「よ、夜?」
異常な暗さに怯える灰桜……
佐助が上を見上げると、そこに簪を取り、宙を浮く伊佐那海の姿……
「い、伊佐那海?」
『……
私は……全てを覆す者』
闇に包まれ、地へ降り立つ伊佐那海……
「な、何ですの?」
異様な気配を放つ伊佐那海の姿に、恐怖を感じる灰桜……
「伊佐那海?」
『フ……
フフフフフ……』
不敵な笑みを溢す伊佐那海……
その恐怖に耐えきれなくなった灰桜は、クナイを取り出し伊佐那海に投げつけた。
すると、伊佐那海を包む闇がクナイを闇の中へと入れ、塵の様に消し去った。
「こ、これは……」
『闇の深淵へ、還れ』
攻撃してきた灰桜に向かって、闇を放つ伊佐那海……
闇は灰桜どころか、その場にいた佐助や十蔵、灰桜が出した蟲達までも、闇の中へと入れ込んだ。
辺りが暗くなったのを機に、戦いの手を止める才蔵と半蔵……
半蔵は、上を見上げ欠けた太陽を見た。
「これは、予想外」
「この感じ……まさか」
「早くも、この目であれを見る時がこようとは……
ならば、もう一つも復活させましょう」
不敵に笑みを溢す半蔵に、才蔵はクナイを投げつけた。
半蔵はそのクナイを避け、鳥居から飛び降り森の方へ入って行った。
その後を追う才蔵だが、半蔵との差は見る見る内に開いて行った。
(この暗闇の中で、何て速さだ!!)
『もう……嫌なの……』
思い出す昨晩の泣きながら、必死に訴える伊佐那海の顔……
『皆に、迷惑かける』
「上っっ等だ!!(今から行くから、泣くなよ伊佐那海!!)
丁度その頃、幸村の城で眠っていた六郎が、異様な気配で目を覚まし、まだ動かない体を無理矢理起こし外を見た。
外を見ると、障子に寄りかかり外を見る幸村の姿が目に入った。
「……若」
「六郎!
まだ、起きてはならん!」
「このままでは……
上田が……危険……です…
禍々しい気に……満ち溢れている……
飲み込まれる前に、手を打たねば……」
立ち上がろうとしたが、足に力が入らず倒れ込む六郎を、六郎の傍へ駆け寄った幸村は慌てて支えた。
「無理をするな!まだ体が動かぬだろう」
「……
主の手を、煩わせるなど……小姓の名折れ……
しかし行かなければ……」
幸村の体を手に掛けながら、立ち上がろうとする六郎……
すると幸村は、そんな六郎を支え立ち、部屋を出た。
「急ごう」
「……有り難く存じます」
闇に包まれた森で、いつの間にか気を失っていた佐助が目を覚まし、辺りを見回した。
それと共に、十蔵も目を覚まし辺りを見回した。
見回すと、そこにいるはずの灰桜の姿はどこにもなかった。
「蟲……
女忍、消失……」
「某等はなぜ、無事なのだ?」
その言葉に反応したのか、佐助の手に持っていた者が突然温かくなり、彼はそれに目を向けた。
「奇魂?(まさか……)」
(これに守られた!?)
(これに守られた!?)
「しかし、奇魂を手放してしまった伊佐那海は!?」
目の前にある黒い繭の様な球を見る十蔵……
魂の中からは、獣のような唸り声が響き渡っていた。
「まるで……地の底で獣が、呻く様な……
肌が、粟立つ……」
黒い繭を見つめる佐助……
その中では、伊佐那海がまるで一人泣いているように見えた。
(伊佐那海……泣いている……)
『佐助……筧さん……』
(我の力、足りぬ所為で……)
「伊ぃ佐ぁ那ぁ海ぃ!!」
その叫び声と共に、地を揺らすよう駆けてくる清海と弁丸がやってきた。
「伊佐那海は!?」
「お姉ちゃんは!?」
その質問に、佐助は黒い繭を指差した。
「あ、あの中に…」
「何ぃ!?
