うずまきナルトの支配物語   作:ガンオタ

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第1話 ナルトであってナルトでないもの

第1話 ナルトであってナルトでないもの

 

 ここは火の国にある忍びの隠れ里、木の葉隠れの里。

 忍び5大国の中でも優秀な忍びが多数存在する木の葉隠れの里には、次の世代の忍者を育成する専門教育機関の“忍者アカデミー“という場所がある。そこでは数多くの若き少年少女たちが日々優秀な忍びを目指し、修行に明け暮れていた。

 

「イルカ先生」

 

 放課後に行われる職員会議に参加するため、会議室へと歩いていた忍者アカデミーの教員海野イルカ(うみのいるか)は、背後から聞こえた少年の声を耳にし振り返った。

 視線の先には、左目に眼帯を嵌めた上は黒のパーカーに下は黒の長ズボンという格好をした少年が立っていた。夕陽に照らされた黄色の髪は、まるで金糸のように輝いていた。

 少年の姿を見たイルカは、その美しい姿に不覚にも見入ってしまった。

 

「イルカ先生?」

 

 自分の担当クラスの生徒であるうずまきナルトの心配そうな声を聞き、イルカは慌てて意識を現実に戻す。

 

「あ、ああ、ナルトか。どうした?」

 

 イルカの近くにやってきたナルトは、あどけない笑みを顔に浮かべる。

 

「荷物運びますよ」

 

 イルカは、職員会議で使用する資料が入った箱を二つ抱えていた。

 

「ありがとう、ナルト。気持ちは嬉しいが、この箱そこまで重たくないから大丈夫だ」

 

「そう……ですか……」

 

 イルカにやんわりと断られたナルトは、シュンとなる。まるで捨てられた子犬のようなナルトの姿を目にしたイルカは「うっ」と喉を詰まらせる。

 

「や、やっぱり手伝ってもらおうかな? ナ、ナルト……」

 

 一度は断っておきながら恥ずかしげもなく手のひら返しをする自分に、イルカは心の中で「何やってんだ、俺は……」とツッコム。

 イルカの言葉を聞いたナルトは、パッと顔を輝かせながら「はい!」と返事をした。

 

***

 

 夕陽に照らされた廊下を、イルカとナルトは並んで歩く。

 ふと、イルカはナルトに問いかける。

 

「ナルト。ケガの方は大丈夫か?」

 

 イルカに問いかけられたナルトは、左目の眼帯を触りながら心配無用とばかりに明るい笑みを浮かべる。

 

「ご心配してもらいありがとうございます、イルカ先生。退院からもう2週間、怪我も大体治りました」

 

 ナルトの明るい笑い声を聞いたイルカは、「そうか、それは良かった」と笑みを浮かべる。

 

「だが、もし具合が悪くなったらいつでも言うんだぞ。いいな?」

 

「はい、その時はすぐにイルカ先生に報告致します」

 

 少しおどけた風に答えたナルトに、イルカは「絶対だぞ」と念を押す。

 そんなやり取りをしながら歩いていると、ついに2人は職員会議が行われる会議室に到着した。扉を開け、中に入ると、会議に参加する教員たちが談笑していたが、部屋に入ってきたナルトの姿を見た瞬間、それまで和やかな雰囲気だった室内に緊張が走る。何人かは顔を顰めたり、舌打ちをしたりする。

 教員たちの態度を目にしたイルカは、慌てて隣のナルトに声をかける。

 

「ナルト、荷物運んでくれてありがとな! そこに置いといてくれ」

 

「はい」

 

 イルカの指示通りに箱をテーブルの上に置いたナルトは、再びイルカの元へやってくると、「それじゃ、イルカ先生また明日」とペコリと頭を下げる。

 

「おう! また明日な、ナルト」

 

 礼儀正しいナルトの姿に、イルカは優しい笑みを浮かべる。頭を上げたナルトは、「あの……」と呟く。

 

「ん? どうした?」

 

「あ、あの、明日なんですけど、また僕の分身の術見てくれませんか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

 イルカの言葉を聞いたナルトは笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございます! イルカ先生。それじゃ、また明日」

 

 と、ナルトは元気よくそう言うと、会議室を出て行った。

 

「(……ナルト)」

 

 ナルトを見送り寂しげな顔をするイルカだったが、ふと横から「ナルト君、変わりましたね」と声をかけられた。イルカが振り返ると、そこには銀髪の男が、顔に笑みを浮かべて立っていた。

 

「ミズキ先生……」

 

 同僚教師であるミズキの姿を目にしたイルカ。

 ミズキは人の良さそうな笑みを浮かべながら席に座る。

 

