母さんがいてアイツがいて、いつも楽しかった……
修行は辛かった……けど、出来る様になれば、母さんとアイツが必ず褒めてくれた。
この幸せがずっと……永遠に続くと思った……
そう思ってた……
けどそんなのは、単なる理想でしかなかった……
「明日花ちゃん!」
伊佐那海の声に反応した明日花は目を覚ました。
「……
伊佐那海……」
「良かったぁ……」
「……ここは?」
「分からない……
けど、あの崖の底みたい……
それより、傷大丈夫?」
「え?傷……痛っ!」
緊張感が解けたのか、明日花の腹部に激しい激痛が走り明日花は蹲った。
「明日花ちゃん!
ちょっと待って、すぐに手当てを」
「いい。大丈夫」
「けど」
「いいって言ってるでしょ!余計なお世話よ!」
触れようとした伊佐那海の手を振り払い、伊佐那海に向かって怒鳴った。怒鳴った反動か腹部に激痛が走り、明日花はまた蹲った。
「そんな傷作って、ほっとけるわけないでしょ!
「!!」
「ほら!服脱いで!手当てするから」
「……」
観念したのか、言われるがままに明日花は服を脱ぎ、伊佐那海に傷を見せた。伊佐那海は傷口に薬草を塗り、包帯を巻いた。
「ありがと、明日花ちゃん」
「え?」
「アタシが落ちた時、必死になってアタシを助けようとしたじゃない?」
「……
一緒に落ちちゃったけどね……」
「そうだね……
けど、あそこに木が生えてきたおかげで、私達怪我せずに済んだんだよ?」
「木?」
「うん。
ここに落ちてきた時、どこからか白い光が出てきて、地面から突然木が生えてアタシ達を助けてくれたの」
「……」
「でもね、その木アタシ達を受け止めた後、すぐに枯れちゃって跡形も無くなっちゃったの」
「……」
「はい。出来たよ」
伊佐那海の言う通り手当は終わっていた。明日花は服を着て落ちかけていた簪を取り、結び直した。
「ねぇ?」
「?」
「明日花ちゃんが着けてるその簪、綺麗だね?」
「…そうか?」
「うん」
「……
あのさ」
「?何」
「……
悪かったな」
「へ?」
「あん時酷いこと言って………」
「明日花ちゃん………」
「アンタ見てると、何か昔の自分に見えて……
ついカッとなって、それで………
ごめん」
「………筧さんが言った通り」
「え?」
「明日花ちゃん、本当は素直で優しい子何でしょ?」
「!!うるさい!!」
「怒鳴らなくてもいいでしょ?!」
「アンタが余計なこと言うからでしょ」
「余計な事じゃないもん!
あれ?明日花ちゃん、手の平怪我してるじゃん」
伊佐那海の言われた通り、手の平には切り傷があった。しかしその傷口は治りかけていた。
「ほら、貸して!そこも手当してあげるから」
「いいよ。もう治りかけてるし」
「駄目!万が一ってこともあるでしょ?」
「だからいいって……」
「ほら、貸して!」
「触るな!!」
伊佐那海が明日花の手を握ろうとした瞬間、明日花は伊佐那海の手を振り払い傷のある右手を左手で覆い隠した。
「……!
ご、ごめん…」
「うんうん……
でも、傷」
「いいよ……
大丈夫だから……」
そう言いながら、明日花は自分で持っていた包帯で両手を巻いた。
「……ねぇ」
「?」
「どうして、そこまでして手を隠すの?右手は怪我してるけど、左手は怪我してないのに……」
「……
アンタには、関係ないよ。」
「でも」
「それより、ここから抜けて十蔵たちと合流するぞ」
「……
うん!」
伊佐那海は立ち上がろうとした途端、足がふら付き倒れかけた。明日花はそんな伊佐那海を受け止め、支えながら立ち直させた。
「大丈夫?」
「う、うん。
才蔵達と一緒に岩場歩いてる最中に、転んだり足挫いたり……」
「……」
「けど大丈夫!ちゃんと歩けるよ!」
明日花から体を離し、歩けると足を動かした。するとやはり足に痛みが走ったのか足を手で押さえて、痛み出した個所を伊佐那海は手で押さえた。
「痛ぁ…」
「全然だめじゃん…」
「……」
「……
ほら、手貸すから……」
「……」
差し出してきた明日花の手を、伊佐那海は見つめふと明日花の顔を見た。
「?何?私の顔になんかついてる?」
「う、ううん!
