「お姉様!お姉様!深いところに人間が落ちたみたい!」
「えぇ、そうね。一つはそこまでじゃないけど……もう一つはかなりの高みに登っている。ふふ、吸血鬼としての血が騒ぐわね。一戦、一戦やってグチャグチャにしたいわね。フラン、そろそろ順番変わってくれないかしら。昔からこうじゃない」
「やーだよ!そうしたら私が楽しめなくなっちゃうじゃん!ね、良いでしょ!お姉様!」
「本当、しょうがない子ねぇ……」
仲の良い姉妹を演じる二人は悪辣に笑う。己らの目の前に来る者が良い感じに気持ちよく蹂躙できる弱者である事を知って。
悟浄とハジメの関係は、唐突な告白でギスギスしたものの、人間に必要不可欠な寝る時間は協力していた。二人が寝ては、魔物に殺される心配があったからだ。
今回は悟浄のターンであり、優雅に睡眠を貪っていたのだが……
「初めまして」
「私達はずっと見てたけど…」
夢の中に銀髪メイドと白黒洋服黄髪が夢の中に出てくるのだろうか。見た事もない女性が出てくるという事は、何か煩悩でも溜まっているのかもしれない。ハジメが近くにいるのだ、無理はない。
そうして自己正当化をしていれば、後ろから聞き慣れた声が聞こえる。そう、その宇宙で最も強いとされる…破壊神の声が。
「僕が君の心に干渉して呼び出したんだ。厄介だからあまり干渉したくなかったんだけどね」
「び、ビルス様!?心の中とはどういう…」
「ウィスの力を使ってだよ。君の心は僕達の世界の常識とは違う常識で作られているみたいでね。干渉するのが大変だった」
「そうなのですか。そ、それで。ビルス様が私の心に干渉してきた理由とは」
「ブルマから連れ戻してと言われてね。簡単かと思ってたんだが…まさか破壊神すら干渉が許されない世界だったとは。だからって諦めたら色々と面倒な事になる。だから、君の手助けに来た訳」
ビルスが夢の中に介入してきた話の流れは見えてきた。見えてきたが、その現実を受け入れるのが難しい。悟浄が住んでいた世界の常識が通じない事に加え、破壊神の手を以ってしても解決に導く事はできない。天使の力を借りても夢の中に介入するのが精一杯。
現実での介入が不可能と突きつけられ、脳裏には危機が。頬には大量の冷や汗が。喉奥には唾が。どれもこれも、この世界の規模に対して予想外からの出来事に対しての反応であった。
ハジメと一緒に帰ると息巻いていたものの、本当に帰れるのだろうか。悟浄の脳内には、そのような疑問が浮かんでいた。浮かんでしまっていた。サイヤ人らしからぬ思考に陥り、自己嫌悪にも陥ってしまう。
良くないとは知っていても、拳に力が入る。情けない自分を真正面からぶっ叩きたいと思ってしまう。
「勘違いするな。この世界の黒幕が僕よりも強い訳じゃない。僕達の世界が通じない常識を展開され、介入できないだけだ」
「俺が…倒せるのでしょうか。超サイヤ人になれない俺が」
「知らないよ。僕はただ、ブルマが頼んできた事を叶える為に来ただけだ。パフェとの交換条件だからね。お前の為じゃない。お前が黒幕を倒せるかどうかなんて知らない。それにだ。僕は黒幕を知らない、僕に聞くのは筋違いというものだろ。こいつらに聞いた方が早いよ」
鋭い爪で指したのは、最初に話しかけてきた銀髪メイドと不思議な語尾を操る金髪であった。
「私は十六夜咲夜と申します」
「私はルーミアなのだー」
「「私達は、あいつを倒す為にやどりました(やどったのだー)」」
「あいつ?」
先程までの会話から、二人が言っている「あいつ」の意味を即刻理解した。「あいつ」とは、悟浄らをこの世界へと呼び出し、破壊神をも手出し無用のフィールドへと至らせた者の話だと。
完璧な事実であると飲み込めていなかった悟浄であるが、二人から発せられる強烈な敵意と殺意が、それを事実だと認識させた。息を呑むような感覚に陥りながらも、聞き逃さないように必死に聞く。
「あいつは、あいつらは……害悪です」
「勝手に侵入して、勝手に自分のものにして、勝手に人を壊して。人を食べようとしていた私が言えた事ではないけど……まあまあイラっとくるヤツなんだよ。最初はちょっかい掛けようとしたけど、今じゃちょっかいだけじゃ物足りない!」
「お嬢様も、妹様も、パチュリー様も。全員あいつにやられました。今では完全に破壊と殺戮の限りを尽くす兵器へと」
咲夜とルーミアの言葉。それに対して、悟浄は思考に浸る。侵入は世界に対して。自分のものという単語は洗脳。壊すは尊厳を跡形もなく砕けさせるという意味だろう。その推測を得て、悟浄がたどり着いた結論が一つ。絶対に黒幕達をこれ以上他の世界に行かせてはならないという事。これ以上好きにやられば、悟浄達がいた世界までもが的に回る可能性がある。
