「……」
「クソが、なんていう隙のなさだ。ナッパの時とは比べ物にならない。これがエリートサイヤ人のクローンか…」
脳内で何回かシミュレーションしているが、同じ戦闘民族として恥ずかしいぐらいに負けている。
勝てる姿が見えないのだ。勝てる可能性が感じられないのだ。ベジータとの鍛錬でボコボコに叩き潰されているのも関係しているのだろうが、それにしてもだ。
自身の口から「戦闘民族サイヤ人の王子」と称するのが納得できる程に力の差が感じられる。あまりの圧倒的な力量差に手は震え、心情には焦りの一点が加わっている。
だが……そのような状況であっても現実は待ってくれない。待ってくれるほど、大人びてはいないのだ。現実は、世界は…理不尽に無慈悲に無遠慮に牙を仕掛けてくる。
反応できるかどうか…そのような超スピードの拳が頬を穿とうと迫ってくる。防ごうと意識をしたとして、だからと言って体が思うようについていく訳ではない。
「かっ……!!」
それゆえ、クローンベジータの手加減がこもった一撃も殺しきれないのだ。
気を集中させ、防御に意識を移しても……両腕が痺れる程のダメージが悟浄の体内を通る。
「ふん、脆いな。その程度か」
「…!?喋れるのか…!」
「俺様は低俗なクローンとは違う。喋り、強く、成長をする。それが、それこそがサイヤ人の王子のクローンである俺様だ」
『サイヤ人の王子のクローン』……傲慢性溢れたその言葉を付け加えるが如く、今の悟浄では覆す事が難しい格別たる差を気で見せてくる。そんな状況の中であるにもかかわらず、悟浄はクローンベジータに対して完全集中をする事はできていなかった。
ナッパという人間性を知らない男ならいざ知らず、散々鍛えてもらった男が相手なのだ。和解できるのでは、そのような思考が頭の中に流れていく。それがバカらしいと知っていても、体は動かない。
クローンとは言えども、身内とは争いたくない。そのような甘さにクローンベジータは漬け込み、追撃を加える。
『月符・ムーンライトレイッ!!』
戦いの最中という状況の中には不釣り合いな迷いを浮かべている悟浄の腹に拳を叩き込もうとしたクローンベジータだったが、裏に控えているルーミアが使用した『月符・ムーンライトレイ』が要因でダメージを与えられる事はなかった。
『悟浄が何に迷っているかは知らない!だけどッ!今は迷うな!私たちに手を貸すと約束したなら!』
ルーミアの言葉が、胸の奥によく刺さる。そして、いかに自身が未熟だったのかを実感する。命を賭して世界を守ろうとする覚悟が足りていなかったのかも。
悟空やベジータ、誠悟や朱玲が悟浄を戦いに連れて行かなかった理由の一つが分かり、苦笑いを浮かばせる。それと並行して、このトータスにて悟浄だけが持ち合わせる唯一のスキルを発動させる。
「妙な技を!そのような小細工、俺様に通じるか!」
「通らないなら、底上げするまでだ」
今の戦闘力では到底敵わないと把握したが故の奥の手。弱体化した状態で初めて使うがゆえ、不安はあった。しかし、その不安は杞憂に他ならなかったようだ。
普段の白色とは別の気が体を覆っていく。荒々しく赤く灯り、気単体でもそのパワーが見えてくる。
それを当の本人も実感すると同時に、体力と気がゴリゴリと削られていく感覚が内側に迫る。
「界王拳…2倍。お前、初めて見ただろ?ある神様から教えてもらった技の一つだ」
「ほぉう、興味深いな。だが、その程度で俺様に敵う事はできん!」
殺意と敵意、その二つが自然に混ざり合いながら、強大すぎる気はぶつかっていく。本格的な戦闘が始まる前の衝突で大迷宮が悲鳴を上げた頃、クローンベジータの拳と悟浄の拳は交差していた。
「ほんと、嫉妬するぐらい強いな。界王拳じゃ足りないとか、理不尽すぎんだろ」
「チッ…!!」
悟浄の口の通り、界王拳2倍とクローンベジータでは少しの差ながら押し負けているのが現状だ。そんな状況でありながら、クローンベジータを後ろに引かせた理由は一つしかない。
