才蔵達は、身支度を整え森を歩いていた。彼の服を掴みながら伊佐那海はあくびをしながら眠い目を擦っていた。
「まだ眠いよぉ」
「文句を言う出ない。一刻も早くこの森を抜け、町に行かなくてわ」
「それは分かるけどぉ……
明日花ちゃんも眠いよねぇ?」
最後尾を歩いていた明日花は、伊佐那海の質問に何も答えず只々歩いていた。
「何よぉ。無視して、答えてよぉ!」
「アンタの話何かに、付き合ってられっか」
「ちょっと!そんな言い方しなくてもいいでしょ!?」
「うるさい!何にも出来ないくせして、偉そうに!」
「ヒッドーい!」
「……
ホントムカつく。アンタのせいで、どれだけの人が迷惑かけてるか知ってるの?」
「え?」
「明日花、止さぬか」
「アンタが、何もできない巫女だから、出雲大社にいた神主や姐さん達が死んだんじゃないの?」
「……」
「それで、何もできないから、今度は男に頼りっきりてか?」
「それは……」
「アンタが、もっと強くそして何でもできる巫女であれば、誰も死なずに済んだかもね!」
「明日花!!」
「!!
勝手にすれば。私は、別ルートから行かせて貰う。コノハ行くよ」
地面を歩いていたコノハを肩に乗せた明日花は、後ろを振り返りどこかへ行ってしまった。
十蔵はため息をつき、落ち込んでいる伊佐那海の頭の上に手を乗せた。
「すまぬな。明日花が酷い事を言ってしまって」
「ううん……
だって、明日花ちゃんが言ってたの半分当たってるもん」
「伊佐那海……」
「ああ見えても、明日花は素直で優しい子だ。それだけは分かっておくれ」
「うん……」
「けど、いくらなんでも酷過ぎねぇか?あの言い方。
あいつの母親は、一体どんな躾をしてたんだか」
「昔は、あんなではなかったんだ………」
「あぁ?」
「いや、こっちの話だ。
それより、先を急ぐぞ。今日中には次の里に行かねば」
「だな。行けるか?伊佐那海」
「うん、大丈夫」
袖で涙を拭き、前にいた才蔵の傍へ駆け寄り、再び歩き出した。
才蔵達と離れ別ルートを歩いていた明日花は、川辺に着き近くにあった岩の上に腰を下ろし流れる川を眺めていた。
「……」
『アンタが、何もできない巫女だから、出雲大社にいた神主や姐さん達が死んだんじゃないの?』
先ほど、伊佐那海に向かって言い放った言葉を明日花は思い出していた。川の流れる音と風に揺れてざわめく木々の音が、辺り全体に響き渡っていた。
(……
自分のこと棚に上げて、何言ってるんだろ……)
ふと、昨夜の伊佐那海の力を思い出した。声が出せなくなっていた伊佐那海を助けようとした時、伊佐那海が着けている簪から出た黒いオーラ。そのオーラは周りを包み、襲いかかろうとした狼は一瞬のうちに消え、さらに周りに生えていた木々や草花も消えてしまった。
「……」
思い詰めながら明日花は、髪に止めていた簪を手に取り、簪を眺めた。
「……母さん」
その頃、才蔵達は岩場を歩いていた。歩いている最中、伊佐那海は何度も岩を滑り転びかけながら歩いてたため、足は痣だらけになり、近くにあった川辺で休憩していた。
「筧さん、伊佐那海を連れてこの岩場を渡るのはきついぞ」
「アタシは、大丈夫よ!」
「その言葉は、自分の脚を見てから言え。
そんな痣だらけでそのうえ、歩けば転びっぱなしじゃねぇか!」
「うっ……」
「こんな時明日花がいれば、別ルートを辿って行けるのだが……
いない今、この道を進まなくては、先には進めん」
「……」
「旅人、発見!」
「!!」
森の方から声が聞こえたかと思いきや、そこから起爆札の着いたクナイが投げ込まれた。爆発する寸前に、十蔵は身を伏せ才蔵は伊佐那海を抱えその場から非難した。
「な、何?!」
「ちっ、つまんねぇの」
「何者だ?!姿を見せろ!」
才蔵の質問に答えてか、森から姿を現す二人の男……その背後には仲間であるのか多数の山賊が武器を持ち構えていた。
「兄貴、コイツ等金目のもの、持ってなさそうだぜ?」
「お前の目は節穴か?よく見ろ」
「?」
「あの女の頭に着けている簪……
金になりそうじゃねぇか?」
「おぉ!確かに!」
「テメェ等、何者だ!」
「元、武田軍所属……」
「かつ、光坂一族の者」
「?!」
「光坂だと?!」
「そうそう!
