うずまきナルトの支配物語   作:ガンオタ

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遅くなりました。


第4話 夕暮れの図書室

第4話 夕暮れの図書室

 

 紅い夕陽が差し込む放課後の図書室。

 長くて退屈な授業から解放された喜びから一時はアカデミー中に響き渡っていた生徒たちの喧騒も、そのほとんどが帰宅したり、もしくは遊びに行ったりして、アカデミーはまるで嘘のように静まり返っている。

 そんな静けさに包まれた放課後のアカデミーで、ナルトはひとり図書室で読書をしていた。

 

「へぇ……これがあの“ミナト班“か……」

 

 備え付けの椅子に座り、書棚から持ってきた『忍者アカデミー歴代卒業者一覧』というタイトルの本を読んでいたナルトはそう呟いた。

 ページの中央には、班結成の時に撮影した記念写真なのだろうか。3人の年若い少年少女と、緑色のベストを着た金髪の男が写っていた。

 顔の下半分を黒いマスクで隠し、不愉快そうに半眼で写る白髪の少年。目元をオレンジのゴーグルで覆い口に爪楊枝を咥えた黒髪の少年。2人の間でピースをしながらニッコリと笑う茶髪の少女。そして2人の少年の頭にそれぞれ掌を添え、やれやれという感じの笑みを浮かべる金髪の男。

 写真の下には、『ミナト班』という文字と、その下に班の担当上忍と班員たちの名前が記載されている。

 

・担当上忍

 『波風ミナト』

・班員

 『はたけカカシ』

 『うちはオビト』

 『のはらリン』

 

「みんな戦時中とは思えないほど、平和な顔をしてるなあ……」

 

 和やかな雰囲気を感じさせる写真だが、残念ながらこの記念写真が撮影された時の状況は決して和やかなものなどではなかった……。

 

「(当時は、第三次忍界大戦末期。激しい戦闘で優秀な忍びをたくさん失った木の葉は、アカデミーを卒業したばかりの下忍の少年少女たちを前線にたくさん派遣した。ミナト班も戦地に派遣されて……)」

 

 第三次忍界大戦。それはナルトが生まれる前に勃発した大戦である。

 大戦勃発の原因は、忍五大国の統治が揺らいだことによって生じた各国の忍び隠れ里間の小競り合いが原因と言われている。特に木の葉隠れと岩隠れとの戦争が最も激しく各地で凄惨な戦闘が繰り広げられた。

 大戦末期、『神無昆橋の戦い』というのちに大戦終結のきっかけとも言われる戦いで、ミナト班のカカシ、リン、オビトの3人は岩隠れの部隊と戦闘を行い、死闘の末に勝利した。

 

「(岩隠れの忍びたちの術によって崩壊する洞窟から脱出する際、戦闘で左眼を負傷したカカシを落石から庇い、右半身を巨岩に押し潰されたオビトは、死の間際、戦いの最中に開眼した写輪眼を負傷したカカシの左眼に移植し、死亡した。親友から贈られた写輪眼を受け取ったカカシは、のちに『写輪眼のカカシ』としてその名を世界に轟かせることになった、か……)」

 

 写真に写るオビトとカカシの顔を見つめながら前世で読んだ漫画のシーンを思い浮かべるナルト。

 しかし、カカシが亡き戦友から託されたのは、写輪眼だけではなかった……。

 

「(しかし、『リン』を護れ、というもう一つの約束は果たすことはできなかった……)」

 

 ナルトは、オビトからリンへと目を移す。

 オビト亡き後もカカシとリンは各地の戦場を転戦、彼らを含めた若き木の葉の忍びたちのおかげで長きに渡る大戦もようやく終結の兆しが見え始めた頃、任務中のリンが霧隠れに誘拐されてしまう。

 上層部の命令を無視し、カカシは単独でリンの救出へと向かう。霧の忍びたちとの熾烈な戦いの末、なんとかリンを救出したカカシだったが、その時すでにリンは三尾の人柱力にされてしまっていた。

 

「(自分が里に戻れば、自分に封印された三尾が暴走し里が壊滅してしまうことを悟ったリンは、カカシの雷切に自ら突っ込み、自害した……)」

 

