多くのクラスメイトが戦意喪失し、『戦う派』と『戦わない派』の二つに分かれた日……それは多くの運命を変えた日であり、清水幸利にとっては決意を抱いた日であった。
オルクス大迷宮へと落下したハジメと悟浄……その者たちに多くのクラスメイトと教師は絶望を抱いた。死んでしまった、生きてはいないだろうと。幸利だって、ハジメと悟浄のことを何も知らなければそう思うだろう。
しかし、幸利は悟浄の親友である。マイベストフレンドなのだ。悟浄の人間性と実力が高いのを把握し、絶対にハジメを連れて帰ってくると信じた。
多くのクラスメイトが絶望を信じる中、信じて待つことを決める……いや、悟浄の隣に立てるよう、自身を今よりも強くするのは確かなる苦行であった。同じ目的を持った同志はいるが、その者とは少し離れてしまっている。
挫けそうになった時、愛子先生含む七人___特に妙子、奈々、優花の三人___が慰めてくれたが、それでも辛いものは辛かった。幸利が信じているものを七人は信じていなかったから。
だが、その辛さは幸利を鍛える中で最適な代物だった。身体の幅だけではなく、能力の応用の広さも鍛えることができた。それはイコールとして、古の傑物…または並行世界の傑物を呼び込むには十分な器を持ち合わせていた。
『どうした幸利。昔を思い出してんのか?』
(気にすんなよ。友達との約束を思い出してただけだ)
体内に存在し、目的の為に手を貸してくれている"アス"にそう返事をする。優しく笑うアスにありがたく思いつつ、幸利は皆の元に歩き出した。
「よっ!」
「明人か。二日ぶりくらいか?悪いな…愛子先生のこと守ってもらってて」
「良いんだよ!お前はここいらの魔物を倒してくれてんだろ!騎士さんたちが大忙しにならないように。そこまでやってくれてんのに愛ちゃんの守りまで頼めないさ。だからよ!全然負い目なく任せてくれよ!」
「ありがとうな…」
クラスメイトが優しすぎて目が染みそうになった時、他のクラスメイトが一気に駆け抜けてくる。男のクラスメイトだけではなく、色々と親しい三人も向かってきているので、涙は引っ込んでしまった。というか引っ込まずにはいられなかった。
他の面々に涙を見られても良いが、妙子と奈々と優花の三人には見られたくはない。お世話になっている三人だからこそ、男の涙は見られたくないのだ。少々惹かれ始めてきているのに見せられる訳がない。
「ちょっと幸利。アンタなんで目を逸らすのよ」
「優花、落ち着きなさいよ。幸利はこういう性格でしょ。私たち三人と長くいる癖に女性慣れはしていない。それこそが幸利でしょ。」
「それは分かるけど……私は幸利くんに慣れてほしいなーって。もっと触れ合いたいから」
「いや、良くない。本当に良くない。俺の精神衛生上良くないから諦めてくれ」
顔を赤面させながらタンマを出す幸利に三者は不満を披露するが、幸利は譲ることはない。譲ったら興奮のあまり気絶してしまうのは目に見えているからだ。
『イチャついてるトコ悪いんだが……くるぞ』
"イチャついていない"と否定の言葉を出そうになるのを飲み込み、臨戦態勢を整える。熱く滾る『火星』を身に纏い、全身を灼熱へと転換させていく。ノンストップで燃え上がっていく心のヒートと身体のポテンシャルを認識しながら敵を見据える。
何回倒しても出てくるクローンに舌打ちをしながら、気を燃焼させて更に身体能力の底上げを試みる。
「……」
「なるほど、お前混合タイプだな。ちょっと前にミラっていう混合タイプとも戦った。アイツは強かったが、お前はどうかな?」
『幸利殿!儂をそんなに褒めなくても…』
(ちょっと黙っててくれ)
裏にいるミラの声に顔を顰めつつ、アスの能力を使用して灼熱の化け物を彩る。生きてはいないが、そのうねりと魔力量は"生きているのではないか"と勘違いさせるほど。
まるで咆哮をし、威嚇しているのではないかと思わせるほどに威圧感のある灼熱の傑物は全て幸利の命令に従う。少し指を傾ければ、一人の少女を飲み込まんと向かっていった。
『
少女の手から繰り出される一撃は毒の竜。灼熱の化け物と同程度の大きさを持った毒竜は衝突し、灼熱の傑物と共に破裂した。
直撃することはないだろうとは予測していたが、その予測を遥かに超えた技を繰り出された。あの毒竜、いかに惑星の力を宿したとしても防げそうにはない。
相手したミラとはまるで違う戦闘タイプに舌を巻きつつ、次の一手を繰り出す。灼熱の傑物一つで互角ならば、何個も出せば解決するお話。何個も出すのは気と体力を多く消費するが、勝利できるのなら別の話。
「はぁぁぁぁ!!」
『毒竜』
先ほどよりも大きい毒竜を呼び出し、少女自身を包み込み、防御態勢を取る。それはただ毒竜を衝突させるよりも効果的な防御であり、大量に呼び出すよりも効率が良い。
なんとも効率の良い方法だと感心すると同時に、心は一つの焦りを生んでいた。このままではジリ貧……そして消費するエネルギーの量はこちらの方が圧倒的に多い。これでは競り負ける。そんな思考が頭の横をよぎり、今とは違う手札を切る。
(アレは体力を使うから嫌なんだが……)
『しょうがないだろ。アイツらが相手だ』
(それは分かってるよ。それはそれとして嫌なんだよ)
ため息を吐きつつ、灼熱の傑物を一体出し、幸利自身の体に纏わせる。大量な生物を威圧させる気配を無慈悲に感じさせる灼熱の傑物になりすまし、目を尖らせる。
あまり戦闘に詳しくない愛子や優花が見ていても分かる攻撃特化。そんなモードを少女が見落とすはずもない。
____毒竜で防御し、攻撃特化が崩れた瞬間に突く
少し考えたぐらいで対策できる攻撃特化。だかるこそその安易さを逆手に取り、幸利は全く違う手札を手に取り。荒々しい『火星』とは別の穏やかで静かな……『水星』。
「だから死んでくれ」
「……ッ」
灼熱の傑物から出てきたのは『水星』の力を持った幸利。磨き上げられた剣技は水のような自然の動きで運ばれ、頸を刎ねた。
「俺の腹の中で眠ってくれ」
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