「綱元!
出雲まで、もう少しだ!
やっぱり、物は自分の目で確かめねぇとな。楽しみだな」
「……そうですか。
しかし殿、あなたは家康公に何を吹き込んだのですか?」
「クシミタマだよ」
「は?クシミタマ?
何です?それ」
「奇魂(クシミタマ)……
この世の中にある、神々の魂の名残さ」
「神……ですか」
「仏様だの観音様だの、流行りの外国もんが好きな奴らにはピンとこねえか……
まぁいい…
俺が語ってやっから聞いとけ」
「はぁ…」
「今、この世の中で、一番ハバをきかせてんのが俺達侍……
つまり、人間だ。」
「は、はいぃ……」
「しかし、はるか昔この天地は、神々によって創造され神々によって支配された。
天地の法則も彼らによって作られ、今もそれが働いている。
人の生き死に、気候や天災、農作も飢饉もすべてその法則に従っている。
もちろん、俺らも例外じゃない」
「それで、奇魂とは?」
「奇魂っつーのは昔、人間が神より授かった四つの魂のうちの一つだ」
「奇魂の他にもあるんですか?」
「そうだ。
一つは荒魂(アラミタマ)。
二つ目は和魂(ニギミタマ)。
三つ目は幸魂(サキミタマ)。
そして、四つ目が奇魂だ」
「はぁ……」
「この四つの魂は、それぞれに力で世の均衡を保っていて、それぞれが今も何かの形に変えてどこかに隠されている。
そのうちの一つ、幸魂を俺は手に入れた。だが、その持ち主は一晩のうちに、力を開放し発動させ、俺の城から逃げて行きやがった」
「そう言えばそうでしたね……
確か、ちょうど十年前でしたね。光坂一族の女忍びの娘をさらって、一夜で逃げられたのって」
「嫌なこと思い出させるな!
次見つけたら、今度こそこの俺が」
「見つけようにも、もう十年も経ってるんですよ!
それに、あの三人が住んでいた神社は、二年前に焼け野原になってたし……
もう手掛かりが無いじゃないですか!」
「うるせえ!!見つけるっつったら見つけるんだ!!」
「……(おっかない人だ…)
しかし殿、なぜ四つのうち奇魂なのですか?」
「奇魂は、人の世の乱れを抑える……
これらも、神々の法則の一つだ。」
「世の……乱れ。
では、十年前の幸魂は一体…」
「人に幸福を与える……」
「幸福?」
「その魂さえあれば、この俺の野望も叶う。だが、叶う前に逃げ出しやがって、あのクソガキ!!」
「……」
「この二つの魂を見つけ出し、破壊する!!
神々の法則を逆手にとって、この世をひっくり返すのさ!
太閤が死んでからの危うい均衡を崩す!!
乱を求めている徳川家康をけしかけて、出雲にあるという奇魂を探させたが、ジジイ(家康)は役に立たねぇ。
俺は、待つのが嫌いだ……
だから、この俺が自ら風を起こす!!」
「……」
「武士ならば、剣に全てを賭ける!!それが、戦ってこそ武士だ!!
己の剣で己の力で戦って……
その先にあるのが天下だろう!!
ならば、俺は負ける気がしねぇ!!」
(……確かに。
殿は、あと二十年早く…
元亀天正の世の武士であったなら、必ず天下を取ったであろう器だ……
あの太閤と武田ですら、殿を恐れていた……
殿は、この風雲を呼ぼうとしている……
まさに、奥州の昇り龍)
馬を走らせていく政宗の背中を、綱元は額に汗を流しながらその背中を見つめた。