 再びカカシに目をやるナルト。

 リンを手にかけた、という事実はカカシの心に深い傷を残し、ことあるごとに悪夢となってカカシを苦しめた。悪夢と自責の念。決して消えることはないこれらと向き合いながら、カカシは大戦終結からの十数年を“暗部“(暗殺戦術部隊)として、木の葉の闇……いや、忍の闇の中で生きることになった。

 しかし、リンの死によって運命を狂わされ苦しんでいるのはカカシだけではない。それはうちはマダラによって命を救われた“オビト“も同じだ。自分が愛した人が親友の手によって殺されるのを目にしたオビトは、マダラの計画『月の眼計画』の協力者として、この世界を終わらせるために、今も闇の中で暗躍している。

 

「(『NARUTO』って忍術とかのバトルもそうだけど、登場人物たちの人間模様もしっかり構成されてるから味わい深い作品なんだろうな……)」

 

 カカシは、木の葉隠れを守るために暗部として陰で戦い。

 

 オビトは、自分から愛する者を奪い、そして憎しみと悲しみしかないこの世界を終わらせるために暗躍。

 

 2人の師であるミナトは、四代目火影として九尾から里を守るために命を散らした。

 

 そして、ミナトの息子であるうずまきナルトは……

 

「……」

 

 ナルトは小さく息を吐くと、頬杖をつき窓の外へ視線をやった。

 視線の先には、オレンジ色の夕陽に照らされた木々があり、その内の一本の枝に1羽の鴉が止まっていた。鴉はじっとナルトを見つめている。

 

「フフ……そんなとこに隠れてないで、こっちに来なよ、“ヒナタ“」

 

 そうナルトが言った瞬間、背後の書棚からゴツンという音が聞こえた。

 身体を捻り、背後を振り返るナルト。

 そこには、クラスメイトで日向一族の少女、日向ヒナタが立っていた。

 

「あ……な、ナルト……えっと……」

 

 書棚の陰からこっそり見ていたことがバレたのが恥ずかしいのか、ヒナタは頬を紅く染め、手を胸の前で組み小さく震えている。

 まるで蛇に睨まれたカエルのようなヒナタの姿を見たナルトは、優しい笑みを浮かべると、隣の椅子の座板をポンポンと叩く。

 

「ほら、ここ座りなよ」

 

「え……いいの?」

 

「うん、別に構わないよ」

 

 ナルトにそう言われ、当初は躊躇していたがヒナタだったが、気持ちを落ち着けるためか一度小さく頷くと、おずおずと席に近づき、丁寧に「失礼します」と言って席に座った。

 

「よ、よくわかったね……私がいること……」

 

 以前はこっそり見ていてもバレることなどなかったのに、なぜバレたのだろうか、と不思議に思ったヒナタはそう問いかけた。

 

「それはねーー」

 

 ナルトはそう言うと、自分の鼻を指差す。

 

「僕は特別に鼻が利くんだ。だからわかる」

 

「え?」

 

 一体どういうことだろうか、と首を傾げるヒナタ。

 『NARUTO』の世界に転生してから気づいたことなのだが、今のナルトには、本来のうずまきナルトが保有していた身体及び精神チャクラと九尾のチャクラ、それ以外に“いくつか特別な能力“を持っている。

 

ーー『悪魔の能力』。ナルトはそう呼称している。

 

 能力の内容は多岐に渡りまだ全ては把握できてはいない。しかし、現在判明しているのは、自分より弱い存在だと認識した存在を自分の支配下に置き、使役することができる。例えば、野良猫や野良犬、もしくは野鳥やネズミといった生物と主従契約を結び、その視覚や聴覚を共有することができる。ちなみにこれは人間も含まれ、支配下に置いた人間の記憶を書き換えたり、ナルトの意に沿った行動を取らせることができる。

 現在も調査研究を行っているが、自分を監視していた暗部を支配下に置けたことから人間相手にも能力が行使できることは確認できている。

 

「(嗅覚がよく利くのも、悪魔の能力の一つかな?)」

 

