幼馴染ちゃんを笑顔にしたかったけど失敗しちゃったオリジナルウマ娘ちゃんが、仲直りを果たすまで。 作:・。・
今回は視点主人公ちゃんのみ。
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あの日から、わたしは全てを失った。
あの子が全てだった。最高の笑顔が見たい、それだけだったのに。あのレースでいい勝負をして勝って欲しかっただけだったのに。
拒絶、されてしまった。
苦しい。辛い。全部に色が見えない。白黒しかない。
あの子のいない世界がこんなにしんどいとは思わなかった。
「……」
何にもやる気が起きない。勉強も、トレーニングも。だから一回実家に帰ることにした。一旦全部置いておきたかった。今は何もしたくなかった。一人になりたかった。
あそこにいると嫌でもあの日を思い出しちゃう。なら、実家の部屋で籠っていたほうが遥かに良い。
トレーナーには契約をなくすための書類を出してきた。特に何も言われず、意外とすぐ受け取ってもらえた。
……トレーニングとかは普通によかったけど、結局あの人はわたしに最後まで文句一ついうことはなかったな。それを狙ってあの人を選んだわけだけど。
今は、ただベッドで横になってる。起きることも面倒くさい。でも眠くない。惰性で今を無駄に過ごしている。
親は何も言って来ない。なんとなく察してくれてるのかもしれない。
今はそれが嬉しい。もうしばらくは一人で在り続けたいから。
──ぐぅぅぅ……
「……はぁ」
少しの間過ごして分かったことがある。何にもしてなくてもお腹は空くし、トイレに行きたくなるし、眠くなる。ただただ生きてるだけ。生命活動をするだけ。
全てにおいてやる気はない。でも死にたくない。本当に惰性。仕方なく起き上がって、リビングへ。
「……あれ、お母さん?」
到着すると、お母さんがいた。珍しい。いつもなら仕事に出かけてたりしてて誰もいないのに。
「あら、おはよう」
「……おはよう。お母さん、なんでここに?」
「何って……朝だからよ。これから出勤」
「あぁ……そうだね」
時間感覚もなくなってきていたみたい。中途半端な時間に目覚めてぼーっとするだけの毎日が続いてたし、カーテンを常に閉め切ってて部屋は暗いから、気が付かなかった。
「朝ごはん? 今から準備するわね」
「え、いいよ。これから仕事なんでしょ。こっちはいつも通り適当にやるから」
「いいのよこれくらい。たまには甘えなさい」
「……はーい」
そういってキッチンのほうに入っていくお母さん。わたしはテーブルに座ってただ待つ。
しばらく会話はないまま時間が経過する。別に無言だからって互いに嫌い合ってるってわけじゃないし、こういうもんだと思う。
ことりと、わたしの前にお皿が置かれる。茶碗一杯の白米、そして味噌汁。目玉焼きにソーセージにポテトサラダ。
やっぱり食欲は出てきてしまうものみたい。美味しそうだ。
「ほら、食べなさい」
「……いただきます」
──美味しい。
いや美味しくないわけないか。だってわたしはここで育ってきて、一番長い時間お母さんのご飯を食べてきたんだから。基準値がお母さんのご飯なんだから、美味しくないわけがない。
……さて、食べ終わったらどうしようかな。
まぁどうせ変わらないだろうなぁ。ベッドに横になって昼時やトイレ、風呂、夜時を待つだけ。大分慣れてきた、慣れてはいけない日々。
多分、わたしはこのまま朽ちていく。お母さんやお父さんには申し訳ないけど、もうわたしは普通に戻れる気がしないよ……。
「じゃあお母さんそろそろ行くわね」
「うん、いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
出勤時間が来たみたいだ。久々にこうして見送りをする。
「──あ、そうだった」
だけどその言葉と共に、お母さんは戻ってきた。わたしに何か用があるっぽい。
「アンタ、この後何もないでしょ? なら夕方前にテレビであるG1レース、見ときなさいよ」
「……レース? なんで?」
「いいから。絶対見なさい。いいわね? じゃ、行ってきます」
「……いってらっしゃい」
行ってしまった。最後にちょっとした謎を残して。
──レースを見ろ、か。
時計を見る。まだまだ先のこと。もしかしたらぼーっとしてたら過ぎちゃうかもしれない。でも絶対って言われちゃったし。
