「いいぞぉ!!かわい子ちゃん!!」
「明日花嬢!!お前も一緒に舞え!!」
「一人いりゃあ十分だろ」
「久しぶりに、お前の舞も見たい」
「知るか!!
舞なんて、何年もやってない。」
「何言ってんだ?
お前が忘れても、体は忘れてねぇだろ!ほら、舞え!!」
無理矢理立ち上がらされた明日花の背中を、船員の一人が押し前へ出させた。明日花が前へ出てきたのに気付いた伊佐那海は、明日花の方に顔を向け満面な笑みで明日花の手を引っ張った。
「明日花ちゃんも舞お!!」
「辞めろ!!こら!!」
「舞え舞え!!」
「無理だっつってんだろ!!」
「舞え!!舞え!!」
船員たちのアンコールに、明日花は手で目を隠しながら、ため息をついた。そして意を決意したかのように、脚に着けていたケースから鉄扇を取り出し伊佐那海と共に舞った。
「うおー!!盛り上がってきたぜ!!」
「明日花嬢!!最高だぁ!!」
「さすが伊佐那海、それに明日花。
舞は絶品だのう」
手を鳴らしながら、笑う幸村……
そんな幸村を煙草を銜えながら見つめる甚八……
甚八の目線に気付いたのか、幸村は伊佐那海と明日花の舞を見ながら口を開いた。
「儂の顔に、何かついておるのか?」
「!」
「ん?」
「いや……
十蔵から、上田の若君だって聞いたが……
とても、そうは見えねぇな。
どう見ても、遊び人とその仲間ってとこだ」
「はは!全くだ」
「ほら、怒んねぇし……
お偉いさんって感じがしねぇんだよなぁ……」
「そりゃどうも」
「……
アンタ、あの時どうしようと思った?
あんな軍勢に囲まれてよう、逃げ場もなくて……
行けるのはもう地獄か極楽しかねぇだろ?」
「さて……どうしたろうなぁ」
「呆れたな!
何も考えてなかったんじゃねぇだろうな?」
「ふーむ……
あ奴らがおるなら、何とかなる……
でなければ、ここで新しい出会いがあるか……と思ったのよ」
「アンタ、大物か馬鹿か?」
甚八の言葉に、鼻で笑う幸村……
甚八は口に銜えていた煙草を手に取り、煙を吐き出し笑みを溢した。
「紫苑が、アンタに仕えていたわけ(理由)が、今なら何となく分かる」
「お主、紫苑とはどういった関係で?」
「義兄弟の契りを交わした仲だ。
あの女は、そんじゃそこいらにいる女とは少し違ってた。
仲間を想い、家族を想い、そして自分の子供を自分の事よりも強く想っていた、思いやりのあるいい女だ。
あんな女、どこを探しても滅多にいないもんだ」
「そうか」
「だけど、紫苑も明日花を置いて逝っちまったみたいだしな……」
そう言いながら、甚八は煙草を口に銜え伊佐那海と一緒に舞う明日花を見た。明日花は疲れたのか、樽の上から飛び降り、鉄扇をケースにしまい酒をまた飲み始め、船員たちと笑い合った。
「十蔵から聞いたが、明日花は紫苑が死んでからずっと、お主の船にいたようだな?」
「まぁな。紫苑は自分が死んだらまずは俺様の所に行けって言われてたんでね。
死んだ後は、俺様があいつを育てた。
今じゃ、俺様の右腕だ」
「右腕か……
すまんが、その右腕は今は儂のもとで働いておる」
「だから何だ?」
「つまり、明日花は今は儂のモノだということだ」
「……ケッ!
大物だなアンタ」
「それはどうも。
しかし、お前は何者なのだ?何故、『海賊』なのだ?」
「……
自由だからよ」
「……」
「陸の上は、見えねぇ線で誰のもんかキッチリ区分けされてやんがろ?
