トーデン朝メリニ王国建国記   作:トン川キン児

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塩の大地/チェス

 悪食王が起ち、黄金城という居住まいを正してからはじめに取り掛かったことは、自らの足で堂々たる浮上を果たしたメリニの地を検めることであった。

 しかし、その有り様は実に暗澹たるものだったという。

 千年前の面影を残していたのは魔術により護られていた黄金城を始めとした都の周辺のみであり、国土の大半は海水に浸かり、慎ましやかながらも美しくあったかつての風景さえ全て失われていた。

 

 草木一本生えず、領民もなく、生者さえいない不毛の地。

 歩けど歩けど一面に広がるその光景を見て、かつてこの地に暮らした者たちの無念を想い、悪食王はいつしか涙を流したという。

 その涙が落ちた土から、奇跡が起こった。

 王の足跡の周囲からは、彼を悲しませまいと塩をはねのけ千年前よりも肥えた土壌がよみがえり、草原と森が唄い、新たなる王の到来をその身いっぱいに表現して祝った。

 この献身に感謝した悪食王は、彼らの前に誓った。

 "この地の恵みより生み出されたもの、麦の一粒、パンのひとかけに至るまで、決して無駄にはしまい"と。

 こうして奇跡の復活を遂げたメリニの風景は小麦の黄金に彩られ、トーデン朝後メリニ王国は千年前とは異なる意味合いで"黄金郷"と呼ばれるようになる。

 

 メリニの地に生を享ける子が初めに耳にする悪食王の伝説は、大抵の場合これが最初のものである。

 いつの時代も子供は好き嫌いをし、そして親はそれを窘めるために言い伝えを引用する。

 "お残しする子は王様の約束を破る悪い子。夜中に悪食王が肉を食べて骨をメリニの地に還す"と。

 それゆえに幼い子供らにとって、悪食王とは畏怖の象徴であり続けている。

 

 神話の如きこの伝承を裏付ける証拠を、現在でも各地で見ることができる。

 メリニの大半の地層は典型的な海底堆積物の上から脈絡なく重なった厚い肥沃な表土から成っており、見る者が見れば非常に不自然な印象を受ける。そこに、奇跡でも起こらなければ。

 実際に彼が涙を流した跡から肥沃な土壌が形成されたのかは今となっては知る術もないが、ただ結果だけがこの地に残り、今も国民はその恵みを享受し続けている。

 

 

 

 実体としては悪食王のうんちからできたものであるとも知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実験はどうだった?」

「魔術の方はダメ……何も感じられないしただの土だよ」

 

 ライオスたちの測量の中継地点である大型のテントを張った野営地にて、奇妙な出来事が起きている。それは、連日連夜用を足してから一晩を超すとその下から巨大な木が生えてくるというもの。

 鳥類などが種を持ってきたにしても、下肥えでもなく発酵を得ない屎尿はむしろ土壌にとって有害物質、かつそれらが落ちる土は干潟のような状態で植物が生えることも難しい。

 だというのにこんなことが起こるのだから、土壌ではなく内容物に何かがあるのではないかといったん便所の中身を全て抜いて"実験"をさせてみた。

 まずは土壌および屎尿の方に魔術的なものがないかの確認。

 絶対やだ!! くさい!! 汚い!!と担当者のマルシルは言っていたが、他に頼れる者もいないのでどうにかこうにかやらせてみると、今言葉があったようにどうやら空振りだったらしい。

 

「迷宮から出てきた土地だし、マルシルの方が本命だったんだがな……」

 

 いつかの浮上に備えて国土を復活させるために、シスルが黄金郷の全土を対象とした魔術をかけていただとかがライオスの推測だったが、そういうわけではなかった。

 ……それならば同時に、あの地下に作り物の空を作り人を縛り付けていたシスルには、やはりこの国を解放するつもりはもう欠片ほども残ってなかったのだと少し寂しい気持ちにもなった。

