僕の目の前には、僕にやられて持ち点がゼロになったDクラスの生徒三人が映っていた。
『よ、吉井!?』
『ああ、あのバカ面は間違いなく吉井だ!』
『吉井って確か、”観察処分者”だったよな?』
登場してイキナリの悪口。
もう帰っていいかな‥‥‥‥‥‥?
『”観察処分者”?』
『”観察処分者”って確か、学園を代表するバカの事だろう?』
『その”観察処分者”がなんで、俺達よりも点数が高いんだよ!?』
僕の点数が自分達より良い事で、ざわつきだすDクラスの生徒たち。
今驚いた連中はおそらく、元文月学園組だろう。
その生徒たちからしたら、僕がDクラスよりも点数が高い事を疑問に思うのも当然かもしれないが、彼らの知っている情報は古い。
僕は春休みの間、死ぬほど勉強させられたから、以前の僕より遥かに賢くなっている。
むしろ、今回の点数はかなり低いと言える。
「吉井! その点数どうしたのよ? まさかカンニングでもしたの!?」
仲間である島田さんの疑いのまなざし。
‥‥‥‥‥‥‥泣いてもいいだろうか?
『そうだ! カンニングしたに違いない!』
『じゃなきゃ”観察処分者”が俺達より点数が高いとかあり得ねぇ!』
『不正行為だ!』
島田さんに続いて、Dクラスからもカンニング扱いされてしまった。
僕が少し皆より高得点を取ったからって、あまりにも酷くない? しかもそんなに大した点じゃないのに‥‥‥‥‥
「島田よ。お主は知っておるじゃろうに‥‥‥‥‥。明久は春休みの間、ずっとヒナギクに勉強を教えられて、学力が上がっていると雄二が言っておったじゃろう?」
「そう言えばそうだったわね‥‥‥‥‥‥。今までは吉井が高得点を取るとか奇跡みたいな確率だったから、スッカリ忘れてたわ」
「酷い! 以前の僕だって偶には点数が高い時だってあったのに!」
「‥‥‥‥‥‥‥それも前日にヒナギクに教えてもらった時だけ」
それは黙っておいて欲しかったよ。ムッツリーニ‥‥‥‥‥‥‥
「あれ? 確か坂本の話では、吉井は上手くいけばAクラス並みの点数で、普通の時でもBクラスかCクラスに入れる位の学力なんでしょ? その割には点数低くない?」
「そう言われてみれば、そうじゃのう。わしやムッツリーニの数学と大して変わらん点数しか取っておらんのう」
美波と秀吉は今度は、僕の点が低過ぎると言い出した。
点数が高くても、低くても、とりあえず何か言われるのは、なぜなんだろうか?
因みに、僕の点が美波や秀吉の言う通り、大して高くないのには理由がある。
それは
「‥‥‥‥‥‥‥と言うか、テストを終わるのが早すぎる」
ムッツリーニの言う通り、僕が補充試験を受けてから、試験終了までの時間はあと15分くらいある。
つまり、僕は試験を途中で切り上げて来たのだ。
「雄二から全教科100点前後取れそうになったら試験を切り上げて、防衛ラインに合流するように言われたんだ。で、全教科100点前後取れる自信ができたから、こうして試験を切り上げて皆に合流したんだ」
「そうじゃったか。と言う事は、もうじき作戦開始かのう?」
「多分ね。時間になったら雄二が援軍を引きつれてくるはずだよ」
それまでの間、この戦場を何とか保たせるのが僕等の仕事だ。
『おい、吉井! 化学の点がいいなら。俺たちも早く助けろ!』
『もう点数が、ああぁぁぁぁああ!?』
「戦死者は補習!!」
『くっ! 福村がやられた! 早く援軍を!』
既に仕事を遂行できず、檻に入れられてるメンバーも大勢いるけど‥‥‥‥‥‥‥
「明久! 早く援軍に行かんと、このままでは作戦開始まで保たんぞ!」
秀吉は焦っているが、こうなるのは当然の事だろう。
Dクラスが猛攻を仕掛けてきたら、Fクラスの皆がそれを必死に防いだ所で、戦力に差がありすぎる。
初めての試召戦争で召喚獣の扱いに差がなく、点数のみを使った純粋な力比べをすれば自然と負けだすのは当たり前だ。
仕方ない‥‥‥‥‥。
Aクラスに勝つためにも今は負けられないんだ。僕も戦うとしよう‥‥‥‥‥‥
あっちの方はかなり押され気味みたいだし‥‥‥‥
と、僕が他のFクラスの救援に向かおうとしたら
「お姉さま!!」
「美春!? なんでここに!?」
僕の目の前で突然、島田さんが襲われだした。
召喚獣だけじゃなくて、本人も一緒に‥‥‥‥‥‥
「それは美春がDクラスだからです、お姉さま!」
どうやらこの少女は島田さんの知り合いのようだ。
「美春はお姉さまに捨てられて以来、この日を一日千秋の想いで待っていました‥‥‥‥‥‥」
「ちょっと! いい加減ウチの事は諦めてよ!」
Dクラスのこの女子は凄い気持ちの入れようだけど、二人はどういう関係なんだろうか?
