【転生したらスライムだった件】世界を旅する、貴方を見守る 作:すっぱい調味料
私達は外に出るために洞窟の入り口付近にまで移動していた。途中洞窟の中を歩いていく中で地面が岩や石でできているせいで私の足がずたずたになっていたという問題もあったがリムルが生成していた完全回復薬により治ったのでそこまでの問題ではなかった。それにこの程度傷とも言えないと漫画の中で言っていたと記憶にある。しかしリムルにとってはそうでなかったようで
(もう!ステラ怪我してたなら言ってくれ!)
と叱られてしまった。そこまで言われることではないと思う。
「痛覚無効で、気付かなかったわ。ごめんなさい」
私は知っているのだ。こう、首をこてんと右か左に傾かせ手を合わせることによって叱られた場合に許される確率が上がるということを。
(そういう仕草しても許さないからな!)
怒ったような模様が表面に浮き出ている。知性を持ったスライムはこんな感情表現をするのか、なんて考えていたのも見透かされたようで更に怒られる羽目になったのだった。
(ステラは目が離せないな)
なんてリムルが思っていたのはステラの知る由もないことであった。
それにしてもリムルもこの30日間で随分とスキルを増やしたものだ。あまりにも高頻度過ぎてスキルに関する情報は解析しないことを決める程に。魂に定着したことによって効率よくなっていた『見守人』が情報の嵐で私自身の演算領域にまで足がかかりかけたのだ。私の演算領域は自分自身の妖気をリムル以下に抑えたり存在値の隠蔽をしたりするのでぎりぎりなのにそこにさらに別の情報が重なるというのはなかなかに地獄だった。おかげさまで発声が出来るようになって嬉しそうなリムルは可愛かったが私はだいぶ疲れてしゃがみ込んでしまうこととなった。でもそのたびにリムルが魅惑のボディで足にぽよっと乗ってくれるのが可愛かったことも特筆しておこう。
(なあなあ、ステラはこの扉開けれそう?「水刃」で切り刻むか「捕食者」食ってしまおうと思ってるんだけど)
「それで、いいと思うわ。この扉、古いからそうそう、開きそうにないもの」
ギギギ、という音ともに少しづつ空いていく扉。私達は示し合わせたかのように物陰に隠れた。
現れたのは男2人、女1人というパーティーの冒険者。男2人は人間みたいだけど女の子は風精人みたい。それにしても竜なんて所詮大きなトカゲだなんて随分な言いよう。
(リムル、私、少し叱ってくるわ。ヴェルドラは、トカゲじゃないもの)
(ちょちょちょ、ステラだめだぞ!?ヘタしたら殺されちゃうかもしれないし!とりあえず慎重に!)
(無知は罪、という言葉が、あるでしょう?)
(それでも!)
(むむむ、わかったわ。でも、ヴェルドラは、トカゲじゃないわ)
(わかった、わかったから!)
そんなことを話している間に三人組の冒険者は隠密技術を使い奥に向かっていった。リムルは覗き見し放題とかケシカランとか言ってたけど、男の子ってそういうものなのかしら?魔力感知が強ければすぐにバレてしまうでしょうに。
(おーい、外に行くぞ?)
(わかった。今、行くわ)
(コケないように気をつけるんだぞー)
そんな事を考えていたらリムルが先に行ってしまった。追いかけるように走り出す。
リムルと私にとっては120日ぶりの外。久しぶりのというか、この身体では初めて浴びる陽の光に目を細める。
外に出てからのリムルは洞窟の中よりも活発に活動していて散策にスキル練習、発声練習などを繰り返していた。確かに洞窟内とは違い魔物に襲われないから平和だしやりたいことも出来るだろう。途中で牙狼族の狼に威圧してしまっていたのだがもしかして思念の調節の方法がわかっていないのかも?可能性としてはあり得るわね。なんて考えながら木のみを食む。
ああ、そういえば、と
「ステラはさ、こう、聞いていいのかわかんないんだけど、言葉に詰まっちゃうのとかよく躓くのってなんか理由あるの?」
いや躓くのに理由とか聞かれても困るか、なんていいながらぷらんと木からぶら下がっているリムル。目の前で魅惑のボディが揺れているのを見せつけられる私の身にもなってほしいものなんて会話をしたばっかりなのだけど。。
「あ、答えづらいならいいんだけどさ!」
そうやって私を気遣ってくれる優しい子。リムルはとってもいい子だわとリムルを抱えあげてよしよしと撫でる。
「私は、ずっと演算し続けているの。それに、頭をほとんど使っていて、身体に使える分が、少ないから」
話したいことはいっぱいあるのだけど女性体にしたうえで演算領域が全く足りないのだ。お陰で少しづつしか言葉にできないので仕方無しに簡単な言葉として口に出している。進化すればもう少しマシになるのだろうけど少し恥ずかしい気持ちもある。
「え、会話とか身体を使うのにも計算がいるの?」
え?
