわたしは、まずは己を鍛え上げることにした。

 今までレースには然程興味がなかった。でもあの子の笑顔を近くで見られるなら、それはわたしにとって十分な理由になる。

 

 幸いなことに、わたしには才能があったらしい。ちょっとトレーニングすればぐんぐん成長することが出来た。

 色んな人から契約のオファーが来た。たくさんのチームからスカウトが来た。色々調べて、わたしのやり方に文句一つ言わなさそうなところと契約を結んだ。

 

 ちなみにこのことは、契約を結んだこと以外内緒だったりする。つまりどんなトレーニングをどこでしてるのかとかは秘密にした。なんとなくそこは見られたくなかったし、その情報はあの子にとっては必要無いからだ。

 

 当然だけど、あの子もある一人のトレーナーと契約を結んでる。レースにも出てて、めきめきと力を付けていると聞いた。

 実際にレースも見に行った。まぁまぁ速かったし、楽しそうだった。ただ、その笑顔も十分素敵なんだけど、これ以上が欲しいんだ。もっと最ッ高な笑顔になって欲しいんだ。

 

 それにはきっと、このレース以上に良い勝負を行う必要がある。三バ身とか付いてしまっている問題を解決しなきゃならないってわけだ。

 

 ──ここで、動的難易度調整を用いればいい。

 

 AIにおける難易度調整っていうのは、いわゆる接待。悪く言えば手加減。人間を超えたとされるゲームAIを改良して、部分部分で気付かれない程度に手を抜いてやる。これによって強さの均衡化が成されているんだ。

 

 つまり、わたしがいい感じに手加減してあの子を勝たせればいい。本気でやればわたしの方が速いけどそれは何の意味も無い。

 

 次の大きいレース、あの子とわたしが出走する。そこでこれをしよう。そして、あの子を勝たせるんだ。

 

 あぁ、楽しみだ。あの舞台であの子は、一体どんな素晴らしい笑顔を見せてくれるのだろう?

 

 

 

 ○

 

 

 

 あいつは昔から、割と何でも出来るやつだった。

 勉強や、運動だったり、やらせればなんでもできちゃうようなやつだった。ただ、色々と抜けているところがあるのが欠点ってくらいだが。

 

 いつも、あいつはどこかつまらなさそうに世界を見てた。多分、大体自分で出来てしまうからだ。笑ったら絶対可愛いのに、いっつも表情は変わらない。

 

 だからわたしは、あいつをこっちに引きずり込むことにした。

 

 アタシは小さい頃からレースが大好きだった。大きい舞台で、全員が勝利に向かって一直線。我儘と我儘のぶつかり合い。そんなレースにアタシはすぐのめり込んだ。

 

 トレーニングをすればするほど面白いくらいに力がついていく。力が付けば、レースで勝つことが出来る。全力を出しあって、戦って、そこで勝つ。これが最高過ぎた。

 勿論、レースに確実はない。たまに負けることもあったが、一周回ってそれすらも楽しいと思っていた。

 

 だから、結構な頻度であいつをこっちの世界に来るように誘った。最初の方は見ているだけでいいって雰囲気だったが、ある時から興味を持ってくれたみたいで、そこから一気にトレーナーが付くになるまでになっていた。

 

 やっぱり、あいつは凄い。アタシが頑張ってきてやっとたどり着いたところにすぐ到達した。

 だけど、不思議とズルいとは思わなかった。知っていたからってのもあるんだろうが、これでこいつも"楽しさ"を覚えてくれるかもしれないって思ったから。

 

 あいつは何故か、アタシの見えるところではトレーニングをしてる様子はなかった。トレーナーがいる以上していないわけがないし、たまたま見つけられなかっただけだろうが、今あいつがどれだけの実力を持っているのかを知りたくて、こっちが休みの日あいつのことを探してみた。

 

 そして、見てしまったんだ。あいつの走りを。

 

 ──凄かった。

 

 想像を遥かに超えていた。速すぎた。フォームも美しかった。

 所謂、スターウマ娘。あいつはその器に相応しい存在であった。

 

 あいつにアタシはあっさり超えられてしまった。多分、本気で走っても届かないかもしれないくらいに。

 

 ──勝ちたい。

 

 だけど、この時からアタシは挑戦者になった。

 もはやあいつに楽しんでほしいって動機は一気に弱くなった。最初はそうだったが、ここからは違う。

 

 ──あいつと、"勝負"がしたい!

 

 だけど今のままじゃ、あいつは超えられない。

 すぐに帰ってトレーナーと話をしてメニューを調整してもらうことにした。今以上に激しく、でも力を付けることが出来るような、そんなメニューに。

 

 もうすぐ、重賞レースがある。そこでアタシはあいつとぶつかることになる。

 

 何もなければあいつの圧勝だ。だけど、そうはさせない。

 

 ──食らいついてやる。そして、勝ってやるんだ!