クローンベジータには強化する手段が気というモノしかないものの、悟浄には『格闘術』の強化と『魔力変換』により身体能力を強化する術が存在していた。
「キサマ……よくもサイヤ人の王子である俺様を愚弄するなァ!!」
「俺はバカにしたつもりなんて無いんだが?」
「黙れッ…!」
「おいおい、問答無用かよ……」
押していた立場だったはずの自分が押されている立場に移り変わるのは相当受け入れ難い現実らしい。クローンベジータは怒り狂いながら気弾を連続で発射している。あまりの感情の激しさに精密性は失われており、威力は分散されている……が、界王拳を使用している現在ではそのような攻撃も受けたくないのもまた事実。
それゆえ、悟浄はある判断を下す。
「ふぅー……か〜」
連続気弾によって荒れた地面を用いながら攻撃を避け、『かめはめは』を貯める時間を作り出していた。
「め〜」
かめはめはの完成に近づくと同時に悟浄の気が急激に高まるのを感じ、クローンベジータは焦りを表に出す。目の前の現象のおかげで怒りが少量ながら収まり、"あの技を止めなくては"と理性が働く。
「は〜」
連続気弾をやめ、一つの気弾に威力を集中させる。身体能力から推測し、避ける事ができない範囲に向かって。
「め〜」
……クローンベジータは賢かった。戦闘民族の王子のクローンだけあり、戦闘IQだけならば確実に悟浄よりも格上だ。感情的ではあるものの、本当の殺し合いになった際、勝つのはクローンベジータ、だと言えるほどに。
だが、それはシンプルな殴り合いの場合。特殊な能力が混ざったフィールドにおいて、その道理は通用しない。
「波ぁぁぁ______!!!」
瞬間移動をした上で事前に溜めていたかめはめはを打ち込む極悪コンボ。相手がどんなに強力だったとしても完全防御を回せない……いわば殺す為の技。サイヤ人としてはあまり好めない技ではあるものの、目の前のクローンベジータに対しては使うべきだと脳が解釈した。
後ろで蠍モドキと戦っているハジメとユエの為。こうする事が最善だと思考を浮かばせたのだ。
「クソッタレが……」
「なっ……!?」
終わったと安堵をし、息を切らしている悟浄の首に人間の手が飛んできた。ハジメとユエは向こう側で戦っており、手を伸ばせる相手など限られている。そう、可能性を一人に絞れるほどには。
(クローンベジータ…!お前、まだ生きて……!!)
その事実に思考が到達したと同時に攻撃は迫る。『瞬間移動かめはめは』によって頭が冷えたのか。的確に、そして適切に攻撃の択を繰り出す。
先ほどのような驕りはなく。先ほどのような激情もなく。冷静に、冷徹に拳を向かわせる。たった一瞬の間に三発をも打たれ、悟浄の体は壁へと激突していた。
…否、壁を突き破り、封印部屋の外へと飛び出していた。
「ふん、その程度か。サイヤ人が聞いて呆れるな」
「けほっ、げほっ……そりゃすみませんね。俺はサイヤ人の中でも未熟な方なんで。そりゃ納得いかれないでしょう」
吹き飛ばされる過程で喉が切れたらしい。咳と共に噴き出てくる血を拭いつつ、数分前よりも力強く立っているクローンベジータに目を向ける。
(さて……どうすっかな。シンプルな打撃じゃまるで勝ち目がねえ。界王拳をさらに引き上げるしかないか。だが、それをする体力が残ってねえ。どうすんのが正解だ)
「戦闘中に考え事か!」
「くっ……ダァっ!!」
どれが正解なのか。解を求める思考に迷い、苦しみ、嗚咽を漏らす。幾多をも迫られる攻撃の対処。判断が遅れ、体に刻まれる拳の数々。不甲斐ない自分に怒り、最悪な未来を想像するのは致し方ない話だった。
「ッ、ダァ!!俺は…戦闘民族サイヤ人だ!できないじゃない、やるんだ!」
「スゥぅ_______」
「界王拳、4倍だぁ!!」
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