「要らないの?」
え?という言葉が2人の揃った音として出てくる。2人の中に微妙な雰囲気が流れる。その雰囲気を壊すようにガチャガチャという音ともにゴブリンが現れた。まあ気付いてはいたのだけどやっぱり魔力感知が2番目に容量を食べてる気がするわ。
「ぐがっ、強き者よ・・・」
「この先に なにか用事がおありですか?」
警備隊か何かかしら?恐る恐るといった様子で聞いてくるゴブリン。たしかにこんなに妖気を抑えないでいるリムルがいれば警戒するのも当然か、なんて考えている間にゴブリンたちの村に行くことになった。とってもいい子なリムルだからきっとこれからされるであろうお願いにも聞いてくれるだろうなとそう思う。そういえばリムルも思念を伝えて声に出す方法を覚えたみたいだ。私としてもそのほうが助かるしリムルのために聞き取りやすいよう同じ言語で話すのもなかなかに骨が折れていたので助かった。
私を気遣ってくれたのかゆっくりとした足取りでゴブリン村に向かった。リムルの後ろに座って村長の話を聞いているとヴェルドラが消えてしまった事により魔物たちが縄張り争いを始めてしまい弱いゴブリンは淘汰されそうなのだと。どんな生物も見張るものがいなくなれば欲が出るのは普通のこと、きっと牙狼族の子もそうだったのだろうと予想できる。さっきの牙狼たちは弱そうなスライムだと思ったら制御の出来ていない思念を直に浴びてしまったのだ。少し可哀想だとも思うがこの世の摂理は弱肉強食。仕方のないことだろう。村長とリムルの話しを我関せずといったように聞いていたのだがやはりリムルはお願いを聞いて上げるらしい。ちゃんと見返りも求めていてとっても偉くていい子。
「まるで自分は関係ないみたいな感じだしてるけどステラも手伝うんだぞ?」
「私は、リムルと一緒、ならそれで、いいわ」
私にとって大事なのはリムルと一緒にあること。それだけなのだ。そんなやり取りを交わしていると狼の遠吠えが聞こえた。そしてその声とともに怯え焦るゴブリンたち。
「怯える必要はない」
リムルの声が響き渡る。そしてリムルは続ける、明確な意思を、思念を持って。それが思念を介し会話する魔物たちにとってどれほど安心させるものなのかを知ってか知らずか、それは本人にしか分からないことだが。
「お前たちの願い、暴風竜ヴェルドラに代わりこのリムル=テンペストが聞き届けよう!」
「私も、少しではあるけれど、助力、しましょう」
私も明確な意志と思念を持って伝える。私なら、リムルが主導であればこの程度の干渉は許されるだろうとそう、判断して。
「「我らに守護をお与えください。さすれば我らは御二方の忠実なるシモベでございます!」」
そういい跪く彼らを眺めているとリムルがにやにやとした顔で話しかけてきた。これはからかわれる予感。。。
「やっぱりステラも手伝ってくれるんじゃん」
その言葉にほんの少し目を見開く。まるで私が手伝わないと予想していたみたいで少しムカつく。
「私は【見守る者】。守るのは、私の専売特許。だから、安心して」
ムカつくのでリムルは無視してゴブリンたちに話しかける。ふん、私はとっても優しいんだからという気持ちも込めて。するとゴブリンたちは元から低かった姿勢をさらに下げた。村長が代表して私にも感謝の言葉を告げてきた。別にそこまで特別なことはいったつもりではないのだけど。
「とりあえず、村を見せてもらってもいいか?牙狼族が攻めてくるなら守備も固めたいしさ!」
「そうね。できれば、負傷者のところに、行きたいわ」
「そうだな!村長案内してくれ!」
こちらです。と村長が案内してくれる。案内された先の家には負傷者が寝かされていた。濃い血の匂いと死の気配。普通であればゴブリンの生命力ではもう長くないだろうと簡単に予想できる者たちもいた。そう、普通であれば。ここはリムルに任せたほうがいいだろうと私は外で柵作りを手伝いに行くことにした。え、ちょ、ステラさん?なんて声は聞こえない。私だって怒るときは怒るのだ。
