バカな執事と優秀な主   作:セイイチ

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第三話

 僕はDクラスの前まで来て、ある事に気づく事になった。

 

 「良く考えたら、女子は僕に危害を加えなくても、男子は僕に危害を加えるよね?」

 

 そうなったら、僕は結局酷い目にあってしまうのではないだろうか?

 雄二はおそらく、それも分かってて僕にDクラスへ宣戦布告をするように言ったんだろう。

 つまり、ここから導き出される答えはただ一つ。

 

 「あの赤ゴリラ~、よくも僕をだましたな!」

 

 いつか絶対に仕返ししてやる!!

 とは言え、今は雄二に仕返しする事よりも、この場をどう生き残るか考えなければならない。

 このままでは間違いなく、僕は酷い目にあうだろう。

 

 「あ、ヒナちゃん所の執事さんだー」

 

 「おう、これはヒナの所の‥‥‥‥‥ええっと、名前は忘れたな」

 

 「ヒナの執事‥‥‥‥‥‥顔とバカだった事以外はまるで覚えていないな」

 

 誰だ!? イキナリ人の事をバカ呼ばわりする失礼な奴らは!?

 僕がDクラスの前で、どうやって無事に宣戦布告したらいいか考えていると、後ろから罵倒の声が聞こえてきた。

 ハッキリ僕の名前は出てこなかったけど、ヒナの執事と言っているので僕の事で間違いないだろう。

 確かに僕は主であるヒナよりも、あらゆる所で劣っていて、とても優秀な執事とは言えないけど、Fクラスの連中よりはマシだよ!

 と、文句を言ってやろうと思って、後ろを振り返ると、そこにいたのは

 

 「あれ? 君たちは確か白皇の生徒会役員で、いつもヒナが仕事をしないって嘆いてる三人組の、瀬川泉さんと花菱美希さん、それに朝風理沙さんじゃない」

 

 春休みの間、僕以外のヒナに迷惑を掛けていたメンバーだった。

 

 「にゃははは。酷い覚えられ方だね‥‥‥」

 

 「ヒナの執事のくせに、頭の出来は最低ランクだからな」

 

 「まぁ、我々に関しては完全に名前を忘れてしまっているレベルだがな」

 

 それは僕より出来が悪いと自分達で言ってるようなものじゃないだろうか?

 まぁ実際、ヒナがこの三人よりは僕の方が賢いと以前言ってたんだけど‥‥‥‥‥‥

 

 「と、とりあえず、三人とも僕の名前覚えてないみたいだし、もう一度僕の名前教えとくね? 僕は吉井明久。知っての通りヒナの執事だよ」

 

 僕はこの三人をほっておいたら、バカだとか、頭の出来が悪いとか、永遠とボロカスに言われそうだったので、名前を教える事にした。

 いくらなんでも、ずっとバカ呼ばわりされるのは酷いと思ったからね。

 

 「そっかー。じゃあ今度こそ名前を覚えておくよ。えっとヒナちゃん所の、えっと、よ、よ、よし」

 

 あれ? 瀬川さん? もしかして今さっき言った僕の名前をもう忘れたの‥‥‥‥‥‥?

 いやいやいや、まさかね? いくらなんでも、そんな数秒前の事を忘れたりなんかは――

 

 「よろしくね♪ バカ久君♪」

 

 満面の笑みで名前とバカを組み合わせる瀬川さん。

 どうやら、数秒前の事も覚えていないらしい。

 けど、この顔を見てると全く悪意がないように感じられるか、許してもいいかな? と言う気に

 

 「なれるわけないよ!! なに!? バカ久って!? 明久だよ! 名前を忘れたからって、笑顔で名前とバカを組み合わせて誤魔化しても、その言葉は悪意も込められてるよね!?」

 

 「よろしくな、バカ久君」

 

 「これからよろしく頼むぞ、バカ久君」

 

 「君達二人は絶対わざとでしょ!? 瀬川さんが少しの悪意なら、花菱さんと朝風さんは悪意の塊だよね!?」

 

 「「そんな事より、今日は生徒会は休みかどうか知らないか? バカ久君?」」

 

