トーデン朝メリニ王国建国記   作:トン川キン児

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黄金城/腕相撲

 "迷宮の悪魔滅びたり。悪魔の喉より古の国戻りたり。"

 北へ南へ、東へ西へとその驚くべき報せは飛び渡った。

 東方大陸西岸・ドワーフ国家カーカブルードの離島に位置する人口迷宮・通称"島"における迷宮決壊事変は、人類全体が謎の白昼夢に堕ちる中で突如収束した。

 それを引き起こしていた悪魔が、ひとりの男に倒されたためである。

 

 男の名はライオス・トーデン。

 彼はその地で七日七晩における饗宴をすぐさま開き、宣誓した。

 "魔術師を倒した者にはこの国のすべてをやろう"

 先王デルガル・メリニのその遺言に従い、短命種(トールマン)の王、"悪食王"ライオス・トーデンは、今より戴冠せり。栄光あるこの地を治める王として君臨するものである、と。

 

 千年前の王より伝わる遺言を引き継いだ正統なる王。

 エルフが、ドワーフが、ノームがどれだけ顰め面をしてみようと、長命であるが故に聡明であるという自負に依って立つ彼ら長命種は、千年を生きた王からの約定による結果であるこれを認めるほかなかった。

 饗宴の間に浮上するかつての誉れ高き黄金郷、カーカブルード西岸を埋め尽くすほどの広大な面積の土地のすべては、こうしてそっくりそのまま彼のものとなった。

 

 海に浸かった荒れ地の国土は、正統なる王の即位を待ちわびていたかのように、塩の大地にも克つ緑の芽吹きで彼を祝福した。

 魔物さえもその威光を畏れ、かの地にかの王ある限り、メリニの地を踏むことはなかった。

 古の黄金郷の蘇りを果せたし英雄、悪魔を食った男、"悪食王"。"三つ首のライオス"。

 黄金に波うつ美しい小麦が一面に広がり"黄金の国"の所以を成す、神に愛されし新たなるメリニの地。

 トーデン朝メリニ王国の興りは、それらに華々しく彩られ始まった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺ってそんなこと言ってたか!?

言ったようなもんですしそういうことになったほうがいいんで

 

 ――――わけではないということは、後世にはあまり伝わっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れた~~~~……」

 

 両足を投げだし床に手をついてくたびれるライオスの姿を見た人間が、これが今やこの地の王だなどとは誰も思わないであろう。

 ライオスが王となり、真っ先に手をつけなければならなかったのは居城となる黄金城の掃除であった。

 寝泊まり、執政、会談……これからの王国の中枢となる場所が作り直すまでもなくおあつらえ向きに出てきてくれたのだから、利用しない手はなかった。

 とはいえかつての迷宮では地下2階から5階を占めた広大な城。魔術によるものなのかその建造物の構造自体に破綻は全くなくきれいに保存されているが、魔物や冒険者たちに散々に踏み荒らされたこれらを再び隅々まで見栄えよくしてかつてのように不自由なく住めるようにするというのは、それはそれは手のかかる大仕事である。

 今の黄金城はまさに地下2階から5階までがまるまる迷宮から切り離されたといった状態であり、元々島の地下墓地である1階、ドワーフの坑道を転用した地下水路であった6階、同じくドワーフの古代遺跡の7階はきれいさっぱり消え去り行方不明である。

 恐らくは浸水した元"島"の地下にあるとは思われるが、どうやらあの辺りは様子を見ていたところもはや水が引く気配はなく、掘り返すにもとても気を長くして取り組まねばならないだろう。

 

 とはいえ、当初最も手間になると思われていた2階の尖塔に絡まっていた植物群が随分と縮こまってスケールダウンしていたのは幸運である。

 迷宮の魔術が解けた影響なのだろうが、当然誰にもどういう理屈かわからない。

 そして、何よりの幸運は。

 

「そろそろ食事ができるぞ」

「厨房の使い心地はどうかな」

「物が少ない故わしは随分無駄に広く感じる。導線などを考えるにはまだまだ先だな」

「それはこれからってことで……」

「前にもあそこで料理を振る舞ったな」

「ミミックを食った。俺としては五本の指に入る美味さだった……

俺の仕事道具を勝手に使ってな

 

 しみじみとセンシに語るライオスに、チルチャックがちくりと言葉で刺す。

 