 

「精霊は確かに多く含まれてるけど。それは海水浸しの地面も同じだし」

「そうなんだ」

「人が少なくて手つかずの土地が多く精霊も……魔物が沸きやすい環境がこれでもかってぐらい盛られてる。しばらくは苦労しそう」

「なるほど……これはやはり今後は生まれてくる魔物を食ってつないでいくのが

家畜でもなんでも連れて来れるでしょうが!! カーカブルードも隣なんだから!!」

 

 実際のところ1ヵ月近くもの間魔物で食いつないで戦ってきたので、マルシルの中では以前ほど魔物食に対しての嫌悪感は薄れている。ただそれはそれとしてライオスの口車に乗るとどこまでエスカレートするかもわからないのでこうして釘を刺しておくのであった。

 王となった今となっては、そのうちやりたい放題をするかもわからないのだから。

 

「……魔物を食べるかはともかくとして、ということはあれが正答ってことでしょう」

「そうなるよなあ」

 

 検地に同行するカブルーが"あれ"と称して指差す方向には、便所を突き破った三本目の大木の周りに現れた円形の森。

 森は円の中心に行くにつれてより深く、外側に向かうにつれてより浅くなるよう植生が遷移している。

 

「中身の薄め度合いによって森の濃さも変わるようだ」

 

 センシがつぶやいたように"正解"となったこの実験は、昨晩の便所の中身を濃くしたり薄めたりして調節するというものであった。大木の近くほど濃く、遠くになるほど薄めて撒く。

 こちらの実験はゴーレムで野菜を栽培していた経験があり、下肥を撒くのが上手かったセンシに任せた。

 結果は見ての通り。つまり、これを引き起こしているのは()()()の方である。

 そしてこの結果で、ライオスはひとつの重要な気付きを得る。

 

「センシ、これは……」

「うむ」

なんでかわからないけど森や草原が自由に作れる!!

 

 明るい展望を持たせてくれるこの素晴らしい実験結果に沸き上がる両者を尻目に、一歩引いた目線を持つマルシルとカブルーの二人は話し合っていた。

 

「理屈のわからないものを使ってって大丈夫?」

「この国の土地をまともにするならこれしかないのは事実ですし」

 

 何より同じ理屈のわからないものでも、魔物を食べるよりかは得体のしれない土地から生える普通の作物を食べる方がまだマシ、という認識がカブルーの中に確かにあった。

 ……そして、もう一つ思うこともある。

 

「……それにしても……いいネタが集まってくるなぁ……

「え?」

「話をまとめるとこうですよ。さらわれた妹を助け出すため迷宮の試練に挑んだ冒険者ライオスは預言に記されし翼の剣を引き抜き黄金郷の救世主として選ばれる。旅路の果てに迷宮の主・狂乱の魔術師を打ち倒し、迷宮の正体であり魔術師を裏で操っていた悪魔を三つ首の龍に変身してばらばらに食いちぎる! 残った腹の中を裂いてライオスは妹を助け出しめでたしめでたし。英雄となった彼は先王の遺言通り黄金郷の王として起ち、荒れ果てたこの地は選ばれし王の起こした奇跡によって緑溢れる楽園になった……

「は? え……?」

あなたの言う通りどんな理屈による物かはともかく、これは最高の建国神話だ!

「も……盛りすぎじゃない!? ライオスだよ!?」

いやいや……王が王たる所以というのは並の人間の人生程度じゃまるで足りない。マルシルさん、アノートリドが本当に星を射止めたのか気に掛ける人がいますか? ドワーフの英雄イズガンドリンが本当に山一つを持ちあげ投げつけたとでも?」

「そりゃあそうだけど……」

「盛りすぎなくらいでちょうどいいんです。大半は事実だし、どの道委細を知る者はこれからこの国に住む者と比べればごくわずか。そう……俺たちは」

 

 力強く握りこぶしを作って、カブルーが力説する。

 

英雄! 怪物! 魔王! 万人の畏敬を集める最強の王(The Ultimate Strongest King)を作り上げるんです!

