BRAVE10   作:花札

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アナスタシアを逃がしてしまった才蔵は、城へ戻った。


泣き止み、落ち着いた伊佐那海は自分の部屋で一人座り込んでいた。手には黒い痣が浮き出ており、未だにアナスタシアの裏切りを信じられずにいた。


そんな伊佐那海を襖の外から見ていた弁丸は、怯えながら覗いていた。


『弁丸、お主は伊佐那海についておれ』


幸村の命を思い出しながら、部屋の中にいる伊佐那海を見るが、只ならぬ恐怖に弁丸は怯えていた。


(何か、怖い)


いるのが限界になり、弁丸は皆がいる部屋へ行った。


深い闇

六郎の部屋で、彼の治療を終えた才蔵……

 

 

「これで大丈夫だ。

 

しばらくは動けねぇけど」

 

「助かった、才蔵」

 

「毒も何とか抜いた……が、右眼はもう駄目だ。

 

二度と見えねぇ…」

 

「……そうか」

 

 

「コラ!!戻って寝ておらんか!!」

 

「せっかく縫ったのに、傷が開いちまうぞ!!」

 

 

隣の部屋から聞こえる声……

 

 

その声と共に、腕に包帯を巻いた佐助が、襖を乱暴に開けた。

 

 

「六郎、重傷!!我の責任!!」

 

「お主も重傷だろうが!!今動いて、何ができる!!」

 

「しかし……」

 

 

そんな佐助の前に、才蔵は立ち怪我をしている腕を叩いた。

 

腕の激痛で、佐助は腕を押さえながらその場に座り込んだ。

 

 

「さ、佐助!」

 

「今更、ジタバタしてどうなるんだよ?

 

頭冷やせ、バカ!」

 

「……重々……承知…

 

 

アナ、敵…

 

我、怯んだ…

 

忍、失格……

 

 

不甲斐無い」

 

「はー……

 

 

それ言ったら、アナ逃した俺も同じだ。

 

でもな、落ち込んでる暇はねぇんだよ!

 

 

アイツが、どこの使いの者で、どこの情報持ち込んだのか……

 

これから先、何が起こるか分からねぇ。

 

気ぃ抜いて何か、いらんねぇんだ!」

 

 

迷う佐助に言う才蔵……

 

ふと、才蔵は甚八の膝に頭を乗せ眠る明日花の姿が、目に入った。明日花の眼には、甚八が巻いた布が巻かれていた。才蔵は明日花に近付き、明日花に触れようと手を差し伸べたが、触れる寸前才蔵の手を甚八は止めた。

 

 

「止めとけ。

 

怪我するぞ」

 

「何で、コイツに目隠しなんかやってんだ?」

 

「……お前等を見せないためだ」

 

「どういう意味だ?」

 

「それは、こっちの質問に答えてからにしてもらう。

 

 

なぜ六郎が狙われた?

 

あの爆発は何だ?もちろん、明日花の爆発もだが……

 

 

詳しく聞かせてもらいてぇなぁ……」

 

「……

 

 

そうだな……

 

話さねば、なるまいな。

 

 

だが、今から話すことは……伊佐那海は話してはならぬ……決して。

 

 

 

 

十六年前、その女童は出雲大社の鳥居の下に、捨てられていたという……

 

神主は、これも何かの縁と娘を育てた。

 

 

しかし、それから異変が起こる。娘が泣く度に、闇がざわりと蠢くという……娘に呼応するように……

 

 

ある夜、娘が泣くと巫女が一人、行方知れずとなった。まるで闇に、飲まれたかのように……

 

境内をくまなく捜し回ると、鳥居の側の石畳から、闇が漏れていた。

 

 

神主は戦慄した……

 

その下には黄泉国へ通じるという、黄泉比良坂があると言い伝えられておったのだ……

 

 

娘が泣くと、地下が騒いだ……

 

娘が闇を呼んでいた……

 

 

この天地で、黄泉比良坂から闇を呼べる者はただ一人……」

 

「伊邪那美命(イザナミノミコト)」

 

「!?」

 

 

その声に、才蔵達は声がした方に顔を向けた。目が覚めたのか明日花は、目に巻いていた布を取りながら、息を整えて起き上がり、才蔵達を見ながら話を続けた。

 

 

「人間の負の感情を糧とし、一日に千人の命を奪うことを、宣言した殺戮の女神……だったよね?幸村」

 

 

 

幸村の見つめる明日花……

 

幸村は口に銜えていた煙管を外し、口から煙を出し答えた。

 

 

「明日花の言う通りだ」

 

「ま、まさか……

 

伊佐那海がそれ(伊佐那美命)だと言うのですか!?」

 

「伊佐那海、明るい!優しい!」

 

「まぁ、待て。まだ続きがある……

 

 

明日花、お主はどうする?」

 

「……」

 

「今から皆に話すのは、お主の事だ。

 

聞くか?無理なら、席を外しても良いのだぞ」

 

「……

 

別に、今更話したところで、驚きはしない」

 

「そうか……」

 

「それに……

 

伊佐那海が伊佐那美なら、私にも関係してくる」

 

「……」

 

「何なんです?明日花の話とは」

 

「それに関係って」

 

「伊佐那海が出雲に拾われてから二年後に、摂津の国にある公智神社の神木の前に一人の女童が捨てられていた。

 

 

その神社にいた、ある二人の男女がその子を拾い、自分達の子として育てることにした。

 

だが、出雲で拾った伊佐那海と同様な異変が起きた。

 

娘が泣く度に、木の葉がざわめいた。まるで呼応するように……

 

 

そしてある夜……出雲と同様に境内で巫女が一人行方知れずとなった。

 

巫女を捜すため、神主達は境内をくまなく捜した……だが、巫女は見つからなかった……

 

 

そして、娘の育て親であった男が、巫女の物だと思われる下駄を見つけた……

 

神木の幹に埋もれていた下駄を……

 

 

それを聞いて、神主は理解した……

 

 

拾った娘は、この世に生まれ闇を消すために自らこの地に誕生した……」

 

「闇を消す?」

 

「この地に木々を生やした神……

 

 

久久能智神(ククノチカミ)……」

 

「……それが、明日花」

 

 

震えた声を出しながら、佐助は明日花を見た。明日花は、佐助から目を逸らし、下に向けた。

 

 

 

「何だそりゃ!

 

神だのどうのって方が、信じられねぇよ!」

 

「信じる信じないは勝手だが、現に今まで何度その力を使っておる」

 

 

思い出す、伊佐那海と明日花の力……

 

 

「確かに……

 

 

明日花のあの力に……

 

伊佐那海の、あの黒い爆発との凄まじさは……」

 

「あれが、伊佐那海の……」

 

「し、しかし!

 

我が妹は奇魂の守り巫女だ!!人殺しの女神などと……そんなことはありえん!!

 

無論、明日花もだ!!明日花は幸魂の守り巫女だぞ!!」

 

「人に幸福を与える」

 

「え?」

 

「それが幸魂の意味だ。

 

私の中には、闇と光……二つの力がある」

 

「二つの力……」

 

「良い物を使うには、悪い物も使わなきゃならない……

 

幸魂は、その力のバランスを保つために身に着けている。

 

だから、私が幸魂を守ってるんじゃなくて、幸魂が私からこの世を守っているんだ……バランスを崩さないために」

 

「では、奇魂は!?」

 

「奇魂の本当の意味は、くしを持って乱れをひとまとめにして、和をなす……

 

 

つまり明日花と同様、伊佐那海が奇魂を守っているのではなく、奇魂が伊佐那海からこの世を守っておるのだ……」

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