 「人の話をスルーするな―――!! そして僕がそんなこと知ってるわけないでしょ!?」

 

 はぁはぁはぁ。ダメだ! この二人が相手だと、どこから突っ込めばいいのか分からない! しかも、僕の名前を変える気もゼロだし。

 

 「それでバカ久君はDクラスに何の用なの?」

 

 僕が花菱さんと朝風さんに翻弄されてると、瀬川さんが思い出したかのように僕に声をかけてくる。

 どうやら、瀬川さんも僕の名前を覚える気はないようだ。

 

 「‥‥‥‥‥‥もうそれでいいよ。‥‥‥‥‥僕はちょっとDクラスに宣戦布告に来たんだよ。瀬川さん達はどうしたの?」

 

 どうせこの三人に名前を憶えろとか言っても、逆に面白がって余計に酷い名前になりそうだから、名前に関しては諦める事にして、瀬川さん達がDクラスに用があるなら、宣戦布告は三人組が用事を済ませてからにしようと思って聞いてみたんだけど

 

 「ん? 我々か? 我々はだな、特に何をしていたとか言うわけではなくてだな」

 

 「本当に偶然通りかかっただけだ」 

 

 そう言いながら、花菱さんと朝風さんは何故か、僕の両腕をガッチリとホールドしてきた。

 え? なんで? どうして僕は二人に捕まってるの?

 

 「泉、ドアを開けてくれ」

 

 「了解♪」

 

 僕が現状を把握できていないまま、どんどん事態だけが進んでいき、瀬川さんがDクラスの扉を開けると同時に、僕は花菱さんと朝風さんの二人に、投げられるようにしてDクラスの教壇の前に連れて行かれていた。

 

 「ちょ!? ど、どういう事!? 三人とも、なんで僕をDクラスに放り込むような事するの!?」

 

 まだ心の準備とか、無事にこの場を乗り切る方法とか思いついていないのに、イキナリDクラスに放り込まれた僕は、三人に抗議したのだが

 

 「「「え? だってその方が面白そうだったし」」」

 

 三人とも大した理由もなく、僕を死地へと放り込んだようだ。

 

 「って、面白そうだからってこんな事しないでよ! 三人には罪悪感という物はないの!?」

 

 「「「ない」」」

 

 「少しは罪悪感を持て―――!!」

 

 なんて恐ろしい三人組なんだ。

 しかも今のでDクラスの人達は皆、僕達の方に視線を向けていて、今さら出直してきますとは言えない状況だ。

 仕方がない。ここは三人娘と会話をして少し時間を稼いで、僕の身が安全になるように何か考えよう。じゃないと、このまま行けば間違いなく僕は酷い目にあう自信がある。

 

 「ところでバカ久君。君は確かFクラスだったな」

 

 「え? うん。そうだけど‥‥‥‥‥それがどうかしたの?」

 

 僕が何か三人娘と話すための話題を考えるまでもなく、花菱さんが先に話しかけてくれたので、その話題に乗る事にする。

 今の内に、何か色々考えないと‥‥‥‥

 

 「そんなFクラス在籍の君が我々Dクラスに試召戦争を本気で申し込むつもりなのかい?」

 

 「うん。そうだよ? あくまで目標はAクラスだけど、手始めにDクラスを――って、へ? 我々Dクラス?」

 

 「あれ? 言ってなかったけ? 私もミキちゃんもリサちんもDクラスなんだよ?」

 

 え? じゃあさっきの僕の発言って‥‥‥‥‥

 

 「と言うわけで、バカ久君のクラスであるFクラスから宣戦布告を受けたぞ? Dクラス代表」

 

 朝風さんの言葉を言いきると、Dクラス代表っぽい男が僕の方に向かって歩いてくる。

 あー、これはあれだ。

 もう考えるまでもなく、詰んでる奴だな‥‥‥‥‥‥

 

 「俺はDクラス代表、平賀源二だ。Fクラスの使者、朝風達が言ってるのは本当か? 本当にFクラスは俺達Dクラスに試召戦争を吹っかける気なのか?」

 

 ‥‥‥‥‥‥これ、かなり優しく言われてるんだろうけど、平賀君の後ろにDクラスの人達が怖い顔して控えてるし、平賀君自身の顔も少し引きつってるし、皆怒ってるのは間違いないよね?

