BRAVE10   作:花札

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遠い背中

帰り……

 

山道を歩く才蔵達。

 

 

「しっかし、あの野郎共そこまで強くなかったな」

 

「一番苦戦してたくせに、何言ってんだが」

 

「あ?!」

 

「それにしても、伊佐那海が自力で社から抜け出すなんて……」

 

「オメェ、案外やるんだな」

 

「その事なんだけどね。

 

アタシの力じゃないんだ」

 

「え?」

 

「何かね、突然地面から水が出て来てその水が、人の姿になってアタシに出口を教えてくれたの」

 

「人の姿?どんな」

 

「う~ん……暗くてよく見えなかったから、あんまり覚えて無い。

 

けど、顔に変な面を着けてたよ」

 

「面?」

 

「うん!確か、嘴のある面だったよ」

 

 

伊佐那海の言葉を聞いた明日花は、立ち止まりある男を思い出した。

黒い羽織に身を包み、頭を布で巻き鳥の面を着けた男……

 

 

「?明日花、どうかしたか?」

 

「明日花ちゃん?」

 

「……

 

 

何でも……!?」

 

 

ふと茂みの方に目を向けると、奥に人影が見えた。その姿に明日花は、茂みの中へ駆けていった。

 

 

「明日花!?」

「明日花ちゃん!?」

 

「あの野郎、今度はどこに行くんだ……

 

アナ、伊佐那海を頼む!」

 

「分かったわ!」

 

 

伊佐那海をアナに渡した才蔵は、彼女の後を追いかけて行き二人の後を佐助は追いかけて行った。

 

 

茂みの中を駆ける明日花……彼女は、記憶を一つ一つ思い出していった。

 

 

幼い自分を抱き上げる男……

 

幼い自分に稽古を付ける男……

 

幼い自分の頭を撫でてくれた男……

 

 

色々な思い出が蘇り、明日花は自然と笑顔になっていた。

 

 

茂みから出て来た明日花……そこは崖になっており、下を覗くと既に夜のせいなのか、下は真っ暗で何も見えなかった。

 

ふと明日花は、辺りを見回した。

 

 

(……ここ……)

 

 

風が吹き、明日花の髪を靡かせた。そして思い出した……この場所を。

 

 

『ねぇねぇ母さん』

 

『ん?』

 

『ここ、何で崖になってるの?』

 

『さぁねぇ……

 

けど、この崖を下ってこの森を真っ直ぐ突き進めば、優がいる国に行けるわよ』

 

『本当!?』

 

『本当!

 

ほら、帰るよ。遅くなると、佐助に怒られちゃうから』

 

『はーい!』

 

 

それからというもの……明日花は暇が出来ると、ここへ来て森を眺めた。

 

 

それを思いだした明日花……風が止むと共に、彼女の目にいつの間にか涙が溜まっていた。涙は自然と流れ、明日花はその涙を手で拭きながらその場に座り蹲った。

 

少しして、才蔵が追い付き彼女の姿を見つけるとそこへ駆け寄った。

 

 

「いきなりどうしたんだよ。オメェは」

 

「……」

 

「……?

 

お前」

 

 

顔を隠している彼女の目から、一筋の涙が流れたのを才蔵は見逃さなかった。

 

遅れて佐助が、ようやく到着し彼女に駆け寄った。明日花の様子を見て、何かを知ったのか佐助は才蔵の方を目で見ながら話した。

 

 

「お前、城戻れ。我、明日花と後から戻る」

 

「は?何で」

 

「説明、必要無」

 

「!!んだと!!」

 

 

「何で、姿現してくれないんだろ……」

 

 

小さな涙声で、明日花はそう呟いた。佐助の肩に乗っていたコノハは、彼の肩から飛び降り明日花の肩へ登り彼女を慰めるようにして、体を摺り寄せた。

 

 

「何が、現れないんだ?」

 

「……この先、明日花の兄がいる」

 

「兄貴?

 

明日花に、兄貴いたのか?」

 

「兄貴なわけないじゃん……

 

母さんが、これからそう言えって言ったんだ……でも、アイツは兄貴なんかじゃない」

 

 

目の前に立つ男……黒い羽織を靡かせ、大きく逞しい背中が立っていた。

 

顔を上げた明日花の目には、泣いたであろう跡があった。その顔を見た才蔵は、息を吐くと佐助の方を見た。佐助は彼を見ながら静かに頷き、それを見た才蔵は明日花をしばらく見つめな後、すぐにその場から立ち去った。

 

 

「何で、あいつの所に行っちゃいけないの?」

 

「……」

 

「あいつに会いたい……」

 

 

涙を流しながら、明日花はそう訴えた。その姿を見た佐助は、一瞬二年前の明日花と重なって見えた。

 

二年前、明日花はいつもここへ来ていた。そして話してくれた……

 

 

『ここ真っ直ぐ突き進むと、優がいる所に行けるんだって』

 

 

どこか寂しそうな表情で、明日花はそう言った。

 

 

その時、木々がざわついた。風は吹いていないのに……

 

 

二人を眺める人影……人影は、面を上げしばらく二人を見た。そして一筋の涙を流すと、面を着けその場から姿を消した。

 

 

 

 

月明かりが差し込む夜……

 

 

心地良い風が、縁側に座る明日花の髪を靡かせた。明日花は、手に持っていた紫苑の形見である簪を眺めた。

 

 

思い出す幼き頃の記憶……まだ小さな自分を抱き上げる男とその隣で笑う紫苑。

 

 

「キュウ」

 

 

コノハの鳴き声に、明日花は我に返りコノハの方に目を向けた。心配そうに彼女を見上げていたコノハは、脚に自身の足を乗せ鳴き声を発していた。

 

 

「……ずっと、我慢してたのに。

 

何で、今になって会いたいなんて思ったんだろう……叶うはずもないのに……」

 

 

コノハの頭を撫でながらそう呟いた。そして明日花は、月を見上げしばらく眺めた。




翌朝……


木の上に立ち見張りをする佐助……その隣に明日花は跳び上がり立った。


「……平気?」

「うん……大丈夫。

あの水使いの奴見てたら、アイツのこと思い出しちゃって……」

「……」

「でも平気。今は佐助達がいるから、全然寂しくない」


その言葉に、佐助は笑みを溢した。明日花も顔が緩んだのか、薄らと笑みを浮かべて佐助の方をチラッと見るとどこかへ行った。

城へ帰ってきた明日花……縁側で楽しそうに何かを話す伊佐那海と彼女の話を嫌そうに聞く才蔵、彼の隣で騒ぐ鎌之介、二人を眺めるアナと伊佐那海の隣で黙想する清海がいた。


(昔は、ここまで騒がしくなかったなぁ……)

「あ!明日花ちゃーん!」

「?」

「お団子あるよー!一緒に食べよう!」


伊佐那海は手に持っていたお団子を指差しながら、明日花にそう叫んだ。彼女の姿が、一瞬幼い頃の自分と重なって見えた。その隣に紫苑とあの男が座り共に団子を食べていた。


「(騒がしい方が、楽しいか)

私も食べる!」


彼女達の元へ明日花は駆け寄った。かつて見せていた笑顔を少し浮かべさせながら……
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