 忍犬並みに発達した嗅覚もまたその一種ではなかろうかと考えていると、突然黙り込んだナルトをじっと見つめるヒナタの姿を見て慌てて思考を中断する。

 そして頬杖をついて、彼女に問いかける。

 

「それで、僕に何かようかい、ヒナタ?」

 

「うん、えっと……ナルトくんの様子が気になって……」

 

 両方の人差し指をツンツンしながらヒナタはそう答えた。

 

「(ヒナタは、ナルトとのことが好きでよく物陰から観察してたんだよな……。けど、ナルトは最初の頃サクラに好意を抱いていたから、ヒナタの好意には気付かなかった。そんなナルトが彼女の好意に気づくのは、もっとあとのことだ)」

 

 好きな人と2人でいることが気恥ずかしいのか、顔をリンゴのように赤くしているヒナタの姿を見ながら、ナルトは彼女に関する情報を頭に思い浮かべる。

 

 日向ヒナタ。木の葉隠れの里の中でも有数の名家である日向一族の宗家の長女。

 一族の血継限界である『白眼』は、忍びの祖である六道仙人が開眼し、その瞳術はうちは一族の写輪眼と同等もしくはそれ以上とも言われている。

 “経絡系“と呼ばれる全身に張り巡らされたチャクラの流れを視認できる白眼と、『柔拳』と呼ばれる経絡系を断つ特別な格闘術、このふたつを併せ持つ日向一族は、『木の葉最強』と恐れられている。

 しかし、ヒナタは、とても温和で控えめな性格から誰かが傷つくということを恐れ、肝心なところで非情になれない。そんな彼女の姿を見た他の一族たちから勝手に“無能“という烙印を押され、そのことで彼女は非常に苦しんでいる。

 

「(人柱力ということで周囲からいわれなき誹謗中傷を受け孤立してきたナルト、そして才能がないと言われ否定され続けてきたヒナタ。自分と似た境遇の存在を知ったヒナタがナルトに好意を持つのは、ある意味自然なことなのかもしれない……それに、僕もヒナタのことは好きだし……)」

 

 うずまきナルトという存在がそうさせているのではない。これはうずまきナルトという器の中にいる彼自身の嘘偽りのないヒナタヘの気持ちだ。

 なぜヒナタのことが好きなのか、前世で知っているからではない。今世でヒナタと実際に接し、いろんなことを見聞きしてきたからだ。

 

「好き……」

 

 ヒナタに対する感情の昂りによって、ナルトの口から無意識にその言葉が出てしまった。

 

「え?」

 

 ナルトの言葉を聞いたヒナタはそう言って目を丸くした。

 

「あ……」

 

 自分が言った言葉にようやく気づいたナルトもまたそう言って右目を大きく見開いた。

 沈黙がナルトとヒナタを包み込む。

 壁に掛けられている大きな振り子時計の振り子の音がよく響いた。

 

「え、えっとね、アカデミーの歴代卒業生のアルバムを見てたんだ、アハハハ……」

 

 気恥ずかしさを隠すようにわざと大袈裟に髪をかきながら顔をそらしたナルト。

 

「へ、へぇ! そうなんだね!」

 

 ヒナタもまたナルトと同じように大袈裟にそう言った。しかし、顔はさっきよりずっと赤くなっていた。

 

「(たく、何やってんだ! しっかりしろ! 僕)」

 

 なんと間抜けなことをやってしまったのだと自分を激しく叱咤するナルト。そして気持ちを一旦落ち着けるために大きく深呼吸をする。

 

「聞いたよ、火影にならないって……」

 

 ふと、ヒナタが静かにそう呟いた。

 その声音からは少しだけ寂しさが感じられた。

 

「うん、そうだよ」

 

 再びヒナタの方に向き直ったナルトはそう頷く。

 誰から聞いたのなんてことは言わない。おそらくシカマルかチョウジ、もしくはキバの会話をどこかで聞いたのだろう。

 視線の先のヒナタの顔は、とても寂しそうだ。

 

「どうしてなの?」

 

「作家になりたいっていう新しい夢ができたからね」

 

「作家……」

 

 ナルトの新たな夢を小さく反芻するヒナタ。

 

「いっつも火影火影って言ってた僕が、火影にならないって言ったらやっぱりおかしいかな?」

 

「うんうん、そんなことないよ! けど……」

 

ーーまっすぐ自分の言葉は曲げねぇ……オレの忍道だ!

