バカな執事と優秀な主   作:セイイチ

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第二話

 「試召戦争をしない?」

 

 僕の声が静かな廊下に鳴り響く。

 実は、僕はヒナが途中退席になってFクラス入りが確定してから、この事をずっと考えていた。

 

 「試召戦争か‥‥‥お前が、それをやりたい理由は分かるが、ヒナギクはそれを本当に喜ぶと思うか?」

 

 「どういう意味? 雄二? そりゃ僕等がAクラスに勝って設備を入れ替えられたら嬉しいでしょ?」

 

 試召戦争とはテストの点を使って、クラスをかけた戦争の事だ。

 ただし、使うのはあくまでテストの点数で、生徒は『サモン』の一言で自分の召喚獣を呼び出して、その召喚獣同士を戦わせるものだ。

 強さは分かりやすく、テストの点そのものが強さになる。

 その召喚獣を使って、クラス間で、クラスの設備をかけて戦うと言うものだ。

 勝敗はクラス代表がやられた時点で決着。

 下位クラスが上位クラスに勝てば、設備を交換、上位クラスが勝てば、下位クラスの設備が変わると言う仕組みになっている。

 

 「良く考えろバカ。もし俺達がAクラスに勝てたとして、俺達がAクラスの設備を頂けば、今度はAクラスの奴らがFクラスの設備を使う事になるんだぞ? ヒナギクと同じように毎日、真面目に一生懸命勉強してた奴らがだぞ? そんな事をして、あのヒナギクが喜ぶと思うか?」

 

 ヒナが自分のために人を蹴落とす事をして喜ぶか?

 そんなの決まってる。

 

 「絶対に喜ばないね。きっとヒナなら『本番で体調が悪くなったのは私のミス。それなのに私がAクラスの設備が使いたいからって、Aクラスの人達を蹴落とすのは反対』って言いそう‥‥‥‥」

 

 ヒナは人一倍、正義感が強いから、自分の利益のために人を蹴落とすなんて絶対にしないだろう。

 

 「だろ? 俺も、実はこのクラスの代表になるって決めてから、試召戦争をやるつもりでいたんだがな。そこをクリアできなかったんだよ。打倒Aクラスにはヒナギクは絶対に必要だからな」

 

 要はヒナを上手く説得できるような事がないと、試召戦争しても負けるって事か‥‥‥‥‥

 なら

 

 「じゃあ、こう言うのはどう? 僕等がAクラスに勝ったら、『もう一度試験振り分けテストを受けさせろ!』って学園長に直訴するって言うのは」

 

 これなら、ヒナはもう一度試験を行って、実力を出し切れれば間違いなくAクラスに入れるだろうし、Aクラスの人を蹴落とすような事にはならないから、完璧だと思う。

 

 「再試験か‥‥‥‥それで、他の奴らがやる気をだすか? 普通に考えて無理――――いや、いけるな。アイツ等基本バカだし」

 

 さらりと、ここに居ない人達をバカと呼べる辺り、コイツは流石だと思う。

 始める前から、皆の事をバカにしてるみたいだけど、そんな態度で失敗しないだろうか?

 凄い不安だ‥‥‥‥

 

 「よし、明久。試召戦争やるか」

 

 雄二が何でやる気を出してるのかは分からないけど、雄二はかなりやる気に満ち溢れているようだ。

 

 「試召戦争もいいですけど、まずは二人とも教室に入ってください」

 

 「あ、すみません」

 

 「おっと、こりゃ失礼した」

 

 僕等は福原先生が教卓を持って帰ってきたので、教室の中に引き返して、僕は自分の席へと戻る。

 

 「では、最後のメンバーで、クラス代表の坂本君。あいさつをお願いします」

 

 「おいーっす」

 

 雄二は適当に先生に返事をしてから、教壇の前に立つと

 

 「俺はFクラス代表、坂本雄二だ。俺の事は坂本でも代表でも、好きに呼んでくれて構わない」

 

 じゃあ、ダァァーーリィィーーンって呼んでもいいのかな?

 

 「但し、ダァリーンとか気持ち悪い名前は止めるように」

 

 あれ? 雄二が僕の事を睨んでる‥‥‥‥

 もしかして、僕の思考が読まれたんだろうか?

