【転生したらスライムだった件】世界を旅する、貴方を見守る 作:すっぱい調味料
彼は世界を愛していた。彼に話し相手として作られた私も彼を彼が作ったすべてを愛していた。
世界が彼を殺しても彼の腹心が国を滅ぼしても人類が戦争を繰り返しても彼が作ったものたちがどんなことをしても、私も世界を愛していた。
眩い光が見えたらその光にただでさえ素晴らしい己がどう素晴らしいものになったのかを囁き、それが更に輝けば力を与え、そのまばゆい光が在り方を変えてしまえばそれを嘆きつつもこれからの道を教える。
そんなことを幾千幾万年と続けていた。異界にいる子達のことも忘れずに見守り続けた。美しい世界のすべてを見守るには私一人の身体では足りないと感じていたけれど、私は世界が壊れないようにその兆候を見逃さないようにしなくてはならない。そう思っていた。
ある時見覚えのある輝きが見えた。死の間際に自らではなく他人を心配する人間が少し気になって世界を覗く。
あぁ、彼だ。
そう、漠然と思った。
なんの気まぐれかそっと囁く。いつもならこの世界には干渉しないのに。それでもそうしたいと、久しぶりに自我が顔を出す。
囁く。
彼の意思に沿うように。
囁く。
あの世界に合うように。
ここまでするのは少しやりすぎかもしれな。それでもたまには良いだろう。彼であろうと彼でなかろうときっとこれは正しいのだ。
彼とともに旅をしよう。そうと決まれば身体を作らねば。もともと彼が作った姿形を少し変えたものでいいだろう。
彼と私はとても似ているからそこにだけ気づかれなければ大丈夫。彼は髪が長かった。では私は短く。いや彼は私の髪を梳くのに一時期はまっていた。であれば前側だけ長くしておこう。あぁ、この存在値のままであれば直ぐにバレてしまう。しかしスライムの身体を作成できる私なのだから力を抑えた身体を作成するくらいならお茶の子さいさいなのだ。
《確認しました。勇者の卵を持つ人間と同等の存在値に抑えた並列存在を作成します・・・成功しました》
あとは、スキルが多少ないと彼とともに旅はできないだろうし強すぎないくらいのスキルを獲得しておこう。彼が獲得したスキルくらいでいいだろうか。
《確認しました。『刺突耐性』『物理攻撃耐性』『痛覚無効』『熱変動耐性』『電流耐性』『麻痺耐性』を獲得・・・成功しました》
うん。これくらいで大丈夫だろう。そっと、新しく作り上げた身体に入り込む。あとはこの身体を彼がいるところに送るだけ。ふっと目をつむると眠るような感覚が身体を包みこんだ。
身体を竜種の魔素が包む感覚とともに目を開く。目の前にはぷるんッとした流線的で洗練されたスタイルを持つスライムが。澄み渡る空のような水色をした可愛いらしいスライムがズルリと這って草に近づく。草が溶けていくのに驚いたようにほんの少し動く彼。自らがスライムに成ったと気づいたようで大変愛らしい。ついつい触りたくなってしまうその魅惑のボディの虜に鳴ってしまいそうだけどとりあえず彼がどう過ごしていくのか見守っていくことに決める。ゆっくり進んでいく彼の後ろを私もゆっくりと進んでいく。
《確認しました。ユニークスキル『見守人』を獲得・・・成功しました》
ふふふ。ミマモルモノか。そうね、見守っていきましょうね。
もしゃもしゃ。
もしゃもしゃもしゃ。
かわいいかわいい彼は草を食べていた。この世界に来てから大体90日ほどたって彼はやっとスキルを確認しているみたいでずっと草を食べていた手(身体?)を止めて何かを思案しているようだ。本当はその魅惑のボディをぷにぷにと触ってみたいけどスライムには目はないし魔力感知を持っているわけでもないのでいきなり触るとびっくりしてしまうだろう。私が欲望と戦っている間に確認を終えたのかずるりずるりとゆっくりと動き始める彼。ゆっくり動く彼の後ろを私もゆっくり歩いてついていく。
どぽんッ。
ほんの少し、えぇ本当にほんの少し目を離した隙に彼は地底湖に落ちてしまった。どうしようかとしゃがみこんで湖を眺めていると水の中で浮いたり沈んだりを繰り返すその水色の姿を見つけた。まあ、スライムの身体は魔素で動くから死ぬことはないだろうけどそのまま動くこともできないだろう。泳いで助けようかとも思ったがよくよく考えると私の身体は人間と同じなのであまりに深いと酸素不足で死んでしまう可能性がある。食事が必要だと気が付かずに一週間くらいずっと彼を見続けていたら倒れてしまったときはどうしたものかと思ったわ。今はピポクテ草をすりつぶした汁を飲んで生きているけど。さてはて彼をどう助けようか。そんなことを考えながら水の中を見守っていると彼が水の中で凄まじいスピードで一気に進んだ。あらー、と見ているとどこかに止まることなくそのまま勢いよく流星のように飛んでいってしまった水色の姿。えっと、、、これを追いかけるのはなかなかに骨が折れそうね、と。とりあえず私は奥深くに行ってしまった彼を追いかけることにした。
地底湖に落ちてしまった俺はなんやかんやあって出会った暴風竜ヴェルドラと話をしていた。
そのヴェルドラが教えてくれた『魔力感知』というスキルのお陰で俺は全方位三百六十度死角なしで視ることができるようなったのだ!ちょろいと思っていたヴェルドラさんもガチのまじで竜でかなり失礼な態度を取った気がしてだいぶ焦ったが今更かもな。ハゲとか言っちゃったし。。。。
(おい、約束は覚えているな?というか、文句を言っておったが、あっさりと習得しおって・・・)
(勿論っすよ!軽い冗談です。周囲も見えるし、音まで聞こえます。助かりました!)
