「才蔵!
ほら、あそこ!峠茶屋があるよ!」
岩場を抜け、真面な道を歩いていると、伊佐那海が指さす方に『蕎麦屋』と書かれた暖簾を出した一軒の家が建っていた。
「おっ蕎麦!おっ蕎麦!」
「そういえば、金あんのか?」
「才蔵、お主いくら持っている?」
「え――っと……」
懐から巾着袋を出し、紐を解き義袋を逆さまにした。
袋から出てきたのは銅銭が一枚……
だが、伊佐那海はそれを無視するかのように、奥にいるお店の人に蕎麦を注文した。それを見かねた才蔵はそんな伊佐那海を怒鳴った。
「誰のせいだと思っているんだ!」
「あの二人の荷物から、金目の物奪っとけばよかった…」
「山賊みたいな真似はするでない!」
「あの爆発で、荷物が全部パアになっちまったんだろうが!」
「着替えもね」
「でも、さっき寄ったお店で、新しいの買ったじゃん」
「あれは俺と筧さんのヘソクリだ」
「私は、あの場にいなくて正解だったな」
「そんなに責めなくたっていいじゃん。
本当に怖かったんだから……」
「……」
「狼に食べられそうになってんのに、才蔵は来てくれないし」
釘を刺されたように、才蔵は伊佐那海から目を逸らしそっぽうを向いた。ふと伊佐那海の頭に着けている簪が気になり手を出し簪に触ろうとした。
「駄目!!」
簪を触ろうとした才蔵に怒鳴り、伊佐那海は簪を手で隠した。その行動に驚いた才蔵は口を開けたまま、伊佐那海を見た。
「神主様に言われたの。この簪は誰にも触らせず身に着けていなさいって……
才蔵でも駄目!」
「めちゃくちゃ怪しい……
しかも翡翠じゃん」
「翡翠?
そういえば、お前も首から下げてんじゃねぇか。明日花」
「え?」
「服の中に隠してる首飾りだ。見えてないとでも思ってんのか?」
「……
だから、何?」
「その翡翠、どんなものか見せてはくれぬか?」
「嫌だ」
「何でだよ」
「誰にも見せるなって、母さんとアイツと神主の三人からキツク言われたからだ。」
「神主?
明日花ちゃん、神社の巫女だったの?」
「母さんが巫女だったから、その成り行き」
「へぇ」
「つか、お前の首飾りも怪しいじゃねぇか」
「もしかしたら、明日花も半蔵達に狙われてる可能性があるぞ」
「別にいいよ。私は戦えるし……」
「そういう問題ではない!」
「けど、これじゃあまるで爆弾二つ抱えて旅してるみてぇじゃん…」
「爆弾?!」
才蔵の言葉に不安な顔を浮かべる伊佐那海……
「心配すんな。
蕎麦の借りがある内は、キッチリ守ってやっから」
「うん!」
笑顔を作り、才蔵に頷いた伊佐那海は頼んだ蕎麦を四つのお椀に分け食べた。
「まいどー」
食べ終わった才蔵達は、店を出て先の続く道を歩いた。そんな才蔵達を、店の人は見ながら店前の長椅子に座っていた店長に話しかけた。
「教えてやんなくて良かったのか?
あの人達、谷の方に行ったけど」
「いいよ、あんなケチな客。どうせ盗られる物持ってねぇだろ?」
「全然、腹の足しになってねぇ……」
「四人で分けたもんね」
「これで、一文無しか……
十蔵、今どの辺りなんだ?」
「そうだな……確か」
肩から掛けていたバックから、地図を取り出し十蔵はそれを広げた。広げた地図を才蔵と明日花は、覗き込むように見た。
「安曇だ。
今日中には、黒部まで行きたいところだが……」
「女連れはキツイぞ」
「大丈夫!さっき食べたから、スタミナは満タンだし!あるうちに歩かないと!」
「伊佐那海の言う通りだな」
「だな」
伊佐那海の言葉に納得しながら、十蔵は地図をしまい歩き出した。それに続いて、才蔵も歩き出そうとしたが、歩き出そうとしない明日花が気になった。
「どうかしたか?」
「……
いや」
「?」
「この先、何か起こるかもね」
そう言いながら、明日花は十蔵達の後を追って行き、才蔵は慌てて明日花を追った。
「おかしい……」
道を歩いている才蔵は、辺りを見ながら後ろを歩いていた十蔵と明日花に言い放った。
「何がおかしいんだ?」
「さっきから、誰とも行き違わねぇ」
「言われてみればそうだな」
「……
この辺りか」
「?何がだ」
「いや、別に…」
「しかしまぁ、こんな日もあるだろう」
「だといいんだが」
「才蔵!人がいるよ人が!」
先を歩いていた伊佐那海が、近くに生えていた樹に寄りかかり座る一人の女性がいた。
「大丈夫?お腹空いてるの?」
「それはアンタでしょ」
「いえ。
足をくじいてしまって……
ここまで何とか来られたのですが、この先にある吊り橋を渡るには少し……」
「アタシたちもそっち方面だから、一緒に行こう!」
「おい、勝手に」
「才蔵は困ってる人ほっとかないもんね!優しいから」
「……」
「女一人は放ってはおけぬ。
ふもとまで連れてってやろう」
「しょうがねぇな……」
仕方ないため息をついた才蔵は、座っている女に手を差し出した。女は差し出した手を握り立ち上がったが、立った拍子によろけ才蔵に寄りかかった。そんな女に、明日花が疑いの目を向けているのに誰も知る由は無かった。
しばらく歩いていくと、吊り橋が見えてきて伊佐那海は見えてきたのにはしゃぎながら喜んだ。
「見て見て!吊り橋だよ!」
「見りゃ分かるよ」
「……やっぱり」
「?どうかしたか、明日花」
「ここ、以前母さんと来たことがあんだ」
「紫苑と?」
「うん……
けど、何かあった気が……」
「ここまで付き添っていただき、本当にありがとうございます」
「いいのよ!
