開けられ遼太郎は評定の間へと入る。そこから飛び込んできた景色はまるで時代劇でよく見る大広間のようであった。そこには数十人の織田家中の人々が左右に分かれ座っている。正面三十メートルほどの上段に座る久遠までは、まるでモーゼの海割りのようである。その左右に座る全員が、入室した遼太郎に目線を向ける。しかもその目線のどれもが非好意的な目線なのである。
(うっ……、これは予想以上に居心地が悪いなぁ……)
すると、体感的に遥か前方に感じる上段に座っている久遠から声が掛けられる。
「遼太郎よ、早くここに来るのだ」
久遠は自分の横のスペースをポンポンと叩き俺を呼んでいるが、その顔がどう見ても笑いを堪えているようにしか見てない。
(くっそ!後で絶対抗議してやる!)
心中では文句を言う遼太郎だが、それを表情に出さぬよう細心の注意を払って、視線の雨をくぐり抜けて上段の、久遠の示す場所へと腰を下ろす。
上段から見渡すことで、下段の左右に分かれた人たちの、さらに後ろに控える人たちの目線も届くようになる。これには遼太郎も居心地悪く感じるのは仕方がないだろう。
「皆のもの、こやつが我の夫となる及川遼太郎である。存分に引き回してやってくれ」
久遠が下段に座る織田家中の人々が
に紹介をする。
「ほら、遼太郎。お前からも何か言え」
「え?何かってなに?」
「自己紹介くらいしろと言っているのだ。さぁ」
ニヤリ顔を隠す気もなく久遠が遼太郎に自己紹介を強いる。
「えー、及川遼太郎です。先日の戦中に雷鳴とともに現れたようですが、ここにいる織田久遠さんに保護されました。それが何かの因果なのか久遠さん夫となることに決まりましたので、皆様どうぞよろしくお願いしま………」
遼太郎が最後の締めで括ろうとしたときであった。
「ふざけるなぁぁーーー!」
下段の最前列に座る赤髪の少女が声をあらげて立ち上がる。
「例え殿がお認めになってもボクは認めないぞ!」
赤髪の少女が鋭い目付きで遼太郎を睨む。
「控えよ、和奏。御前であるぞ」
上段に一番近いが同じく下段に座る壬月が少女に注意をする。
「でも、壬月様!こんな、いきなり出てきたやつが殿の夫だなんて!」
赤髪の少女の和奏はそれでも尚食い下がる。
赤髪少女の発言を皮切りに、評定の間から様々な声があがる。
「まぁ確かに、佐々和奏殿の意見もわかりますよー。雛もそう思いますしー」
「佐々和奏殿、滝川雛殿の意見に、犬子、じゃなかった。前田又佐衛門犬子も同意見だよ!」
薄紫色の髪の毛に同じ色の装束を着た猫っぽい雰囲気の少女と、クリーム色の髪の活発な少女が赤毛の少女に賛同する。
「と言うわけで我ら織田の三若は反対の立場ですよー」
薄紫色の髪の猫っぽい少女の雛が、代表して意見を纏める。
「わかってんじゃねーかー!さすが雛だぜ!」
和奏が雛を褒める。
「ふむ、まぁこうなるであろうとは思ってはいたが……おい和奏、どうすればこやつを認めるのだ?」
家中の発言に黙って耳を傾けていた久遠が、一番初めに異論を唱えた和奏に対して尋ねる。
「それは、ボクより強ければ認めてやります!」
和奏が、さも当然かのように胸を張って元気よく答える。
「ええ~?結局それなの和奏~?」
「まぁ和奏だしー?」
犬子、雛が呆れ声を出す。
「強ければ、か。ならば簡単だな。遼太郎、和奏と立ち合え」
久遠が遼太郎に向けて、そして家中全員に聞こえるように言う。
(そんな簡単に言うなって。相手の強さだって俺は全く知らないんだぞ)
久遠にだけ聞こえるように遼太郎が耳打ちする。
(心配ない。勝てんまでも負けなければいい。あの和奏というやつは曲がったことが嫌いでな。逆に言えばまっすぐぶつかるやつを好む傾向にある。だから、まっすぐぶつかれば負けてしまっても問題なかろう)
遼太郎の耳打ちに久遠が助言をする。
「はぁ~、わかったよ。精一杯やってみるよ!」
最後の発言は久遠からの提案であったので、遼太郎はそれに応える意思をこの場に声をあげて宣言する。
「それと、いい忘れたことが一つあったが…。」
久遠からなにやらあるようで…
「我は葬式は好かん。だから死なんように気を付けろよ」
まさかの死に対する忠告がされた。
(それって死ぬかもしれないのかよ!手加減くらいしてくれよ!どんだけサバイバル部族なんだよ!織田家中は!)
内心叫びたい遼太郎であったが、そんなことをすれば、この場でどうなってしまうか分かったものじゃないので、ぐっと押し殺すのであった。
「では、この際である!遼太郎と手合いしたいものは進言せよ!」
久遠が家中に向けて言葉を発する。
「はーい、雛もやりたーい」
「犬子もやりたい!」
三若の残り二人も手を上げる。
「私も立ち合いとうございます」
まさかの壬月までもが立候補する。しかもかなりの殺気を纏っている。
(おいおい、壬月さん、だったっけ?この人はダメだろ。俺まじで生きてられるだろうか?)