 

 ナルトの脳裏にふとその言葉がよぎった。

 強大な敵との戦い、乗り越えるのがほぼ不可能と思われる壁などに遭遇した時、ナルトは常にそう叫び自らを叱咤し、それらを乗り越えてきた。そしてそれはナルトの周囲にいる人間たちにも何かしらの影響を与えてきた。

 

「(ヒナタもナルトに感化されたひとりなんだよな……周りからドベや落ちこぼれなどという言葉を浴びせられても、決して諦めることなく、火影という夢に向かって努力するナルト。似たような環境にいたヒナタにとってナルトは憧れの存在だったんだろうね)」

 

「でも、ナルトくんなら絶対なれるよ。だってテストで100点もとったし、最近はイタズラもしなくなったし、イルカ先生もナルトくんのことよく褒めてるよ……」

 

 だから、自分の憧れの存在が夢を諦めらたというのはヒナタにとってまさに晴天の霹靂と言っても過言ではないほどの衝撃だったはずだ。

 

「テストでいい点を取ったから、先生に気に入られたから火影になれるってわけじゃないよ。それに僕忍術がからっきしダメだし……」

 

 火影に選ばれる優れた忍というのは、他者を圧倒する力の持ち主なのだ。ではどうしたら周囲に忍として自分のの力を示すことができるのか……。

 

ーー戦場でどれだけの敵を倒したか。それと人間性……か

 

 四代目火影であり、ナルトの父である波風ミナトが火影に就任できたのも、第三次忍界大戦で数々の武功を上げ、『木の葉の黄色閃光』という異名をつけられるほどの実力を周囲に示したからだ。

 

「そうだけど……でも、忍術は頑張れば……」

 

 悲しみのあまりしゅんと顔を俯かせるヒナタ。そんな彼女の姿を見たナルトは彼女を元気づけようと優しい笑みを浮かべる。

 

「火影と作家ってさ、似てないようでちょっと似てると思わない?」

 

「え?」

 

 顔を上げるヒナタ。

 

「まあ、たた違いはあるけど、みんなに『夢』与えるというところは一緒だと僕は思うんだ」

 

「夢……」

 

「そう、夢。夢は未来であり目標。そして夢があれば人は救われる」

 

「……」

 

 ナルトの言葉を聞いたヒナタは大きく目を見開き、そしてナルトに対して何かを見出したのか、その表情はどことなく晴れやかだ。

 

「て、なんかカッコつけたこと言ってるけど、まずは卒業試験に合格しないと!」

 

「え、卒業試験受けるの!」

 

 作家になるから忍びにはならないと思っていたヒナタは驚く。

 

「うん、作家ってすぐになれるわけじゃないし、食っていくためにも稼ぎは必要だからね。だから僕は忍びにはなるよ。それに……」

 

「それに?」

 

 ナルトはニィッと年相応な笑みを浮かべると、

 

「もし大切な人ができたら、その人を守れるくらいの力はつけときたいしね」

 

 ナルトの言葉を聞いたヒナタは、ぽっと頬を赤く染めた。

 ちょうど、タイミングよく閉校時間を知らせるチャイムが校舎内に響いた。

 

「さて、そろそろ帰るかな……」

 

 ナルトは卒業アルバムをパタンと閉じると、席を立ち上がる。ヒナタも同じように席を立ち上がった。

 

「それじゃ、ナルトくん、また明日ね」

 

 そう言ってぺこりと頭を下げたヒナタは、図書室を出て行こうとする。しかし、彼女の後ろ姿を見たナルトはなんとも言えない気持ちになり、彼女に言葉をかけた。

 

「ねぇ、ヒナタ」

 

「ん……」

 

 振り返るヒナタ。

 

「その、もし良かったら、一緒に帰らない?

 

 気恥ずかしそうに頬をぽりぽりとかきながら、ナルトは彼女にそう言った。

 




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