遠藤浩介は影である。存在が影に呑まれ、確かにそこにいるにも関わらず『いないように感じる』という性質を持ち合わせる特殊な人間である。遠藤浩介はその影を憎み、恨み……そして感謝をしていた。
自身の影は間違いなく自身を苦しめてきていたが、悟浄という唯一無二の友と出会えたのだから。
悟浄と出会った事……それが遠藤浩介という人間を、自分を初めて肯定できた瞬間だった。
この世界に来てソレが深まり、浩介はある段階へと到達を果たしていた。影に呑まれ、影を呑み、人類ではあり得ない影の進化を果たしていた。その領域はまさに傑物。
誰にも凌がれることはない。誰にも到達できることはない。主人の悟浄ですら、浩介のフィールドではどうしようもなかった。
その結果は未来永劫……変わり果てることはない。
それこそが、影自身が支配を誓った『遠藤浩介』という人間である。
チリ…カチ…チリ…カチ…チリ…カチ…チリ…カチ…チリ…カチ
遠藤浩介が歩くはダンジョン。悟浄から貰い受けた妙に性能の高い暗殺者コスプレ(ブルマ作)を身に纏い、歩く。危険な魔物が近くに存在しているが、浩輔は未だに剣を鞘から抜かない。65階層という難易度が高い階層でありながら、浩輔は敵意を見せない。
クラスメイトや騎士たちは自殺行為だと言うだろう。それは、浩輔の表の実力しか見ていないから。浩輔の実力は既に65階層を余裕綽々で攻略できる実力を持ち合わせていた。
チリ…カチ…チリ…カチ…チリ…カチ…チリ…カチ…チリ…カチ…チリ…カチ…チリ…カチ
挑戦者を待っていたベヒーモス。どのような輩が立っていたとしても、勇敢に戦おうという心構えが見えていた。しかし、それが叶うことはない。挑戦してくる敵に気づかず、首を静かに刎ねられた。
『クエエェェェッ!』
「あまり喧しく喋るな。エンペラークロウ。お前が下に用事があるのは知っているが、こっちもこっちだ。あの馬鹿の実力もあるし、俺の影分身も向かわせている。アイツら……悟浄とハジメが死ぬことはない。今頃平穏を築き上げてイチャイチャしてんだろ」
俺らも行きたいところだけど、と言葉を付け加えてから目線を前に向ける。異常なスピードで65階層へとやってきた少女がそこに立っていた。圧倒的な気配と圧倒的なパワーを身にヒリヒリと感じる。熊の着ぐるみを着たフザけた見た目だが、その実力は確かなもの。
悟浄から教えられた気で身体能力の幅は幾分か上昇したものの、フィジカルで勝てる気は全くと言って良いほどにしない。脳内でシミュレーションを組み立てたとしても、フィジカルで叩きのめされる。
(少し試してみるか。エンペラークロウ!)
『クイッ!』
エンペラークロウの能力は大量に存在しているが、エンペラークロウが元の世界で八王と言われている所以の力は一つ。巨大なエンペラークロウの影に包み込まれた生物は死滅するということ……。それは如何なる強力なクローンでもその限りではなく、体の全てが破壊され、この世からいなくなる。
ただ、それはエンペラークロウの影の中に"入ったら"という前提条件であり、強烈なフィジカルを使用して影に入らないように体を動かす……それを実行できる相手ならば話は全くの別になってくる。
今回だってそうだ。規格外のこのクローンはエンペラークロウの影に包まれるよりも先に地面を駆け抜け、熊の着ぐるみからパンチを繰り出す。相手を殺す為に急所を的確に突こうとしている。異常なスピードは想定していたが、その範囲を大きく超えていた。
心の中で弱音を吐きつつ、腹の中から闇のカラスを繰り出す。
『余所見スンナヨ!』
「してねえよ。反応できなかっただけだ」
『フン!言イ訳ダゾ!オ前ならデキタダロ!』
「悪いな…少し集中する」
ダークシャドウがクローンの時間稼ぎをしている間、浩輔は瞳を閉じていた。戦意を喪失した訳ではなく、きちんとした戦略と勝機を持っての行動である。
悟浄に気という概念を教えてもらい、自身の影の薄さを混合した技にしてスキル……『
既に抜いていた刃とは違う刃を抜き、クローンの頸に照準を合わせる。ダークシャドウに気を取られている……否、ダークシャドウに意識を向かわせはれているクローンへと急接近し、速攻で終わらせるという気概を持った二つの剣で豪快なる攻撃を落とす。
完全に終わらせるつもりで放ったが、二つの攻撃は首に当たって止まり、断ち切る事はできていなかった。"悟浄ならできていたんだろうな"なんて思考を混ぜつつ、次の攻撃をダークシャドウの攻撃と織り交ぜながら出す。
多彩で大量の一手を出してはいるが、どうにも手応えがうまく感じられない。着ぐるみが黒になれば硬くなり、着ぐるみが白くなれば与えたダメージはなくなる。
この状況、長続きしても得なんてない。そう判断をした浩輔は、ある種の賭けに出ていた。身体能力と影の薄さを上昇させる『影武行』、これには上がある。『暗殺術』というスキルを『影武行』に上乗せすることで、格段なるパワーアップを獲得することができる。
その分……体にはかなりの負荷がかかる。界王拳までとは言わないが、それに類似した負荷が使用者の体内に降りかかる。本来なら使用するのは憚れる技であるが、このような状況に限っては歓迎をするとしよう。
息を深く吸い込み、『暗殺術』を使用する。ヒリヒリとした肌の感触がさらに強くなり、短期決戦を強いられるのを感じる。絶対に潰すという意気込みで心を照らし、足を進ませる。
目の前に存在しているのに"どこに行った分からなくなった"クローンの胸を突き刺し、勝負を終わらせた。
その日の夜……浩輔は王宮で睡眠をとっていた。疲労した体を癒す、という名目もあるが、一番は体内にいる魂たちと対話をする為になる。どうやら先の戦いで魂が増えたらしく、話したそうに訴えかけていた。
"中にいるのは厨二病と喋れない八王だからな"なんて思いつつ、浩輔は夢の中で存在する空間へと歩き進め、驚愕を顔に映す。
「どうも……ユナです…」
「は?はァァァ!?」
ふへへ……温泉気持ちよかったです
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