明日花は、霧が深くかかった森の中をコノハと歩いていた。
抜かるんでいる道を進む明日花……
(何で、こんな所にアイツは住んでいるんだ……)
霧が晴れ、森を抜け広場に出た明日花……
そこに、一つの岩がありそこに横たわる鳥の面を着けた男……
その傍には、寄り添う狼が二匹……
「?
このにおい……懐かしいなぁ」
男はそう言いながら、起き上がり明日花の方に体を向けた。起き上がった男は、岩に立て掛けていた杖を持ち、明日花に向かってこっちへ来いと言っているかのように、手招きをした。明日花はそんな男に、首を傾け肩に乗っていたコノハに目を向けながら、その男に近付いた。
男は近付いてきた明日花の頭に手を乗せ、髪を触り出した。
「この髪の質……
お前、紫苑の倅(セガレ)か?」
「前にも会ったことあるでしょ?
五、六年前に」
「おぉ、そうだったな。
いやぁ、すまんすまん。最近になってまた目が悪くなってなぁ……」
「光は?光は感じ取れているのか?」
「多少な。
で?倅、お前何でこんな所へ来たんだ?」
その質問に、明日花は服の下に隠していた勾玉を取り出し、男に見せた。
「今私が持っている物、見える?」
「……これ、幸魂じゃねぇか?
これがどうしたんだ?」
「教えて……これってどんな力が……どんな秘密があるの?」
「知ったところでどうする気だ?」
「え?」
「まぁ、幸魂の力だけでも、教えてやるよ。
その魂は、『人に幸福を与える』魂なんだ」
「人に幸福?
そんなのでたらめだ!!だって、だって……」
目に映るのは、血だらけになった母の姿……
そんな母の姿を思い出した明日花は、手を握りながら震えていた。そんな明日花に、男は髪を触っていた手を離し、明日花の顔に付けていた面を外し頬に触れた。
「人の話を最後まで聞け。
えーっと、どこまでだったっけ」
「……幸魂が、人に幸福を与える魂だって……」
「おぉ。そうだったそうだった。
人に幸福を与える……確かにそう言われてるが、別の意味の幸福だ」
「別の意味?」
「例えば、里一の人気者が笑ったら、里の者全員笑うだろ?」
「まぁ……たぶん」
「それと一緒だ。
お前が、人を傷つけたくない、誰かを守り抜きたいって気持ちが強ければ、お前の力はそっちの方へ行き、プラスの力となる。
逆に、お前が恐怖や怒りを持ったりすると、マイナスの力となっちまうんだ。」
「何のために、母さんは私にこれを……」
「お前のマイナスの力を、抑えるためだ」
「マイナスの力?」
「闇の力だ」
「……
じゃあ、プラスの力は光?」
「そうだ。
良い物を使うには、悪い物も使わなきゃならない。
お前の力は、母であった紫苑を亡くしたのをきっかけに、怒りの気持ちが強くなって、闇の力が増大している。」
「母さんって言ったって、本当の母さんじゃないし……」
「そう言うな。
紫苑は、お前の事を誰よりも可愛がって誰よりもお前を愛してた。これは一族全員と、アイツが一番知っている」
「……」
「さぁ、俺の話はここで終わりだ。納得したか?」
「全然、解決してないんだけど…」
「ハハハ……
知らなくていい事もある。」
「……
また来る。じゃあね」
外していた面を着けた明日花は、後ろを振り返り男のもとを去ろうとした。
「待て、紫苑の倅」
帰ろうとした明日花に、男は声をかけその足を止めた。明日花は足を止め、振り返り男を見た。
「お前、会っちゃいけない奴に会ったな?」
「会っちゃいけない奴?誰?」
「そいつに会ったなら、お前が今思っている『光』の傍にいろ。そうすれば闇の力は多少防げる」
「光って……
アイツは今はもう、会えない立場だ」
「アイツじゃねぇ。借りの光だ。いるだろ?一人」
「……分からん」
「そうかい」
「じゃあね」
そう言い、背を向けた明日花は森の中へと姿を消した。男は面を外し、ポケットから煙草を取り出し、火を付き口に銜え吸った。
(全く、紫苑も酷い奴だよなぁ……
あんな小さな子一人残して、あの世に逝っちまうなんて)
明日花の消えた方向を見ながら、自分に寄り添っている一匹の狼を男は、頭を撫でながら笑い掛けた。
(まっ、アイツがいるから問題ないか)