「着替えに、水稲に、寝袋に……
そうだ!才蔵と初めての旅だから、紅持ってこう!」
「おい!そろそろ行くぞ!」
「はーい!」
才蔵が襖を開けると、部屋で旅支度をしていた伊佐那海は、準備していた荷物をまとめ、彼と共に玄関へ向かった。才蔵は玄関へ向かっている途中、幸村から頼まれたことを思い出していた。
『出雲に?』
『そうだ。
お主は知っておるか?なぜ、出雲が狙われたかを』
『さぁな』
『狙われた理由をはっきりさせようと、筧に探らせたんだ』
『筧?あん時明日花っていう光坂のガキと言い争ってた男か?こいつが』
向いに座っていた男に才蔵は目を向けた。筧は体を向き直し話し出した。
『改めて某は、幸村様に仕える筧十蔵。
で、お主は明日花と同様、口の効き方がなっとらん!それに、名を聞く時はまず己から!礼儀を知らぬのか!主は』
『んだと』
睨んでくる十蔵に、才蔵は睨み返しながら二人は目線でいがみ合った。そんな二人に呆れながら幸村はため息をつき仲裁した。
『止めんか。
筧、早く調べてきた事を言え』
『ゴホン……
某が調べたことによりますと、徳川は出雲を襲った後長い間滞在し、何かを探していたようです』
『探してた?』
『えぇ。けど、その探し物は見つからず、帰ったようですが』
『で、何で出雲に行かなきゃいけねぇんだ?ヘタすれば、まだ徳川の手下がいるかもしれねぇのに』
『奴等が帰ったとすれば、まだ手に入れてないってことだ。その探し物がな。
もしかしたら、まだ出雲にあるかもしれん』
『その探し物を見つけて来いってか?』
『その通りだ。
あぁ後、伊佐那海を連れて行け。彼女は出雲に詳しい』
『おいオッサン!伊佐那海は狙われてんだぞ!』
『承知の上だ。だから、お主に頼んでいるのだ。
才蔵と筧そして明日花には、伊佐那海の護衛を頼みたい』
『明日花?何で、あのガキに?』
『何となくだ』
『理由になってねぇよ。オッサン』
「遅ぉぉぉい!!」
門に着くなり、門前で待っていた十蔵が遅れてくる二人に怒鳴った。
「全く遅い!だから女と一緒に行くのは好かんのだ!」
「何よう?オジサンには関係のないことでしょ?」
「筧さんも同行だ。それと明日花もな」
「えぇ!」
「十蔵、女と行くのは好かんって言ってるけど、アンタと一緒に行く私の身はどうなるの?」
「お主は別だ。某より少し遅れてはおるが」
「それだから、母さんに頑固爺って呼ばれたんだよ」
「口を慎め!」
落ち込んでいた伊佐那海は、佐助が持っているものに目を向け彼に近づいた。
「わぁ!可愛い!」
佐助の手に停まっていたミミズクを手に取りながら、伊佐那海は叫んだ。
「蒼刃の子供。伝達に約立つ」
「ホントぉ?!ありがとう佐助!」
「……」
「伝達なら、私のコノハがいるのに」
「鼬より、ミミズクの方が速い。空飛べる」
「あぁ……なるほどねぇ」
「ほぉ……佐助は女心を掴むのが上手いなぁ」
「!!否!」
幸村の言葉に顔を真っ赤にして、佐助は慌ててその場を離れた。
「逃げちゃった」
「まぁよい、お主等気を付けて行って来い。
人手が欲しいから道中に、見所がいたら連れて帰って来い。特に女を!」
「若の言うことは無視してください」
「……」
「おい、猿!帰ってきたら、借りは返すからな」
木の上にいた佐助に、才蔵は叫んだ。佐助は承知したのか、ただ才蔵を見ていた。
「そんじゃ、行って来るぜオッサン」
「行ってきまーす!幸村様!」
四人の後姿を見送りながら、幸村は笑みを溢した。
城下町を歩く才蔵は、燥いで歩く伊佐那海を鬱陶しく思った。
「でもさぁ!まさかまた出雲に戻るなんて。世の中何が起こるか分からないね!」
「うるせぇな、さっきから!静かに歩けないのか!お前は」
「いいじゃん!才蔵と初めての旅なんだから、楽しまなくっちゃ!」
才蔵の腕に抱きつく伊佐那海を見ている周りの者は小さく笑ったり、少し引いた目をしながら四人を見ていた。ふと伊佐那海は、後ろを歩いてる二人に顔を向けながら呼び叫んだ。
「筧さん!明日花ちゃん!早く!置いてくよぉ!」
「そんなふしだらな女と一緒に歩けるか!」
「ふしだら?」
「開け過ぎた胸!それに脚!若い女がそんなに人目にさらしおって!!恥を知れ!」
「なんで?動きやすいよ?