外に出ると家を壊し柵を作っているゴブリンたちがいた。木を切り倒す時間も惜しいとリムルが言っていた気がする。
「柵は、作れそう?」
「は、はい!」
村として機能していく上で柵はあるのとないのじゃ大違いだが、今回の場合は少し強度が不安だ。普通であれば支柱をはめ込むための金具を地面に据え付けたりするのだけれどそういう事ができるわけでは無いし時間もない。それに強度ならリムルが粘糸を使えるからどうにでも出来る。
「ス、ステラ様、何か、問題でも?」
私が無言で眺めていたせいでゴブリンたちを怯えせさてしまっていたらしい。恐る恐るといった様子で私の顔色を伺うゴブリンたち。怯えながら聞いてきた子の頭をよしよしと頭を撫でつつリムルを呼んできてもらうようお願いする。すぐに来てくれたリムルもやはり強度の面に不安を感じたらしく、スキルで柵を強化してくれた。
「さて、迎え撃つ準備はこんなところか」
「そうね、あとは、警備班を作って、見回りをしてもらい、ましょう」
そうだな!とリムルと一緒に見回りの班を編成する。そこまで遠くに行かずに何か異変を感じたらすぐに戻ってくるようにとも言いつけて送り出した。
「今日は、とてもきれいな、満月ね」
「そうだな。俺がいた世界ではここまで星が綺麗に見えることはないからさなんか、すっげぇ感動する」
「あら、そう?」
そんな会話をしていると遠吠えが聞こえる。魔力感知を今の私で出来るめいいっぱいギリギリまで広げて聞こえるベレベルだ。しかし遠くと言っても牙狼族の足の速さならすぐに攻めてくるだろう。ああ、ほら、私達が移動しているほんの少しの間にもう近づいてきたみたいだ。私が気づくのと同時に木の上で警戒にあたっていた1人のゴブリンが叫ぶ。
「あ!き、来たっ来たっすよ!牙狼族っす!!」
村に近づいてきた牙狼族を眺める。
本来牙狼族は東の平原で圧倒的な統率力をもって脅威とされてきた魔物だ。有能なボスが群れを率いればその群れはまるで一匹の魔物であるかの如く行動する。しかしこの群れには一糸乱れぬ行動では無い。それ以外も理由ではあるがこの牙狼族のリーダーはそこまで上に立つものとしての才能はないようだ。今は抑えているとはいえ一度報告くらいは受けたであろうリムルに対して見下すような態度で接している。見たところ長命なようだが、長命だからこその長年の経験が、スライムが自分よりも上の存在だという可能性を否定するのだろう。その経験が、致命的な間違いだとも気が付かずに。なんて愚かで可愛い狼なんだろうと、そう思っても助けることはしないけど。
リムルが仕掛けておいた『粘糸』が牙狼族のボスの身体を捉え、そのボスの首を『水刃』が狙い違わず刎ねる。これまでのスキル練習が役に立ったようで私は満足だ。リムルの性格的にきっと逃亡を望むだろうと思い話を聞いていたのにボスを失い統率が一気に崩れた牙狼族たちにリムルが服従か、死かと問いかける。
(ねぇ、その言い方だと、逃げてくれないわよ?)
(だよな!?うっかりノリで二択出しちゃった!)
それでいいのかと聞くと本当にうっかりだったらしい。軌道修正を図りわざわざボスの体を取り込み擬態をして見逃してやろう!なんてリムルは言うけどその言い方じゃあ、ほら
「「我ら一同、貴方様に従います!」」
こうなるでしょうに。魔物にとって強者に従うことは自然の摂理であり弱肉強食がこの世の絶対的なルール。そんな考え方を持つ魔物のことを理解できてないリムルがあんまりにも可愛くってもふもふの毛に顔を埋めたままリムルのために助け舟を出す。これまた魅惑のボディだわ。いっぱいもふもふもふもふしたくなっちゃう。
「リムルに、従うのであれば、とりあえず今日は、一旦休みましょう」
ね、とリムルに目配せをする。家を壊して柵を用意したことにだいぶ焦ったような様子のリムルだけど1日寝床がないくらいで簡単に魔物は死なないわと伝えて、とりあえずその日1日が終わった。