俺の毒ガスアカデミア   作:マスタードガス

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プロローグ

 個性。そう呼ばれるのが個々の特性から個々の異能に対して使われるようになったのはほんの少し昔。

 世界に認知されてからは、人間じゃない殺せと騒ぐ者、人間で認めてくれと嘆く者、進化した人類だと誇る者、知ったことかとただただ力を振るう者様々だった。

 

 だがまあ、進化が正しいのだろう。徐々に徐々にその数を増やしていったのだから。

 そして異能者が増えれば、旧世代の論理も規則も何の役にも立たない。中には見上げるほど巨大化する者、触れた物を腐らせる者、磁気を支配する者、様々な者達が旧時代ヒーロー漫画の適役(ヴィラン)のように暴れるのだ。

 

 対抗するのは、当然英雄(ヒーロー)

 

 目覚めた異能を私利私欲ではなく人々の為に振るう者達。政府と協力し治安維持に努めた者達を、人々は何時しかヒーローと呼び、ある程度生活が戻ってきて、人々は異能を管理する制度を作り、制度を破る犯罪者に対抗するための制度を生み出す。今のヒーローと呼ばれる職業のことだ。

 

 

 

 

 そしてそんな世界を描いた漫画の名を『僕のヒーローアカデミア』。俺はその世界に転生した。

 

 転生の個性とか、偽りの記憶を得る個性とか、そういうのではないだろう。事実、俺には別の個性がある。

 

 個性、ガス。父親の『毒』と母親の『霧』の複合個性。自身の汗を毒に変える父同様、汗腺から毒を体外に出し揮発性の高いそれは母の『霧』の個性同様操れる。

 

「………………これマスタードじゃね?」

 

 誰それ、と思う人に説明すると、マスタードとはヴィラン連合に所属していた毒ガスを操る個性を持つヴィラン。

 

 発生させたガスには自分自身も影響があるためガスマスクが必要。ただしこれは鉄哲の言葉なので正確には不明。

 どっかで明かされてんのかもしれんが俺は知らん。

 普通自分の個性に対して耐性を持つらしいから、多分それなりのガスには耐えられる。

 

 そんなことより重要なのは、敵に転生したという事。憑依転生? まあ悪人だし、そいつの人生を取った罪悪感はあんまり湧かない。両親に悪いという気持ちはあったが、なら家出したら余計に心配かせそうだから子供のフリを続けた。

 

 ヒーロー? 目指す気はない。年齢的に原作には関われないし、関わろうとして個性を使用すれば敵扱い。

 俺一人存在しなかったところで、物語に大きな影響は与えないだろう。多分………。慎ましく、一人の人間として生きていこう。そう思った………

 

「まあ、こうなるのは予想外だったけどさ……………」

 

 個性の暴発。変な蜂に刺されて、突然個性が暴れ出した。結果として周囲一帯を毒ガスで包み込み、5歳にして逮捕歴を持った。

 

 トリガーだっけ? ヴィジランテの方は詳しく知らねえんだよな。

 時期的に早い気もするが、まあそう言うこともあるだろう。

 

 幸いにもそういう事件が多発していたからか、あくまで被害者として扱ってくれるらしい。

 空中設備がちゃんとした隔離病棟に押し込められ、個性が爆発しないようある程度訓練も義務付けられた。個性が意図せず他者に影響を与える………炎や雷、爆発に融解などの個性暴走経歴持ちは必ず受けるらしい。

 

 後、公的記録に残りヒーローを目指すのは絶望的だと言われたが、まあ別に目指す気はないし。毒耐性を持つヒーローのサイドアタックか毒耐性を持つサイドアタックを雇ったとしても、一般人を巻き込むからね。

 

 ヴィランとヴィジランテもヒーローも目指さず、安らかな人生を満喫しよう。俺は、それだけで良かった。良かった、はずなんだがな。

 