アナだって、胸を脚も出してるじゃない」
「アナは職業上、やむを得ん!だが主、普通の女だろ!明日花の様な恰好をせい!」
十蔵は後ろにいる明日花を指差した。明日花の格好は紺色の袖なしの服の上に白い背中に武田の家紋が刻まれた少し大きめの羽織を着、手には肘まである黒い手袋を身に着け、紺のハーフパンツに足首上まである西洋のブーツを履いていた。
「これが普段の女の格好だ」
「普段って……
普通の女は、きれいな着物とか着てるもんだ。
それに、格好は目立たないけど、私色々体に身に着けているから」
「!……」
明日花の言う通り、耳には桜の花弁のピアスに左手首に青いブレスレットを着け、髪はハーフアップに結い雪の結晶の飾りが着いた簪で留めていた。
「それはそれだ!
だいたい、大事な旅なのにチャラチャラしおって!緊張感を持たぬか!緊張感を!」
「お菓子屋さんだ!
お婆さーん!お菓子ちょうだい!」
「話を聞かぬか!」
お菓子屋さんに入っていく伊佐那海を、十蔵は呼び止めたが彼女は聞く耳を持たずに奥へと入っていった。
「十蔵、帰っていい?」
「駄目だ!幸村様の命だろう!」
「私、あんな女と一緒に旅何かしたくないんだけど……」
「明日花!」
「戦えれば、別だけど。あの服部半蔵の襲撃を見た限りだと、戦えない巫女みたいだね?」
「あのなぁ……」
「巫女でも、私と母さんは戦えるけど?」
「主等と一緒にするな。お主等親子は特別なのだから」
「そうですか……」
「ほら!明日花ちゃんもお菓子買おう!一緒に!」
お菓子屋から出てきた伊佐那海は明日花の手を掴み、再びお菓子屋へ入った。
「ねぇねぇ!どれにする?私はこれとこれと……」
「そんなに買ってどうすんの?
この先まだ長いんだよ?」
「いいのいいの!甘い物は女の子の命の次に大事なんだから」
「甘い物なくても、女は生きていけるよ」
「お婆さーん!これ全部ちょうだい!」
「人の話聞け」
明日花の言葉を無視して、伊佐那海は両手いっぱいにお菓子が詰まった袋を抱えだした。お婆さんはお菓子の数を数えながら、算盤で計算していった。
「全部で銅貨百枚ね」
「!ひ」
「百枚!?」
「信州出発する前に、こいつのお菓子で路銀使い果たすね……」
「もういいだろ?行くぞ。今日中に上田を出なければならんのだから」
「けど、日は暮れてきてるから、今夜は野宿だね?」
「おや?アンタ達、山道を行くのかい?」
「あぁ。そうだけど」
「だったら止めとき。
ここ最近、人食い狼が出るようになったって言うし、それに山賊も出るって噂だから……」
お婆さんの忠告を聞き流した才蔵たちは、日が暮れるのを気にしながら山へと入っていった。
夜―――――
すっかり日が暮れ、辺りが暗くなった。暗い中十蔵は日がまだ昇っていた時に集めておいた枝に火をつけた。
「すっかり暗くなったな」
「夜の森は危険だ。今夜はここで野宿としよう」
「えぇ!野宿ぅ!」
「そうだ」
「ヤダァ!アタシ、お布団で寝たい!お風呂に入りたい!」
「わがままを言うな!出雲までは長いんだ!節約せねば」
「だって、夜嫌いなんだもん。怖いこと思い出すし……」
「俺も筧さんも、それに明日花もいるんだから大丈夫だろ?」
「でもぉ……」
「十蔵、私はこの辺りを探索してくる」
「止せ、ここにいろ。人食い狼はともかくこの辺りには山賊がいるのだから」
「別にいい。山賊なら、私が殺る。
てか、あの女とあまり一緒にいたくない」
「お主もわがままを言うな」