拙僧が助け出してやる!!」
「あっ、オッチャン!!」
「待っておれよ!!伊佐那海!!」
「よせ!!迂闊に近付いては……」
「拙僧に、壊せぬものはない!!」
十蔵の忠告も聞かず、清海は黒い繭へ近付きそれに力強く殴った。その瞬間、力がまるで闇に吸収されたかのように、拳の力が抜け清海は佐助達の所まで吹っ飛ばされてしまった。
「清海のオッチャン!!」
「何と頑丈な!!」
「あれを刺激してはならん!!
何が起きるのか、分からんのだぞ!!」
「しかし、伊佐那海が!」
「筧の言う通りだ……
落ち着け、清海」
そこへ、六郎と共に駆けつけた幸村が現れた。同時に森から駆け抜けてきた明日花が到着し、息を切らしながら黒い繭を見た。
「幸村様!!」
「六郎も!!」
「明日花!!」
「……
これだ」
「え?」
「出雲の地下で見たの、これだ……この状況だ」
「!?」
「まさかお主、予言を!?」
「分からない……
ただ一緒なんだ……
太陽が欠け、辺りが一面闇に包まれた時、その中心部に黒い繭が現れ、その中に伊邪那美命が……」
「何だぁ!?
何でテメェら、集まってやがる!?」
「おーい、何で急に夜になっちまったのか、誰か説明してくれよ」
続々と集まる仲間……
幸村は、それに安堵の顔を浮かべた。
「皆、健在であったか!」
「全っ然、健やかじゃねぇんだよ!!
あんの野郎、半端なまんま逃げ腐りやがって!!」
「甚八がアナを?」
「ああ、御覧の通りだ。
とんだ、初顔合わせだったぜ。
しばらくは、起き上がれねぇだろ」
甚八に抱かれるアナスタシアを見る幸村……
その中、明日花はずっと黒い繭を眺め、その距離を少しずつ縮めて行った。
近付いた繭へ、明日花はそっと手を触れさせた。すると繭は、まるで明日花を受け入れるかの様に、すんなりとその中へ手を入れさせた。
(……何で)
その時、服の中にしまっていた幸魂から、温かさを感じた明日花は取り出し幸魂を見た。
幸魂は、出雲へ行く途中で伊佐那海のあの力を見た時と同様に、白く光っていた。
「申し訳なし!!」
幸村に土下座する佐助……
「伊佐那海、守れず!!悲しませ……」
「伊賀異形衆、灰桜となる者に襲われ……
捕らえられた伊佐那海が、簪を打ち捨ててしまい……
全ては、注意を怠った某の責任!!
面目次第もありませぬ!!」
頭を下げる十蔵……
「いや……お主等が無事で何より……
奇魂と幸魂、我等が守」
「奇魂はいただきましょうか?それと幸魂も」
その声と共に、十蔵の頭上に着地し、十蔵を倒す半蔵……
十蔵は足を踏み台にされそのまま、倒れてしまいその十蔵を軸に、半蔵は佐助に蹴りを入れ奇魂を奪い取った。
そんな半蔵目掛けて、数本のクナイが飛んできたが、半蔵は難なくその攻撃を避けた。そして黒い繭の傍にいた明日花を薙ぎ倒し。倒れた彼女が起き上がろうとした時、刀を取り出し明日花の腹を貫き刺し、地面へ刺し動けなくした。
「がはっ!!」
「明日花!!」
そこへ、半蔵にクナイを投げた才蔵が到着し、皆の前に着地した。
「おやおや……
侮っていました、あなた達(勇士)の力を」
「儂も、まさかこんな状況で、勇士が揃うとは思っておらなんだわ」
「十人揃っているとはね……しかも、その十人を支える勇士もいるなんて……
俺以外の異形衆が、全てやられたようですね?」
「今、この場の十人……
そして、お主の足元にいる一人……
幸か不幸か……」
「『幸』ですよ!喜んでおきなさい!
もう二度と、十人揃うことはありませんから……
あなたが持っているその幸魂が、皆を引き付けたのでしょうか?この『闇』を消し去るために」
刺した刀の束を足で踏みながら、そこに倒れる明日花に言う半蔵……
そんな半蔵を睨む明日花だったが、刺された箇所から走る激痛に苦しみ、息を切らしていた。
「服部半蔵!!