「嫌です! お姉さまは永遠に美春のお姉さまなんです!」
「来ないで! ウチは普通に男が好きなの!」
「嘘です! お姉さまは美春の事を愛しているはずです!」
「このわからずや!」
‥‥‥‥‥‥ホントにどういう関係?
なんだか島田さんが遠いよ‥‥‥‥‥‥‥
「お姉さま、お姉さまの目を美春が覚まさせてあげます!」
目を覚まさないといけないのは君の方だと思う。
「行きます! お姉さま!」
島田さんを襲っていた女の子は、召喚獣をちゃんと動かすために、一度島田さん本人から離れて、召喚獣で島田さんに攻撃を仕掛けた。
対する島田さんは
「いやぁぁぁぁ!!」
悲鳴を上げて逃げ回っていた。
「お姉さま! なぜ逃げるんですか!? 美春と一緒に保健室に行きましょう! 今の時間ならベッドは空いていますから、大丈夫です!」
この子は島田さんを保健室に連れ込んでなにをするつもりなんだろうか?
補習室じゃなくて、保健室に行こうと言う辺りが非常に怖い‥‥‥‥‥‥‥
「よ、吉井、早くフォローを! このままじゃウチは補習室行きより危険な状況になる気がするの!」
そうだろうね。僕から見てもそんな気がするよ。
きっと最初から戦う気が微塵もないのは、それだけあの子が怖いんだろ。
はたから見てるはずの僕でも怖いんだから、当事者である島田さんの恐怖は計り知れない。
‥‥‥‥‥‥仕方がない。向こうでピンチになってる連中より先に島田さんを助け――
「殺します‥‥‥‥‥。美春とお姉さまの邪魔をする人は、全員殺します‥‥‥‥‥」
「――ようと思ったけど、他人の恋路を邪魔するのは良くないから、僕は他の人の所に救援に向かうね!」
「なんでそうなるのよ!? 今、目の前で同じFクラスの仲間が色々と危険な状況に陥ってるのに、どうしてそんな結論になるのよ!?」
すまない、島田さん。
僕だって、命は惜しいんだ‥‥‥‥‥‥
「さぁ、お姉さま! 邪魔者はもう来ません! 美春の愛を受け取ってください!」
「いやぁぁぁ! 誰か助けてぇぇぇ!」
島田さんが絶叫していると、Dクラス女子の攻撃が島田さんの召喚獣に直撃しそうになる。
敵の攻撃から逃げ回るには、それなりに召喚獣の扱いが上手くないとできない。
召喚獣を扱うのが授業の時だけでは、召喚獣を上手く操作して、全てを回避しきるのは無理だったんだろう。
島田さんは攻撃を避けきれないと悟るや、回避行動を止めて、敵の攻撃を防御した。
化学
Fクラス 島田 31点
VS
Dクラス 清水 94点
相手の子(清水さんと言うようだ)と島田さんの召喚獣の点数が表示される。
どうやら点数の面では島田さんは圧倒的に不利なようだ。
「お姉さま! 美春は本気です! 絶対にお姉さまを幸せにして見せます! だから、無駄な抵抗は止めて美春とベッドに!」
「ウチだって本気で男が好きなのよ!」
そりゃそうだ。
そんな同性愛者が他にも大量にいたら驚きだ。
‥‥‥‥‥‥なぜだろう?
