衝突――。
刹那、剣を構えて振り下ろすような姿勢で、彼女が肉薄してきた。
「――ッ!」
それに対して、そのおそらく存在する不可視な剣から身を守りつつ後ろへと跳躍し、同時に肩掛けのホルスターから長さ1フィートあるサバイバルナイフを取り出す。同時に袖奥に隠しておいた仕込み銃のセーフティも外し、ベルトにつなげている各種グレネードの位置も感触によって再確認する。
一歩退いたこちらを警戒する少女に対して、士郎は先手必勝とばかりにナイフを突き出しながら逆に踏み込む。
キン――ッ!
鉄同士が叩き合わされるような音と、確かな手の痺れによってその不可視な剣の存在をはっきりと認識したのちに、弾き飛ばされたサバイバルナイフを握る手の勢いに任せて一歩後退する。
対して少女はいとも簡単にサバイバルナイフの一突きをいなし、すでに追撃の体勢に入っており、その俊敏性は士郎のものより圧倒的に高いことが窺えた。
だが、士郎にとってそれは予想外ではあっても、想定外ではない。
崩れた体幹を戻すまでに少女は間違いなく自分に一太刀を浴びせることができる。ならば――
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ!!
超常的な出現方法と、その人体である限りは不可能な運動能力からして、士郎が現代兵器を使用を躊躇う理由はなかった。
だが、
「……」
薬莢が床に落ちるまでにすでに飛来してきた銃弾を全てその不可視な剣で一蹴し切った少女に、感嘆の声をあげたくなる。
彼女がどのような存在で、どんな理由からこちらへと問答無用な攻撃を仕掛けたのかはわからないが、士郎からすれば彼女は一流の戦士であることに疑いようはない。
戦うスタイルは違うが、それこそ、いつぞやアルバニアで出会った、キングコブラに噛まれて5日間のたうちまわった結果、コブラを死なせたあの男とも比肩するのではなかろうか。
そしてこれが彼女が召喚されたのちに、5秒間に起きたことであった。
「やめなさい!」
召喚直後の放心状態で色々起きたせいで一歩遅れて叫ぶ凛に対して、少女は士郎に向かって踏み出しかけた一歩を止める。
「撃つな!」
同時に工房のドアを蹴破り、少女にウィンチェスターの銃口を向けたT800のトリガーにかける指の力が緩む。
双方共に命令には弱いのだ。
だがどちらも警戒を解かない。
守るべきマスター、守るべき少年がいるのだから。
「……俺が何か気に触ることをしたかな、お嬢さん?」
そして凍りついた場で一番初めに口を開いたのは、士郎だった。
「……」
対して少女は沈黙を保ち続ける。
少しの間待っても答えが返ってこないので、
「遠坂、説明してくれるか?」
「……ごめん、衛宮くん。少し彼女と二人きりにしてもらえないかしら?」
「衛宮……!」
「……ああ、いいぜ。俺とおじさんは客室で待ってる」
何故か衛宮という単語に過剰反応するセイバーを無視しつつ、T800を連れて工房から出ていく士郎。
理不尽に襲われた側として言いたいことは色々あるが、今のところは魔術の存在を証明した凛に免じて、全て後回しにすることにした。
いや、それで釣り合いが取れるはずだと自分に言い聞かせた。
やたらと広い屋敷なため、客室まではかなり長い廊下を通らないといけない。
所々使われていないのかすでに埃がかぶっているのだが、凛が一人で住んでいるとしたら仕方のないところな気もする。
「魔術ってのは実在したよ」
先ほどの召喚の光景を思い浮かべながら、士郎はT800に語りかけた。
「種も仕掛けもなかった。トランプに仕掛けがあるマジックとも、コインを扱う技術に長けた手品とも違う」
「赤外線センサーでその様子は観察していた」
「いやいや、そういうのをやっちゃダメつってたろ?」
「私に命令されたのは工房に入らないことだけだった」
「それを屁理屈って言うんだよ。……結局工房に入ってきたし」
はぁ、とため息をつく。
確かに緊急事態だったので、T800を一方的に責めることはできないが。
「にしても、世界ってまだまだ広いな。色んなところに行ってきたつもりだけど、魔術なんて聞いたこともなかったな」
「肯定だ。おそらく遠坂凛の言う神秘の秘匿が理由だろう」
「おじさんも魔術を信じる気になったの?」
「工房内で生体反応が一つ増えた。閉じた環境で起きるには、人間に不可能な妊娠と出産の期間だった」
「……期間の問題よりも、俺と遠坂がいきなりそんなことするわけねえだろ」
スピード結婚でもありえない話をするT800に呆れる士郎。もし出産説が合っていれば、あの召喚された少女もありえないスピードで赤子から成長していることになる。
「人間とは可能性の生き物だと資料にある」
「ねえよ、んな可能性は。その資料もそんなくだらねえことを言いたかったわけじゃねえだろうしな」
そして客室前までたどり着いた2名。
そのまま扉を開いて中に入ろうとしてドアノブに手をかけた士郎だったが、思い直す。
「そういえば」
「……」
「遠坂は別に家があんまり壊れて欲しくないとは言わなかったよな」