……まぁ、いっか。どうせ暇だし。軽く時間だけ調べて、アラームつけておいてやろう。
いつもなら何の予定もないが、たまたま今日という日に、レースを見るという予定が出来た。
ただそれだけ、それだけなのだが……なんとなく、いつもと違うなって強く感じる気がした。
────
──
─
──ピピピピピピピ
「……ん」
アラームが鳴った。朝設定した時間になってみたい。寝ていたわけではないけど、とりあえず横になっている身体を起こす。
「……レース、かぁ」
うちでテレビがあるのはリビングのみ。だから朝みたくリビングの方へと向かう。
当然、この時間だから誰もいない。わたし一人だけ。見慣れてきた景色。
最近はテレビを賑やかしの道具としか使っていなかったけど、今日久々に目的を持って電源を入れた。
日本の中でもかなりG1レースってのは注目度が高かったはず。だからなのか、チャンネルを弄らなくてもすぐにそのレースの中継映像が映った。まずはということなのか、このレースの歴代勝者の紹介なんかがされている。
見ろっていうお達しだったし、義務感でただ眺める。見始めたのはいいものの、多分この調子だったら気が付けば見終わっているだけだろうな……と、そう思っていた。
──誰が出るのかの紹介が入るまでは。
「あれ……」
そこには、あの子がいた。
カッコいい勝負服を身に纏って、真剣な表情でそこに映っていた。
──かなり、強くなってる。雰囲気だけで分かった。もしかしたら、わたしよりもう上に行ってるかもしれないってくらい。
勿論と言わんばかりに堂々の一番人気だった。表情は自信が満ち溢れたものになっている。
反射的にテレビの電源ボタンに指がいった。でも目が離せない。見たくないのに、見ていたい。不思議な感情がわたしを包み込む。
そんな時、ファンファーレが演奏され始めた。全員の出走準備も整ったらしい。
もう始まる。あの子の、大舞台でのレースが。
──スタート。
それぞれの走りが展開されていく。大舞台ということなのか、全員強いと感じた。
だけど、やっぱり一番はあの子だった。
速い。速すぎる。
かもしれない、だなんて嘘だ。確実にわたしを超えてる。あの時のわたしのその先へ、あの子は言ってしまっている。
前まで、わたしよりも速くなかったのに。本気を出せばわたしの方が速かったはずなのに。
そんなあの子を、ただわたしは見続けていた。
──ゴール。一着はやっぱりあの子。当然と言わんばかりの結末。
「……」
テレビから歓声が聞こえる。テレビの中であの子が笑っている。それは凄く嬉しい。嬉しいはずなのに、前みたいに強くはそれを感じない。
心が、熱い。今まで抱いたことのない変な感覚。
身体がぞくぞくする。これは、一体なんなんだろう?
『おめでとうございます! すみません、今お話大丈夫ですか?』
『あぁはい、大丈夫です』
『ありがとうございます! まずは何ですけど──』
勝利者インタビューのようだ。あの子が答えている。
やっぱりそうだ。あの子を見てると、ぞくぞくが収まらない。
でも、嫌じゃない。ますますわからなかった。これの正体が。
『──では最後に、今のお気持ちをどうかお願いします!』
『えっと……じゃあ、伝えたい人がいるんでその人に向けて。あと、ちょっと長くなってもいいですか?』
『え? えぇ、大丈夫ですけど……』
マイクを受け取り、あの子は話し出した。
『──なぁ、見てるだろ?』
その目は、わたしを見ていた。
『すごかったろ? 今のレース。お前がどっか行ってる間にアタシは強くなったぜ? 言わなくても分かるだろうが、確実にアタシはお前を超えてるはずだ』
気のせいとは思えなかった。テレビ越しなのに、わたしをしっかりと見ているような気がしてならなかった。
『……でも、
「!」
『勝ち逃げは許さねぇぞ。いいか? あれはお前の勝ちだ。だからアタシは強くなったんだ。お前に勝つために』
ぞくぞくが強くなる。不思議と心地が良い。
あぁ、ようやく見えてきた。これは、きっと──。
『戻ってこい。そして、"勝負"をしよう。いつまでも待っててやる』
きっとこれが、あの子の言っていた【楽しさ】だ。
──勝ちたい。
気が付けば、走り出していた。目的地は当然、わたしの学校。今まで行けてなかった、母校。
──あの子に、勝ちたい!
