ありふれていない戦闘民族は最強になりたい   作:鋼色

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十四話 一人を想う人々は無敵である

「六つの首を持つ蛇……ヒュドラね」

「ハジメ…知ってるの……?」

「名前だけ。弱点とかはまるで知らない。だから色々と手探りになるよ」

「元々そのつもり…」

 

目の前へと現れ、二人を食い殺そうと迫るヒュドラであるが、ユエとハジメは華麗に避けていた。巨大な敵とパワーある攻撃。単なるフィジカルや威力面で言えば二人の負けになる。しかし、ハジメとユエは見慣れている。悟浄が使用する瞬間移動や糸を用いた奇想天外の攻撃網を知っているのだ。

 

それゆえ、避けれる。一筋の焦りもなく、冷静という一点に集中させて。いや、回避という名目だけに留まってはいない。懐からドンナーと火薬を取り出す。右手はドンナー構え、左手は火薬を握り締め、戦闘中という僅かな時間の中で銃弾を作り上げる。

 

それをドンナーの中に注ぎ、引き金を引く。

 

「思ったよりも軟いね。これなら普通の弾丸で良いかも」

 

[+限定錬成]と[+省略錬成]を二重使用する条件付き弾丸を作るこの技……これは大幅に魔力を使う。ユエの蒼天よりかは魔力は使わないが、それでも大きいものは大きい。加えて、ハジメはこのようなトリッキーな戦闘は慣れてはいない。殺し合いを何度も経験をしている悟浄とは違うのだ。現実で戦闘をしつつ作戦を考える能力はない。

 

使わなければならない戦闘以外は使いたくないのが本音だ。

 

「クルァァァァ!!!!」

「うわ、最低…」

「首が治った……あの白いの…」

「再生系の能力ってこと……か。どうせなら最初に潰したかったかな。魔力が完全に無駄になった」

「再生能力があると知れた…それだけで良い。すごい、ハジメ」

「これ、普通の弾丸でもできたんだよ……」

 

初手から使う技ではなかったのを反省しつつ、ハジメは再度ドンナーを構える。纏雷で威力を底上げをし、銃口を白の頭に向ける。今度は逃さないと言わんばかりに舌舐めずりをした直後、弾丸は放たれた。

 

あの蛇頭程度の硬さならば簡単に貫けると予想していた為、表情には余裕の笑みが浮かんでいた。しかし、それも数秒後には真顔に戻っていた。白の蛇頭を貫く前に黄色の蛇頭が立ち塞がっていたのだ。お前らの攻撃など効かない、そんな幻聴が聞こえそうなほどに吠えている黄色の蛇頭。

 

それにハジメの怒り火蓋は切られた。悟浄から受け継いだのか。とんでもない短気である。

 

「待って…ハジメ。物理は無駄でも、魔法なら良いかも……」

「緋槍っ!」

 

ユエによって展開された燃え盛る槍。グツグツと煮えたぎる灼熱の武器であるが、黄色頭は受けて立つと言っているように動かない。重傷を負っても白の蛇頭を守る気持ちなのだろうか。それとも、ユエの攻撃など効きはしないと笑っているのだろうか。

 

内心は知らない。しかし、答えはある。黄色の蛇頭は動かず、大きなダメージは与えられていなかった。

 

「だと思った。だから、ある。……総合計30本の槍が」

 

この槍たち、ただの魔法軍団ではない。悟浄から教えられた気を入れ混ぜた特注の『緋槍』。ただの威力の底上げではない。操気弾のように発動者の自由で軌道を大きく変えられるのだ。黄色の蛇頭を本気にさせるのには十分だろう。

 

「グィアァァァ……!?」

「ふふ……どう?」

「グッァァァァ!」

 

順調に黄色の蛇頭の体力は減少していく。ただてさえ威力が大きい『緋槍』に加え、己が守らなければ戦う上での主格を失うことになる。そして、白の蛇頭にもダメージはある。黄色の蛇頭の巻き添えとしてではあるが、着実にダメージを与えていく。

 

その光景にハジメは尊敬に似た恐怖を覚えてしまい、数秒間だけではあるものの、指先が少し震えてしまった。仲間だからこそ頼もしいが、敵以外なら恐ろしい以外の言葉はない。

 

これならヒュドラの攻略も問題ないなと安心に似た感情が頭を通りかかった時、ユエの悲鳴が空間に響き渡る。急に頭を抱え始め、魔法の操作は崩れていく。何が原因なのか、それを予測するべくハジメの頭は働き始めたが、その働きは数秒後には中止していた。

 

悲鳴をあげ、恐怖で震えそうになっているユエを助ける為だ。ドンナーで牽制を打ちつつ、ユエの体を腕の中に収めて離れる。あのまま突撃されていたら二人とも大ダメージだったが、ドンナーの牽制で怯んでくれたのだろうか。分からないが、幸運であったのは事実。

 

「ユエ!どうしたの…!?」

「いや…いや…いや!!」

 

ハジメがユエに対して必死に声をかけるが、ユエはトラウマが刺激されたかのように「いや」という単語を連呼していた。

 

その考えが過る瞬間、ハジメの脳内は即座に否と否定していた。例えトラウマを刺激されたとしても、ここまで外の言葉が入らないのはおかしい。言うなれば、トラウマを見せられたではなく、見せられ続けている。

 

「もしかして……お前?」

 

ハジメは気づいた。黒い蛇頭がユエのことを睨みつけているのに。他の蛇頭は動いているが、黒い蛇頭だけは動いていなかった。いや……動いていないじゃないのだろう。すでに動き、ユエにトラウマを見せている。

 

「…ビンゴ…」

 

黒い蛇頭を撃ち抜けば、ユエの表情は少し軽くなった。それでも顔面真っ青なのだから、相当なトラウマを刺激されたのだろう。

 

目が虚なユエを何度も叩いて、ようやく起きた。だが、ユエの姿は問題ないと言えるものではない。意識が回復しても恐怖の感情を全面に出しているのだから。

 

「大丈夫?ユエ…」

「……ハジメ、ハジメなの…?」

「うん、ハジメだよ。ちなみに向こう側で悟浄もいるよ」

「よ、よかっ…た。またいなくなるかと…」

「そういうことね……」

 

ユエは昔、臣下に裏切られている。血のつながった家族にも裏切られているのだ。それをトラウマとして漬け込まれ、見せられた。

 

胸糞悪いと思うと同時に、少しの感心が心の中にはあった。勝負へと勝つ為にはどんな手も使う。それはハジメが憧れた姿でもあったから。

 

「ねぇ……ハジメ」

 

ユエがハジメの袖を掴む。離れる夢を見てしまい、これから離れるかもしれないと思えば怖くなる。

 

封印から解放されての生活は楽しいものだったから。大迷宮の中とは言え、ハジメと悟浄と過ごす生活は……言葉に言い表せない程度には至高のひと時であったから。

 

だから、ユエは怖い。吸血鬼だからこそ……異なる種族だからこそ。私は捨てられるのではないか、と。

 

「ねぇ、ユエ。私は悟浄が好き。ユエは好き?」

「……すき…」

「だよね。だったらさ、このヒュドラが終わった後にしようよ。私とユエを悟浄だけの女の子にしてもらお♪」

「おんな…のこ」

「そうそう。女の子にしてもらお。それで、元の世界に帰って。ご両親に挨拶しに行って。それで、いつの間にか普通の女の子になっちゃえ!」

 

指の震えが治る。恐怖はない。あるのは明日への希望のみ。

 

「行こう……ハジメ…」

「そうだね。行こうか…!」

悟浄の体内に追加したい作品

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