 怒っていないのは、初めて会った時から終始、にぱーと笑っている瀬川さんと、この状況を楽しんでいるように見える、朝風さん、花菱さんくらいだろう。

 ‥‥‥‥仕方がない。

 こうなったら精々かっこつけてやる!

 

 「そうだよ! 僕達Fクラスは午後からDクラスに試召戦争を申し込む!!」

 

 「上等だ!! コラァ!!」

 

 「Fクラス風情が調子に乗ってんじゃねえよ!!」

 

 「豚は豚らしく豚小屋に帰りなさい!!」

 

 僕が堂々と宣言すると三人娘を除くDクラス全員から、僕は暴行を受ける事になった。

 ええ!? ちょっと!? 話が違うよ!? 365度どこから見ても美少年の僕は、女子からは暴行を受ける事はないんじゃなかったの!?

 雄二の話では美少年の僕が女子から暴行を受けるはずがないって話だったのに、これでは話が違う。

 むしろ、女子からの暴行の方が激しい気がする。

 って、あ、今思ったけど、一周って365度じゃなくて、360度なんじゃ‥‥‥‥‥‥?

 僕はDクラスの生徒にボコボコにされて初めて、雄二の罠に気づく事になった。

 

 「あの赤ゴリラ―――!! いつか絶対に仕返ししてやるからな―――――!!」

 

 僕はこの絶叫を最後に、廊下で目覚めるまでの記憶が一切なかった。

 

 

 

       ☆

 

 

 

 「何か言う事は?」

 

 僕はDクラスでボコボコにされて、廊下で目が覚めた僕はFクラスに帰ると、まず最初に雄二に質問をぶつける。

 当然だ。少し記憶が飛んでいる所はあれど、雄二に騙されたと言う事実はしっかり覚えているんだから。

 

 「予想通りだ」

 

 「やっぱりか! この赤ゴリラ!! 今日こそは絶対に許さないぞ! 覚悟しろ雄二!!」

 

 「止めなさい」

 

 ぺしっ!

 

 僕が雄二に飛びかかろうとしたら、ヒナに軽く頭を叩かれて止まられてしまう。

 くっ! ヒナに止められたんじゃ仕方がない。今回は見逃してやろう‥‥‥‥‥

 

 「で? そんだけボロボロになって帰ってきたって事は、ちゃんと伝えたんだろうな?」

 

 「うん。一応、開戦は午後からの予定って伝えてきたよ?」

 

 「と言う事は、先にお昼ご飯になるのかしら?」

 

 「まぁ、そうなるな」

 

 「じゃあ屋上行って、皆でお昼でも食べる?」

 

 「だな。戦争前にミーティングもしときたいしな」

 

 と言うわけで、僕等はFクラスの主軸メンバーである、雄二、僕、ヒナ、ムッツリーニ、秀吉、島田さんの六人で昼食兼ミーティングを行うため、屋上へと移動した。

 屋上に着いて直ぐに、僕等は弁当を広げて昼食を取る事にする。

 真面に弁当を持っているのは‥‥‥‥‥僕とヒナと島田さんだけで、雄二とムッツリーニ、秀吉は惣菜パン等、購買で売っている代物ばかりだった。

 食べ盛りの男子高校生が、こんなのだけで良いんだろうか? と思わなくもないけど、僕もヒナがいなかったら、こんな食生活を――いや、下手するともっと酷い食生活だってあり得るので、何にも言わないけど‥‥‥‥‥

 

 「相変わらず、お前の飯は美味そうだな? 明久」

 

 「‥‥‥‥‥美味そう」

 

 「うむ。わし等の惣菜パンとは比べ物にならんな」

 

 雄二達が僕の弁当を覗き込んでくる。

 この反応は全員、僕の弁当のおかずを狙ってるな!?