 ハサミの使い方を知った子供が紙を切るように、クレヨンを持った子供が落書きするように…………あったら使いたくなるのが人の性。

 今まで我慢してきたが、個性訓練で使い、どこまでできるか欲が出た。

 

 例えば原作のマスタードは本当に毒の耐性がないのか………結論から言えば人より耐えられる程度。

 他にもどの程度操れるのか………これは修行次第では空気操作を真似できそう。

 ガスの成分をいじれるのか…………そもそも知識がないから不可能。

 

 で、一番気になったのが揺らぎの感知。レーダーのように使えるそれで、どこまで出来るのか。

 最初はなんか変な気分。体から離れた場所のはずなのに、ガスを何かが動かすとこう………産毛を攫わられてるような?

 

 その感覚を鍛えて、空気の振動………音を感知できるようになった。後はどの程度薄く出来るとかやってみたんだ。

 

 毒の濃度も変えられたから、毒としてとても薄く、ガスとして見えないぐらい希薄に。ちょっとした恋愛事情とか聞いて笑ってたら、聞こえてきた。

 

「親が殺されたって、両親とも………!?」

「ああ、ガス被害者の復讐だ」

「でも、死者は後遺症を持つ人は居ないって………」

 

 デートに遅刻して彼女に振られた男が、ウチの両親を襲撃して殺した。母さんに至っては………。

 実際、理由は何だってよなったのだろう。その男はその後何度も事件を起こしたらしい。ヴィラン認定されて、追われている。

 

 近所は、関わらなかった。悲鳴が聞こえなかった訳では無い。でも騒ぎを起こした子供の親である俺の両親は近所から村八分にされ、ヒーローに通報した事を知られ周りから責められるのも嫌だった。

 

 どうせヒーローが来てくれる。来てくれなかったとしても、あんな奴等が死んだところで何だというんだ…………。

 

 

 

 

「むしろいい気味、だっけ?」

「あ、ぐぅ…………」

 

 毒ガスで痺れ、呻く女を前にそう尋ねる。

 別に、悪いのは襲ったヴィランだってのは解ってるんだ。でも、通報しなかった自分達を正当化する為に、世間から責められてる自分達を被害者にする為に死者を詰り続けたこいつ等に何も思わない筈がないだろ。

 

「こ、こんな………わた、し………ここまで、され………」

「されるいわれはないって? 母さんに石投げて、気絶させて逃げたクソガキにいいことしたのよ、なんて褒めたそうじゃねえか」

 

 そのガキももう殺したけど。

 

「まあ、悪いのはクソヴィランだ。そいつも殺す。でもまずは、お前達。特にお前は必ず殺す。ガキの件だけじゃねえよ。お前俺の親父に昔惚れてたんだってな? 母さんの背中の傷跡、お前が悪戯で酸ぶっかけたんだってなあ? 事故じゃねえよな、知ってるよ。殺す為に調べたんだ。俺ってばこの期に及んで悪人になりたくなかったんだ。でも最初殺したら、なんかすっとした。俺は、お前等を命として見れないんだ。両親だけだったんだよ、俺を世界と繋いでくれていたの。後に残るのはキャラに対する快、不快。ヒーロー物の騒ぐ民衆ほど不快なキャラって無いよな? あれも殺そう、何時か絶対。ああでも、そうすると好きなキャラが頑張ってるのに無意味になりそうだなあ」

 

 訳が分からないと怯える目を向けてくる女の視線に気づき、ああと思い出す。こいつ殺しに来たんだった。

 

「溶けちまえ」

 

 高濃度の酸性ガス。まずは粘膜に激痛を与え肺を爛れさせ皮膚を溶かし神経を刺激し肉をグジュグジュに腐らせる。

 酷い臭いだ。ガスで風を作り換気する。

 

「……………あ〜、やっちまったな。やり終えちまった。どうしよう、自首するかな」

「それはつまらないな。もっと素直に生きよう」

「!?」

 