「……………………」

「……あ。す、すいません。なんか興奮しちゃって」

 

 人生に二度とないであろうひとつの神話の始まりに対面し、しかもそれを自分が編纂でき得る立場になれるかもしれないときて興奮が限界を超えていたとはいえ、引かれるようなことを口走ったのを自覚したので口元を抑えて半歩ほど下がるカブルー。

 ここでようやくマルシルは察した。シュローとのいざこざやカナリア隊との対面で助け船を出してくれたり話のわかる人間だと思っていたがそれだけではなかった。

 そわそわして落ち着かない様子、紅潮する頬、汗握る手、開いた瞳孔。

 全てに多分な既視感がある。興味の向かう指向性が違うだけでこのカブルーというトールマンは、あそこで"全部黒土だ! これだけ肥えてれば人喰い植物だって作れるぞ!"だとか騒いでいる魔物オタク(ライオス)と同種の、人間オタクとでも言うべき人間なのだ、と。

 彼の背後にいるカブルーのパーティにいた魔術師の東洋人と視線を合わせてみると、彼女も無言で首を振った。

 ……人間に詳しいだけあり社交性はライオスよりも桁違いに優れているようだが。

 

「行く先々で森を生やしていった方がよいかの」

「測量を終えてからそうしていった方がいいかな。森を生やしてからだと木々で全景が隠されてしまうから」

「一通り地形を記録してからどうするか決めた方がいいんじゃないすか?」

「いや、これは早くしないと。そのうち高地から低地に水が流れて川ができるけど、森がなければ山は水を貯め込まずに全て流れ出て洪水が起きるし、沿岸の栄養は森から川を経由して流れる栄養がなければ減っていく一方だ。海の資源が死に絶える」

「そこまで影響が出るもんなんですか」

「出る。ずっと辿っていけば緑がなければ生物は生きていくことはできない。それは迷宮の魔物でも地上の動物でも変わらない絶対のルールだ」

 

 センシの問いと自分の言葉に対してすらすらと真っ当な答えを出していくライオスを見て、カブルーは気づきを得る。

 彼はこういう明確に答えが出ることに対してめっぽう強い。魔物の生態然り自然の機構然り、そこはごまかしや嘘というものが一切なくただ結果のみが全てを語るシビアな世界。

 そしてだからこそ、森の木の葉で覆い隠され全景が見えづらい人の世界が苦手なのだろう、と。

 

「きめ細かく決めていったらきりがない。後々の開墾のことを考えたらおおざっぱに高地は森林、平地は草原としようか」

「気候などである程度は自然に植生が決まる。それで様子を見たほうがよいな」

 

 今晩にはもっと込み入った話がしてみたい、と決意したカブルー。

 …………なぜかふと視線を感じて周囲を見渡してみると、目が合った人物が一人。

 若い女の猫獣人イヅツミ。シュローの部下から足抜けして何らかの利害の一致によりライオスのパーティに合流した人間だとカブルーは推測している。

 数日前辺りからこの話題になると、何が面白いのやらずっとニヤニヤしながらこちらを見ている。

 

あいつらライオスのうんちで国造ろうとしてる……

 

 …………カブルーにはなぜかこの時、一連の奇妙な事象について彼女が真相となる情報を握っているという確信があったが、どうも恐ろしい事態を招きそうで問い質す気が起きなかった。

 

 そして、その迷いのツケは数年後に大変な苦労として舞い込んでくるということも知る由もなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライオス?」

「え? ああ……どうぞ?」

 

 その日の晩、外からカブルーの声がして彼を自分のパーティメンバーが集まるテントに迎え入れるライオス。

 ただ、"島"の迷宮を攻略したメンバーの中でもチルチャックだけは出払っている。

 元々彼の率いるハーフフットの組合はカーカブルードに本拠を構える集団であり、黄金郷の浮上に伴うカーカブルード側の被害も確認し、報告してもらいたいという思惑もあってのことだった。