 

 「さて、俺はクラス代表として、諸君に聞きたい事がある」

 

 そこまで言って雄二は一度言葉を切って、教室中を見渡す。

 それに釣られて、僕達も教室中を見渡した。

 僕等の視界に入ってくるものは

 

 かび臭い教室。

 

 古く汚れた座布団。

 

 薄汚れた卓袱台。

 

 うん。やっぱり酷い教室だ。

 僕等が一通り教室の中を見渡した後、雄二は一呼吸おいて静かに告げた。

 

 「お前等、この設備に――――不満はないか?」

 

 『『『大ありじゃっ!!!』』』

 

 二年F組の魂の叫び。

 凄いな。皆の心が一つになったよ‥‥‥‥不満と言う、ただ一点のみで

 

 『だいたい、俺達がこんなボロイ教室なのに、Aクラスは冷暖房完備で、座席はリクライニングシートなんて酷すぎるだろう!』

 

 『差をつけるにしたって、この扱いはあんまりだ!!』

 

 『『『そうだそうだ!』』』

 

 それは君達が勉強しなかったからじゃないかな?

 前の席でヒナは頭が痛そうに、呆れ返ってるし‥‥‥‥

 

 「まぁ、落ち着け野郎ども。俺もお前等と気持ちは同じだ。クラス代表として問題意識を抱えている」

 

 雄二は散々煽っておいて、皆に一度落ち着くように声をかける。

 顔は‥‥‥‥‥‥ニヤけていた。

 どうやら、ここまでは雄二の計画通りに事が進んでるみたいだ。

 

 「そこで、皆の不満を一気に解消するための提案なんだが――――」

 

 雄二は自信満々に不適な笑みを浮かべて

 

 「FクラスはAクラスに『試召戦争』を仕掛けようと思う」

 

 Fクラス代表として、戦争の引き金を引いた。

 けど、他のクラスメイトは口をそろえて

 

 『無理だ。勝てるわけがない』

 

 『これ以上設備を落とされたくない』

 

 『桂さんがいたら何もいら――ぐふっっ!』

 

 こんな悲鳴が教室内のいたるところから上がった。

 まぁ、誰がどう見てもAクラスとFクラスの戦力差は明らかだから、気持ちは分かる。

 けど

 

 「さっき言い忘れたんだけど、ヒナは僕の主だから、ヒナに手を出したら容赦はしないからね?」

 

 妙な事を口走ろうとした輩には、制裁を下さないとね? Fクラスの人間がヒナに手を出すなんて論外だ。手を出そうとするなら、制裁は当然しなとね。

 さ、これで不届き者は消えたし、これで心おきなく雄二の話が聞けるね!

 そう思って、僕は雄二の話を聞こうとしたんだけど

 

 「主‥‥‥だと?」

 

 『まさか、吉井は桂さんと‥‥‥?』

 

 『これは許せんな‥‥‥‥』

 

 何故かクラスメイトは僕を睨んで、殺気を放ってくる。

 なんだこの殺気は?

 

 『吉井、何か言い残す事はあるか?』

 

 クラスメイトの一人が僕に向かって、クラス替え初日の会話としてはあり得ないセリフ吐いてくる。

 このセリフを聞くと、僕がこれから死ぬような気がするのは何故だろうか?

 

 「明久、話の腰を折るな。お前等も一旦落ち着けー。明久は家の事情で、仕方なくヒナギクの家で執事をやってんだよ。お前等が羨むような事は何もないぞー」

 

 さっきまで上手い事話が進んでいたのに、急に話が進まなくなった事により、僕に文句を言う雄二。

 おそらく話を元に戻したいんだろう。

 けど、雄二の思惑とは反対に

 

 『そんな事はどぉでぇもいい!!』

 

 『桂さんと一緒に住んでるだけで、万死に値する!』

 

 『吉井明久に死の鉄槌を!』

 

 逆に暴れだすクラスメイト達、彼らはどこから取りだしたのか、釘バットや木刀や鞭なんか持っていた。

 ‥‥‥‥‥このクラスっておかしくないかな?

 

 「だから落ち着けお前等。少しは冷静に考えろよ‥‥‥‥。明久がヒナギクの執事って事は、明久と仲良くなれば、ヒナギクとも仲良くなれる”かも”しれないって事だぞ?」

 

 『吉井さん肩でも揉みましょうか?』

 

 『いやいや、それよりも俺、吉井さんのパシリやらせていただきますよ』

 

 『吉井さん。今日もカッコいいです! よっ、イケメン!』

 

 雄二の一言に態度をコロリと返る、クラスメイト一同。

 彼らは正真正銘のバカなんじゃないだろうか?