「うむ、他にはおらぬか?」
久遠が確認をとる。
「あら、鬼柴田様が参加するなら、私もいいかしら?」
これまた、まさかの麦穂が参戦である。遼太郎的にはこの人は自分の意思を汲み取って遠慮してくれると思っていただけにショックである。
「ほほう、壬月はわかるが麦穂、おまえもか?」
久遠にしても少し意外だったらしく麦穂に尋ねる。
「ええ、遼太郎さんのことは認めておりますが、武士としては正面から一度お手合わせ願いたく…」
「ふむ、許す」
麦穂の説明に久遠は、なら仕方ないといった感じで容易に許可を出す。
「ちょっ、久遠さん?そんな簡単に許可されても、やるのは俺なんだけど?」
さすがに人数が多くないかと思い始めた遼太郎が文句混じりに言うが、
「なに、たかが五人ではないか。なんとかせい」
久遠はまったく、とりあってくれなかった。
予想以外に事態が大きくなり始めたことに遼太郎が頭を抱える。
室内では厳しいので屋外で手合わせをするとこになり、庭が広い久遠の屋敷の庭で行うことになった。
久遠の屋敷の庭に移動してきてみれば、囲いや武器、防具など試合の準備がすでにが整っていた。
「手回しが早いことで……」
段取りの早さに遼太郎は思わず言葉が漏れる。
「先ほど先駆けが参りましたので。まぁ精々頑張ればいいんじゃないですか?」
屋敷にいた帰蝶から遼太郎は棘のある応援を受けとる。
「まぁ、見ててよ。近いうちにしっかり認めてもらうつもりだからな」
「ええ、今回に限らず、今後はしっかりと見させてもらいます。貴方が信用できる人物なのかどうかを」
皮肉混じりに帰蝶が遼太郎に言って、その場から立ち去っていく。
遼太郎的も昨日の約束を果たすため、とにかくここを乗りきろうと覚悟をいれた。
「両者、位置に着け!これより手合わせを始めるぞ!」
久遠の宣言が聞こえ、遼太郎は設けられた立ち位置につく。
一人目の相手は和奏であるようだ。
「謝るなら今のうちだぞ!」
対する位置についた和奏からこんな言葉が投げられる。
「なんで謝らなきゃいけないんだ?」
「ボクに勝てるわけないだろ!まぁ、やってみればすぐにわかるさ!黒母衣衆筆頭、織田の特攻隊長、佐々和奏成政!」
「及川遼太郎」
互いに名乗り、得物を構える。
「へへっ、いい度胸だよ。そこは認めてやる」
「そいつはどうも。で、そちらの得物をなんだい?槍のように見えるが?」
「ただの槍と思うなよー!この槍はカラクリ鉄砲槍だ!」
「え?鉄砲?まさか手合わせの今回撃ったりは……しないよね?」
遼太郎とて対人戦、しかも手合わせレベルでは、尚更銃器類を使うつもりはない。バイオシリーズでも頻度はかなり少ないが、日本刀を武器にできることから、今回は久遠から予めバイオシリーズに出てくるものに似た刀を選ばしてもらって借りてきたのだ。
「なぁ、久遠!さすがに鉄砲はだめだろ!」
遼太郎は屋敷の縁側から見守る久遠に訴えかける。が、
「そうか?まぁ、大丈夫であろう」
対する久遠は、何がおかしい?と言わんばかりにさも当然な顔をしていた。
「なにいってんだよ。相手の実力を計るからこそ、本気でやるに決まってるだろ。そうじゃなきゃボクより強いかどうかなんてわからないだろ?」
和奏から、まさかの正論で返される遼太郎。こうなったら仕方ない、最悪はコマンドに頼るかなどと諦めたのであった。
壬月が立会人として中央にやってくる。
「それでは、尋常に始め!」
壬月の宣言と共に和奏が銃口をこちらに向ける。
(くっ!いきなりかよ!)
遼太郎は覚悟していたことだが、やはり銃口を向けられると言う恐怖に一瞬体が固まってしまう。遼太郎はこの世界に来て初めて銃口を向けられたのだ。
ここでまた不可思議なことが起こる。和奏が構えた銃口から自分の胸元一直線に、まるで弾道予測されるように遼太郎の視界に表示されるのだ。
(今は考えてる暇はない!こいつに賭ける!)
胸元に着弾表示される弾道から、遼太郎はしゃがみこみで回避行動をとる。
パアッン!
それと同時に和奏が発砲する。
弾道線は反動からかか元のラインよりかなり上に逸れる。すでにしゃがみこみで回避しようとしていた遼太郎の一メートル以上頭上を弾道が通過する。
(よし!うまくいった!)
僅かの差で遼太郎は避けることに成功するのであった。
遼太郎は連射されることに備え、もう一度和奏の鉄砲槍の矛先の向きを確認する。
「あれ?」
するととうであろうか。
「んしょ!んしょ!」
和奏は銃口を真上に向けて、棒のようなものでスコスコと何かを銃身に詰めている最中であった。
これを見た遼太郎は思わず尋ねる。
「えっと?何をやっていらっしゃるのですか?」
「見ればわかるだろ!一回撃ったんだから、こうやって筒の中を掃除して、弾と弾薬を入れるんだよ!」
なぜか和奏からお叱りを受ける遼太郎。
一瞬唖然としてしまう遼太郎であったが、そんな隙を見逃す手はない。日本刀の鞘の方を利き手に持ち変え、鞘で和奏の頭を小付く。
ポコンッ!
「いってえー!なにんすんだよ!」
和奏はまるで卑怯ものを見るように遼太郎を睨んだ。
「いや、だってそれはさすがに…」
弾の装填途中であったところを小付いたため、弾薬や弾丸が無惨にも飛び散ってしまう。
さすがにこんなやり取りを見ていた壬月も半分呆れ顔をして、
「ここまで!勝者は及川遼太郎!」
と早々に決着をつけてしまったのであった。
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戦国恋姫とバイオハザードのプレイ経験について
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戦国恋姫(X.EX)プレイ済み
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バイオハザードシリーズプレイ済み
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両方プレイ済み
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両方未プレイ