「直接的な言及はなかった」
「てことは、黙認ってことだよな」
「いや、遠坂凛は言外に否定的――」
「――黙認してたよな」
悪い笑顔をする士郎に気づいたT800は、
「肯定だ」
同じように悪い笑顔を真似した。
士郎はそのぎこちないモノマネに吹き出してしまった。
・・・・・・
一方、工房に残された二人の少女。
双方とも緊張した雰囲気を纏い、凛は少女に対して、少女は先ほど工房を去った士郎らに対して警戒を解かない。
青を基調とした鎧を身に纏う少女――サーヴァントはやがて士郎たちが十分工房より離れたのを確認すると、
「サーヴァント・セイバー、召喚に従い参上した。問おう、あなたがわたしのマスターか?」
「ええ、そうよ」
努めて冷静に答える。
正直言ってこの召喚に関してはあまりにも感情的なきっかけで始めたものだった。
ゆえに、その召喚が成功しない可能性すら考慮しなければならなかった。
確かに魔法陣は前から用意していたし、魔力を通すだけで形式上の儀式は成立するが、まだまだ聖杯戦争は始まる時期ではなく、その証拠としていまだに聖堂教会から監視役すら派遣されていない。そのうえ、聖遺物も用意することができていない。いや、そもそも手にする手立てすらなかったのだ。
それが翻してみればどうだ。
聖杯戦争における最優のサーヴァントクラスであるセイバーが召喚できたではないか。
この戦い、我々の勝利だ状態である。
「これより我が剣は貴女と共にあり、貴女の運命はわたしと共にある」
「……遠坂凛よ、よろしくお願いするわ。――だけど、その前に」
同時に簡易的な詠唱と共に、工房に結界を張る凛。
壁に耳あり障子に目ありという言葉もある。これより話す言葉は万が一にでも士郎たちに聞かれてはいけないものとなる可能性がある。
「質問が何個かあるわ」
「聞きましょう」
「まず一個目。なぜ先ほど衛宮くんに襲いかかったの?」
大事な質問である。
セイバーと二人きりでいるときに関して言えば、特に問題のある行動をする兆候は見られないが、聖杯戦争で呼び出されるサーヴァントは千差万別であり、目についた人を全て敵視したり、その制御が不可能である可能性もなきにしもあらずである。
彼女がそういった手合いでないことを確認しなければならないし、そういった手合いだった場合の対処も考慮せねばなるまい。
「急造の召喚だったため、マスターが緊急事態にあると判断しました。明らかに死地を何度も乗り越えた相手だったために、敵として認識したのですが……」
「……まあ、あの図体じゃそう思われても仕方ないか」
身長は優に190を超えていて、どこでつけたかわからないような傷が顔に複数個あり、何の変哲もないシャツからでもわかるほどにムキムキな体格をしているのだから、勘違いされてもおかしくはない。
「さらに、複数の暗器に、火薬の匂いがする小筒のようなものを大小十数個携行しているので、傭兵の類いのものだと判断しました」
「あー、……うん…………。その洞察は、間違ってないかも」
「だったら」
「いや、敵対してるわけじゃないからね」
懐からナタのように長いサバイバルナイフが出てきたのは想定内でも、まさか袖の奥に仕込み銃を隠して発砲するとは思ってなかった凛。
それを全て捌き切ったセイバーの技量もとてつもないものだが。
「では、同盟者と?」
「同盟者、ねぇ……」
反芻する凛にセイバーは首を傾げる。
「いや、違わないけど、違うのよ……」
「それはどういう意味でしょう?」
「確かに現状同じ目標を持って戦う予定だけど、衛宮くんたちは聖杯戦争とは関係ないのよ」
「関係ない?」
その言葉にさらに首を傾げるセイバー。
「召喚の儀式に同行させているのは……、魔術儀式の見学、もしくは後継者への教授ですか?」
「それも違って……、衛宮くんはそもそも魔術師でもない」
「魔術師ではない? もしや一般人を……」
咎めるような口調になるセイバー。
正義感が見て取れるような言動なので、セイバーのそのような性格に対して凛は内心ほっとしながらも、返答に困る。
どうやって説明すべきか。
自身は今、聖杯戦争とは全く別件でサーヴァントを呼び出し、その手伝いをさせようとしている。
そのことについては、サーヴァントたるもの、マスターを守護すべしとか何とか言えば通せる論理ではあるが、その別件で襲いかかってくるのが、未来から送られてきた殺人マシーンだなんてそう簡単に言えたものではない。
何いってんだお前と一蹴されるならまだしも、精神的に不安定なマスターだと思われてしまうと、そこからの関係構築はものすごく難しくなるだろう。
だが、まどろっこしく答えて誤魔化したところでそれは変わらない。それに性が合わない。
少し考えて、凛は口を開く。
「えーとね、……セイバーって…………、タイムトラベルって信じてる?」
「? ……魔法に関しては詳しくはないですが……」
「いや、それとも別件で」
「……?」
「そうなるわよね……。でもおそらく本当に実在することになる技術らしいの」
「技術……」