んで、俺は光坂鋼牙(コウザカコウガ)」
「俺は砕牙(サイガ)……
とはいえ、俺等の名前を教えてもお前等はもう死ぬから、意味はねぇけどな?」
「何?」
「光坂流土術岩石砲!!」
近くにあった岩が浮き、その岩は才蔵たち目掛けて飛んできた。才蔵は剣を手に取り、飛んでくる岩を弾いて避けた。
だが、弾け切れなかった岩が才蔵を飛び越え、後ろにいた伊佐那海に向かっていた。
「伊佐那海!!(間に合わねぇ!)」
「光坂流木術剛厚木壁」
地面の隙間から、木の幹が生え飛んできた岩を防ぎ止めた。すると伊佐那海の背後に何かが降り立った足音が聞こえた。
「!?」
「フ~ン……
光坂一族ねぇ……」
「あ、明日花」
腕を組み、岩の上から才蔵たちを見下ろす明日花の姿がそこにあった。
「何だ?あのガキ?仲間か?」
「銀色の化け狐」
「?」
「白い殺人花」
「何言ってんだ?お前」
「………
やっぱり、アンタ達一族じゃないね?」
「?!」
「明日花、何を根拠に。奴等はお主とお主の母上と同様の特殊な技を使っているではないか!」
「確かに特殊な技だ。
けどね、一族の一員だったら知ってなきゃいけないことが、コイツ等は知らない」
「知らなきゃいけないこと?」
「何だよそれ」
「お前等さ、さっき私が言った『銀色の化け狐』と『白い殺人花』聞いて何とも思わないの?」
「だぁかぁらぁ、その化け狐とか殺人花とかってなんだよ!何かの出し物なのか?」
「……光坂でもないし忍が、『光坂』の名前語ってんじゃないよ!」
起爆札の着いたクナイを、砕牙達目掛けて投げつけた。クナイが来る寸前で、砕牙が術を出し、目の前に土壁を出し攻撃を防いだ。
「あのガキ!許さねぇ!」
「許さなくて結構!
私は光坂の名を汚すような忍を許したくはない」
「どこに証拠があるんだ?俺達が光坂じゃねぇっていう証拠が」
「『銀色の化け狐』と『白い殺人花』の名を聞けば、一人の忍の名が浮かぶはずだ」
「忍?」
「元武田軍副隊長、光坂紫苑(コウザカシオン)……
この名を知らない、光坂の者はいない」
「……
フッ……
バレちゃ、しょうがねぇな?」
「ちっ……
せっかく、いい味出してたんだけどなぁ……」
「……
十蔵、才蔵と伊佐那海連れて先に行け」
「?!」
「コイツ等は、私が倒す」
「オメェ、一人で戦う気か?」
「光坂の名を汚されて、黙ってられるか……」
そう言うと、明日花は腰から鎖で繋がれた三本の棒を引き出し、それを繋ぎ合わせた。
(槍?)
「見せてあげるよ。光坂一族の本当の恐ろしさを!」
槍を地面に叩き付けると、岩場が揺れ地面から木の根が生え、砕牙達の後ろにいた多数の忍の背中を貫いた。
(何だ、この力?!)
「これが明日花の力だ」
才蔵の考えを見抜いてか、十蔵はそう答えた。才蔵は耳を傾けながら明日花を見た。
「明日花が、母と共に上田へやってきた時、まだ幼いうえ力も十分でもないのにも関わらず、母親は忍の教えに殺しの心得がすでにあった」
「殺しの心得?」
「あれは、某が明日花と共に山の方へ探索へ行った時だった。
捜索中、突然現れた山賊の数に手こずってしまい、明日花を人質に取られかけた時だった……
あの子は、手に持っていた短槍で自分に襲いかかってきた山賊を全員一撃で殺した」
「一撃で?あのガキが?」
「だが、某が見たのはそこまで。その後はずっと母と一緒に過ごしておったから、戦いをしていない……
あの事件まではな……」
「事件?」
「十蔵!」
「!?」
「さっさと先に行け!」
「分かった!
才蔵、伊佐那海を頼む」
「分かった」
「そうはさせるか!
火術火の輪拘束!」
「キャア!」
才蔵が駆けつける前に、伊佐那海の周りに燃え出し閉じ込めた。
「才蔵!」
「テメェ等!伊佐那海を返せ!」
「誰が返すかよ!金目のある女を!」
「アンタ達の相手は私だ!
光坂流木術水中根草!」
地面から生え出てくる水を含んだ根が、伊佐那海の周りを囲っていた火を消した。
「このガキ!」
「邪魔ばかりしやがって!」
「言ったでしょ?アンタ達の相手は私だって」
「くそガキがぁ!調子乗ってんじゃねぇ!」
両腰に提げていた鞘から二本の刀を取り出し、明日花に向けて振り下ろしてきた。振り下ろした二本の刀を明日花は、手に持っていた槍を振り回し攻撃を防いだ。
「槍一本で俺の攻撃を」
「見せてあげるよ……
槍の達人直々から教わった槍の技をね?」
「?!
鋼牙!引け!」
「え?」
「乱れ付き!」
鋼牙の体に激痛が走ったと思えば、今度は背後に激痛が走った。何が起きたのかが分からなかった鋼牙は一瞬視界に入ってきた明日花の姿に驚いた。稲妻のような速さで、明日花は鋼牙の四方に移動しながら槍を突いた。
「は、早い!」
「ちっ!