「2週間前までは、里一番の悪戯っ子だったナルト君があんなに礼儀正しくなるなんて……これも怪我の功名ですかね?」

 

 ミズキの言葉を聞きながら、イルカは彼の隣の席に座る。

 怪我の功名、何気なく言ったミズキの言葉にイルカは僅かに眉を寄せた。そんな彼の姿を横目で見たミズキは、「ああ、すみません。今のは失言でしたね」と謝罪する。

 イルカは「いえーー」と言うと、箱の中から会議資料を取り出す。

 

「おっしゅる通りなのかもしれません。確かに、あいつは変わりました」

 

 ミズキの言葉を聞いたイルカは、自身の脳裏にあるかつてのナルトの記憶を振り返る。

 授業中はろくにノートもとらず居眠りばかり、そして、隙と見れば教室を飛び出し、里の至る所で悪戯をして回る。注意をすれば口答えをして教師に反抗する。そんなナルトは、アカデミーはもちろん里の中でも一番の嫌われ者だった。

 

「え?」

 

 イルカはミズキに視線を戻す。

 

「誰かに声をかければいいんでしょうけど、それだと自分が『弱い存在』だと認めることになる。それが嫌で、いつも悪戯をしてたんでしょ。自分は寂しくなんかない、弱くなんかない、強いんだって……」

 

「それが、あの“事件“で変わった、と……?」

 

 ミズキの言葉を聞いたイルカは目を伏せると、2週間前にナルトの身に起こった“事件“を思い返す。

 深夜、アパートの自室でテストの答案をチェックしていたイルカの元に火影直属の暗部がやって来た。

 

ーーえっ! ナルトが襲われた!?

 

ーーはい、アカデミーからの帰宅途中に。

 

ーーそれでナルトは、今どこに?

 

ーーすでに木の葉病院に搬送され、手当を受けています。

 

 息を切らし、ナルトがいる病院へ向かったイルカ。だが、彼がそこで目にしたのは、変わり果てた教え子の姿だった。

 所々血が滲んだ包帯に全身を包まれ、自力で呼吸ができないのか口には呼吸器を装着されていた。数時間前までいつもと変わらず自分にちょっかいを仕掛け叱られたナルト。叱られたのに、何事もないようにケラケラと笑っていたナルト。

 もはやその面影は全くなかった。

 一時は生命の危機に瀕したナルトだったが、治療を施した医者が優秀だったのか、それとも“人柱力“であるナルトが持つ生命力の高さのおかげなのか、ナルトはその後なんとか一命を取り留めた。

 だが、一命を取り留めたものの、左眼だけはどうすることもできず、失われてしまった。

 

「(あのあとだ……ナルトが変わってしまったのは……)」

 

 大怪我を負ったこともイルカにとって衝撃的なことだったが、それよりも衝撃的だったのは、病院を退院してアカデミーに復帰してからのナルトの目を見張るほどの変貌ぶりだった。

 

ーーイルカ先生、あ、あの……お時間よろしければ、“僕“の忍術の練習を見てもらってもいいですか?

 

ーーイルカ先生。さっきの授業なんですけど、ここがよく分かんなくて……教えてもらえませんか?

 

ーー手伝いますよ、イルカ先生。 

 

 アカデミーに復帰したナルトは、落ち着きがなかった以前とは打って変わって大人なしくなった。悪戯はしなくなり、サボり気味だったアカデミーも毎日遅刻することもなくちゃんと出席するようになった。

 口調も、それまでの乱暴な言い方から、12歳の子供とは思えないほどの丁寧で落ち着いたものに変わった。

 まるでそれまでの事が嘘のようにーー。

 

「イル……先生……イルカ先生」

 

「え?」

 

 もの思いに耽っていたイルカは、隣に座っていたミズキの言葉でハッと意識を戻した。隣に座っていたミズキは心配そうな顔で、イルカを見ていた。

 どうやら、時間を忘れつい考え込んでしまったようだ、とイルカは自嘲する。

 

「いやぁ〜! すみません、少し考え込んでしまってました」

 

 イルカは手で頭を摩りながら、ミズキにそう言った。

 

「ハハハ、生徒思いですからね、イルカ先生は。けど、考えすぎは体に毒ですよ」

 

「はい、注意致します。ミズキ先生」

 

 イルカは少しおどけたようにそう答えた。2人は顔を見合わせ笑う。その後、校長やその他の幹部職員が会議室にやって来て、職員会議が始まった。会議が始まったことで、イルカは一旦ナルトのことは頭の片隅に置くことにした。

 

***

 

 