 魔法使いのマルシル、鍵師のチルチャック、料理人のセンシ、猫忍者のイヅツミ、加えて妹のファリン。

 苦楽を共にして迷宮踏破を成し遂げた仲間である彼らだけならばまだしも、既に縁が切れていたはずの元パーティメンバーのナマリにシュロー。

 新たに友人となったカブルーのパーティに、冒険者の一団。ヤアドをはじめとする迷宮に封じられていた千年前の黄金郷の住人たち。

 シュローの配下である忍者たちに西方エルフのカナリア隊、迷宮を追われたオークたちまで。

 彼らの助力が何よりの幸運だろう、とライオスは噛みしめていた。

 

 ……この時のライオスには知る由もなかったが、最後の方に関しては東方及び中央からの迎えの船がまだ来ないので暇を持て余しているとか、売れるだけ恩を売っておきたいという政治的思惑もあった。

 

「こんなこと何日続ければいいの……? 城下町もやるんでしょ?」

「気の遠くなりそうな話だがやるしかないだろ。ゴミだらけの王城はカッコつかねえよ」

「迷宮の頃から広すぎる程と思っていたがここまで大きい城だとは」

「私はもう飽きた」

 

 マルシル、チルチャック、センシ、イヅツミが口々に語る中、ライオスは別の懸念を口にしていた。

 

「身体は大丈夫か?」

「へいき。一度蘇生してもらった時と同じ……前より力が溢れてくる」

 

 ファリンの蘇生が無事に成功し、既に浮上していた黄金城へ向かうまでには一週間ほどの期間を空けた。

 未だ(ドラゴン)の名残が身体に残るファリンは、無事に蘇生を終えたように見えてもどのような影響が出るかわからない。前例のない蘇生であり、短期的には完全に成功したように見えても、長期的にはいったい何が起こるのかも皆目見当がつかない以上、慎重を期すに越したことはないという判断だった。

 実際、脚の部分に留まっていたはずの龍の名残である羽毛が徐々に上半身までたどり着いてきていたり、爬虫類のように瞳孔がやや縦長になっていたり、恐らくそれに付随した視力向上による近眼の回復があったりと不安要素は多々あった。

 

 ……しかし、龍の魂と血肉がそうさせるのかまではわからないが、懸念とは裏腹にファリンは実に力強く健やかであった。

 そのことに加えてファリン当人の『はやく行きたい!』という意向もあって、ライオスたちは現在、予定よりも大幅に黄金城への入城を早めた形である。

 そして"力強い"とライオスが評するのは、何も今のたくましいさまだけではない。

 

「そうさ。力が余ってるんならちょっと付き合いな」

「ナマリ?」

「あたしらドワーフにオークの前であんなの見せつけんだから、勝負してもらわなきゃあ」

「本当にやるのか……!?」

 

 力自慢が集まる種族であるドワーフやオークでも持ち上げられなさそうな大きな瓦礫を、"なんだかいけそう"と言ったファリンがあの身体で一人で持ち上げたのを見たというオークの一団から噂が広まり、今に至る。

 夕食前の余興として、ナマリは皆の前で挑戦者たちと腕相撲をしてもらうとファリンに言ったらしい。

 

「よしなよ! ファリンはまだまだ病み上がりなんだからさ~!!」

「私はやるよ! 兄ちゃん見てて」

「そうこなくっちゃあな」

「なぁんで乗り気になるかな~!!」

 

 マルシルは必死に止めるが、自分は妹が元気にやっていると嬉しい。

 しばらくはやりたいままにやらせてやりたい。この国はそのための場所にもなれるだろうから……ライオスはそんな風に未来へと思いを馳せた。

 それに……。

 

「お前……龍の混じったファリンがどれくらい強いかとか気になってるから止めねえとかじゃねえよな」

「いやいやそんな……気にならないよ」

「んだよその含みのある言い方は……気持ちわりいよ」

だって、(ドラゴン)は最強だから……もし本当に龍の力を借りてるなら負けなんてないさ」

「………………ま、いいけどな……じゃ、ファリンの勝ちに賭けるか?」

賭けてもいい

「100Gな」

 

 うっすらとにやけた気味の悪い笑みを浮かべるライオス。

 この男は相変わらず魔物が絡むと気持ち悪いなと引きつつも、臨時収入の予感を嗅ぎつけ抜け目なく立ち回っているチルチャックであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファリ~~~~~~ン!! がんばれ~~~~~~っ!!

