BRAVE10   作:花札

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「……ただの道具…ね


分かってたわ。それでも良かったのよ。

アンタが持ってるもの……それさえ手に入れば。


……それが、偽物だったなんて……

滑稽だわ」


目の前にいる半蔵を凍り付にしたアナスタシア……

凍り付にした半蔵を見て、アナスタシアはその場を立ち去った。




しばらく歩いていると、気に寄りかかり自分を待っていたかのようにいる甚八の姿が目に入った。甚八は笑みを溢しながら、アナスタシアを見た。


「よ。

驚いたぜ。俺様の雷喰らっておいて、もう動けるんだからな」

「今度は、あなたが追って?ご苦労様。

そうだ……これ、あの子(明日花)に返しといてくれる?」


そう言うと、アナスタシアは手に握っていた、雪の結晶の飾りが着いた簪を差し出した。


「どうして、これを?」

「さぁ……」

「お前、これが何なのか知ってるか?」

「知らないわ」

「ンじゃ、特別に教えてやるよ。

その簪は、アイツの母親の形見の一つだ」

「……あら、そう」

「……お前が返しとけ」

「?!

何を言っているの?そんなことしたって、明日花は」

「喜ぶと思うぜ?

アンタから、返してもらえたら」

「例え、私が返したところで、何も変わりはしないわ。

(どうしても……

この手であの男と、決着(ケリ)を着けたかった……


それも終わった今……)どうでも、すればいいわ……お好きなように」

「見逃してやっても、いいぜ?」


甚八の答えに、アナスタシアは驚き振り返り見た。


「何を……今更……

それに、才蔵や佐助が許さないわ」

「そこは普通、殿様(幸村)じゃねぇのか?」

「……そうね…

今回ばかりは、彼も許さないでしょうね……裏切り者ですもの」

「……」

「後悔してないわ。

この国に流れ着いてから、私は必死だった。

ただ一つの願いをかなえるために……この手をどんなに、血で染めようとも……

(『王族の証』を取り戻して、祖国へ帰る!!

幸せだった、幼い頃の自分……

あの温もり……取り戻したかった)」


記憶に蘇る、幼い頃の自分……

父と母に抱かれ、笑顔が絶えなかったあの日々……


「(でも、おしまい……

夢は消えた……)

もう、何もない……」

「『何もない』か……

そいつはいいな!」

「!?」

「何もないってことは、この先自由に何でもできるってことだ。

一から始められる!」


そう言いながら、甚八はアナスタシアに手を差し伸べた。


「……」

「で?まずはどうする?」


甚八の手を退かしながら、アナスタシアは答えた。


「そうね……

まずは……


この酷い格好を、何とかしたいわ」


つかの間の休息

半蔵達との戦いから、数日後……

 

 

「十八、十九、二十っと!

 

いよっし、補充完了!問題なし!」

 

 

クナイを並べ、数を数える才蔵……

 

縁側に座り、火縄銃の手入れをする十蔵……

 

そんな十蔵に、岩の上に座っていた佐助は薬の入った紙を渡した。

 

 

「今日で最後、服め!」

 

「忝いな、佐助」

 

「うへぇ、苦そう……

 

よく服めるなぁ……」

 

「『良薬は口に苦し』だ」

 

 

「フゥ……やっと、治った」

 

 

羽織を肩にかけ、腹の包帯を取りながら、明日花は自分の腹と腕を見た。傷はすっかり治り跡形なく消えていた。

 

半蔵達の闘いから、三日間血の出し過ぎで寝込んでおり、ようやく目が覚め、残った傷跡を術で消していた。

 

治った明日花は、羽織を腕に通し部屋を出て、才蔵達の所へ向かった。

 

 

庭にいた才蔵は、岩に寄りかかり静かに眠る鎌之介を見た。

 

鎌之介は、気持ちよさそうによく眠っていた。

 

 

「……」

 

『テメェ体中、小っせぇ穴開いてんだから、大人しく薬飲め!!』

 

『こんなもん、飯食って寝りゃあ治るんだよ!!』

 

 

そんな会話を思い出しながら、才蔵はふと空をぼんやり眺めた。

 

 

(……

 

なぁんか……

 

穏やかな日だなぁ)

 

 

「皆ぁ!!