 

「お時間いただけますか」

「あ、ああ……うん」

「……何か」

「いや、ちょうどよかったと思って。俺も君と話をしたかった」

 

 ライオス・トーデンという人間は義理堅い。"食事でも行かないか"という迷宮での先の約束もあってこの答えはカブルーにとって予想の範疇だったが、先手を取られるとは思っておらずカブルーは少し目を丸くした。

 

「今のところ成り行きのような感じで俺についてきてくれていて助かるけど……」

「いえ……ついてきたくて来てるんで」

「でもはっきりさせておきたくて。王座に就くにあたって、君の力も借りたい」

「……は、はあ」

 

 本当に真っすぐ気持ちをぶつけてくる人間だな、と一瞬たじろぐが、カブルーは持ち直す。

 

「翼獅子の言っていたことは全部とは言わないが当たってる。俺は人間が嫌いとまでは言わないが昔に……まあ色々あったし。うっすらと苦手に思っている」

「あれの言ったことは真に受けない方がいいすよ」詐欺師まがいの言うことですから

「でも俺はこれから王様にならなきゃいけない。否が応でも人に関わる立場だし、嫌な所もたくさん見る。俺では対処できなかったり気づけないことがたくさんある」それもそうだけど

「まあ……一人でやることじゃないでしょうね」

「……で、君とか一緒にいたパーティをそれとなく見てたんだけど」

 

 ライオスはややうつむきつつ言葉を続ける。

 

「君はきっと人付き合いがうまい。種族が違ってもすぐに打ち解けるし、みんな君を信頼しているように見える。思えばカナリア隊とも一緒にいたし、そういう才能があるんだと俺は思った」

「…………」

「ファリゴンやカナリア隊と会った時も俺たちより状況が冷静に見えてたし。側近として君がいてくれれば俺の苦手を補ってくれるんじゃないかと考えたん…………」

「…………」

「…………だけども」

 

 こちらを伺うように覗き上げるライオスを見て、カブルーは驚くというより感心した。

 翼獅子の言うことはやはりアテにならない。この男は存外しっかり人を見ている。

 だからこそああいう本性が陽の元に曝け出されても、周りの人間は離れていかない。そこには彼の根っこである人徳があるからだ。

 彼は自分が思っているより王に向いている。人の上に立つ者として必要な資質が備わっている。

 

 ……同時に自分の評したところもそこまでアテにはならないものだと思った。魔物の事しか考えてないというのはとんでもない誤謬である。

 自分の嫌いなものをとことんまで愛する人間というところと、ファーストインプレッションの強烈さに引っ張られすぎて人物像の深掘りが甘かった。

 まだまだ俺も青いな、と自省しつつ、カブルーはその提案に返答した。

 

「勿論。というか絶対やらせていただきますよ」

「本当か!」

「貴方が魔物を好きなように、俺も人間が大好きなので。宮廷なんてもう……きっと最高の場所になりそうで」策略……暗躍……腹芸……密偵……陰謀……

「え…………………………それは…………やっぱり味も気にそういうことじゃないです」」

 

 はっとして口元を抑え青ざめたライオスを"お前と一緒にするな"と言わんばかりに制し、カブルーは話を続ける。

 

「俺はあのとき、言いたいことは全部言ったんです。貴方に人間にも興味を持ってもらいたいし、俺も貴方が知る魔物のことを知りたい」

 

 開かれた褐色の右手が、ライオスの前に差し出される。

 

「支えていきますよ。友人として」

 

 その手を、ライオスは力強く握り返した。

 

「よろしく頼む」

 

 一連のやりとりを見ていたパーティメンバー。そのひとりであるマルシルが、こういうことは黙って見てられないとばかりに話の節目を見計らって茶々を入れてきた。

 

