果たしてそこは、洋風ながらも所々日本人気質な意匠が凝らされているような、そんな内見の豪邸だった。
一人の少女が住むにしてはかなり色々と持て余しそうで、家政を司るもの数人を連れ添った大家族の富豪がギリギリ使いこなせるのでは無いかと思われる、そんな場所だ。
シャンデリアから煌々と溢れ出る橙色の光を受けて反射する木製の大階段のテカテカとした手すりに手を置きながら、遠坂邸の隅から隅までその目に収めんがために首を痛めんばかりに辺りを見回す士郎。
「こんなの映画かアニメでしか見たことないぞ……。ほら見ろよあれ、壁紙じゃなくて塗装を彫り込んで装飾にしてるぞ」
「5.56mmNATO弾程度の銃撃になら耐えられるだろう」
という制作者の芸術性にクソを塗りたくるような発言をするT800に対して、
「いざとなればおじさんの後ろに隠れるから大丈夫だよ」
と、暗に盾がわりに使ってやると宣言する士郎。
「理性的な選択だ、感情的だが」
「せっかくだし、その装甲にデコレーションでも彫ってみようぜ。そうすればおじさんも少しは芸術性に目覚めるかもしれない」
「複層タングステン炭素合金のボディーに、ステンレス製の彫刻刀では傷をつけることは不可能だ。現代の技術で私の硬度に達する素材は存在しない」
「頭もそうみたいだな」
「頭部装甲も十分――」
「――皮肉だよ、わかってるだろ」
「……装甲ではなく、表皮組織なら彫刻が可能だ。その方向性で工夫をしよう」
「絶対するなよ。愉快な人体オブジェと行動を共にしたくないからな」
彫刻刀で削られて装飾された血まみれの人間外皮を被ったT800の姿を一瞬想像して、すぐさまに吐き気から脳裏から削除する士郎。
その姿を隣で見ていた凛は、
「……アンタらでも口喧嘩はするのね」
「口喧嘩じゃねえよ、人間らしく振る舞ってもらうための教育だよ」
「へぇ……。無愛想だとは思ってたけど、それは設計ミスだったってことね」
「汎用型ターミネーターに感情機能は必要ない。空気を読む必要もだ、遠坂凛」
「……冗談も言えるじゃない」
凛は呆れたようにため息をつくと、
「ちょっと着替えてくるわ。あなたたちはあそこに来客用の部屋があるから、そこでくつろいでちょうだい」
と、そのまま階段を上がって自室に向かおうとしていたのだが、待ってくれと士郎が呼び止める。
「まずはこの家の構造を把握したいんだが、軽く探検ごっこしてもいいか?」
「探検ごっこって……」
そもそもこの家に立ち寄った理由は、アインツベルン城の代わりとなる要塞を探すことであった。ゆえに士郎の言は至極真っ当なものであることは理解しているが、女性の宅に初めて邪魔をしておきながら、いきなり探検ごっこという名の家探しを何の悪びれもなく要求するデリカシーのなさに苛立ちながら、
「いいわよ」
「おう、そうか。じゃあ――」
「――ただし!」
士郎に指を突きつけながら、
「私の部屋と、工房には立ち入らないこと」
「流石にそこまで要求するつもりはないさ。でも、遠坂凛の部屋はともかく、工房ってのはどこなんだ?」
「1階の離れにある部屋よ。一部屋だけドアの形が違うから、それでわかるはずよ」
「了解。じゃあ行こうか、おじさん」
そう呼びかけ、凛と別れて”探検ごっこ”に出かける士郎とT800。
対して、遠坂凛はこれより再び対峙することがありそうなT1000対策にどのような魔術が使用可能なのか、また、どのような戦術が有効なのかで頭を悩ませながら自室に戻っていく。
聖杯戦争前夜。
すでにその右腕には赤色の印は宿っており、近いうちに聖杯戦争が開始されることは確定している。
サーヴァントを召喚することも、視野に入れなければならない。
そのことを念頭に、凛は着替えつつ自室に保管している宝石の選定を始めた。
・・・・・・
「それで、そのT1000ってターミネーター? は、物理的な攻撃が一切通らないって?」
「そうだ」
遠坂邸の客室で大柄の男二人と少女は話し合っていた。
「T1000は液体金属で構成されていて、骨格は存在しない」
「困ったわね……。じゃあ、骨格はなくても、弱点……例えば、核はあるんじゃないの?」
「肯定だ、遠坂凛」
