「ふぅー、戻ったよー」
すっかり日もくれた頃にようやく宿まで戻った遼太郎が、先に戻っていたひよ子と犬子に声をかける。
「ふぃー。お頭ー、お帰りなさいー」
何やらひよ子が疲れた様子で、机にうつ伏せになったまま、顔だけ向けて遼太郎に反応する。
「ちょっとひよー!どうしたのよ」
遅れて入ってきた転子がそんなひよ子に尋ねる。
「それがぁ、町の聞き込みの最中に犬子ちゃんが徒の人たちと喧嘩しちゃって……」
「ち、違うんだよ!遼太郎さま!だってあの人たちが犬子たちが怪しいとか言ってくるから」
理由を説明しようとしたひよ子に被せるように、近くに寝転んでいた犬子が弁明をする。
「それは、犬子ちゃんがあんなに目をギラギラさせながら、辺りをキョロキョロするからだよ~」
「わ、わふぅーん…」
ひよ子に欠点を指摘された犬子が、頭を抱えて縮こまってしまう。
「ま、まぁ無事に戻ってこれただけ良かったよ」
そんな二人を見ながら遼太郎は、とりあえず慰めてみる。
話を聞くにひよ子と犬子は、そのようなことがあったために、あまり聞き込みが捗らなかったようである。一方の遼太郎と転子は首謀者をしっかり特定できたことを説明すると、
「さすが、お頭です!それではその情報は久遠に届けた方が良さそうですね。思ったより早く戻れそうですね」
「それはそうなんだけど、一応俺も自分で町を歩いて確認したいんだ。だから、先に久遠に首謀者諸々の情報を届けてほしいんだ」
遼太郎はそう言って、自分と直接旗を確認した転子とその護衛を犬子に依頼する。
「わふぅ~、遼太郎さまともっとお話したかったなぁ~」
犬子は残念がるも遼太郎の提案には賛同してくれるのであった。
そして翌朝のこと
「それでひよと俺は恐らくもう二、三日はこっちに留まると思うから久遠にもよろしくね」
装備を整えた二人を遼太郎とひよ子が見送り、その足で井ノ口の町を見て回る。
「なんだか活気がないな、昨日もこんな感じだった?」
遼太郎は隣を歩くひよに尋ねる。
「はい、変わりはありませんね。どの店の店主もなんだか表情が暗いです」
「そっか、統治者の影響はやっぱり大きいよな……」
遼太郎は久遠の治める清洲の町と比較する。清洲の方はもっと人通りもあって、店先からの呼び込みで賑やかであったのだ。
「ここは、商会とかの決まりも厳しいようでして、楽市楽座を進める尾張の地にみんな出ていってしまうようですね」
そんな話をしながら二人は、店先の店主や通りすがりの町民に聞き込みを始めるのであった。
聞き込みは自然を装うために、時間をずらして、場所を逐一変えて行ったためすでに三日が経過していた。
「これでだいぶ情報も取れたし、首謀者の情報の裏もしっかりとれたね」
「はい、けどここの町の人たち思った以上に簡単には色々と話してくれましたね。しかも今回の乗っ取りの首謀者の竹中さんにみんな好意的のようでしたし…」
ひよ子の言う通り、聞く人の多くが今回の乗っ取りに賛同するような意見をするのだ。むしろ今までの統治者の斎藤家に対しては冷たい意見が上がっている。
「このまま周囲の人たちが応援してくれるなら仮に竹中さんが当主となってもすぐに全体を掌握できそうだな。ただ………、本人にその気があれば、だけどね」
そんな会話をする遼太郎達の後ろからある少女の声がかかる。
「そんな気はないでしょうね、きっと………」
「うん、俺もそう思……って、ええ!?」
思わず頷きを返してしまう遼太郎が、声の本人を確かめようと振り向く。そこには目元まで髪がすっかりかかっている少女が立っていた。
「ええっと、こんにちは?君はいったい…?」
突然のことに遼太郎は疑問系で挨拶してしまう。
「……詩乃、と申します」
遼太郎の疑問に詩乃の名乗った少女が丁寧に挨拶をする。
「ところでさ、さっき気になることを呟いていたけど、あれってどう言うこと?」