 

おやつ、食べよう!!」

 

 

大声と共に、廊下を走ってくる足音が聞こえた。やってきたのは、大皿に山盛りのお饅頭を乗せそれを手に、笑顔を向ける伊佐那海だった。

 

 

「甘い物食べると元気になります!って、幸村様に聞いたんだ!!

 

はい、どうぞ!!」

 

 

大皿を差し出す伊佐那海……

 

才蔵は、呆れた顔をしながら、大皿を指差した。

 

 

「……

 

何だ?その、アホみたいな量は?」

 

「一人十個は、食べるでしょ?十個かける十二人は百十二個何だよ、才蔵!

 

普通でしょ?」

 

「おっっっ前はバカか!!

 

んな甘ぇもん、一個で十分だ!!」

 

「バカじゃないもん!!計算、間違ってないでしょ!?」

 

「そこじゃねぇよ!!

 

限度っつーもんを考えろ!!」

 

「何よ!!せっかく、お台所借りて作ったのに!!

 

素直に、ありがとうって言えないの!?」

 

「勝手に作っといて、人に礼を要求するな!!

 

あつかましい女だな!!」

 

 

言い争う才蔵と伊佐那海……

 

 

「何、騒いでんのよ?」

 

 

そこへやってきた明日花は、二人を交互に見ながら、二人に近付いた。

 

 

「何言い争ってんの?アンタ達は」

 

「聞いてよ、明日花ちゃん!!才蔵ったら、私が作ったおやつにケチ着けるのよ!!」

 

「おやつ?

 

それてって、アンタが今手に持ってるこの、山盛りの」

 

「そう!!」

 

「……

 

バカ」

 

「!?」

 

「バカでしょ!?アンタ!!

 

こんなに作ったって、誰も食べ切れるわけないでしょ!!この量、食べ切れるのはアンタぐらいだ」

 

「酷っどーい!!明日花ちゃんまで!!」

 

「ほら見ろ、明日花にも言われたじゃねぇか」

 

「何よ!!せっかく作ったのに!!」

 

「量を考えて、作れ」

 

「お、おい、才蔵…明日花…」

 

「伊佐那海…」

「貴様らぁ!!」

 

 

佐助が止めに入ろうとした時、部屋からお盆を持って怒鳴ってきた清海が才蔵と明日花に今にも襲い掛かろうとした。

 

 

「伊佐那海の厚意を何だと思っておる!!成敗」

「お兄ちゃん、お茶!!」

 

 

そんな清海に振り向き、伊佐那海は怒った表情で清海を睨んだ。

 

 

「溢したら、承知しないから!!」

 

 

その言葉に、足を止め手に持っていたお盆に置いてある湯呑みを見た。

 

 

「良し!零れてないぞぉ」

 

「どんだけ尻に、敷かれてんのよ……」

 

「全くだ。デケェ図体して、情けねぇな!」

 

「う……うぬ……

 

茶さえ持っておらねば、貴様など…」

「喧嘩は駄目!!」

 

「ハイ……」

 

「『ハイ』だとよ!」

 

「才蔵、ヤキモチ焼き過ぎだよ!

 

アタシとお兄ちゃんが、仲良しだからって」

 

「あ!?」

 

「何だ、ヤキモチ焼いてたのか」

 

「ちげぇ!!

 

テメェの頭ン中は、どうなってやがる!!」

 

「んもー!可愛いんだから、才蔵はー」

 

 

そんな二人のやり取りに、一安心する十蔵……

 

 

「と・に・か・く!

 

おやつ係のアタシの、差し入れを食べなさい!」

 

「おやつ係?」

 

 

突然の伊佐那海の言葉に、全員が口を揃えて繰り返した。

 

 

「そ!

 

せっかく、勇士がそろったんだから、係決めたの!」

 

「お前の、独断と偏見でか!?」

 

「弁ちゃんは、お風呂焚く係ね!」

 

「聞けよ!」

 

「オイラ、火を使うのは得意だよ!」

 

「テメェも乗んなよ!」

 

「お兄ちゃんは、力持ち係でしょ!」

 

「おう!任せとけ!」

 

「それ、もう係じゃないし」

 

「筧さんは、お布団敷く係で、鎌之介は静かにしてる係ね!

 

海賊のオジサンは、タバコ吸ってる係で、明日花ちゃんは私を手伝う係で……」

 

「待て待て、もういいやめろ!」

 

「何で私が、アンタの手伝いをしなきゃいけないのよ!」

 

「何よぅ!一生懸命、考えたのに!!」

 

「ハッハッハッ!

