トーデン朝メリニ王国建国記   作:トン川キン児

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日記/外交

 五一四年 五月○○日 快晴

 

 やや慌ただしくバタバタしているが、明日が私の初めての仕事となる。ヴァリ家で初めて特命全権大使及び外交使節団長の地位を得るに至ったこのパッタドルの晴れ舞台である。

 今でも思うが、なんという数奇な運命にして栄転だろうか。初任務にていきなり誇りある迷宮調査(カナリア)隊の存在意義そのものが失われたかと思えば、今度は弱冠82歳にして外交官に、それも特命全権大使に!

 女王陛下のひとかたならぬ御恩寵には我が心感謝に堪えません。

 女王陛下万歳!!

 明日の会談で必ずや成果を挙げてご覧にいれます!!

 

 ……冷静に考えるとあとからこれを見たら変なテンションで恥ずかしい気がするが、私は興奮している。

 それを鎮め頭を冷やすために、今後のこの国の行く末を大まかに整理していこうと思う。

 メリニ王国はおよそ生命の息吹と言えるものが欠片ほどもない不毛の地に短命種が君臨する王国ではあるが、恐らく我々エルフにとっても無視できぬ立地となる。

 カーカブルード西岸及びブルンバン北岸を浮上した国土にてほぼ埋め尽くしたということは、今後はカーカブルードに代わってこの国が我々中央と東方大陸とを結ぶ重要拠点となり、ドワーフ及びノームと、我々エルフという文明の二極が衝突し交錯する断層線となることは想像に難くない。

 そこから生み出される利権を中央へと誘導するのが私の今後の仕事となる。

 あるいは今後それらに楔を打つ第三極へとこの国が成長を遂げる可能性もなくはないかもしれないが、今のところそうは思えない。

 だが我々エルフ種にとっての将来の要地であることに変わりはなく、女王はそのような場所で特命全権大使という重要な役目を与えてくださった。私が高く買われていることに間違いはない!

 

 そしてこの国の舵を取るのが例の男、悪魔殺しの王、恐るべき三つ首の獣、ライオス・トーデンである。

 今後の仕事にとって重要かと考え彼の人柄を見ていたが、魔物狂いの狂人かと思えば存外に理知的であり、頭の冴えは悪魔との知恵比べにも勝てるほど。

 政治に関してはズブの素人とはいえ、後述のマルシル女史を饗宴の際にかすめ取った時の剛毅さといい、決して甘く見ていい相手ではないだろう。

 そして今や天運までもが彼の味方だ。測量のために彼の歩んだ後からは、何らかの奇跡によって緑が蘇っていることが黄金城の尖塔からでも観測できるらしい。

 彼が庇護者となり要職に就けるであろう魔術師のマルシル・ドナトー女史も脅威である。

 人柄よく勤勉で飲み込みが早い、まさに魔術師としての理想。齢50にして私の才を超えるであろう素晴らしき多才を発揮しており、この国を大いに援けるであろう。

 頭脳として王の隣に立つ者にも油断ならぬ相手がいる。不死の呪いにて千年を生き政のなんたるかを心得ているであろうヤアド・メリニは、"今回の密約"の件といい、果たしてたかだか10分の1ほども生きていない私に今後付け入る隙を与えてくれるだろうか。

 それ以前に明日の会談には、カーカブルードの本職である海千山千の者たちがやってくる。

 

 ……頭が冷えてくると私はまあまあとてつもない状態に置かれていることがわかる。鏡がないので見えないが私の顔は今青ざめてきていることだろう。

 語学には堪能である自信はあるものの、他種族における礼儀作法等も大して知らず、外交官としての指導もろくに受けずにいきなり私は外交の世界へと放り込まれる。

 もしかして私は1分1秒も惜しくなるほどの研鑽に励まなくてはならないのでは!?