幸魂と簪を……奇魂を返しやがれ!!」
半蔵に剣を振り下ろす才蔵……
半蔵は、もう一本持っていた刀を抜き、その剣の攻撃を防いだ。
「君は何を聞いていたんですか?
どうしてもあれ(闇)が欲しいんですよ!
それを制御する奇魂と幸魂も必要でしょ!
それに、これ以上攻撃するというなら、この子(明日花)の命ありませんよ?」
そう言いながら、刀の束を踏みつけ、さらに明日花の腹を深く刺す半蔵……
「あぁぁあああ!!」
「明日花!!」
「あの野郎!!よくも俺様の、仲間(右腕)を!!」
苦しむ明日花に、攻撃の手を止める才蔵……
「ハァ……ハァ……
攻撃の手……止めるな……才蔵」
「!?」
弱り切った声で、才蔵に訴える明日花……
明日花は、弱り切っているが強い眼差しで才蔵を見た。
「アンタは……『光』の……勇士……なんだろ?
だったら……速く……このくそ野郎を……!!」
喋っている最中に、明日花の腹に刺さった刀の束を強く踏む半蔵……
「さっきからお喋りが過ぎますよ?」
「アンタに……その『闇』は……使え熟せない」
「!!」
その言葉が癇に障ったのか、半蔵は明日花の腕にクナイを投げ刺した。
「お喋りが、過ぎると言っているでしょう?」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「大人を、余りからかわない様に、しましょうね?」
「……
(これじゃあ、あの時と変わらない!!
何も変わってないって言うの!?
自分の身を守るために、強くなってきた……
強くなって、いつかアイツの隣を歩きたかった……
今まで、そう思って生きてきた……
けど、今は……
今は)」
次第に、力が無くなり目が虚ろになっていく明日花……
目に映るのは、幸村に才蔵や佐助、六郎、鎌之介、清海、弁丸、アナスタシア、甚八、そして伊佐那海……
(皆を……皆を守りたい!!
こんな所で、死にたくない……死んでたまるか!!)
『簪を取りなさい』
どこからか聞こえる、懐かしき母の声……
明日花は、その声に耳を傾けた。
(母さん?)
『その簪には、伊賀でも甲賀でも効く毒が仕込まれています。』
(毒……)
『それを手に取り、刺しなさい。明日花』
その声と共に、明日花はまだ動く右手で、髪に着けていた簪を取り、半蔵の足を刺した。刺された途端、半蔵は目の前がぐら付き明日花の腹に差していた刀の束から、足を離した。
その隙に、明日花は腹と左腕に刺さっていたクナイと刀を抜き取り、半蔵から離れた。
(な、何だ?!
まさか、あのガキ!!)
「ハァ…ハァ…」
「佐助!!明日花を!!」
幸村の指示に、佐助はすぐに明日花の元へ駆けつけ、動けなくなった明日花を抱き上げ、皆がいる場所へ連れて行った。
「明日花、大丈夫!?」
「ハァ……ハァ……
何とか……」
「アイツ、何でいきなり苦しみだしたんだ?」
「毒だよ……」
「毒?」
「伊賀にも甲賀にも効く、特殊な毒。
その毒の態勢を持っているのは、光坂一族者だけだ」
息を切らし、腹に出来た刺し傷を押さえながら説明する明日花は、痛みと多くの血を流した後遺でその場に蹲り激しく咳き込んだ。
明日花が居なくなったのを隙に、才蔵は半蔵に攻撃をした。
その攻撃を刀で防ぐ半蔵の後ろから、鉄棍棒を振り上げてきた清海が攻撃した。
振り下ろしたが、そこに半蔵の姿は無いと思いきや、清海の首に半蔵の手が回り、半蔵は膝蹴りを清海の頭へ喰らわせた。
「清海のオッチャン!!」
意識が吹っ飛び、倒れる清海に近付こうとした弁丸に、才蔵は剣を向けその行為を止めた。
「下がってろ、ガキ(弁丸)!!」
「ここは、俺だろ!!」
弁丸の後ろから出てきて、才蔵の隣へ立つ鎌之介……
「鎌之介!」
「任せとけ!」
「俺が……この世を変える……
腰抜け勇士が、束んなったって負けねぇんですよ」