信州の森で、見張る佐助……
その様子を見ていたアナスタシアは、佐助の近くに行き声をかけた。
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「……」
「二年前に起きた事件って何?話によれば、明日花が関わってるっていうじゃない」
「……」
「ちょっと、聞いてるの?」
「……
伊賀の者、教える必要無」
「あのねぇ……」
「あれ以来…
明日花、変わった。あの人、死んでから……」
「あの人?」
佐助の言葉にアナスタシアは、あの時明日花が言った言葉を思い出した。
『馬鹿な女が、血の繋がってない子供を守って死んだ事件……』
「その人って、明日花とどういう関係なの?」
「……
教える必要無」
そう言うと、佐助はその場を離れどこかへ行ってしまった。
「教える必要は無いか……
確かにそうかもね(人の過去を知ったところで、何の解決にもならないものね)」
アナスタシアから離れた佐助は、森にある川辺に辿り着き水面に浮かぶ自分の顔を眺めながら、昔のことを思い出した。
『佐助!見て見て!クナイが真ん中に当たったよ!』
佐助が作った的にクナイを命中させ、それに喜び佐助に飛びつく幼い明日花……
あの時は自分も、一緒に喜んでいた。
だが、二年前に起きた事件をきっかけに、明日花はすっかり変わってしまっていた。
「……」
いつの間にか流れ出てきた涙を、佐助は静かに袖で拭いた。
「火術!火針千本」
鋼牙が飛ばした火針を、才蔵は剣で難なく防ぎ切った。防ぎ切った才蔵に、鋼牙は舌打ちをし両手に持っていた刀を才蔵に振り下ろした。才蔵はその攻撃を避け、鋼牙から一歩引いた。
「何だ、大したことねぇじゃん」
「ムカつくんだよ!お前等!
勝ちもしねぇ敵に、挑みやがって!勝てねぇんだから、あきらめろ!」
「それ、今のお前じゃねぇか?」
「うるせぇ!!
火術豪火球!」
「相手にもなんねぇな……」
鋼牙の攻撃を避け、一瞬で鋼牙の後ろへ回り剣を振り下ろした。鋼牙は口から血を吐き、その場に倒れ才蔵を睨んだ。
「この……俺が……
この……俺が……」
「負け犬の遠吠えってか?」
「……畜生
畜……生」
息が亡くなり、動かなくなった鋼牙を見た才蔵は、剣を鞘にしまおうと後ろに持ってきた時だった。
「土術岩石砲」
突然、才蔵に向かって岩が飛んできた。才蔵はしまい掛けた剣を引き出し、飛んできた岩を叩き切った。飛んできた先には、苦戦する明日花の姿があった。
「避けるだけで、精一杯か?」
「……」
「結局、口だけか……
詫びとして、お前に見せてやるよ……
本当の戦いってのを」
「え?」
「剣術居合切り」
大剣を振り上げ、後ろにいた才蔵の目の前を一瞬で行き大剣を勢いよく振り下ろした。下ろしてきた大剣を才蔵は、間一髪避けたが腕を掠り血を流した。
才蔵の腕から出た血が後ろにいた明日花の着けていた面に飛び散った。面に付いた血を明日花は手で触り、触れた手を見た。手に付いた血を見た瞬間、脳裏にある映像が流れてきた。
血塗れになった女性を前に泣き崩れる自分……
その姿を思い出した途端、明日花は我を失い才蔵がいるのにも関わらず、槍を振り下ろし砕牙の肩を突き刺した。
「!!」
「アンタだけは、許さない!!
光坂流木術奥義千本妖花舞」
明日花の後ろから巨大な樹が生え、てっぺんに不気味な色をした花が咲いた。開花した花から、無数の針のように尖った枝が砕牙に飛び散った。
「(ヤバッ!)