 

係は必要ないにしろ、この先十人の与頭(リーダー)なる者は必要であろうな。」

 

「与頭ねぇ……

 

だったら、筧さんか?」

 

「某は辞退する。

 

まだまだ未熟だし、上田を開けることも多いしな。」

 

「じゃあ、明日花か?」

 

「何で私なの?

 

そもそも年下の言う事を、アンタ達が聞くとでも?」

 

「だよな……

 

んじゃあ……」

 

 

才蔵は、明日花の方から佐助の方へ振り向いた。

 

 

「佐助はどうだ?

 

猿だから、お山の大将やんのは、得意だろ!?」

 

 

その時、佐助は立ち上がり才蔵の顔面をいきなり殴った。佐助の拳をもろに喰らった才蔵は、佐助を睨みながら、殴られた箇所を手で押さえた。

 

 

「気ぃ短過ぎだろ!?テメェ!!」

 

「問題外!!」

 

「ああ!?」

 

 

才蔵に向かって、蹴りを入れる佐助に、才蔵はキレ飛び上がった。それに続いて、佐助も飛び上がり才蔵を追った。

 

 

「覚悟しろよ!!この猿!!」

 

「覚悟するの、お前!!」

 

「……もう!

 

二人共、しょうがないなぁ」

 

「面白そうだから、ついて行こう!」

 

 

才蔵と佐助の後を、笑みを溢しながら明日花は追い駆けて行った。

 

 

 

 

「不味いお茶、ご馳走様でした」

 

 

三成と兼続の見送りに来た幸村に、三成はそう言った。

 

 

「おう、お粗末様!

 

そして、二度と来んな!」

 

「……そうだな、これから忙しくなる。

 

易々と来られなくなるだろう……

 

 

詳しくは聞かないが……

 

あの力……

 

全てを飲み込む、闇の力……

 

あのような力を、求めるべきではない」

 

「そんなものを、狙っているなんて……

 

よくよく物事が分からない阿呆狸なのですね。

 

 

ああ、畜生だから仕方ないのですか」

 

「お前……ある意味凄いな」

 

「何か?」

 

「我々は我々の力で、何とかせねばあるまい……

 

 

必ずや、家康を叩く!」

 

「楽しくなってきました」

 

「では幸村、次会う時は戦場で!」

 

 

そう言い放つと、三成は兼続と共に上田を後にした。

 

 

「……ちゃっかり、人を頭数に入れおった……

 

 

それにしても、うるさいのう」

 

 

後ろから聞こえる、才蔵と佐助のやり合う音……

 

その時、突然城門が壊され、そこから佐助が飛び上がり、その後を才蔵が握っていた剣で、攻撃してきた。

 

 

「城門が!!」

 

 

その二人に続いて、壊された城門の木の上に、明日花が降り二人の闘いを観戦した。

 

 

「凄ぉ……」

 

「こっっっの、クソ猿が!!」

 

「……六郎」

 

「承知しました」

 

 

幸村の命で、六郎は術を唱えながら大声を出し二人を止めた。

 

 

「二人共!!止めなさい!!」

 

 

その声により、佐助と才蔵は戦うのをやめた。耳を手で塞いでいた明日花は、そんな二人に駆け寄った。

 

 

戦いを止めた才蔵と佐助を、六郎は幸村の前に座らせた。幸村は佐助の隣に立っていた明日花に目を向けながら質問した。

 

 

「で?何があったのだ?」

 

「さぁ……」

 

「この馬鹿猿が、小せぇことで、キレやがったんだよ!」

 

「(佐助が?珍しいのう)

 

おい、佐助!」

 

 

疑問に盛った幸村は、顔を下に向けていた佐助に話しかけた。

 

 

「……与頭、我じゃない。

 

それ、お前の役目」

 

「……は?