「嫌いなの。ああいう女」
「……」
「じゃ、あとはよろしく」
それだけを言うと、明日花は森の奥へと行った。十蔵は明日花の姿を見ながらため息をついた。
「何だ?あのガキ」
「少し人付き合いが好きでないんだ(昔は、ああではなかったのだが)」
「なるほどなぁ。そういや、あいつ母親がいるみてぇだけど、どんな奴なんだ?」
「光坂一族の者で、一族の中で稀な技を使い任務中は必ず狐の面を着けて遂行していたくノ一だ」
「狐の面?確か、明日花の右腰にも狐の面が垂れ下がってたな」
「その面は、母の物だ。訳合って今は明日花が持っているが」
「ふぅーん。まぁいい。
筧さん、見張りは交代で俺は先に寝るな」
「了解した」
「私も一緒に寝る!」
焚き火の前で蹲ってた伊佐那海は、立ち上がり才蔵の布団へ潜り込んだ。潜り込んだ後いろいろ騒いでいると、十蔵が才蔵の手首を掴み伊佐那海から離した。
「何だよ、筧さん」
「お主等、まさか夫婦か?」
「はぁ?」
「だったらすまん!昼間にお主の女房にふしだらなと言ってしまい」
「違ぇよ!
あいつは、出雲じゃ大事に育てられたみてぇで、世間っつーもんを知らねぇんだよ」
「そうなのか……
しかし、幸村様はなぜアナの様に忍でもないのに、伊佐那海を勇士などに選んだのか……」
「あのおっさんに何か、考えでもあんじゃねぇのか?」
「ただの女である伊佐那海に、何を期待しろというのだ?明日花なら勇士と言っても良いが。」
「明日花?
そういえばおっさん、明日花は別の勇士だって言ってたな」
才蔵と筧がそんな話をしている最中に、伊佐那海は布団の中で枕元に置いてある才蔵の剣を見ながら、才蔵が戻ってくるのを待っていた。だが、いくら待っても才蔵は戻ってこなく、待ちくたびれたのか伊佐那海の腹の虫が鳴き出した。
「お腹空いた!お菓子食べよ!」
布団から出た伊佐那海は、荷物が置かれているところへ駆け寄りお菓子が入った袋を探りどれを食べようか選んでいた。
グルルルルル―――――
「?」
何かが唸る声が聞こえ、伊佐那海は声がしたほうに顔を向けた。そこには涎を垂らした狼の群れがあった。狼にビックリした伊佐那海は、恐怖のあまり声が出なくなったうえ腰を抜かしてしまった。
狼はそんな伊佐那海に飛び掛かった。伊佐那海は咄嗟に枕元にあった才蔵の剣を、狼の口に押し付けた。
(どうしよう…声が…才蔵、助けて!才蔵!)
すると一匹の狼が遠吠えを上げると、周りにいた狼は一斉に伊佐那海目掛けて飛びかかってきた。
「っっ!!」
泣き叫ぶと、髪に着けていた簪が黒く光り、周りを包み込み狼諸とも消し去った。その音に気付いた才蔵たちは、すぐに駆け寄ると伊佐那海がいる中心に、周りは何かに消されたかのように野原になっていた。伊佐那海は才蔵の姿に気付くなり、すぐに泣きついた。
「才蔵ぉ!怖かったよぉ!」
「どうやら、ただの女ではなさそうだな」
「そうみてぇだな」
才蔵達がいる場所の近くに生えている木の上から、明日花は三人を見下ろしていた。
(な、何なの?あの女……)
先程見た伊佐那海の力に、明日花の手は震えていた。ふと首元に何かの温もりを感じ首に掛けていた鎖状の紐を手に取り、それを引っ張り出した。引っ張り出した物は青い翡翠でできた勾玉……その勾玉が白く光っていたのだ。
(光ってる?けど、何で……)
勾玉の光を見て、明日花はもう一度伊佐那海をを見た。何かを察したのか勾玉を握りしめた明日花は、勾玉を服の下に隠し森の奥へと行った。