火術棒線火!」
火の点いた針が動き回る明日花目掛けて飛んできた。明日花はその攻撃にすぐに気づき、鋼牙の攻撃を止め砕牙の攻撃を防ぎ、鋼牙がから離れ才蔵の隣へ立った。
「さっさと伊佐那海連れて、ここから離れろ!アンタ達がいると、足手まといだ!」
「そんな話乗るか!」
「おい」
「!!」
「あんまり調子に乗るんじゃねぇ」
伊佐那海の背後から砕牙の声が聞こえたかと思うと、一瞬にして才蔵たちの中央に降り立ち、明日花に目を向けた。
「全員皆殺しだ。
火術火炎玉」
「!!」
砕牙が出した日玉が才蔵たちに放たれた。咄嗟に明日花は、才蔵達の周りに木の壁を生やし作り攻撃を防いだ。だが、明日花に向けて放たれた火玉は明日花の腹部に当たり、当たった箇所を手で押さえながら、その場に座り込んだ。
「自分のことより、他人が大事か?」
「明日花ちゃん!」
「……」
「明日花ちゃん!もう止めて!
怪我してるじゃん!」
「うるさい!
戦えない女は首突っ込むな!」
「!」
「本気出した方がいいみたいね」
手袋の紐を解き外し、着ていた羽織を脱ぎ捨てた明日花は槍を構え直した。
「こんなところで、二年前に目覚めた力を使いたくないんだけどねぇ……」
「うるせぇガキだな……
力の差を見せてやるよ」
大剣を握り、明日花の背後に回った砕牙は明日花の背中を切りつけようと大剣を振り下ろした。
「明日花!避けろ!」
「……
なめんじゃない」
振り下りてきた大剣を明日花は素手で受け止めた。受け止めた衝撃か、手の平から血が流れ出てきた。
「!?どこにあんな力が!」
「このくそガキ…」
「言ったでしょ?光坂一族の恐ろしさを見せてあげるって?」
「なら、俺の力も見せてやるよ」
「え?……!!」
大剣を明日花から離した途端、隙を作らず明日花の首を握り体を持ち上げた。
「明日花!」
「ほぉ……
お前の首にも、金目のもん着けてるじゃねぇか?」
「!」
「青い翡翠の勾玉か……」
「は、離せ」
「俺はな、お前みたいなくそガキが大嫌いなんだよ」
「ちょうどいい……
私も…あんたみたいな山賊は大嫌いだ」
「……
鋼牙、見せしめにそこにいる尼を、そこの崖から突き落せ」
「了解!」
倒れていた鋼牙は、満面な笑みを浮かべて、その場から飛び伊佐那海の前に立ち降りた。伊佐那海に近づこうと、才蔵と十蔵が前へ出ようとした途端、鋼牙が放った火が周りを囲み身動きを取れなくした。
「邪魔すんな!」
「きゃあ!」
「伊佐那海!!」
「降ろしてぇ!」
「さぁてと…
兄貴!こいつ落とせばいいんだよな?」
「そうだ」
鋼牙は担いだ伊佐那海を、崖付近まで連れて行き伊佐那海の手を掴み奈落の底となった崖の上へ宙吊りにした。
「い、いやぁ!止めて!」
「止めろ……」
「あぁ?」
「その女は関係ない!止めろ!」
「うるせぇ、ガキだ!」
掴んでいた明日花を、砕牙は地面へ押し付けた。押し付けた明日花を砕牙は頭に足を乗せ、動けなくした。
「光坂一族にしちゃ、弱いな?」
「!!」
「噂じゃ、かなりのやり手だって聞いてたが。単なる噂だったみてぇだな?」
「……黙れ」
「フッ……
鋼牙、さっさと落とせ」
「了解!
じゃあな?女」
鋼牙は掴んでいた伊佐那海の手を放した。その瞬間を見た明日花の脳裏に、血塗れとなり息絶えた女の姿が映し出された。
(全然変わってない……
あの日からあんなに、修行して強くなったはずなのに……
こんなんじゃ、大事なもの守りきれない……
また、亡くすのか……)
『明日花』
(?誰?)
『あなたは強いんだから、あきらめちゃだめよ?
あなたは私の子なんだから……』
(母さん?
こんなところで、転んでたらいつまで経ってもあの二人に追いつかない……)
動かない手を無理矢理動かし、明日花は槍を砕牙の脚に突き刺した。砕牙は突然の激痛に驚き思わず足を上げてしまった。その隙に明日花は渾身の力を振り絞り、立ち上がり崖から飛び降り奈落の底に落ちていく伊佐那海の腕に紐を結びつけたまま、伊佐那海と共に落ちて行った。
「伊佐那海!!」
「明日花!!」
「あのガキ!」
「兄貴、どうする?!」
「探すぞ!」
鋼牙は砕牙を支えながら、森の奥へと姿を消した。才蔵は剣で周りを燃やしていた火を消し崖を見下ろした。崖の底は暗く奈落の底の様になっていた。
「才蔵!某達も、捜すぞ!」
「ちっ!」
十蔵に言われるがままに、才蔵は十蔵と共に森の中へと入っていった。