「だったらそこを叩けばいいじゃない!」
「それは現実的ではない」
「現実的じゃない? どういう意味よ。装甲が硬いから内部にまで破壊力を及ばせるのが難しいっていうのなら、内部破壊の方法はあるわよ」
数種類の魔術を思い浮かべながら話す凛。
その詳細については何も知らない士郎だったが、
「違うんだ、遠坂。コアは確かにあるけど、T1000のコアは全身に分散されてて、その数は10兆個を下らないんだよ」
「10兆!?」
「そう。微細化した複数のコアを液体合金でカバーしているのが、T1000の正体。内部から破壊しても意味ないんだよ」
驚愕する凛に対して落ち着いて説明する士郎。
「……物理攻撃が意味をなさないのは、本質的にはそこに理由があったわけね」
「その通りだ」
鋭い凛の洞察に相槌を打つ。
確かに液体金属は厄介な相手だが、コアとなる部分が存在すればまだ対処はしやすかった。
だが、そのコアが分散されていて、手に負えないほどに多い。強酸で溶かすか、溶鉱炉で溶かすか、液体窒素などで起動不可な状態まで冷却してどこかに保存するか、もしくは非現実的ではあるが、ナノ単位でT1000をすり潰すくらいしか手はない。
「だからと言って弱点がないわけじゃない。体組織全体が液体金属だから、ある程度大きな衝撃に対しては怯むし、大きく形が崩れれば、修復するのに時間がかかるから逃げるくらいはできる」
「結局は対処療法ってわけね」
「けど、ないよりはマシだろ?」
そう言いつつ、士郎は懐からピストルと数個のマガジンを持ち出す。
それに対して首を傾げる凛に士郎は、
「使ったことのない人に軽く渡すのは気が引けるけど、緊急事態だからな。護身用に遠坂のために選んだ」
「銃……」
そうすると、士郎はテーブルに置かれたピストル――ベレッタ92の操作方法を一通り説明する。
と言っても、リロードの仕方とセーフティの外し方、発砲の仕方と人に銃口を向けてはいけないなどの禁則くらいだが。分解する手順などはこの際必要ないのでわざわざ説明して混乱させるわけにもいかないのだ。
「とまあ、そんな感じだがわかりそうか?」
「ええ。小説とかで読んだのとそんなには変わらないのね」
「まあな。小説とは違って無限に撃ち続けるのは無理だけど」
「流石にそれくらいはわかるわ」
「ならよかった」
と、そのままピストルを凛に突き出す。
本来このような提案に対しては余計なお世話とばかりに突き返したはずなのだが、今回ばかりは凛は素直に従うことを選択したようだ。
事実、彼女の得意技であるガンドがT1000相手には十分な効果がないことはわかっている。本来その呪いとしての性質が効かなくとも、高密度な魔力によって銃弾にも負けない相当な物理ダメージも与えられるはずなのだが、先程の衝突ではそのような様子は見られなかった。
狙われているかもしれない状態で自身の自負を優先させるほど凛は自惚れてはいないつもりである。いざとなれば銃を使うことも厭わないのだ。
「遠坂、念のために確認だけど」
「何よ?」
「殺したいほどに恨んでる相手とかはいないよな」
「いるわけないじゃない!?」
怒り心頭で返答する凛にピストルを渡す。
渡されたピストルを握りながら感触を確かめる凛。
遠坂凛という少女は確かに電子機器全般が苦手なのだが、どうやらピストルはその範囲外であったようだ。士郎の説明がわかりやすかったのもあるだろうが、少なくともピストルは“電子”機器ではなかったのが大きかったのだろう。
ひとしきりにピストルの感覚を確かめたのちに、凛は自らも懐から物を取り出す。
「宝石……?」
「正確には宝石っぽいだけの、どこにでもある普通の水晶だけどね」
所々くすみはかかっているが、窓ガラスにもその透明度は負けない手のひらサイズのクリスタルを士郎に手渡す。
「験担ぎ……?」
「違うわよ。その水晶には少しだけど魔力を込めておいたわ」
「験担ぎ?」
「違うって言ってるでしょ? 次験担ぎと言ったら殴るわよ」
「……」
「いざとなったら使えるはずだから、持っておいて」
「いざとなったら? どういうことだ?」
「それはその時のお楽しみよ」
「やっぱり験担ぎじゃないか」