遼太郎が後ろから声を掛けられた時の内容について質問する。
「どうもこうもありません。竹中さんに野心はありません。多分、愚かな人たちに馬鹿にされたことが我慢出来なくなったのだと…」
「その意趣返しに城を落としたと?」
少女に遼太郎が続ける。
「難攻不落の城などと言うものはこの世には存在しません。敵は外だけにあらず、と言うことを仰っていました」
少女の言葉はさらに続いた。
「ちなみに、お二人のことも私はよく存じておりますよ」
「ふむ。良い目と耳をお持ちだね」
心中では一瞬驚愕したものの、遼太郎は落ち着いて対応して見せる。
「ただ、強く光れば遠くでも見える。音が大きければ遠くでも聞こえる。それだけですよ」
(なるほどね……)
少女の言葉を吟味しながら遼太郎は彼女の様子を観察する。
洗練された穏やかな服装に、ゆったりとした落ち着いた雰囲気を纏わせる少女。そして遼太郎の存在をすでに把握していること。
遼太郎の中でとある人物が思い浮かぶ。
「竹中さんは凄い人なんだね」
遼太郎が少女に向けて話す。
「そうでしょうか?竹中さんならば、そんなことはないと仰ることでしょう。彼女はただ、美濃を愛するが故に行動したんだそうです。盛者必衰の理とは言え、あまりにも酷すぎることが悲しい、と……」
詩乃と名乗る少女が、遼太郎に言葉を返す。
「うん、愛ゆえか。俺そう言うの好きだね。一件冷静に、淡々と生きてるように見えて実は心に己の誇りを抱えて、貫き通そうとする。そういう人は凄い尊敬出来るし、憧れるよ」
「………………」
遼太郎の言葉に少女は無言となる。遼太郎はさらに言葉を重ねる。
「今度竹中さんに会ったら伝えておいてよ。そうだな、……その頭脳と想いを持つあなたを馬鹿な奴らの元に置いておくなんてことは出来ない。だから、いつか必ず君を手に入れて見せる、ってね」
「…………っ!!?」
遼太郎の宣言に目の前にいた詩乃と名乗る少女がこの場で初めての驚きを見せる。揺れ動く前髪の間から彼女の綺麗な瞳が見える。
その瞳を遼太郎は目をそらさずにじっと見つめる。
「わ、私は竹中殿ではありませんねありませんよ……」
遼太郎のあまりの圧に少女が困った様子になる。
「あははっ、わかってるよ。ただ、ちゃんと伝言よろしくねってお願いしてもいいかい?」
遼太郎の依頼に少女は数秒じっとした後に、コクッと頷いてくれる。
「それじゃあ俺たちは戻ることにするよ。ひよ、帰ろう」
「ひゃぁっ!は、はいー」
少女と遼太郎の会話の最中、ほぼ置物となっていたひよ子を連れて遼太郎はその場をあとにした。
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「ふむ、あれが天上人及川遼太郎、ですか…。まさかあれほどの人物だとは…」
先程まで遼太郎と話をしていた詩乃と名乗る少女がポツリとこぼす。
「ですが、あんなに激しく求められたのは生まれて初めてです…」
少女が少し顔を赤らめて、手を胸の位置に添える。
「この……胸のときめきは、どう言うことでしょう…?」
すでに遼太郎達が立ち去った井ノ口の町の片隅で、一人の少女がそんなことを呟くのであった。
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翌日、遼太郎は清洲へと到着し、久遠へ報告をするため久遠の屋敷に赴いていた。
「ふむ、なるほどな。先日転子より報告された情報に誤りはないと。そして町のようすもあまり良くなかったと……」
一通りの報告を受けた久遠が考え込むようにしばらく口を閉じる。
「それにね、これは俺の主観も混じるんだけど、多分竹中さんは美濃を出ると思うんだ」
遼太郎は己の感じたことを久遠に話す。
「賢者をみすみす逃すと…。蝮の孫とは思えん龍興のことだ。そうなるだろうな」