 こうしている内にもとっぷりと夜は更ける。皆が寝入る前にドワーフ文化における礼儀作法に詳しい者を見つけ出し一夜漬けになるとしても訊き出さなくてはならない。

 明日の私ようまくやれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トーデン朝メリニ王国が興ってから最初に生じた東方大陸における公式な外交関係は、五一四年五月○○日に行われたカーカブルードとの会談が始まりとされており、今なお更新され続けている現役の特命全権大使・ヴァリ家のパッタドル氏の証言や、今も現存するその会談の議事録などからもその裏付けは取れている。

 最初に相対する国が最も長い国境を接するカーカブルードとなるのは当然の帰結と言える。

 沿岸に海上交通の要として国の名を冠する交易都市の首都を置いていたカーカブルードは甚大な被害を負った。海上交通及び交易は港はおろか海そのものを全て失い永久的な機能不全に陥り、大陸の浮上に伴い押し寄せた津波が街を破壊し、西方エルフに対抗するため揃え上げた艦隊は全て陸に乗り上げ材木の塊に堕し、漁業権は紙クズ同然となり失業者が溢れ返った。

 加えて泣きっ面に蜂と言わんばかりにどこからか湧いて出た魔物が大挙して押し寄せ、「島」の事変に対応するため既に軍を展開していたとはいえ少なくない被害も被った。

 

 海上交易によって成り立つ国家の為政者は"いきなり海がなくなった"と言われて果たしてどう対応するか。

 ひっくり返ってもどうにもならない。補償のアテなどあるはずもない。カーカブルードは天災による政権の、ひいては国家存亡の危機の典型に直面したのだった。

 幸いとして今回の天災は、あるいは人災として補償を求められる可能性がある矛先が存在した。それがトーデン朝メリニというわけである。

 大陸浮上の原因をメリニに求め、莫大な補償の返済を取りつけ経済的に実質的な従属国とする。

 あるいはそれを拒むというのであれば戦争となり土地を獲得し、沿岸の領地を再び手に入れる。

 その利権によって大幅な経済モデルの転換を図りそれを成功させることしか、長期的に見て諸外国に呑み込まれることなくカーカブルードが存続する方法はもはや存在しなかったのである。

 

 かくしてトーデン朝メリニは、その勃興期において慢性的な隣国との開戦リスクを抱え続けることとなる。

 しかし後世に知られるように、トーデン朝メリニは少なくとも現在に至るまで軍事力を用いた戦争状態に陥ったことは一度もない。

 代々受け継がれる自国経済・政情安定を重視した政策方針が一因として挙げられるが、最も大きな要因は隣国側が"戦争どころではない"状態に陥りがちであったため。

 それこそが、国境付近に定着した恐るべき強大な魔物の群れ。

 悪食王の威光を畏れ、黄金城の付近から押し出されるように逃げ出した魔物が国境付近に住み着いたとされるこれらは、"メリニの城壁"と称され侵攻を拒み続けた最大の障害である。

 行軍の道のりでこれらの魔物の相手をしている間に、軍隊の消耗は戦争どころではなくなる。あらゆる国がそう結論付けた、難攻不落の自然の要塞。

 長命種たちがいかに短命種の思い上がりを正してやりたいと思っても、天の差配がそれを拒んだのである。

 

 

 

 話はカーカブルードとの初の会談に戻る。

 五月初頭に行われたこの会談は急報としてメリニを襲い、悪食王らをひどく混乱させたという。

 

ど……どうすればいいんだ会談なんて!!

私これ何すればいいの!?!?!?

「落ち着いてください!! 顧問魔術師が外交の場でやることはないはずです!!」

「あ、そっか……」

「何かまずいことを言ったら俺はその場で無礼討ちにされるのでは……!?」

あんたも王でしょうが!! できるわけありませんよそんなマネ

「あ、そうだよな……」

外交使節を迎えるといったら……まずこの飾り気のない玉座の間をどうにかこうにかあるもので整えて。警備隊は完全装備で出迎えないとナメられる……裏島主にどうにか取り次がないと。ドワーフの礼儀作法は俺もある程度知ってるけど、こんな場面で通用するものだとも思えないぞ……!? くそ、なんでこんな早くに!! ヤアドさんもいないし……!!長命種のくせにこういうときだけはせかせか動いてきやがって

「カブルーさん。私も一応王の妹になるけど出た方がいいのかな……」

「出なくて…………う~~~~ん…………!? え、どうなんだそれって……!