 

 

 

 ●

 

 

 

 レース当日。そのレース場にて、わたしたちは対面した。

 

「まさか、もう一緒に走れるようになるなんてな」

「わたしでも驚いてるよ。でも、やっとでもある」

「あぁそうだな。あっという間だったけど、待ちくたびれてもいた」

 

 カッコいい笑顔がわたしに向けられてる。嬉しい。そして走り切ればこれ以上の笑顔も待ってる。気分が高揚しないわけがない。

 

「──勝つぞ。アタシが」

「負けないよ。わたしだって」

 

 これは演出。良い勝負を行うという前振り。これをしておくことで、より良い勝負をしたという感覚を味わってもらえる。

 

 それぞれのゲートにイン。軽く準備運動。

 

「すぅ……ふぅ……」

 

 少しだけ、緊張してる。わたしはこの時のために今まで頑張ってきた。

 

 全てはあの子の笑顔のため。とびっきりの笑顔をすぐ近くで拝むため。

 

 失敗は、許されない。

 

 ──……ザッ

 

 さぁ、スタートの構え。少しの間、無音が世界を支配する。

 

 ──ダンッ!!

 

 ゲートが開く。今スタート。

 

 まずは予定通り、わたしが先頭に行ってこのレースのペースを握る。

 

 幸いにも、逃げ作戦はわたしだけ。わたしの後ろに皆は控えてる状況だ。

 

 一瞬だけ後ろを確認。

 ……うん、いい場所にいる、バ群に巻き込まれて落ちてくなんてことはなさそう。

 

 なら、予定通りやっていくだけだ。

 

 少しだけペースアップ。これで他の子の体力切れを狙ってく。

 

 勿論、あの子がこんなので落ちてくわけがない。絶妙なペースを調整していく。

 

 後ろの気配の数が少し減った。でも、一つの強い気配は消えてない。どうやら正解だったみたい。

 

 もうすぐ最後のカーブ。この直線が、勝負所。

 

 ──きたッ!

 

 ぐんぐん迫ってくるあの子の気配。わたしを差しに来ていた。

 

 ここで退くのは違う。わたしもさらに力を出して、直線に入った。

 

 ゴールはまだ遠い。だけど、もう既にほぼ横にあの子がいた。

 

「──ォォォォオオオオ!!!」

 

 これは想定外だった。予定ではもう少ししたら来るって感じだったのに。

 

「ッ……!」

 

 だけどリカバリーは出来る。ここでもう少し力を出して競り合いへ。

 

 一位と二位の争い状態。わたしとしても結構全力に近い走りをしてる。客観視どちらが勝つか分からない状況。

 

 ゴールはもう少し。競り合いは続く。抜いては抜かれの繰り返し。非常にいい勝負が出来てる。

 

「負けるかぁぁァァァァアア゛ア゛!!!」

 

 ゴールは目の前。

 

 ここで予定通り、ほんの一瞬だけ脚の力を抜いた。

 

 

「──は?」

 

 

 あの子がゴール板を通過。続いてわたしも。

 

 目的は、達成された。

 

 ──ワアアアアァァァァ!!!

 

 皆があの子を祝福してる。皆があの子の名前を叫んでる。称えている。

 

 あぁ、なんて素晴らしい光景。笑顔を彩るには最高の舞台。

 

「──おめでとうっ」

 

 祝福の言葉を掛けながら、わたしはあの子に近づいてく。

 

 さあ見せて。あなたの、最ッ高の笑顔を!

 

 

「……なんで」

「……え?」

 

 

 ──笑顔、じゃない。

 

 怒ってる、悲しんでる、そんな顔。その目は、わたしに向けられていた。

 

 睨まれていた。

 

 

「──なんで、あんなことしたんだよッ?!」

 

 

 待って。どうして?

 なんで、笑顔じゃないの?

 なんで、そんな表情をするの?

 

 こわいよ、睨まないでよ。

 

「え、な、なにが……?」

「っにがって……ッ?! 惚けんな! お前も分かってんだろ!?」

「は……?」

 

 ……もしかして、バレてた?

 いや、そんなわけがない。だって今まで誰にも気づかれなかった。何も言われなかった。そんな手の抜き方を会得したはずなのに。

 

 なら、これは何? なんでわたしの目の前のこの子は、笑顔じゃないの?

 

「なぁ、教えてくれよ……負けないってのは嘘だったのか? ホントならなんであんなことしたんだよ、なぁ?!」

 

 詰められる。やっぱり、バレてたとしか思えない。他に思い当たることはない。

 

 どこでバレた? 隠していたはずなのに。この子の前でトレーニングなんてしてなかったのに。

 

 ……けど、だからなんなの?

 

「な、なんでおこってるの……」

「は──」

「かったから、いいじゃん。かったんだよ……? ねぇ、よろこんでよ」

 

 バレちゃってたかもしれない。トレーニングをみられちゃったかもしれない。

 

 でも、それは関係ないよね?

 

「かちたかったんでしょ? いってたじゃん、かつって。それで、かったじゃん……!

 なのにさ、なんでえがおになってくれないの……?!」

「っ、もういい……ッ!」

 

 後ろを向かれる。まるで、そこにいきなり壁が出来たみたいに。

 

 おかしいな。なんでだろう。近いのに、すごく遠い。

 

「……しばらく、会わないでくれ」

「え」

「お前の顔、今は見たくない」

 

 いきなりすぎてぼーっとしていたわたしを置いて、あの子は行ってしまう。

 

「──ま、まって……!」

 

 止まってくれない。わたしの声が届いていないみたいに。

 

 笑顔に出来なかった。それどころか、わたしから離れて行ってしまった。

 

 ──しっぱい、した。

 

 わたしにはあの子しかいなかったのに。笑顔でいて欲しかっただけなのに。最高の笑顔が欲しかっただけなのに。

 

 

 

 目の前が真っ暗になった。

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