容赦のないパンチが飛んできた。
それなりに強く殴ったつもりだったが、避けも防ぎもしなかった割には、けろっとした顔を見るとかなりムカついた。
次は強化を入れて殴ってやろうと決めた。
「話は戻るが、T1000対策の話だけど」
「そうだったわね」
「単刀直入で聞くけど、この豪邸はどこまで壊れていい?」
「は?」
まるで解体業者気取りの発言に唖然とする凛。
戦闘が起きる可能性は確かにあるので、ある程度の被害は許容しようとしてはいたが、壊れていい限界を聞かれると話はまるで変わってくる。
「対人地雷数個と無人ガンタレット数機はすでに置かせてもらったけど、対戦車地雷とか置いていいのか一応聞いておこうと思ってさ」
「……」
「あと、あんまり家が壊れてほしくないのなら、RPGとかはあまり使い過ぎない方針で、決戦は俺たちの要塞にするかなとか思ってるんだけど」
「…………」
「あ、そうそう。この家の要塞としての能力はそれなりに高かったぞ。驚いたよ、結構歴史のありそうな建物なのに、強化鉄筋コンクリートで建ててるんだな。アフガニスタンで寝泊まりしたバンカーよりも頑丈そうだ」
「………………」
「あの時は榴弾を撃ち込まれて死ぬかと思ったけど、この家なら徹甲弾じゃないと貫通しそうにないな。だから、もし遠坂の許可さえあれば、バスに置いてるパーツを組み立てて7.5cm戦車砲をリビングに置いておこうかなって、どうした遠坂、先から静かに顔を顰めてるけど、俺もしかして何かおかしいことを言ったのか?」
「……………………」
青筋が立ちそうなほどに苛立った凛だったが、数度の深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。
目の前の男は決して自分を揶揄うために煽ってきているのではない。きっと常識がないだけだ。無知なのだ。無知は罪だが、断罪をするのは自分じゃない。
繰り返す深呼吸。
だが凛は失意していた。
深呼吸では、人間はその怒りを鎮めるどころか、むしろ増幅させてしまう。
その増幅された怒りの感情によって、凛はある決意をすることになってしまう。
「ねえ、衛宮くん」
「は、はい」
過去一の笑顔で凛は続けた。
「衛宮くんたちが戦う理由って、あのT1000ってのが襲ってくるからだよね?」
「そ、そうだな」
「じゃあ、そのT1000がいなくなればいいんだよね?」
「まあ……」
「そう」
そう言うと、凛は立ち上がる。
「そういえば、まだ衛宮くんたちに魔術を見せてなかったね」
「そうだな。いや、別に無理に――」
「――ついてきなさい」
有無を言わさぬほどの迫力が、そこにはあった。
・・・・・・
素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――――
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!
輝く召喚陣。
まるでこの世のものではないような、そんな風景。
導かれた工房では、まさしくこの世でないものを呼び出す儀式が行われていた。
儀式の行使者は遠坂凛。
対してそれを見つめる影は一つ。
T800もこの場に連れてこようとした凛だったが、魔術の神秘性という意味で、士郎の提案から念の為に離席してもらうことにした。
だがこれで認めなければならない。
世界には確かに魔術という神秘が存在するのだと。
ついに召喚に踏み切ってしまった凛。召喚するサーヴァントは誰になるでしょうかね?
ヒロイン誰にしよう?
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王道を往く遠坂凛
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HFよりハードかもしれないイリヤ
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鬼道を逝く桜ルート
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幻のハーレムルート