筧さん!ここから離れるぞ!」
剣を鞘しまいながら、向こう岸にいた伊佐那海を担ぎ、隣にいた十蔵に声をかけると、一目散に森の奥へといった。
森の奥へ逃げ込んだと同時に、激しい強風と爆発が突如起きた。風に乗せられ地面に滑り込んだ才蔵達は頭を伏せた。
しばらくして、風が止んだのを確認した才蔵は体を起こしながら辺りを見回した。
「収まったみてぇだな……」
「さっきの一体……」
「筧さんはここにいてくれ。俺はあいつのところに行って来る。」
それだけを言うと、才蔵は滝壺へ向かった。
森を抜け、滝壺に出てきた才蔵はその光景に驚いた。
串刺しになり無残な姿となった砕牙と鋼牙の亡骸を目の前にした明日花が立っていた。よく見ると明日花の首元が白く光っており、明日花のいた場所だけ何事もなかったかのようになっていた。
(どうなってんだ……
まるで、あん時の伊佐那海みてぇだ……)
才蔵は昨晩に見た伊佐那海を思い出した。怖さのあまり、癇癪を起こしそれに応えるかのように、黒いオーラが放たれた。
そんなことを思い出していると、砕牙達の前に立っていた明日花が力なくその場に座り込んだ。
「明日花!」
明日花の名を呼びながら、才蔵は明日花に近寄った。明日花は放心状態になっているのか、砕牙達の亡骸を見つめていた。才蔵はそんな明日花の肩を揺らし、声をかけた。すると明日花の首元で光っていたものが消え、それとともに意識が戻ったのか、明日花は顔を上げ才蔵を見た。
「才……蔵?」
「明日花……」
「……
これ、私がやったのか?」
「お前、覚えてねぇのか?」
「覚えてるよ。少しだけなら。
ただ、確認しただけだ」
そう言いながら、明日花は立ち上がり面を取り外し腰に提げた。才蔵は地面に転がっていた槍を明日花に手渡した。明日花は槍を受け取ると、三本の棒状に戻し後ろ腰に着けていたケースへしまった。
「キュウ」
「コノハ!」
茂みに隠れていたコノハが、鳴き声を上げながら明日花の脚を上り肩に乗り明日花の頬を舐めた。そんな明日花の姿に、ホッとしたのか一息吐いた才蔵は川を飛び越えた。そんな才蔵を明日花は追い、才蔵と共に森の中へ入り十蔵達が待つ場所へ向かった。
「明日花ちゃん!才蔵!」
滝壺から戻ってきた才蔵と明日花の姿を見た伊佐那海は二人に駆け寄った。十蔵も二人に寄り話し出した。
「大丈夫だったのか?」
「あぁ……
こいつが最後野郎を殺った」
「そうか……」
十蔵は伊佐那海に心配した声で話しかけられている明日花を見て、明日花に近付き明日花の前で屈んだ。
「……
殴るなら、殴れよ…」
「殴る訳が無かろう……」
「?!」
殴られると思い覚悟していた明日花の頭を、十蔵は手を置き撫でた。そんな十蔵に明日花は驚き、十蔵を見た。
「あの山賊から、伊佐那海を守ったんだ。殴る訳が無かろう……」
「……」
「それに、お主の力も見せてもらった。
あれだけの力をどこで付けたかは知らぬが……
強くなったな、明日花」
「……
全然だよ……」
「素直に喜んだらどうなんだ?」
「!!バカにすんな!!」
顔を赤くした明日花は、才蔵に蹴りを入れた。才蔵はそんな蹴りを難なく避け、明日花を馬鹿にしたように嘲笑った。
「才蔵!明日花ちゃん、いじめちゃだめだよ!」
「うるせぇな、いじめてねぇよ」
「いじめてるじゃない!
あっ!そうだ、明日花ちゃん!これ」
何かを思い出してか、伊佐那海は自分のバックの上に置いてあった明日花の羽織りと手袋を差し出した。明日花はそれを受け取り身に着けた。
「さてと、一段落ついたところで先を急ごう。
大分、時間をかけてしまったからな」
「そうだな」
「明日花ちゃん行こう!」
満面な笑みを浮かべた伊佐那海が、明日花ちゃんの手を引いて先を行った。その後を十蔵は慌てて追いかけて行き、そんな光景を見た才蔵は頭を掻き毟りながら、三人の後をのんびりと追いかけて行った。