 

 あれだけ止めていた奴が最前列でかぶりつきに見てるかね、とチルチャックは酒瓶を煽りながら呆れ混じりに笑う。

 腕相撲大会は晩飯の配膳が済んだというのに続き、ついにクライマックスを迎えている。マルシルの興奮も最高潮である。

 

「いやあホント……力試しでお前の妹に負けるとか考えもしなかった」

 

 ライオス、チルチャック、シュローの卓にどっかりと座るナマリが言う。

 言い出しっぺのナマリはいの一番にファリンへと挑んだものの、ほんの少し保った程度であっさりとひねられた。

 それを皮切りにオークの族長にその妹など、次々とファリンへと挑みかかる者が現れ彼女を大いに苦しめたが、並いる強者たちも龍の血がもたらす力には敵わなかった。

 

「当然だろ……握力に咬合力、どれをとっても力で龍に敵う生物なんかいやしない」

「何目線だよ」

 

 はん。というように鼻で笑ってくるライオスにムカつくナマリだが、妹が戦っているというのにあくまで(モンスター)目線を貫くその様に怒ればいいのか引けばいいのか戸惑った。

 二人の話をよそにシュローが気にしているのは、ファリンと……人間種の中でも一番の怪力でならす(オーガ)の種族、自身の部下であるイヌタデの戦い。

 両者とも獰猛に眼をかっ開いて、龍の牙と鬼の牙をむき出しにして歯を食いしばり、手の甲と額にはびきびきと血管が浮き立ち、流れる汗は止まない。

 あまりの迫力は、掴むテーブルの方が先に限界を迎えるのではというほどだった。

 

「イヌタデのあんな顔は初めて見る……」

 

 ましてやそんな顔を引っ張り出したのが、自分の想いを寄せる女になるとは思いもしなかったシュローだった。

 

「……ひょっとして……幼い頃みたいに腕ずくの兄妹ゲンカにでもなれば俺はもう二度とファリンに勝てないのでは」

「ぷっ! そうだな~お前は(ドラゴン)の腕でくびり殺されるな! うはははは」

 

 はっ、と気づいてやや青ざめるライオスの言葉が面白くなって、酒が入って愉快なチルチャックが茶化す。

 ライオスの脳裏に犬の命名権を争った頃の仁義なき戦いが浮かび上がり、ファリンの勝ちに置き換わっては消えて将来への不安を掻き立てるのだった。

 ……そうこうしているうちに、長く続いた均衡もついに崩れ去る時が来た。

 

んぬあああぁぁぁ!!

「ッ……!!」

ぎゃーっ!! ファリン~~~~っ!!

 

 力自慢の意地が、龍の血をはね返す。

 お互い瞼までも絞る熱闘の末に、ファリンの腕に籠る力が徐々に緩んでいく。同時にその手の甲も徐々にテーブルへと近づいていき……そして、完全に屈した。

 

「……う~がんばったねえファリン!! 感動した!!」

 

 親友の敗北に甲高い悲鳴を上げたマルシル、しかし負けは負け。汗ばんだ顔を拭くためのタオルを手渡そうとファリンに近寄り、そして励ましたのだった。

 タオルでもみくちゃにされる当のファリンは何が何だかわからなかったが、とりあえずマルシルからの歓待を受けていたことはわかった。

 息を止めていたことで、ただでさえ肌が透き通って赤くなりやすい顔も真っ赤に変わっていた。

 

「すごい力でした!! タデの昔のお相撲相手と同じくらい!」

「……こちらこそ……ありがとうございました」

 

 お互いまだ息も荒い中、ファリンとイヌタデとで健闘をたたえ合う握手が交わされる。この名勝負に、周囲の人間からも種族問わず拍手に口笛が起きるのだった。

 

「龍の力があってもやはり人間(ファリン)が混ざってると限界はあるんだな」

「ファリンが邪魔みたいな言い方をするな……」

「あっいや……そういうわけじゃないけど。人間の身体とスタミナで龍の力をそのまま使うなんてのはどだい無理な話だし、人間のサイズに見合ったものに置き換わってるなって思ったんだけどそれでもまだ消耗が激しそうだ。ああいう無理も出てくるよなって思って……

「だいたい同じだろうが」

 

 自分でさえも称賛が先に来るあの戦いを見た第一の感想がそれなので、やはりライオスという男はどこか違うと身に染みてわかるシュローであった。

 

「馬鹿騒ぎしてくれちゃって」

「トールマンがあんな……じゃぁあれって半龍(ワードラゴン)ってことでいいのか?」

 