「やっぱり趣味の話はしないほうがいいのか!?」

「でも魔術による攻撃の警戒とかはしたほうがよくない!? 向こうだってどう来るか……」

「ご飯はセンシさんに一番おいしいのを作ってもらったほうがよかったり……」

だあああああーーーーーーッ!!!!!!

 

 メリニ側は外交使節を迎える準備が物資・経験共に乏しかった。

 カーカブルード側の記録には『玉座の間のラグがテーブルの途中でみすぼらしく切れていた。なんとまあ手際の悪い国だろう』だとか、『こんな国をいち早く承認し外交官まで置いたエルフ国が不思議なほどだ』とまで書かれているほどである。

 これには理由があり、政治経験を持つ宰相ヤアドはちょうど折悪く不在だったためである。周辺国を回って"とりあえず使えそうな人材"を官吏として抱き込んでいた最中であり、急報を受けて早馬を飛ばしても三日前に戻るのがやっとであった。

 後に2代目宰相を拝命し類まれなる敏腕を振るうカブルーもこの時ばかりは未熟な冒険者の若者であり、生まれ育ちのこともあり貴族社会の礼儀作法などに関しては全くの専門外であった。

 故に外交儀礼や服装規定も、席次もへったくれもなく最低限の体裁さえも整っていない状態で会談は始まってしまったのだった。

 

 

 

「……え~~……遠路はるばるよく来てくれた。俺が新たにこの国を治めることとなった王、ライオス・トーデンだ」

 

 そして当日教えられたとおりの挨拶をしてみれば、どういうわけか冷ややかな目線がカーカブルード側の席から浴びせられてたじろぐライオス。

 此度の事件を引き起こした原因のようなものであり、侮られる短命種であり、国を治める者としての学びも経験もなければ国自体にもまだまだ力がないと一目でわかるからこそ、ドワーフたちの態度は峻険だった。

 当のライオスは"ナメられるって言われてもやっぱり最初からこんな王様って感じじゃなくて、もっと丁寧に行った方がよかったのでは……?"という的外れなことしか考えていなかったのだが。

 

 会談は三国に跨るものとなり、出席者は以下の通りである。

 

・トーデン朝メリニ王国 国王ライオス・トーデン

・同上 宰相ヤアド・メリニ

・同上 主席補佐官カブルー

・同上 顧問魔術師及び書記官代理マルシル・ドナトー

・カーカブルード 外務卿シャームドイズニーのラメラ

・カーカブルード 顧問魔術師タンス・フロッカ

・北中央大陸エルフ国*1 在メリニ特命全権大使ヴァリ家のパッタドル

・北中央大陸エルフ国 駐在武官ケレンシル家のミスルン

 

 本来カーカブルードのみとの会談であったこの卓に、北中央大陸エルフ国外交官らが座ることになった経緯には以下のようなことがあった。

 

 

 

『今回の会談、あなた方には同席していただき私たちの味方をしてほしいです』

『……は……?』

 

 戻るなりすぐさま宰相ヤアドに呼ばれ、呼び出された際の一言目がこれである。パッタドルは国益の一翼を担う者の一人として、当然のごとく次のように返した。

 

『それは……できかねます。私は国の代表として来ていますから、そのようなこと一存では……』

『あなた方は狂乱の魔術師シスルを打ち倒せばこうなるということが、以前からわかっていたのでは?』

『………………!!』

 

 だが気づいたときには、すでにパッタドルは追い詰められていた。

 

『彼が迷宮にかけた魔術は彼が倒れると同時に解けた。であれば、カナリア隊による介入はこの国の浮上がカーカブルードに与える損害を承知の上で行われたはずです』

『…………』

『そしてそれは、彼らの慌てぶりを鑑みるに当のカーカブルードへ一切の通達なく行われた強硬策だった』

『……そのような証拠がどこにあると?』

『……三日後に訊けばわかることです』

『ッ……!!』

 

 ヤアドの推測は概ね当たっているし、もし訊かれればどうにもならない。このタイミングで気取られてしまった時点で詰んでいる。だからこそパッタドルは青ざめる。

 この事実がカーカブルード側に会談の場でぶちまけられれば、会談は一気に反エルフ勢力の方向へと傾き、メリニもそれに同調する。遠い敵より、近い味方と連帯する。

 ドワーフ・ノーム勢力に与しないエルフの息のかかった国家を橋頭堡として東方大陸に築いておきたいという、女王ヘイメアの思惑がいきなり躓いてしまう。

 