久遠と遼太郎はお互いに口を閉じ、現状を整理する。
(どうしようかな……)
遼太郎はすでに自身の想いを詩乃と名乗った、竹中半兵衛に伝えている。それを久遠にどう説明したものかと考えていると…
「我はお前の考えを支持する。だから、好きにやると良い」
そんな遼太郎を見透かしたよう久遠。これには遼太郎も思わず心の中でお手上げ状態である。
「お見通しって訳か…でもありがとう。俺、行こうと思うよ」
「うむ、ならこれを持っていけ」
行動を起こすため立ち上がろうとする遼太郎に久遠が巾着袋を渡す。
「へそくりだ、結菜が妻として纏まった金を管理してる故、今はその程度しか出せん」
「いや、十分だよ。ありがとう久遠」
「いや、このくらいは当然なんだ。当初は我の横に座っていてくれれば良いと言っていたのに、いつの間にか割ればお前を頼ってしまっている。だから、せめてしてやれることはしたいのだがな………」
久遠が少し俯いて申し訳なさそうな表情をする。
「そっか、そう言えばそうだったな。けど、決心もついたし、これは俺が言い出しことでもあるんだ。久遠が気にすることじゃない」
遼太郎は、気にしていないようにして言う。
「だが、会って間もないお前にこんなことを我は……」
「まったく、熱でもあるのか?」
久遠の普段とは違う雰囲気を感じ、遼太郎はそれでも食い下がる久遠に対して、彼女の額に手を当てる。
「なっ!?こ、このうつけめ!熱などあるか!」
「なら、気にしすぎってやつだ。俺は自分の行動に納得してるんだから、それでいいんだよ」
「納得…しているのか?お前はそれで…」
尋ねる久遠に遼太郎ははっきりと答える。
「ああ、なんて言うかね。可愛い嫁さんの為ってことかな?だからこれくらいはさせてほしいんだ」
「なっ!?なっ!!?」
若干おちゃらけて言う遼太郎であるが、半分正解で半分は不正解な返答である。遼太郎も気恥ずかしくて全ては言えていなかった。
「それじゃ、俺行ってくるから!」
「あっ!?おいっ!」
久遠が怯んだ一瞬隙に、追求を免れようとした遼太郎が部屋を後にする。久遠はそんな遼太郎を追おうとするも、遼太郎すでに出ていってしまった後であった。
遼太郎がいなくなってから、久遠は一人ぼんやりと遼太郎が出ていった廊下を見つめていた。
「久遠、ちょっといい?」
結菜が別の襖から入ってくる。
「ゆ、結菜…、いったい何時から…」
どこまで聞かれてしまったのか、そんな考えが久遠によぎる。
「へそくりの所からよ」
「むっ!?あ、あれは別に万が一の時に貯えていたたけだ。それに遼太郎に全てやってしまったからな。没収するようなものはないぞ」
「それはいいの、久遠。それよりさっきまで心ここにあらずって感じだったわね」
へそくりのやり取りから居たのならば、遼太郎が出ていった後も見られてしまったことは当然であろう。
「う、うむ………、なぁ…結菜」
間を置いた久遠が結菜に渋々と何かを尋ねようとする。
「なに?……もしかして胸が痛い?」
「なっ!?なぜわかった!?」
質問する前に結菜に指摘された久遠が驚嘆の様子を見せる。
「はぁ……やっぱり…」
そんな久遠に結菜は、そんな気がしていたと言わんばかりな様子である。
「あのね、久遠。私、数日家を開けるわ。だから自分のことは自分でやってくれる?」
結菜が久遠にそう告げる。
「え?ああ、それくらいは構わないが……どこへいく?」
「野暮用よ。だからよろしくね」
「うむ、気をつけていくと良い」
どうやら結菜も何処かへ向かうようで、久遠の残し結菜も屋敷を後にするのであった。
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戦国恋姫とバイオハザードのプレイ経験について
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