 これでも一年からの付き合いだ。この三人が何を考えてるかなんて、顔をみればある程度の事は予想ができる。

 

 「まぁ、今日の弁当はヒナの手作りだからね? 美味しそうなのは当然だよね」 

 

 僕とヒナの弁当は、毎日交代で作っていて、今日はヒナの当番の日だった。

 最初は、一応僕はヒナの執事なんだから、弁当くらい僕が一人で作るって言ってたんだけど、ヒナ曰く『なんでも人任せにしてると、自分では何もできなくなりそうだから私も作るわ』と言って、結局弁当は二人で交代して作っていた。

 ‥‥‥‥‥‥朝も僕がヒナを起こすんじゃなくて僕がヒナに起こされてるし、なんだか主と従者の関係としては、おかしいような気がするんだけど、果たして僕はこのままでいいんだろうか?

 

 「ほぉ。今回はヒナギクが作ったのか‥‥‥‥‥そう言えば、ヒナギクが作った飯は食った事なかったな」

 

 「そう言えばそうじゃな。わし等が明久の弁当を(たか)る時は決まって明久が作った時じゃったからのう」

 

 「明久はヒナギクが作った飯の時は、自分の弁当を本気で死守しやがるからな」

 

 当たり前だ。僕が作った奴なら、少しくらいならわけてやらない事もないけど、ヒナが作ったご飯を分けてやるなんて、考えられない。

 だって、せっかくヒナが僕のために作ってくれた料理が減っちゃうじゃないか! そんなの認められないよ!

 

 「‥‥‥‥‥‥隙あり」

 

 「あ! ムッツリーニ!? 卑怯だぞ! 僕の死角から奪っていくなんて!」

 

 「卑怯汚いは敗者の戯言。ついでに俺も隙ありだ」

 

 「わしも頂くとするかのう」

 

 「あ! 雄二と秀吉まで!!」

 

 僕が雄二と秀吉と喋ってる間にムッツリーニがおかずを一品奪い、それに気を取られてる間に雄二と秀吉にそれぞれ一品ずつ奪われてしまった。

 くっ! なんて協力プレイだ。

 特に油断していたわけではないのに取られるなんて、なんて奴らだ。

 

 「お! 美味いな! ヒナギクが作った飯」

 

 「うむ。明久に負けず劣らずの美味さじゃな」

 

 「‥‥‥‥‥美味」

 

 「そりゃそうだよ。じゃなきゃ僕が一人で弁当を作るか、率先して皆におかずを配ってるよ」

 

 もしヒナの作った料理がマズイなら、ヒナには悪いけど料理は作らせないと思う。

 理由は当然、被害を受ける主な人物が僕だからだ。

 にしても、このまま僕のおかずだけ取られて、終わるのも損した気分だな。

 皆の惣菜からも少し奪ってやろう。

 

 「ねぇ、桂さん?」

 

 「ヒナでいいわよ、島田さん? 同じFクラスで数少ない女同士なんだし、仲良くしましょ?」

 

 「じゃあヒナ、私も美波って呼んで? 私もヒナと仲良くしたいし」

 

 「うん♪ これからよろしくね? 美波。それで、美波は私に何か聞きたい事でもあるの?」

 

 「あ、うん。ねぇ、ヒナ? 吉井の料理って美味しいの? 良く坂本達は美味しいって言ってるのは聞くんだけど、ウチ自身は吉井の料理を食べた事ないから知らないのよ‥‥‥‥」

 

 「明久の料理? 意外かもしれないけど、明久の料理は美味しいわよ? そんなに気になるなら、明久に一度作ってもらったらどうかしら?」

 

 「うっ! それはそうなんだけど、中々そういう機会がなくて」

 

 「うーん‥‥‥‥‥じゃあ今度私の家に来る? 夕飯を明久が作る時もあるから、その時に私の家に遊び来たら、自然と食べられるわよ?」

 

 「え? いいの!? じゃ、じゃあ今度お邪魔させてもらっても‥‥‥‥‥」

 

 「ええ。待ってるわね」

 

 僕等の隣ではヒナと島田さんがそんな会話をしていたなんて事は、雄二達から惣菜パンを奪おうとしている僕には全く知らない事だった。

 結局、僕等は昼食の間、ミーティングなんて物は一切せずに、遊んですごしてしまったのだった。

 

 

 

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