ありがとう」
明日花の手を握り、伊佐那海は立ち上がり明日花と共に洞窟の奥へと足を進めた。
洞窟の中は暗く明日花が持っている松明の明かりだけが頼りだった。水が落ちる音が所々から聞こえ響いており、その音と暗さに怖がっているのか、伊佐那海は明日花の手を離さまいと必死に握っていた。その様子に明日花は時々後ろを振り向き、伊佐那海の様子を伺っていた。ふと手を見ると、伊佐那海の手の先が黒い痣が浮かんでおり、髪に着けている奇魂(クシミタマ)が黒く光っていた。
「伊佐那海、大丈夫?」
「う、うん…大」
〝ピチャン”
「きゃあ!」
突然頭上に落ちてきた水に驚いた伊佐那海は、頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。怖さからか、伊佐那海の目から涙が零れ落ち、黒く光っていた奇魂から小さい黒いオーラが出てきた。
「伊佐那海……」
「才蔵……
才蔵に会いたい……才蔵」
「……」
「才蔵……」
「……
アンタが、落ち着くまで休憩だ」
そう言いながら、明日花は伊佐那海の隣に座り込んだ。伊佐那海は明日花の手を握り、袖で涙を拭きながら泣き止もうと深呼吸をした。
「……」
「……
そういえば明日花ちゃんって、いつから上田にいるの?」
「え?」
「筧さんも佐助も、六郎さんも幸村様もみんな、明日花ちゃんのこと知ってたみたいだし……」
「……
私が上田に来たのは、四年前だ」
「四年前?」
「うん。
当時、母さんが幸村に仕えることになって、それで一緒に」
「フゥ~ン……
いいなぁ……明日花ちゃん、お母さんがいて……」
「え?」
「アタシさ、孤児だからお母さんってどんな存在なのかなぁって……」
「……
私もアンタと一緒だよ」
「え?」
「アンタと同じ孤児。血の繋がりの者は誰もいない」
「何で?お母さんいるじゃない?」
「……」
伊佐那海の質問に何も答えず、明日花はただ一点を見つめていた。伊佐那海はそんな明日花を見て何も言わずに、明日花と同じ方を見つめた。
「くそ!どこにもねぇ!」
伊佐那海と明日花を探しながら、森を駆ける十蔵と才蔵……
二人を見つけられない苛立ちからか、才蔵は気を蹴り飛ばしながら、洞窟の入り口を探していた。
「筧さん、本当に洞窟がこの辺りにあんのか?」
「あの崖の下は水脈の洞窟になっている。この森のどこかに必ず出入り口があるはずだ」
「けど、全然見つからねぇじゃんか!
早くしねぇと、奴等に先起こされるぞ!」
「それぐらい、承知の上だ!
明日花は武器を持っておらん。もし出くわせば、一巻の終わりだ」
そう言いながら十蔵は、手に持っていた明日花の槍と羽織りと手袋を見た。
あの時見た明日花の行動……
自分の立場を考えず、崖から落ちていく伊佐那海を追いかけて崖から飛び降り、一緒に奈落の底へ落ちて行った明日花……
(態度や性格が変わっても、仲間を思う気持ちは変わってはおらなかったか)
「キュウ」
才蔵と十蔵を横切る白い毛並をした鼬が、地面の臭いを嗅ぎながら才蔵達を見て先で二人を待っているかのように動きを止めた。
「あの鼬、明日花の場所を把握してるみてぇだな?」
「コノハには、明日花がどこにいるのかが分かっているみたいだな……
コノハの後を追うぞ、才蔵」
「分かった」
コノハは才蔵達が歩き出したのと同時に走り出し先を行った。