「まあまあ、ハジメさんやい。話を聞いてあげても良いんじゃない?」
「あのねえ、オルクス迷宮に閉じ込められているヤツなんて、ヤバいヤツ確定してるでしょ。脱出に役立ちそうな要素もないし、変な事に巻き込まれないように逃げとこうよ」
「まっ、待って…!お願い…!私、裏切られただけ…!」
さっさと見切りをつけて立ち去ろうとするハジメの耳に一つの言葉が届いた。それが嘘だという可能性を考慮しても切る事のできない言葉が耳に入ったのだ。
立ち去ろうとした体は止まり、手のひらを揺らす。本当に良いのか、本当に後悔しないか……そのような苦悶を感情として心に浮かべた後、諦めたようにため息を吐き、吸血鬼へと向かっていく。
どうしようもない自分に呆れたように頭をポリポリと掻き、吸血鬼の瞳を見て話す。
「裏切られたって言った?どうして裏切られたの」
「ぇ……?」
止まってくれるとは思っていなかったのか、吸血鬼は唖然としてハジメを見つめていた。その様子にハジメは苛立ち始め、少しの圧を持って話しかければ、焦ったように話し出す。
その内容としては……目の前の吸血鬼は先祖返りらしく、自身の国の為に色々頑張ってきたようだ。しかし、臣下達は無常にもその努力を受け入れようとはしなかった。いらないと切り捨て、血の繋がった実の叔父は力の危険性から封印し、こんな暗闇に閉じ込めた。
ハッキリ言って、優しいサイヤ人の元で育った悟浄が許される所業ではなかった。
『そうカッカしないでよ。あの子だって、相当な事情はあったんだよ』
(あの子って……なんだよ、知り合いだったのか。だったら少しは注意ぐらいできただろ)
『ルーミアが言ったと思いますが?事情があったのですよ。この子を捨てなければいけない事情がね』
裏面にいるルーミアと咲夜の言葉に疑問を感じつつも、目の前で広がっている吸血鬼を助けようとするハジメの姿を助ける為、動く。
愛らしい見た目をしている吸血鬼を捕らえている石ころを壊す為、ハジメは紅色の魔力を放出する。
そして……その行動を援助するように背中を押し、足りない分は継ぎ足すように自身の変換した魔力を渡していく。
その行程が何十秒も拮抗した時、吸血鬼を捕らえ、力を封印させていた石ころが破壊された。融解されたように枷は流れ落ち、吸血鬼の体を塞いでいた石ころは完全に消え去った。
それによって悟浄が消えた事と言えば、裸のまま拘束されていた吸血鬼のどこを見ようか、という話だ。ハジメは同性なので気にしなくても良いかもしれないが、異性である悟浄にとっては超問題案件だ。
豊満な胸はなく、大きい尻もなく、身長も幼い子供と変わりはしない。本来ならそのような姿で性欲は抱かない筈だが、この吸血鬼は妙な神秘さを感じさせ、いやがおうにも意識させてくる。
「…ありがと」
「おう、お前が開放されて良かったよ。つっても、したのは俺じゃなくてハジメだけどな」
「悟浄も協力したでしょうが。正直言うと、危なかったよ。悟浄の力がないと割とギリギリだった。さすがチートスペック」
「…それは褒め言葉と受け取ってもよろしいか?」
「逆にそれ以外何があるのよ」
最近はチートという言葉に対して良的なイメージが出てきたが、内心を言えば負的なイメージが出てきてしまう。
それゆえの発言であったが、ハジメからは少し呆れ調に返事をされてしまった。その返答の仕方に不満を感じ、むくれで返すが、小馬鹿にしたように鼻で笑われてしまった。
その対応に両肩を掴み、揺らしながら問いかけるが、ハジメはどこふく風であった。
そんなハジメと悟浄の掛け合いが愛のこもった戯れあいと認識したらしい。吸血鬼は久しぶりに面白いモノを見たように笑い、微笑ましいものを見るようにこちらに視線を送ってくる。
「本当、ありがとう…。私、今、楽しい」
「それは良かったな。……っと、自己紹介をしていなかったな。俺は悟浄。そして隣にいるコイツは俺の片想いをしている人」
「一言余計よ……ハジメ。南雲ハジメっていうの、よろしく。アナタの名前は?」
「…名前、付けて」
「「は?」」
あまりの想定外過ぎる言葉に両者は固まり、硬直が解ければ頭を抱えていた。名前を忘れた可能性もあるので、一応聞きはしたが、返答は「新しい名前が欲しい」であった。
ハジメも悟浄も名前付けは得意な事柄ではない。だれだけ得意ではないかと言えば、ゲーム主人公に「お前」と付けるぐらいには悟浄はネーミングセンスが皆無なのである。
女の子に無相応な名前が浮かんでくる悟浄の横では、可愛らしく愛らしい名前が浮かび上がっているハジメの姿があった。
金色の髪から月をイメージし、「ユエ」という名前を叩き出すハジメに微量の嫉妬を抱きつつ、新しい名前で喜んでいるユエに対し、微笑ましい視線で見る。
「喜んでくれるのは良いけど、そろそろ服着てね。素っ裸は色々とまずいからさ」
「…ハジメのえっち」
「失礼だよ。真にえっちなのは私の後ろにいる人だよ」
「悟浄がえっち?」
「はい……すみません」
「ん、怒ってない」
ユエは流しているものの、ハジメからの視線は驚く程冷たく、棘が含まれていた。好きな人宣言しているからか、その言葉には嫉妬が刻み込まれている。
それには嬉しい気持ちもあるが、何よりも視線の圧が痛かった。過去の自分が成した行いを反省会してしまう程には。
裏のルーミアと咲夜からも鋭い視線が飛んでいる気がし、更に悶絶してしまうのは当たり前の話。
内心で悪態を吐きつつ、頭を掻く。ハジメが回復している隙に忘れていた気による探知を回していれば……二つの反応が天井にて引っかかっていた。一つはそこいらの魔物よりも飛び抜けている程度であるが、もう一つは格別の気配をまとっている。
脳髄に直接襲いかかってきた焦りが逆に脳を冷静に回していたらしい。無意識で神水を飲んでいるハジメと座り込んでいるユエを両腕で掴み、咄嗟の回避を披露する。
元々いた場所に到来したのはサソリモドキと……見覚えのあるサイヤ人特有のチクチク髪。
「……ベジータさん」
ナッパと同じ存在である事は分かっていても、体は自然と萎縮の態勢を取ってしまっている。どんな手段を用いても勝てなかったのがベジータというサイヤ人だった。
ボコボコに叩きのめされた記憶も再起されるが、怯んではいられないと心を奮起づける。勝てないかもしれないと自覚していても、ここで拳を止めてしまったらどうにもできないと知っているから。
緊張によって生成された唾を飲み込みつつ、気を解放する。息を吸い込み、体を整え……全力で迎えようと構える。
「ユエ…ハジメ…。悪いが、サソリモドキの相手は任せる。俺はあの人に集中しなきゃいけないみたいだ…。本当にすまないと思っている……二人とも、頼めるか?」
「…わかった。信じる」
「悟浄が言うって事は相当なんでしょうね。良いわ、サソリモドキの方は私達に任せなさい」
「ありがとう」
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