 一歩引いた立場からそう語るシスヒスとオッタと同じように、カナリア隊の席はこの喧騒に対して随分と冷めている。

 魔術を意のままに操る者たちにとっては、単なる膂力がなんだというのかという視点がある故でもあれば、短命種のやることは野蛮だという上から目線から来るものでもある。

 

「こういう場はお前の専門だろう。思いあがった短命種どもに冷や水を浴びせてこい」

「俺ぇ? ……うーん。まっ、ちょうど目立ちたくなってきたか」

 

 酒や飯の席の雰囲気は選ばないフラメラだが、短命種が周りでギャーピーと騒いでいるのは気に食わない。

 古代魔術によって獣人の姿を持つリシオンがあのオーガを圧倒すればこの騒ぎも収まるだろうと考え、けしかけてやる。

 

「お……狼男!?」

最終ラウンドは獣人対オーガだ。軽くひねってやるからかかってきな、短命種の小鬼ちゃん

「真打登場ですか……タデは負けません!」

盛り上げてどうする! さっさと倒せ!

 

 ところが闘技場で培ったマイクパフォーマンスでさらにボルテージを上げていくものだったから、癇性持ちのフラメラはいつも通りにキレた。

 

「負けちゃった」

「お疲れ。すごかったぞファリン」

「運動の後は食事だ」

 

 センシの用意した鍋料理と、ライオスの言葉が席に戻ったファリンをねぎらう。

 姿形がどれほど変わろうと、その声も笑顔も自分の好きな彼女(ファリン)のままで。しかし、その笑顔が向く先はやはり(ライオス)なのだ。

 無謀とも言える波乱万丈の旅路の果てに彼女を救ってみせたのも結局はライオスで、そして、自分はそこにいなかった。

 

 ……それでも、あの笑顔をもう一度見てしまえば、自分は彼女をあきらめることなどできない。

 シュローが、ひとつの決意を密かに固めた。

 

「それにしてもみんな……」

「な、何だ……」

 

 そこへ急にライオスが話しかけてくる。本当に……いつもいつも間の悪い男であると思えた。

 

「いや……マルシルやファリンはともかく、考えてみればよく俺に協力してくれるなって思って」

「はあ?」

「チルとの契約は迷宮に関してのことだけだし、センシやイヅツミはもう自分のやりたいことがあってもおかしくないし。ナマリとはもう切れてたし、シュローとは……こっぴどく喧嘩して」

 

 ……なんでそこを流れとして流せずにいちいち言わせるような真似をするのか、とテーブルの時が一瞬止まる。

 食事の手を止めないファリンを除いて。

 

「ああいう事態じゃなきゃ、てっきり顔も見たくないほど嫌われたものと……食べたくないものも食わせたし……」

 

 ……とはいえ、今ライオスが置かれた立場を思えば気になるのも仕方なくはある。

 というわけで、目配せしつつ一番に口を開いたのはチルチャックだった。

 

「あのな……じゃ、こいつはサービスだと思っとけ。お前はこれから大口の客になりそうだしな」

「俺がチルチャックの?」

「王城の部屋には完璧な鍵。執務室から宝物庫、寝室まで安心安全の俺の鍵屋にご用命ください、ってな」

「右に同じ。親のパクった金返して店を立てたら王様に最高の武具を見繕ってやるよ、御贔屓によろしく」

「え? 初耳なんだが……」

「そりゃあ……まあ。言ってなかったもんよ。言わないだろフツーは」

 

 手助けには見返り、王になろうという人間ならば貸しを詰めばどでかい借りが来るはず。

 この関係において今や貸し借りだけが全てというわけではないが、その方が安心する人間が多い世界に身を置いてきたチルチャックとナマリらしい返答だった。

 ……金にがめついところがあったのはわかっていたものの、ナマリが親の借金を返しているというのはここにいる人間全員が初耳だったが。

 

「少なくともお前さんたちの生活だけでも立ち行くまでは飯を食わせてやりたい」

「センシの飯食いたい」

 

 裏表のないセンシは親切心をそのまま口に出し、イヅツミもまた自分のためだときっぱり言う。

 

「俺は……」

 

 そして、シュローは。

 

「……拳を交わしながらの不格好なものだったが、ああいう風に本音を曝け出して語り合えたのは生まれて初めてだったかもしれない。そしてお前は……………………まあ…………いい奴だ、間違いなく」