そのイコールは…最悪として大神官や前王が敵に回る可能性があるのだ。絶対に他に行かせてはならない。
「そうか……何が何でも倒さなくてはならないんだな。教えてくれ。どうしたら良い。俺は一体どうしたら黒幕達を打ち滅ぼせる」
「私達の世界は一度、敗北しました。力及ばず…その言葉を使うのに烏滸がましい程度の圧倒的な敗北を。しかし、私達は牙を得ました」
「ある魔王さんによってねー。その力を使うに相応しいのか、試させてもらうよ。孫悟浄」
「あぁ……望むところだ」
ハジメと悟浄の二人は睡眠を終え、迷宮攻略を進めていた。
「なんというか、随分と特殊な場所だな」
「だね。結構大きい扉だ」
「あきらかな人工的扉だわな。オルクス大迷宮…思ってたよりも人工なのか…まあ、とりあえずだ。ハジメ」
「はいはい、了解」
ハジメは悟浄の言葉に反応し。二つの大きな窪みがある扉に触れ、錬成を発動しようとする。二人とも強制的に穴が開けられると踏んでいたが、それは事実と大きく異なっていた。ハジメの手が弾かれた。
それだけではない。錬成が弾かれた野よりも数歩遅れたタイミングで、野太い声が空間に響く。ハジメはそれに眉間を皺を寄せるが、5条にとってはそう悪い展開ではない。夢での激闘で得た力が本当に使えるのかどうか、試せるチャンスであるのだから。
腕をぐるぐると回しつつ、悟浄はサイクロプスの片割れを見る。まるで獲物を見ているかのような瞳で。
「ハジメ。俺は片割れのサイクロプスをやる。お前はもう片方をやってくれ」
「なにか特別な事でもあったの?悟浄が戦いたいって思う程強い相手じゃないでしょ。まあ、私は否定できる立場にないから良いんだけど」
許可と同時にサイクロプスを撃ち抜くハジメに苦笑いを浮かべつつも、悟浄の意識は片方のサイクロプスに向かっていた。ここまで大きく、試しがいのある魔物も中々いないからだ。
「さあてと、早速やりますかね。スペルカード」
「月符・ムーンライトレイ」
月符・ムーンライトレイはルーミアから借りたスペルカードである。その効果としては、レーザーや弾幕を繰り出す極めて普通のスペルカードだ。しかし、侮る事なかれ。鍛錬を繰り返し、進化をしたスペルカードは、本来の弾幕の数倍の火力を持っている。
「…なはずなんだが。弱いな。全部弾かれたぞ。ルーミア、どうなってんだよ。普通の弾幕より強いはずだろ」
『あのねぇ…私のムーンライトレイは硬いヤツに使用する技じゃないんだよ。やるとしても、レーザーを使用しての弱点を狙う攻撃。他はダメージを与える向きじゃない。本業は雑魚殲滅だ』
『ルーミアの言う通りよ。悟浄は本人じゃないからスペルカードの性質を把握できていないのでしょうけど、それにはそれの特徴がある。これから戦いを続けていくのなら、それを把握するべきよ』
「オッケー。分かったわ。やってみる」
ルーミアと咲夜の言葉を信じ、行動する。瞬間移動を用いた事で悟浄の体はサイクロプスの真上へと移動する。それにサイクロプスは硬直し、悟浄はニヤリと笑いながら両の掌を合わせる。
「月符・ムーンライトレイ」
「ひゅー!言われた通りにやってみせたぜ!」
『そうじゃないでしょ……』
何か言われている気がするが、気にしない。意識に入れず、ハジメからの指示でサイクロプスの魔石を取るのみである。こういう時に風爪を取っておいて良かったと思う今日この頃だ。
「ふー、光ってるねー」
「確かに久しぶりに見たけど、油断しないでよ?私介護とか嫌だからね」
「分かってるよ。オルクス迷宮には罠も魔物もたっぷりだからな。俺達が落ちたのもそうだし」
「悟浄はあんまり関係ない気がするんだけどなあ」
軽口を叩き合う二人であるが、そんな二人の瞳には警戒の色が映っていた。オルクス迷宮にきてから試練は沢山あった。ベヒモス、ナッパ、風熊…数えるのも面倒と思える程に色々と出会った。
それと会い、できた経験というのが「舐めたら死ぬ」だ。少しでも甘くみたら痛い目を見るのはこちらだと知ってしまったのだ。
『別にそんなに警戒しなくても良いと思うんだけどな。だって、あそこにいるのは…』
「……だれ?」
『動けなくて、か弱い吸血鬼なんだから』
「失礼しました!」
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