「イルカ先生、少しよろしいか?」

 

「はい、どうされました? 校長」

 

 職員会議が終わり、会議に参加した教師たちが席を立つ中、イルカは校長に呼び止められた。

 

「うずまきナルトに変わったところはありませんか?」

 

 どうやら、怪我をしたナルトのことが気になっているようだ。

 イルカは笑みを浮かべ、校長の問いかけに答える。

 

「ええ。本人にも聞きましたが、もうだいぶ回復したみたいです。しかし、回復したと言っても病み上がりに違いはないので、もう少しーー」

 

「そうだな、彼の中にいる“あれ“に何かあってはたまらんからな」

 

「……」

 

 校長の言葉を聞いたイルカは、口籠る。

 

「彼が大怪我をしたと聞いた時は、私も肝が冷えた。また、あの“悲劇“の再来だとね」

 

 校長は、大きなため息を吐きながらそう呟いた。彼の脳裏には、あの、木の葉隠れの里始まって以来の悪夢と言われた『九尾事件』が生々しく蘇る。突如出現した九尾から里を守るために、彼を含めた大勢の忍びが戦い、そしてそのために命を落とした。最終的に九尾は、四代目火影の命を賭けた封印術によって封印することができ、里は滅亡を免れた。

 

「彼はこの里にとって大事な“人柱力“。何かあっては里の一大事だ。イルカ先生、今後とも彼のことをよろしくお願いしますよ。何かあればすぐに報告を、よろしいか?」

 

「はい、承知致しました」

 

 イルカの言葉を聞いた校長は満足したのか、うむ、と頷くと会議室を出て行った。1人会議室に残されたイルカは、窓に歩み寄り、すっかり暗くなった木の葉の里をしばし見つめる。家々からは電気の明かりが漏れ出ている。

 

「……」

 

 そう言えば、あの時もこんな風な感じだった、とイルカは心の中で呟いた。1日の仕事を終え、皆家族と共に夕食を食べたり、風呂に入ったりしながら団欒を楽しんでいた。

 そんな時だった、九尾が里に出現したのはーー。

 

ーーはなせーー!! とーちゃんとかーちゃんがまだ戦ってんだ!!

 

「っ!!」

 

 10年前の悪夢が脳裏に甦り、イルカははっとする。そして両手をギュッと握る。

 あの日、大勢の忍びが里を守るために犠牲になり、イルカの両親もまた同じように命を落とした。九尾との戦いで命を落とした全ての忍びはその後、命を賭けて九尾を封印した四代目火影と同じ“里の英雄“として讃えられた。

 

「“人柱力“……ナルト……」

 

 先ほど校長が言った言葉を呟き、そして教え子の名を同じように呟く。

 身命を賭して九尾を封印した四代目火影。彼が、九尾封印のための器に選んだのは、臍の緒を切ってまもない赤子だった。その赤子というのが、イルカの教え子であるうずまきナルトである。

 四代目がどういった思惑で、生まれたばかりの赤子に九尾を封印し、人柱力としたのか……。いちアカデミーの教員でしかないイルカには到底その真意は分からない。しかし、ナルトと接していて、その境遇と置かれている環境から彼が不遇な思いをしているのは確かだ。

 

「ナルト……すまない……」

 

 同じ里のものに暴行を受け、そのせいで左目を失いながらも決して弱音を吐かず恨み言すら言わない教え子。いつも笑顔で「イルカ先生」と自分を慕ってくれる、そんな心優しいナルト。言動や見た目が変わっても彼は自分の教え子であるうずまきナルトだ。その事実は変わらない。

 

「クヨクヨしても何も変わらない。俺は俺にできることをやるだけだ」

 

 万年中忍で、しがないアカデミー教員でしかない自分にできることは少ないかもしれないが、ナルトに対して何もできない訳ではない。最近のナルトは授業も真剣に聞くようになったし、放課後よく質問をしてくるようにもなっている。その成果も着実に出て来ている。

 

ーー自分に出来ることは精一杯やろう。それがナルトのためだ。

 

 イルカはそう決意すると、両手でパチンと顔を叩くと、思考をやめ、荷物をまとめると、帰宅の途についた。

 

***

 

 

 アカデミーを出たナルトは、すっかり暗くなった里の通りを歩いていた。

 

ーーやだ、あの子……。

 

ーーなんだあの格好、気味悪ィ。

 

ーー化け狐が……!