「なんかさ。迷宮攻略してた頃より友達増えるんじゃない?」

「そうだな」

 

 ファリンが死に自分を曝け出す覚悟を決めて、いろいろなことがわかったとライオスは思う。

 腹を割って話せば、消極的ながらも自分に理解を示してくれる人間はちゃんといる事。

 理解してくれたとしても、その人間とうまくいくとは限らないという事。

 それを学べた自分が、前よりも少し成長できた気がした。

 

「ところで……君の用事はなんだったんだ?」

「え。ああ……ただテントにいるのも退屈だったんで」

 

 そう言うとカブルーは、テーブルに折りたたみのチェスボードを広げる。

 テーブルゲームから話の切り口を広げて親睦を深める。カブルーがよくやる手口の一つである。

 

「話でもしながらと思ったんすけど。ルール、知ってます?」

「これか! できるよ、是非やろう」

 

 ……それを見たファリンが、過去の記憶を思い出しながらカブルーに忠告する。

 嫌な記憶である。勝ちすぎて誰にも相手してもらえなくなったが故に自分しか兄の相手がいないのだが、兄にはまるで遠慮というものがないので幾度となくボコボコにされた記憶。

 

「兄さんめちゃくちゃ強いよ……?」

「そうなんすか」

「実は俺は村では一度も負けたことないぞ」ふっ……

「いやいや……俺も実はちょっとしたもんだとは言われますけどね。でも今日は胸をお借りします」

「仕方ないな…… かかってきなさい

 

 あからさまに図に乗られるとムカつくが、所詮小さな村程度の規模のことだと思い直してライオスを立てつつ惜しいところで負ける算段をつけ始めるカブルー。

 ……すぐ後に自分の目論見が崩れ去ることも知らずに。

 

 

 

 

 

 

「……とまあこういう経緯があって俺は魔物が苦手で」

「な……なんで食べる前に言ってくれなかったんだ!?!?!?

「お前さんその経緯でわしらの料理を食ったのか……」

「なんとしても近づきたかったもんで」

限度があるだろ!! めちゃくちゃ悪いことしたじゃないか俺が」

「今となってはもう過ぎたことなので」

ヤバ……

 

 

 

 

 

 

(あれっこいつ……言うだけあって結構……いや相当強い。魔物と同じか? 最初から情報が出揃って明確な答えが出るゲームには強い……?)

「カブルー……なんか手加減してないか?」

(ヤバい。そりゃわかるよなここまでできるなら)

「おいおい、俺は手加減なんかできる相手じゃないぞ……お互いしっかり全力でやろうよ」

(ムカつく)

 

 

 

 

 

 

「ま、負けた……」

「序盤の遅れが響いた形になったかな。めちゃくちゃに崩れちゃったか」

「…………」

「でも久々に楽しかった。機会があったらまた……」

「……10本先取……」

「え?」

俺はこんなもんじゃありませんよ!! 10先でケリつけましょう!! あんたには負けたくない!!

「え、ええ……?」

 

 

 

 

 

 

「ライオス! 測量の続きしないの!?」

待ってくれマルシル……俺はカブルーと決着をつけなければならない……!!

「何やらせてんのこないだ会ったばっかの人に!!」

邪魔しないでくれリン……これは男の戦いなんだ……!!

「「馬鹿か!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これ以来お互いに"男"の心に火がついたのか、後の宮廷においてもしばしばライオスとカブルーは熱い対局を繰り返す。

 宮廷の内外でも彼らの熱闘は話の種になることがしばしばあり、現代まで棋譜が残っている一局もある。

 しまいには夜を徹して続くこともあり、その際には決まってヤアドが呼びつけられてボードをひっくり返すことで強制的に中断されるのだった。

 遊びに夢中で他がないがしろな子供を叱りつける際に使われる慣用句"ヤアドの盤返し"とはこの故事が基となっているというのが定説である。

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