今、自分で言って、凄い悪寒がした‥‥‥‥‥‥‥
「それは気の迷いです! お姉さま! 目を覚まして下さい!」
清水さんは力を込めて叫んだ。
この時、僕は清水さんのブレる事のない気持ちに驚かされる事となった。
なんと、清水さんが力を込めて叫んだのと同時に、清水さんの召喚獣も力を上げて、島田さんの召喚獣は力負けをして、得物を取り落とてしまったのだ。
気持ちだけでここまでできるなんて‥‥‥‥‥‥‥‥。清水さん‥‥‥‥‥君はなんて恐ろしい人なんだ
「ここまでですっ!」
「くぅっ!」
清水さんは島田さんの召喚獣に止めを刺さず、首筋に剣を当てて島田さんに降参を促した。
と、その時僕は気づいた。
‥‥‥‥‥‥‥あれ?
今なら不意打ちだし、一発で清水さん倒せるんじゃないかな?
さっきは勢いにやられて勝てない気がしたけど、冷静に考えれば僕の方が点数は上なんだし‥‥‥‥‥‥
それに何より、僕の召喚獣はまだ一度も消えておらず、召喚したままだ。
さらに清水さんは島田さんに夢中で僕の召喚獣なんか視界に入れてすらない。
不意打ちを成功させる条件はそろっている。
と言うわけで
「ていっ!」
「あ。‥‥‥‥あぁ.っ!?」
僕は清水さんの召喚獣の頭に向かって、僕の武器である木刀を全力で振るった。
召喚獣の急所は人体の急所と同じだ。
そして、元々清水さんの召喚獣よりも僕の召喚獣の方が点数は高い。
それらの条件を考慮すれば
化学
Fクラス 島田 31点
吉井 120点
VS
Dクラス 清水 DEAD
この結果は必然だ。
そして、持ち点がゼロになった清水さんは
「戦死者は補習!!」
慈悲の欠片もない補習の鬼に連行される事になった。
「お、お姉さま!! 美春は決して諦めませんから! このまま無事に卒業できるなんて思わないでくださいね!」
なにやら危険な捨て台詞を残して、清水さんは補習室へと入って行った。
今後、島田さんの高校生活が心配でならない‥‥‥‥‥‥
「あ、ありがとう吉井」
僕は島田さんからお礼を言われた。
その表情は凄く疲れ切った顔をしていた。
多分、清水さんの相手をしてかなり疲れたんだろう。
けど
「でも、どうせならもっと早く助けて欲しかったんだけど?」
急に雲行きが怪しくなってきた。
どうやら、直ぐに助けなかった僕を恨んでいるようだ。
「は、はは。ま、まぁ無事だったんだから、良かったじゃ――」
「一度はウチを見捨てようとしたわね?」
――ない。と言いかけて、止めた。
だって、島田さんを一度見捨てる気になったのは否定できないから‥‥‥‥‥‥‥‥
「ねぇ、知ってる? 人間の関節って意外と直ぐに外れるのよ?」
「心の底からごめんなさい!!」
僕は速攻で、心の底から謝った。
何度も言うが、僕だって命は惜しいんだ。
「ったく。‥‥‥‥‥‥‥‥そうね~。吉井がウチの言う事を何でも聞いてくれるって言うなら、許してあげなくもないわよ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥何が望みなの?」
今なら、命欲しさに多少の事なら何でも聞こう。
大事な事なので、再三言うが僕だって命は惜しい。
「そうね~‥‥‥‥‥‥じゃあ、まずは呼び方から変えてもらいましょうか」
あれ? ”まず”は?
一つじゃないの‥‥‥‥‥‥‥?
「今後、ウチはアンタの事を『アキ』って呼ぶから、アンタはウチの事を『美波』って呼びなさい」
「それぐらいで許されるなら喜んで」
島田さんを『美波』と呼ぶだけで命が助かるなら、安い物だ。
「それと、今度の休みに駅前の『ラ・ペディス』でクレープ食べたいな~」
「おのれ! ゲームや漫画を買い過ぎるからと、ヒナにお小遣いを管理されてる僕に向かってなんという要求を―――ああっ! おごります! おごらせて頂きますから、手をバキバキさせながら準備運動なんて始めないで!」
これは最早、おごらなければ死刑と無言で言われたようなものだ。
命が惜しい僕に、選択肢なんて存在しない。
僕は命と引き換えに、少ない小遣いを次の休みの日に使う事を約束させられたのだった‥‥‥‥‥‥