聞き終えた才蔵は、幸村の部屋を出て自分の部屋戻ろうと縁側を歩いていた。
部屋へ向かう途中にあった、明日花の部屋の襖が開いており、疑問を感じた才蔵は部屋を覗いたが、そこに明日花の姿が無く、あったのは明日花が髪を結っていた簪と鉄扇だけだった。
それに気付いた才蔵は、すぐに明日花を捜そうと森へ向かった。
森を駆ける才蔵……
しばらく森を掛けていると、木の根もとで蹲る人影を発見した才蔵は、そこへ向かい蹲る人影に近付いた。
すると、蹲っていた人影は顔を上げ才蔵の気配に気付いたのか、素早く立ち上がった。
「明日花か?」
「?
才蔵か?その声」
雲に隠れていた月が顔を出し、月明りで暗かった場所が明るくなり、二人の姿がしっかりと確認できるようになった。
「オメェ、何でこんな所にい……?
この樹(周りに生えている樹に比べて、この樹だけやけに小せぇな……
大きさからして、ここ一、二年に植えたってところか?)」
「……
アイツ(幸村)から、過去を聞いたんでしょ?」
「?!」
「その顔、図星だね?」
「どうして分かった。お前は自分の部屋で寝てたんじゃ」
「私の体は、生れ付き樹に触れた物を聞いたり感じ取ったりすることができる。城に使われている木の板から、直接アンタ達の話し声が私の部屋に使われていた木の板に伝わったんだ」
「案外、便利だな。その能力」
「嫌な時もあるけどね。
で?何か用?」
「?」
「用があるから、私を捜しに来たんでしょ?」
「……
二年前、母親が死んだんだってな」
「……」
「何があったんだ?母親が死んだあの日……」
「……
上田に帰ろうとした時だった。
突然、どこからかクナイの襲撃があって、足を止めて母さんと私はクナイが放たれた方に顔を向けた。
そこに、狸の手下共を率いた半蔵がいた。半蔵は、母さんを指差しながら言った。
『あなたが持っている幸魂を渡して貰いましょうか?元武田軍副隊長、光坂紫苑』」
「お前が狙いじゃなかったのか?」
「幸魂は、もともと母さんが身に着けていたものだ。
それを私が譲り受けただけ。お守りだと言って。
けどその時、狸はまだ母さんが身に着けている者だとばかり思い込み、母さんをさらおうとした。
そして、奴らとの戦闘が始まった。
人数は、比較的にあっちが有利だったけど、光坂一族の特殊な技で次々に倒して行った。
だが戦いの途中に私がミスをして、幸魂が半蔵の目に見えてしまったんだ。半蔵はすぐに、攻撃を私に集中させた。
全ての攻撃を防ぐことに精一杯だった私に、半蔵はそこを狙い私に向かって攻撃をしてきた。気付いた時にはもう目の前だった……一瞬思ったよ。殺されるって……
だけど……その瞬間……
目の前に……母さんが……母さんが」
思い出す母・紫苑の姿……
自分の前に立ち、半蔵が放った数本のクナイを全身で受け止めて、自分を庇った。
血塗れになった紫苑を見た途端、自分の中に眠ってた何かが目覚めたかのように、急に怒りが芽生えどこからか湧く力で、その場にいた手下を全員木の根で串刺しにし、殺して行った。
力を使い切った時、手下たちの死体は跡形無く、無くなっていたが半蔵ただ一人逃げていた。
力を消耗したせいでか、明日花はその場に力なく座り込み息を整えた。ハッとした明日花はすぐに紫苑のもとへ駆け寄った。
紫苑は、虫の息で息をし、傍に寄ってきた明日花に手を伸ばした。明日花は伸ばしてきた手を握り、涙目で紫苑を見つめやっとの思いで声を出した。
『母さん……ごめんなさい』
『明日花が……謝る……必要は……ないのよ?』
『だって、明日花のせいで……明日花のせいで……母さんは』
『明日花……
この先、あなたのお守り……幸魂とあなたがいつ狙われてもおかしくない時代になったわ……
母さんは、ここで御別れするけど……
あなたは、強くなって自分を守りなさい……』
『嫌だ!母さんと別れるなんて……』
『大丈夫よ……明日花は強いんだから……』
『強くないもん……母さんが居なきゃ明日花……』
『大丈夫……
あなたは武田軍隊長と副隊長の子供なのよ?』
『だけど……明日花は…母さんの」
「じゃあ、明日花約束してあげる』
『約束?』
『母さんは死んでいなくなるけど……その幸魂の中で、いつでもあなたを守ってあげるわ』
言いながら、紫苑は明日花に握られていた手を離し、小指を出した。明日花は逆の手で小指を出し紫苑の小指に絡ませた。
『約束する』
『……うん』
『明日花……』
『?』
『あなたは……生……き……な……さい……』
そう言うと、紫苑は明日花の小指に絡ませていた手を離し、力なく地面に落ちた。明日花は離れた紫苑の手を握り上げ、紫苑の体を揺らし呼んだ。
だが、紫苑は明日花の声にこたえることなく、二度と目を覚ますことは無かった。
「……」
「これが全てだ。
母さんが死んだ真実と、幸魂を見せない理由が」
「何も、言葉にできねぇよ……」
「だろうね。
才蔵……
お前だけには、教えといてやるよ。」
「?」
地面に座っていた明日花は、立ち上がり後ろに生えていた樹を見上げた。才蔵も明日花に連れられ、その樹を見上げた。
「この樹は、母さん自身が生やした樹なんだ」
「生やした?」
「死んだ後、母さんの体から樹の苗が生えて、一本の樹になったんだ。この話、誰にもしたことは無かった。」
「それじゃ、この樹が母親の墓標みてぇなやつか」
「そうなるな。」
「……
スッキリしたみてぇだな」
「?」
「顔が、前よりも緩くなった。」
「!!変なこと言うな!!」
顔を真っ赤にした明日花は、才蔵に殴りかかろうとした。才蔵はそんな明日花の攻撃を難なく避け、城の方へといった。明日花は先行く才蔵の後を追って行った。
心地よい風が吹く月夜の晩……
才蔵達が去った後、母の墓標だと言っていた木の傍に、髪を腰まで伸ばした人影が現れたが、人影は風が吹くとともにその姿を消した。