 ただの独り言。それに言葉が返され、反射的にガスを放つ。が、突風と共に返された。

 

「あづ!?」

 

 酸性の毒ガス。咄嗟の事で濃度は低かったが、それでも皮膚が焼けるような痛み。片目が失明した。

 半分になった視界に映るのは、工場のような牌譜だらけのマスクをした男。

 

「君を迎えに来たんだ」

「……………迎え? 悪の魔王が、随分な評価だな」

「へえ…………驚いたな。君は、ただの一般人だと思ったのだけど? 記憶も変だ、赤ん坊まで読み取れるのに、僕を知る機会なんて一度もない」

「……………記憶、読めるか。あんたなら」

「ふむ…………興味深い。まあ、場所を変えよう。直にヒーローが来る」

 

 ドロリと黒い液体が現れ俺の体を包み込む。

 やがて黒い液体から吐き出さされ、そこは見覚えがない妙な部屋。

 

 カプセルの中に浮かぶ脳がむき出しの異形。それがいくつもある。

 

「これも、知ってるかな?」

「脳無…………」

 

 男は楽しそうに笑った…………気がした。

 

「未来予知? いいや、君の個性は一つだ。或いは、記憶や感情を隠しているように、戸籍を隠す個性でもあるのかな? だとすると、他にも個性を奪う個性が?」

「ねえよ」

「ああ、冗談さ。隠しても見つけることは出来る。それに、実は転移してすぐじゃないんだ、今。君の記憶を書き換えたけど、一度個性を奪ったみた」

「!?」

 

 思わず自分の体に触れる俺に対して、男はやはり楽しそうだ。

 

「例えば、未来で生まれた記憶だけのタイムスリップが可能な個性が君を過去に飛ばした。とも考えたのだけど、それならもっと有用な相手は居るだろう。現に君はヴィランとなった」

「で、今度は俺の記憶でも見るか?」

「それも試したよ。記憶を除いて、洗脳によって君自身に語らせようともした。でも失敗した。君はとたんに、その言葉を口に出せなくなった」

「……………────────!!?」

 

 声が出ない。出そうとした言葉が、音となって伝わらない。ガスを操り文字を作ろうとしてみるも、失敗。

 

「それは君をどうしようと知れないんだろうね。だから、知るのはこの際諦めよう」

「…………………」

「君はこの社会をどう思う?」

「………………………」

 

 応えは聞いてないのか、勝手に語り始める。

 

「個性を抑制し、暴発させればとたんに悪者。それが誰かの手による強制的な暴走でもお構いなし。縛り付けられた鬱憤は、自由に使ったものに向けられる。ヒーローアンチなんかが良い例だね。君はその被害者だ。ああ、ヒーローに任せきりの 現状の被害者でもあるね」

「…………御託はいい。ようは、この世界をぶっ壊す手伝いをしろってか?」

「そうだよ。困ったな、君はあの子のように恨んでいないんだね。じゃあ、君の両親を殺したヴィランを死ににくくして気が済むまで壊させようか?」

「それもありだな。ああ、じゃあそれってことで良い」

「ふむ………」

「なってやるよ、お前の部下。世界を壊そう、人を殺そう…………その果に推しキャラ(ヒーロー)にやられるなら、俺も少しは生きてる実感が湧くかもしれない」




マスタード(本名:■■■■)
個性:ガス
毒ガスを操る。毒ガスのゆらぎを感知してレーダー代わりにできる。空気の振動を感知して音も聞ける。
ガスの成分を変えられるようになった。毒ガスを生成して体内に押し止めることにより毒への耐性を少しずつ鍛えている。
名前の元ネタマスタードガスって、やばいよね。

命を命として見れないため、自分が生きてる実感もあまりない。デクかオールマイトに本気で挑んで殺されば少しは生きた実感覚えるかもと思ってる。
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