 ヒナがこの場にいて、雄二の言葉を聞いてるんだから、今僕に近づいてきたら目的がバレバレだと言う事に気づかないんだろうか?

 実際、前の席のヒナはさっきよりも一段と深く頭を抱えている。

 きっと心の中では『このバカ共どうしよかしら?』と悩んでいるに違いない。

 

 「で、お前等落ち着いた所で話を戻すぞ?」

 

 雄二はそう言って、『試召戦争』の話をしようとして――止めた。

 何か違う事を思いついたようだ。

 

 「率直に言おう。このクラスの女子はかなり少ない。このクラスにいては、お前等に彼女ができる可能性はゼロだ!!」

 

 『『『な、なに――――!?』』』

 

 いや、こんなバカで恐ろしい連中はどのクラスに行っても、彼女なんてできないと思う。

 

 「そこで俺は、もし俺達がAクラスに勝てたら、もう一度振り分け試験を受けさせてもらえるように交渉するつもりだ。つまり、お前等は好きな女子がいるクラスに行けるって事だ!」

 

 いやいや、僕等が勝っても再試験できるだけなんだから、学力をつけないとクラスを選ぶなんてできないでしょ?

 いくらFクラスのバカでも、そんな事くらい直ぐに――

 

 『『『マジか!? 坂本!?』』』

 

 気付かなかったようだ。

 このクラスのバカは常軌を逸したバカだったようだ。

 

 「もちろんだ」

 

 『じゃあ俺達に彼女ができる日も近いって事か!?』

 

 『バカ野郎! お前より先に俺が先に彼女持ちになるんだよ!』

 

 『バーカ。俺が最初だ! というか坂本、そこまで言うからにはAクラスに勝てる勝算はあるのか?』

 

 あ、いくらバカでも勝てる可能性がゼロだと意味がない事に位は気付くのか‥‥‥‥

 

 「ああ。今からそれを説明してやる。お前等、少し静かにしてろ」

 

 雄二がそう言うと、バカ共は全員静かに雄二に従った。

 ‥‥‥完全にクラスをコントロールしてるな雄二‥‥‥

 

 「まずは‥‥‥‥ムッツリーニがこのクラスにいる。保健体育なら無敵だ」

 

 『おお! 一教科でもAクラスに勝てる戦力があるのは大きいな』

 

 ムッツリーニの名を聞いて歓声をあげるバカ共。

 ムッツリーニは、ムッツリ商会の若き社長として、ここの生徒で知らぬ者はいない位有名だから、名前効果は絶大だ。

 と言うか、このクラスの皆がムッツリーニを知ってたって事は、このクラス全員文月学園の生徒って事か‥‥‥‥

 白皇がヒナだけって言うのを見ると、どれだけここの連中がバカなのかが良く分かるな。

 

 「ヒナギクの事は、お前等でも知ってるだろう? この学校の生徒会長だ。学力はAクラストップ。下手すりゃ学年主席レベルだ」

 

 『そうだ俺達には桂さんがいる』

 

 『主席レベルの彼女なら、Aクラスにだって負けはしない』

 

 君たちの学力なら、下手をすれば五対一でもAクラスの生徒に負けるかもしれないって事をちゃんと分かってるのかな?

 

 「それに木下秀吉だっている」

 

 秀吉は学力はずば抜けて高いと言うわけではないけど、有名度はムッツリーニにだって劣らない。

 主に演劇のホープだとか、第三の性別だとかで‥‥‥‥

 

 「当然、俺も全力を尽くす」

 

 『確かになんだかやってくれそうだ』

 

 『確か坂本って、小学生の頃は神童とか呼ばれてたんだよな?』

 

 『って事は実力的にはAクラスレベルが二人もいるって事だよな!』

 

 『いける! これは本当に俺達Aクラスにだって勝てるんじゃないか!?』

 

 最初は無理だと言っていたクラスメイト達だが、雄二の説明を聞いた後は態度を一変。

 いけそうだ、やれそうだ、そんな雰囲気が教室内に満ちていた。

 士気は確実に上がっている。

 こういうのを目の当たりにすると、雄二も凄い奴なんだと実感させれるんだよね。

 と、僕が雄二の凄さを再認識していると

 

 「それに明久だっている」

 

 このタイミングで、僕の名前を出してきた。

 くそっ! 僕の名前をオチ扱いする所も抜け目がないな! 

 コイツを素直に褒めたのは間違いだったか?