 

 通りでナルトとすれ違うほとんどの人間が、彼に罵詈雑言や怨嗟の目を向ける。ナルトはそれらに対し特に気にすることもなくただ黙々とアパートへと向かう。

 アパートまでもう少しというところで、目の前の通りから顔を赤らめた男3人がやってきた。だいぶ酒が入っているのか、3人はひどい千鳥足だ。

 ナルトは、3人の邪魔にならないように通りの端っこへと避ける。しかしーー

 

「オイっ、そこのガキ」

 

 酔っ払いの1人がナルトの姿に気づき声をかけた。

 

「はい。なんでしょうか?」

 

 声をかけられたナルトは、男に問い返す。

 

「なんでしょうか、じゃあねぇよクソガキ。挨拶しろよ、ボケが」

 

「すみません。次から気をつけます」

 

 ナルトは謝罪の言葉を口にし、男らに頭を下げる。しかし、男たちの1人が「コイツあれじゃねぇ? 化けギツネのガキだ」と言った。

 

「ああ、コイツが……ふん、こりゃいい。オイ、ガキ、金をよこせ。狐には必要ねぇだろう、ギャハハ……!」

 

 男たちはゲラゲラと笑い声を上げながら、ナルトのもとへ近づいてると、1人がナルトの胸ぐらを掴み上げる。

 

「……」

 

「この化けギツネが。胸糞ワリィ目ェしやがって、とっと死んじまえぇよ」

 

「……」

 

「ハッ、ビビってナンも言えねかぁ? へへへ……ーーあ?」

 

 胸ぐらを掴まれながら何も言わないナルトを見て、自分にビビってやがると思った男はヘラヘラと笑う。しかし、自分の目元から何かが垂れていることに気付き、もう片方の手で頬をそっと拭い、それを確認する。

 

「なんだ、こりゃ?」

 

 手についていたのは、“血“だった。赤い血を見た瞬間、男の全身を悪寒が駆け巡り、そして何か得体の知れないモノに捕まれているような感覚を感じた。

 

「はっ、なんだ、はっ……」

 

 男はソワソワとし始め、周囲に視線を走らせる。男の挙動不審な行動が気になった他の男たちが声をかけるが、全く聞こえていないのか、男はキョロキョロとし始める。その間、男の目や口、そして鼻からは血が流れ始めた。

 男は血の涙を流しながら、まるで糸の切れた人形のようにドサリと膝をついた。

 

「お、オイ! 何やってんだよ、オイって!」

 

 膝をつき項垂れている男に声をかける2人の男たち。そんな男たちの声をナルトの冷たい氷のような声が遮る。

 

「無駄です。その人はもうーー死んでいます」

 

「あ?」

 

 何言ってんだコイツは、というような顔をする男。しかし、男の目の前に立っている黄色髪の眼帯少年は口元に笑みを浮かべている。そして、おもむろに右手を前に出すと、親指と人差し指で銃の形を作ると、小さく「バン」と言った。

 その瞬間、男は爆ぜた。

 

「へ?」

 

 隣に立っていた仲間が突然のことに呆けた声を出す。しかし、自分の顔や服に、べっとりとした赤い何かが付着していること、そして、それが仲間の肉片であることに気付き、ようやく悲鳴をあげた。

 

「うァアアアア!!! なんだこれはぁ!!」

 

 仲間2人が死んだことに恐怖した男は、情けない悲鳴をあげながら脱兎の如くその場から逃げ出す。しかし、男の耳に「バン」という少年の声が聞こえた瞬間、男もまた爆ぜた。

 ムッとした濃い血の匂いが周囲に立ち込める。

 その場に眉ひとつ動かさず1人佇むナルト。すると、どこからともなく黒いフード付き外套を纏った4人組が現れた。4人組はそれぞれ動物を模した白い面をつけている。

 4人組の1人がナルトに声をかける。

 

「“ナルトさん“。どこかお怪我を?」

 

 女の声だ。

 女にそう言われたナルトは、頬に手を当てる。確かに血のようなモノが付着していた。ナルトはズボンのポケットからハンカチを取り出すと、頬と手を拭く。

 

「これは返り血。僕は怪我してない」

 

 淡々と抑揚のない声でそう答えるナルト。

 

「死体の処理をお願いします」

 

「はい」

 

 ナルトの指示を聞いた女はすぐさま他の3人に頷く。3人は慣れた手つきで3体の死体をバックに詰めると、またすぐさまその場から姿を消した。

 さっきまで広がっていた血の海は嘘のように消え去っていた。

 ナルトは、面をつけた女に「それじゃ、また僕の監視任務よろしくお願いします」と告げその場を後にした。ナルトの指示を聞いた面の女は「はい」と答えると、すぐさまその場から消え去った。

 通りは何事もなかったかのように、夜の静寂に包まれた。

 

 

 

 




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