それより、早く渡っちゃお!」
先を歩く伊佐那海は、吊り橋を指差しながら吊り橋を渡っていった。吊り橋の下を見ながら伊佐那海は大げさに後ろを歩いてくる才蔵達に助言した。
「スッゴイよ下。落ちたら大変!」
「んなもん、見れば分かるよ」
「十蔵、早く来いよ」
吊り橋の手前で足を止める十蔵を、明日花は呼び掛けるが十蔵は何も答えずただ橋の下を見ていた。それを見かねた才蔵は、十蔵の様子を見て声をかけた。
「筧さん、もしかして高所恐怖症?」
「ほっとけ!!」
「まだ、治ってなかったの?」
「うるさい!!」
「何だ。筧さんにも、怖いものがあったのか」
「年上をからかう出ない!」
「だから、母さんに腰抜けって呼ばれたんでしょ?」
「それを言う出ない!」
十蔵が怒鳴ったと同時に、突然強風が吹きだした。強風から顔を手で庇っていた伊佐那海の背後から突然何かに引っ張られ、後ろに倒れてしまった。
「伊佐那海!!どうした?!」
「なぁに……
どうもしねぇよ。
この由利鎌之介様が、金目の物頂くだけだからな」
そう言いながら、女は着物を脱ぎ捨てた。女は朱い髪に右目に入れ墨を入れたた者になり、その後ろから数人の男が出てきた。
「頭!!」
「あ~~
女の格好は疲れるぜぇ……腰が痛ぇわ」
「思い出した!こいつ、風使いの由利鎌之介だ!」
「知っていんのか!」
「一回だけ、母さんと一緒にやり合ったことがあったけど、あん時は母さんの圧勝だった。」
「よく見らぁ、お前あん時の化け狐と一緒にいた白ガキじゃねぇか」
「誰が、白ガキだ!母さんに負けたくせに!」
「うるせぇ!あん時はあん時だ!」
「何があん時だ。ボロ負けだったくせに」
「黙れ!
それより、この女の簪、いただくぜ」
「渡すか!」
才蔵はクナイを取り出し、鎌之介に投げつけようとしたが、吹いてくる風に邪魔をされ狙いが定まらなかった。
(くそ!風が邪魔だ)
「俺の風から逃げられると思ったら、大間違いだ。」
「?!」
「おい、その女の身ぐるみ剥がせ。
その後は好きにしろ」
「嫌ぁ!!やめてぇ!」
はぎとろうと、男が伊佐那海に手を掛けた瞬間、突然向こうから何かが飛んできて、その男に当たりそのまま倒れてしまった。その他にも周りにいた、男たちにも何かが当たり鎌之介以外全員倒れてしまい、その現状に驚いた鎌之介は打ち放ってきた方に顔を向けた。
そこには、銃を構えた十蔵がいた。
「筧さん!」
「あ~あ、十蔵怒らせちゃった」
「山賊が!
それで距離を置いたか!甘いわ!
地獄を見るがよい」
伊佐那海の周りにいた他の男に、十蔵は弾を打ち放った。弾は見事に男たちに当たり、当たった男たちは皆その場に倒れて行った。
「すげぇ……
なんて、命中率だ」
「命中率が高いのは、あいつだけじゃないけどね?」
「?」
「光坂流木術枝鉄砲」
明日花の手の平から、槍のような枝が出てきて、明日花はそれを鎌之介目掛けて投げ飛ばした。それと同時に十蔵も、鎌之介に狙いを定め弾を数発撃ち放った。
すると、鎌之介は腰に着けていたケースから鎖に繋がれた鎌を取り出し、鎖を回し弾と枝を払い避けた。
「ウザいんだよ。お前等は……」
「(この風……!)
十蔵!避けて!」
「もう遅ぇよ!
由利鎖鎌奥義一目連!!」
大きな風の渦から、線のような風が出てきてその風が十蔵の胸に当たり、十蔵はその場に倒れた。
「十蔵!!」
「筧さん!!」
「うるせぇな!
黙ってろ!クソ女」
「痛い!」
「調子に乗んな。この盗人が!!」
風を剣で切り、才蔵は鎌之介を襲った。鎌之介は才蔵が振り下ろしてきた剣を鎖で防いだ。
「この女が、そんなに大事か?」
「だったら何だ」
才蔵の答えに不敵な笑いを浮かべて、鎖に繋がれていた鎌を振り回し、吊り橋を切り裂いた。吊り橋は見事に崩れ落ち、橋にいた才蔵は真っ逆さまに崖の底へ落ちて行き、一緒にいた明日花は間一髪、吊り橋に使われていたロープを握り助かった。
落ちた鎌之介は伊佐那海を鎖で捕まえ、明日花とは反対側のロープにぶら下がった。
「残念でしたぁ」
「才蔵!!」
「風男!その女を返せ!」
「誰が返すか!こいつはしばらく俺が預かっとくぜ?」
「この野郎!!」
「悔しかったら、ここまで来いってんだ!
アバよ!白ガキ」
ロープを使い、向こう側の森へ行き伊佐那海を抱え森の奥へと姿を消した。