(ふん。もっと時間をかけて習得しても良かったのだがな・・・)
なんて軽口を叩きながらヴェルドラと話を続けているとこの世界のロマン溢れる話をいろいろ教えてくれた。勇者の話。召喚者の話。さまざまなことを俺に教えてくれたヴェルドラのことを俺は恐ろしいと思わなくなっていた。そういえば、とヴェルドラさんがおそらく俺が来た方であろうほうに指(いや爪?)を指す。
(先ほどから入口付近でこちらを見ている人間は知り合いか?)
え!人間!?ヴェルドラが指さした方向に意識を向ける。入口からこちらを覗いていたその人は俺達が見ているのに気づいたのか傍まで歩いてくる。
夜空のような深海のような深い深い青い髪。長いまつげの隙間から覗く瞳は月の光のような金色。美しいというよりもはや神々しいとも言える見た目に俺は見惚れていた。
(あ、あに、、、うえ、、、、?いや、、違う、、、か?小さき人間よお前は何者だ?)
ヴェルドラさんも困惑しているみたいだがその人も困惑している様子。まあ、俺も困惑しているが。
(私に、話しかけているの?)
こてんと鈴を転がすような声が頭に響く。男とも女とも言えない見た目だったけど声的に女の人みたいだな。ていうか俺にこんな美人の知り合いなんていないしほんとに誰なんだろう。もしかして俺と同じ異世界人とか?なんて考えているとぷにぷにとその人が俺を無遠慮に触ってきた。
(もしかして、彼は魔力感知を習得したの?良かった。ずっと触りたいと思っていたのだけど、流石に目が見えない状況では怯えられると思っていたの)
ん?ずっと?俺は恐る恐る聞いてみる。
(もしかして俺のことずっと見てたんですか?)
その人はふにゃっと顔をほころばせて答えた。うわきれい。
(ええ。ピポクテ草を食べたり、地底湖に落ちたりしたところも、ずっと)
ひぇ、このお姉さん何者!?そんな怯えている俺を横目にヴェルドラはハッと気づいたように声を上げる。もしやこのお姉さんが何者かわかったのか!?
(もしやお前も我とトモダチになりたいのか?だから我とコヤツをずっと見ていたのだろう?)
いや、そんなことは言ってないと思うんだけど!?自信満々過ぎてお姉さんも困惑顔だよ!?
(ううん、、、トモダチ?ヴェルドラ、と?えぇと、、そう、そうね。トモダチ。うん、いい響き、懐かしい、、響き。いいわ、私も、トモダチになりたいの)
えぇ、それでいいの?お姉さんもヴェルドラもちょろくない??まあ俺はいいんだけどさ。
(じゃあ、宜しく!)
(ええ、宜しくね)
(宜しくの!そうじゃ、お前たちに名前をやろう。お前たちも我に名前をつけよ)
(は?なんでだ?突然何を───)
(同格という事を、魂に刻むのだ。人間でいうファミリーネームみたいなものだが、我がお前たちに名前をつけるのは、【加護】にもなる。お前たちはまだ【名無し】だから、これで名持ちの魔物の仲間入りが出来るぞ)
(え、それお姉さんは人間だから別なんじゃないか?)
お姉さんは人間みたいだし魔物じゃないけど!?ちょおねえさーん!そこんところどうなの!?
(私には名前は無いし、加護自体は受けれるから、問題はないと、思うわ。そうね、これは、家の偉い人に新生児の名付けを任せるようなもの。心配してくれてありがとう )
これまたお姉さんは朗らかな笑みを浮かべたのだが、名前が無い?え、お姉さん本当に何者??それにお姉さんなんか話すとき詰まってる?やっぱり人間だからこういう会話の仕方って魔物特有のやつで難しいのか?
(そういうことなので二人で考えると良い!)
ヴェルドラさんは考えなさすぎなのでは?? もしかしてここにいる常識人って俺だけ??
うーん、つまりファミリーネームを考えろってことか。うむむ。
(お姉さんは何かいい案はある?)
(そうね。ヴェルドラを、象徴するものなんかがいいんじゃないかしら?)
ええ?ヴェルドラを象徴するもの?暴風竜、暴風。あ、
(暴風だから、【テンペスト】とかでいい・・・かな?)
(決まりだな!!素晴らしい響きだ)
気に入ったのかよ!ていうかほとんど独断で決めたようなものなんだけどお姉さんはいいの!?
(テンペスト、、、嵐、、、いいわね!)
あ、問題なさそう。お姉さんは天然な人なのかな。
(今日から我はヴェルドラ=テンペストだ!そしてスライムであるお前は・・・【リムル】の名を授ける。リムル=テンペストを名乗るが良い!!)
そして、とヴェルドラは続ける。
(人間であるお前は【ステラ】の名を授けよう。ステラ=テンペストを名乗るがいい!!)
その名前は、俺の魂に刻まれた。見た目にも、能力にも変化はない。だが、魂の奥深くで、何かが変化した。
それはまた、ヴェルドラにもお姉さん、いや、ステラお姉さんにも言えるはずだ。
こうして、俺達は友だちになったのだ。
初投稿です。みなさんは上位存在な人外ってお好きですか?私は好きです。フェルドウェイの顔面がど性癖どストライクだったのとヴェルダナーヴァ様の性格がめちゃくちゃ好きすぎてこんな主人公が出来ました。3話までは出来てはいるのでそこまでは安心してくださいませ。