そこにいる限り、自分も誰かのモノ(所有物)ってわけだ。
俺様は誰のもんでもねぇ……俺の主は俺自身。
やれ年貢を納めろだの、戦になりゃ手を貸せだの……息苦しいったらありゃしねぇ。
楽しく酒飲んで暮らすためにゃ、これ(海賊)が一番って訳なのさ。
広い海の上、無限の空の下にいる限り、俺様は自由であり続ける」
「縛られるのが嫌か?」
「ああ、ゴメンだね。」
「どこに存在しようと、縛られるものは縛られるし、自由なものは自由なのだがな……」
「あん?」
「誰に仕えようと、どこでどの様に生きようと、それが己の意志ならば『自由』だろう。
心は、縛られることは無い。」
「人をはべらせてる若君が、何を言う」
「人聞きの悪い事を言うな」
「明日花以外の連中は、金で雇ってんだろ?」
「生憎、うちは貧乏でな。
ついでに言うと、領土もちっぽけなもんだ……
それでもあ奴らは、それぞれの意志で、ここにいる」
「……
アンタ、タチ悪ぃな……」
「ん?」
〝ゴトン”
「!!」
突然、大きく揺れた船……
船の外を見ると、船を襲う一匹の巨大蟹……
「うわあぁ!!蟹坊主だ!!」
「わー!!おっきい蟹さんだー!」
「でかすぎだろ!!」
「大湖(オオウミ)の主だ!!人食いの化けものだ!!」
「逃げるんだ!!急旋回!!」
「美味そうだな」
言いながら、鎌之介は船首の所まで行き鎖鎌を出した。
「そういや、つまみが無かったよな?食えんじゃねぇか?これ」
「ホント?!わーい!おつまみおつまみ!
才蔵、殺っちゃって!」
「ば、バカな!!死ぬぞ!!
逃げろ!!」
「大丈夫だ」
騒ぐ船員たちに、明日花は得意げな顔で言った。船員たちは明日花が何を言ってるかが分からず、互いを見合っていた。
「見とけ」
「仕方ねぇなぁ……」
「え!?」
「ま、腹も減ってたし、ちょうどいい」
剣の束を手に取り、攻撃してきた蟹の足を飛んで避けた。
「気の荒え蟹だなあ!!」
「そらよ!!」
才蔵に続いて、鎌之介は風を起こしかにを攻撃した。
「随分、身が詰まってそうじゃねぇか?」
「若も、召し上がりたいのですか?」
「うむ、そうだな!腹が減ったしな」
「参戦していい?甚」
「好きにやれ」
新しくなった槍を持ち、蟹の攻撃を飛び避け蟹の頭に槍を振り下ろした。そんな明日花を見ながら、才蔵は船の縁に着地し、もう一度飛び上がり剣を振った。
「忍法霧隠式陽炎斬!」
攻撃が当たった蟹は、足を斬り落とされそのまま水の中へと消えて行った。
そんな戦いを見る甚八……
足をキャッチし船の上に降りた才蔵は、甚八に足を突き出した。
「さっきの電撃で、一丁焼いてくれよ、海賊のオッサン」
「……
滅茶苦茶だなぁお前等……」
「その顔、気に入ったの?」
「気に入った!!」
明日花の質問に、大声で叫ぶ甚八は才蔵から受け取った蟹の足を雷で焼いた。
「オー、いい匂い!」
「食うぞ!!」
「アタシもアタシも!」
翌朝……
目的地へ上陸した船から、才蔵達は降り陸へ上がった。
「んじゃあ、ちょっくら行ってくらぁ!」
「あーい!
お気をつけて、お頭!!」
「明日花嬢!!お頭を頼んだぞ!!」
「りょーかーい!」
「テメェら、俺様達がいねぇからって、手ぇ抜くんじゃねぇぞ!」
「ちゃんと直しときますって!」
「お土産よろしく!」
「おう、任せとけ!」
「そういや甚、ヴェロニカ連れてくんだ」
「もちろんだ。お前のコノハと一緒だ」
船の船員と言い合う甚八に、才蔵は疑問を感じながら甚八を見た。
「……いつの間に、たらし込んだんだ?あのオッサン」
「あの海賊の人も上田に行くの?」
「らしいな」
「なあんか、どんどん人が集まるねぇ!不思議!
最初は才蔵にあって……
それから上田の皆に、鎌之介、お兄ちゃん、弁ちゃんに、海賊のオジサンって!賑やかぁ!」
「そういや、そうだなぁ」
「うむ、そうだな」
伊佐那海の話を聞いていたのか、十蔵はマントを羽織りながらその話へ入るかのように話してきた。
「人の縁とは、実に面白いものよ」
「お。
いつもの筧さんって感じだな」
「そうか?」
「うん!そうそう!」
「さーて……
上田に帰るか!」