「ずいぶん間があったんだけど」

 

 ナマリの指摘するように"まあ……"の所あたりで"大雑把で鈍感で間が悪くそれらに悪意が一切ないという点に目をつぶれば"と言いかけたが、眉間にしわを寄せつつぐっとこらえた。

 

「お前は一方的に俺を友人だと言っていたが……だから、そうだ。今は俺にとっても友だ」

「し、シュロー……!」

「善い友の手助けをしたいと俺は思う。お前には善い王になってほしい」

 

 失ったと思っていた友情が戻っていたことに涙ぐむライオスに釣られてマルシルも涙を落とし、チルチャックは鼻先を指でこすり、ナマリは腕を組み頷く。

 センシとファリンは青春の影を笑顔で見送っている。イヅツミはいつも通りイヅツミである。

 

「……まあ、こういうことなんじゃない?」

 

 マルシルが、ライオスに向けて語りかける。

 

「一皮剥いたら少し……いや……まあかなりライオスは変だったけどさ。それでも、みんなこういう風に曝け出せるくらいには信頼してる」

「マルシル」

「それって、ライオスがずっといい人だったからだよ。いい人にはいい縁ができるってこと」

 

 華奢な手のひらでライオスの背中を一発、ぽん、と叩いてやってから、マルシルは続けた。

 

「このお城にもきっといい人が集まるよ」

 

 どこか肩肘を張っていた自分をマルシルの言葉で見つめ直して、ライオスは力を抜いて天井を仰ぎひとつ息をふう、と吐いた。

 

「…………そうだな。そうだといいな」

「いやいやちょっと待てよ。お前は変じゃないみたいな言い方だなぁダークエルフのくせに」

ダークエルフとかいないから!! 何回も言うけど!! しつこいのよチルチャックは

「あたしから見りゃ大抵変人だ。魔物オタクにダークエルフ、仕切り屋のハーフフットに喋らないトールマン、金属に興味ないはぐれドワーフと……猫のコボルト?」

「私は猫獣人だ。猫のコボルトは矛盾してるだろ」

ナマリ……コボルトは犬の魔物と人間のかけ合わせの末裔だよ?

「父親が金を盗んで逃げたのならお主もはぐれドワーフだろうに」

「や、そりゃあ……まあそうだけどさ!」

「ナマリにだって他になんかあるんでしょ!! 私の毛を見たがってたし剛毛フェチとか」

はぁ!?!?

「俺とっておきの話があってなぁ……酒場の噂でさぁ~……トールマンの脚をジロジロ見てたって聞いちまったんだよなぁ~

ほらー!! 脚フェチじゃん!!

違…………ッッッ~~~~…………てめーっチルチャック!! おめーだって金髪好きのくせによォ!!」

「そんぐらい一般性癖だっつうの〜」

 

 真剣な話がひと段落してがやがやと騒々しい卓になり始めたところで、ライオスは傍らのファリンの表情を見た。

 ファリンは、ライオスを覗き返していた。

 

「どうした?」

「あ……ううん。なんか、知らない間にすごく打ち解けたんだなって」

 

 彼女の知らなかった一面を、皆が(ライオス)に曝け出してみせている。

 それはきっと、兄が隠していた自分を曝け出す勇気を持って先んじて一歩を踏み出したからなのだろう。

 自分を、助けたいがために。

 

「ファリンは死んでる間だったものな……いろいろあったんだ」

「ちょっとずるいね」

「そうかも。でもまぁ、これからは逆だから勘弁してくれ」

「逆?」

「俺は王様で好きなことはそうそうできなくなるけど、ファリンにはなんでもできるようにする。だって王様の妹なわけだからな!」

「……あ!! そっか!!」

 

 はっとしてファリンは口に手を当てる。今の今まで自分がこれから王妹にあたる身分になるという立場を全く自覚していなかったのである。

 

「やりたいことやって、みんなとなんでも話したらいい。忙しくなる俺の代わりに」

 

 ファリンが見上げて目を合わせるライオスの表情は、自分を慈しむ昔と変わらぬ"兄"の表情で。

 かつての"妹"のように、ファリンはライオスのごつごつした手の上から自分の手を重ねて遊ぶように絡めた。

 

 ……麗しき兄妹愛が放つキラキラした雰囲気に、騒がしかったテーブルが"前からちょっと思ってたけど兄妹にしても距離が妙に近くないか……?"と一瞬固まったことにトーデン兄妹が気づくことはなかった。

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