私服だったけど、関係なかった。無我夢中で走っていく。学校へ、校舎へ、そしてある部屋の前へ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
そこはかつてわたしのことを見てくれてた、トレーナーの部屋。久しぶりだった。
呼吸が乱れているのを無視して、前と同じように扉をノック。
「──はい、どうぞ」
「しつれいしますっ!」
「……おや」
前と変わらない場所に、あの人は座っていた。わたしを見ての反応は、驚くことなく微笑みを浮かべるだけだった。
「トレーナー!」
そんな反応はどうでもいい。顔を見合わせてすぐ、わたしは頭を下げた。
「どうか、もう一度わたしのトレーナーになっていただけないでしょうかッ!」
自分勝手な人間だって、正直自分でもわかってる。勝手に契約を解除するように話を付けたのは自分からなのに、それをなくしてまた契約して欲しいって言っているんだから。
だけど、この人のトレーニングは良かったんだ。力を付けられた理由はこの人のお陰も多少はある。それにこのトレーナーじゃなかったら、あの子には届かない気がしたんだ。
「最悪なこと言ってるっていうのは分かってます! でも、わたしは──」
「……あの子に勝ちたい。そうだね?」
「ッ!」
咄嗟に頭を上げた。変わらず、微笑んでる。まるで全部分かっていたかのように。
「なんとなく、君がここに来ることは分かってたよ。だからね……」
「! それって」
最後にここへ来たときに渡した書類。解約に関するもの。ここにまだあるってことは……。
そのままビリッと書類が破かれる。これにて、契約解除はなかったことにされた。
「つまりね、私はまだ君のトレーナーってわけだ。そして教え子がこうして教えを請いに来ている。ならば、トレーニングをしない道理はない」
「ッ、なら!」
「だけどね。正直に言おう。君の挑む相手は今の時代の最強格だ。何せ、君に勝つため死に物狂いだったからねぇ。その結果が今の彼女だ」
思い出す。あの圧倒的な走りを。今までのようなトレーニングをしていても、あそこまでたどり着くことはまず無理だろう。
「中途半端な覚悟なら止めておいた方がいい。それほどに、君が目指そうとしている場所は高いんだ。ここからは、己をどれだけ貫き通せるかが大事になってくる。
君にその我を出し続けることは出来るかな?」
この言葉にきっと嘘はない。多分、本当に苦しい道なんだろう。本当に血反吐を吐いちゃうような世界になっていくんだろう。
でも、そんなの関係ない。
「──当然っ!」
こんなところでくじいていたら、あの子には届かないから!
「……うん、いい覚悟だ。それじゃあ、明日の放課後、またここに来なさい」
「え、今日からじゃないんですか?」
「今日はもう遅い。それに、親御さんにはちゃんと伝えたりしたのかな?」
「……あ」
「後、服装。パジャマじゃないか。荷物も何にも持ってきていないようだが、そのままトレーニングするつもりだったのかね? あと授業にも出てないだろう。文武両道だ。勉強もしっかりなさい」
「……明日、ちゃんと登校します」
「よろしい」
……あれ、トレーナーってこんな人だったっけ? もっと何も言わない人だったと思うんだけどな。
まぁでも、悪い気分じゃない。むしろ晴れやかな気分だ。
明日からトレーニングが始まる。久々だし力を取り戻すところからだけど、やらないわけにはいかない。
──待ってて。すぐにそこに行くから。