「それによって過去に送られてきた殺戮マシーン――ターミネーターと戦うことになったわ。衛宮くんとはその限りでの同盟者になったわけ」
という滅茶苦茶な事実を端的に説明した凛の言葉に大混乱するセイバー。
「まあ、実際に会えば嫌でもこんな話を信じざるをえないわ。その話はまたおいおい衛宮くんたちがいるところで話しましょう」
「……にわかには信じ難いですが、理解しました」
釈然としないセイバーに、その気持ちわかるよと思いつつも、セイバーに次の問いを投げかける凛。
「次の質問よ。貴女は誰?」
「――サーヴァント・セイバー、今答えられるのはそれだけです」
帰ってきた返答はそっけないものであった。
それでは困るのが凛だ。
彼女がどのような英霊で、どんな手段や戦術を持っていて、そしてどのような性格なのか、名前さえ知れば大雑把には最低わかるのだ。
さらに有名な英雄であれば、もっと詳しく知ることができるかも知れない。
「いや、わたしが知りたいのは貴女の本当の名前よ。工房に結界も張ってあるし、外には決して漏れないわ」
「ええ、それについては理解しています。ですが、今のところ私の真名については聞かないでほしい」
「……貴女が誰か知らないと、聖杯戦争での作戦に支障がきたすのだけど」
「それについては……、安心してほしい。サーヴァントとしての能力は他に引けを取るつもりはありませんし、……聖杯戦争が本格的に始動するまでには告げることを約束しましょう。どうしても今この場で問いただしたいのであれば、令呪の使用を検討してください」
「……そう」
ここで令呪を使うかどうかを悩むが、少し考えたのちに今のところはいいと結論づける。
もしも聖杯戦争の前夜であれば使うこともやぶさかではなかったが、少なくとも監督役が来るまでは我慢してもいい。それに、いたずらに関係性を悪化させるのも悪手である。
「じゃあ、最後の質問よ。これから先、聖杯戦争の終わりまで、わたしと共に戦ってくれる? セイバー」
手を差し伸べる凛に、セイバーは精悍な風貌で手を握り返した。
「もとよりこの剣はすでに貴女と共にある。幾夜の戦いを制し、必ず勝利を掴んで見せましょう」
軽い握手に満足して、工房の結界を解くことにする凛。
今のところサーヴァントの性格に関しても好感触なうえ、サーヴァント同士の戦いはまだ確認できてはいないものの、戦力としても期待が持てそうであった。
ウキウキ気分で結界解除の詠唱をするが、
「あれ?」
「何か問題ですか、マスター?」
「基点となってる魔法陣がズレてる……? 先ほどの戦闘でおかしくなったのかな」
短時間で工房を鉄壁の守りとするためにあらかじめ用意したはずの魔法陣に魔力を流してみてもうんともすんとも言わないので、確認をしに行く凛。
本来多少の歪みがあっても自己修復をさせるように書き上げたものなのだが、先ほどの短期間の衝突で問題が起きるのだろうかと少し頭を悩ませる。
召喚に使用した陣から少し離れた場所に向かって歩く。
「……? 魔法陣ごとなくなってる?」
ならばなぜ結界はまだ解かれていないのか。
召喚のために体力が消耗しているのか、適当に考えすぎている気もする。
少し理由を考えるために精神を集中させる凛。
あれ?
と、凛の脳裏に複数の問題点が一気に浮上した。
魔法陣を起動したのは、士郎たちが出た後。
なぜ、戦いの余波で魔法陣が根こそぎ消し飛んでるのか?
なぜ、そもそも魔法陣がないのに結界自体は起動した?
なぜ、魔法陣の存在しない結界が維持されている?
なぜ、魔法陣が張られていたはずの床の高さが変わっている?
――マスター! 危ない!!
「え?」
神速で駆けてつけてきたセイバーが、なりふり構わずに凛の服を掴んで引っ張る。
一瞬脳がシェイクされて、意識がふわっとする凛。
その意識を、金属同士の打撃音が覚醒させた。
自身が元いた場所には、地面から大きな杭のような金属の棒が突き上げられており、セイバーがその杭に対して不可視の剣を突き立てていた。
次回本格的に戦ってもらいます!
セイバーに関しては、霊体化できないために、銃弾は有効な攻撃ということにしてます。
また、Zero時空で考えて書いてるつもりです
その他設定に関しては、調べれた範囲、書きたいことから逸脱しない範囲で何とかはしていきたいですが、もし何かあったらこっそり感想で教えてください!
セイバー「衛宮だと!?」
士郎くんにサーヴァント必要?
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その筋肉は飾りか?
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原作よろしく事故って召喚
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修行もして本格参戦だ
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お前は聖杯戦争どころじゃないだろ