 

 『おい、坂本』

 

 『アニキは確かに凄いお人だが、試召戦争で戦力になるのか?』

 

 『アニキは《観察処分者》だろ? それなら召喚獣がやられたダメージをアニキも受ける事になるんだろう?』

 

 『って事はアニキはおいそれと召喚はできないって事なんじゃないのか?』

 

 皆も僕の名前出された事で、どう反応したらいいか迷っていた。

 と言うか、『アニキ』って‥‥‥‥まだ、そのノリ続いてるのか‥‥‥‥

 

 「心配するな。明久も本来ならBかC、上手くいけばAクラスに入れるだけの学力はある。それに、明久なら別にダメージを負っても問題ない。そんな事はお前等が気にする事じゃない」

 

 「雄二は少しは気にしてよ!」

 

 僕の魂の叫び。

 当たり前だ。僕の召喚獣は特別性で、召喚獣の受けたダメージは約三割程、僕にフィードバックする事になっているんだから。

 

 「とにかくだ。俺達の力の証明として、まずはDクラスを征服しようと思う」

 

 「清々しい程のスルー!? 少しは僕の話も聞け!」

 

 こんなに直ぐ近くにいるのに、どうしてここまで僕をスルーできるんだろうか?

 

 「野郎ども! 彼女が欲しいか!?」

 

 『『『当然だ!!』』』

 

 「ならばペンを執れ!! 出陣の準備だ!!」

 

 『『『うおおーーっ!!』』』

 

 雄二は完全にFクラスのバカ共の心を掴み取った。

 言動力たりえる彼女と言うのは、雄二自身無理だと理解したうえで‥‥‥‥‥

 ヒナも『こんな騙すような事して、ホントにいいのかしら?』と複雑そう表情をしてるし

 

 「明久にはDクラスへの宣戦布告のししゃになってもらう。無事大役を果たせ!」

 

 と、雄二からありがたいお言葉。だが、ここで素直に従うのはFクラスのバカ共くらいだろう。

 僕は、あの連中とは違うので

 

 「嫌だ。大役だと言うのなら、自分で行けばいいじゃないか!」

 

 素直に従ったりは絶対にしない。

 普通、下位勢力の宣戦布告の使者は、たいてい酷い目に合う。

 それを分かってって使者になる奴はいないだろう。

 

 「俺は試召戦争での作戦を練ったり色々忙しいんだよ。それに、Dクラスは女子が多い。365度、どこから見ても美少年のお前に被害を加えるわけがないだろう? 俺を信じろ」

 

 「そうなの? なら安心だね。分かった。そう言う事なら、365度どこから見ても美少年の僕が使者に行ってくるよ」

 

 「ああ、頼んだぞ」

 

 こうして僕はFクラスの使者として、Dクラスへと向かった。

 

 

     ☆

 

 

 明久がDクラスに向かった後のFクラスでは、ヒナギクと俺が会話をしていた。

 

 「雄二君知ってる? 一周って360度よ?」

 

 「何を言ってるんだヒナギク? そんなのは常識だろう?」

 

 そんな常識を一々確認するなんて、ヒナギクはどうかしたんだろか?

 

 「‥‥‥‥アナタ、さっき明久に『365度どこから見ても美少年』って言ってたわよ?」

 

 ああ。何の話かと思ったら、その話か。

 

 「いくら明久の学力が上がったと言っても、根っこは同じだからな。咄嗟に間違った事を言っても全く気づかないのは、アイツらしいだろう?」

 

 「‥‥‥‥わざと、明久を騙したって事?」

 

 ん? なんかヒナギクの奴不機嫌だな。

 そんなに明久を騙したのが気に入らなかったのか?

 

 「まぁ、そう怒るな。そんなのは騙される奴が悪いし、結果的に俺が逝かせたわけじゃなく、アイツは自ら進んでFクラスの死者として、Dクラスに逝ったんだからな」

 

 「字が二カ所程違うわよ?」

 

 はて? 何のことやら?

 俺は”ししゃ”になれとは言ったが、一度たりとも”使者”になれと言った記憶はない。

 ”行って”こいとも言ってないしな。

 

 「そんな事より、ヒナギクこれからの作戦なんだが‥‥‥‥」

 

 俺はこんなどうでもいい話を無理やり終わらせて、ヒナギクとDクラスに向けて作戦会議を行う事にする。

 ヒナギクには呆れられたが、今は明久の事よりDクラス戦の方が大事だからな。

 ここは我慢してもらおう。

 

 

 

 

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