 

え…ああ!?」

 

「なるほど、キレた理由がそれって訳か」

 

「ま、マジか?!それ」

 

「二度言う、拒否!!」

 

「なら、その与頭をサポートするものが佐助だな」

 

「それ、我じゃない」

 

「?」

 

「その役目、明日花」

 

「は?」

 

「お前、我等に力与えるもの。

 

お前、相応しい」

 

「何で、私なのよ!!」

 

「良いじゃないか、明日花。

 

 

紫苑も、元武田軍の副隊長だぞ?」

 

「だからって……」

 

「……

 

戻った」

 

「え?」

 

 

明日花の顔を見ながら、佐助は立ち上がりそう言った。明日花は何が戻ったのかが分からず、佐助の顔を見つめた。

 

 

「戻ったって、何が?」

 

「明日花、顔昔に戻った」

 

「?」

 

「言われてみれば、そうだのう。

 

昔みたいに、顔が緩くなっておるぞ!明日花」

 

「!!変なこと言うな!!

 

佐助ぇ!!」

 

 

顔を赤くして、明日花は大声を出しながら、佐助に怒鳴った。佐助に怒鳴る彼女の髪には、雪の結晶の飾りが着いた簪があった。

 

 

「才っっっっ蔵!!」

 

 

そこへ、目が覚めた鎌之介が鎖鎌を振り回しながら、才蔵に突っ込んできた。

 

 

「俺ともやり合いやがれ!!

 

由利鎖鎌奥」

「鎌之介!!」

 

「ぎゃん!!」

 

 

術がかかった大声で、鎌之介を吹っ飛ばし大人しくさせた。

 

 

 

 

そんな騒がしい光景を、少し離れた場所から、木に寄りかかり見る甚八……

 

 

「騒がしい、城だよなぁ……」

 

 

心地いい風が吹くと、その木の上に乗っていたアナスタシアの髪が靡いた。




「あーもう、こんなに余っちゃって、もったいないなぁ」


残ったお饅頭を、弁丸と共に台所へ運んできた伊佐那海……


「明日の、お茶請けにしよっと!」

「お姉ちゃん、明日もこれ食べるの?」

「うん!

明日は明日のお腹が、空くからねぇ!」


そう言うと、鼻歌を歌いながら、伊佐那海はお饅頭をしまった。


「やっぱり、そういう方が良いな……」

「ん!?

何々!?」

「お姉ちゃんは、笑ってるのがいいよ!安心する!


ほ、ほら……

この間までは何か、近寄り難いって言うか……

雰囲気が違ってたって言うか……」


言いにくそうに、弁丸は伊佐那海に言った。そんな弁丸に、伊佐那海は膝に手を置いて、弁丸に目線を合わせた。


「ゴメンね!アタシ、そんなに怖かった?」

「うん……ちょっとね」

「そっかぁ……それはいけないなぁ」


『いつまでも、笑顔でいなさい。伊佐那海……』


ふと、思い出した神主の言葉……


『悲しんだり、泣いたりしていると、闇が来る。

それは、心に憑りついて、人を別のものに変えてしまう。


だから、笑みをはねのけなさい。いつでも笑って、前を向いて歩いて行きなさい。

それが、巫女である伊佐那海の、大事な務めなのだよ』


「ちゃんとしなきゃ!(アタシは巫女……笑っていなくちゃ)」

「じゃあオイラ、筧のオッチャンの所に行くね!

仕込銃、見せてもらうんだ!」

「うん!お手伝い、ありがとう弁ちゃん!」


去っていく弁丸に手を振る伊佐那海……


(皆と一緒にいられて、よかった……


アタシ一人じゃ、あのままだったかもしれない……

笑みも忘れて……暗いまま……)

『あの畜生を追い返したんだ……それだけで上等だろ』

「(アタシに、居場所をくれた……

才蔵はそれだけでいいって、言ってくれた……)


アタシ、皆に貰ってばっかり……

これからは、返さなきゃ!


(だから、笑って前を向こう……

そして、少しでも強くなって、皆を助けたい……


強くなって……強くなって)」


決意する伊佐那海……

そんな伊佐那海の背後に憑く、黒く染まったもう一人の伊佐那海が不敵な笑みを溢していた……




『闇が密かに、目を覚まそうとしている……

お前は、その闇を消すために生まれた私の器。戦いの時、お前は私の物になる……


愛しい私の娘……明日花』


「?」


空を見上げる明日花……その時、心地よい風が吹き明日花の髪を靡かせた。


(今、声が聞こえたような気が……)


「明日花!城の中に入るぞ!」


才蔵の呼び掛けに、明日花は振り返り彼等の元へと駆け寄った。そんな彼女の背後には、長い髪を下ろし不敵に笑う、黒い影が立っていた。


(完)
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