『しかし、我々には引き続いて物資の援助を頂いている恩と、マルシル女史の身柄を留め置くことを許して下さった恩もあります。だからこそ、ここで約束をしていただきたいと思います』

『や、約束……?』

『今回の会談で、我々メリニは今後カーカブルードに関してあなた方に代わり全ての泥をかぶりましょう。しかし、その後に泥をはね身体を清める手伝いはあなた方にもしていただきたいのです』

『……それが、会談への出席と口添えだと……?』

『その通り。賠償の軽減など具体的な成果は得られずとも、とにかく同席いただき西方エルフが我々の後ろ盾であると主張してくれること。そして、国の自立までこれまでと変わらぬ援助をいただけること。我々が求めるのはこの二つ』

 

 あの王が滅ぼしたはずの悪魔に誘われているような、そんな感覚をパッタドルは覚えた。

 

『……女王へ、一旦話を持ち帰らせていただきます。よろしいでしょうか……?』

『どうぞ。しかし会談までには色よいお返事を頂きたい』

 

 その後新人外交官が持ち帰ったその話を、将来的な国益を天秤にかけて女王ヘイメアは承認し。

 パッタドルは安請け合いをしてしまったがために悪魔よりも恐ろしい魑魅魍魎が蠢く闇の世界に足を踏み入れてしまったのでは、と人知れず自室で涙を流した。

 ……が、ちょっと泣いたら"でもこれも私が優秀が故に与えられたステップアップの場なのでは?"と思い直してけろっと立ち直った。

 ヴァリ家のパッタドルは百折不撓のタフな女である。

 

…………言われてみればこの大陸が出てきたのってそういうことか!!)

これが生で見る政治……!! 謀略の本場!! ヤアドさんはすごい……!!

 

 いずれにせよ、誰の脳裏にも千年を生きた男ヤアド・メリニの名が刻みつけられたのだった。

 有り余った千年の余暇は、実践の機会が訪れなかったにも関わらずヤアドを一流の為政者へと変えていた。

 

 

 

ですから!! こんな額の賠償が道理に合うわけないでしょうが!!

無理でもなんでも払ってもらう!! ブルードはそれだけの損害を受けたのだ!!

我々にはまだ経済実態も存在しないのですよ!?支払能力も勘定に入れられていない債務をそちらの代表は承認したと!?

そうだ!! 支払えなければラルドールの法に則り土地でも城でも差し出すがいい!! できなければ……

「か、カーカブルードの御仁たち、落ち着いて……!」

黙っていろ!! 耳長の小娘が!!

あんたも小娘相手に怒鳴りなさるな!! 話が進まんじゃろうが!!

 

 いずれにせよ会談は紛糾し、議題はしばらく平行線を辿った。

 いくら首都機能を破壊したとはいえ要求通りの賠償を少なくともこの場でメリニは呑むわけにいかなかったし、カーカブルード側も西方エルフが同席すると聞いて初めはまた年の功の耳長どもか、と思えば出てきたのは年端も行かぬ小娘と全く口を利かない中年。これは好機だと言わんばかりに畳みかけている。

 

私は空気……私関係ない……

 

 凄まじい剣幕での戦いが続く長卓から離れた場所でちょこんと座っているマルシルは気配を消し、自分は空気であると言い聞かせつつ議事録をまとめている。

 同じ顧問魔術師であるタンスが長机で同じようにやりあっていることには、今は目を伏せる。

 

「ラ……何……?」

「ラルドール法。ドワーフ社会の慣習法です」

 

 当の王はといえば、ヤアドに『一切喋らなくて大丈夫です』と言われカブルーに余計なことをしないよう見張られ続けているので完全に蚊帳の外である。

 と言うより、言っていることを理解できないので蚊帳の中に入ることすらできないのだった。

 

「カーカブルードの方々」

 

 その時、小さくも重々しい声が激論を交わす彼らを振り向かせた。

 ここに来て一度も口を開かぬままだった男、元カナリア隊隊長・ケレンシル家のミスルンの口が今日初めてこの会談の場で開いた。

 

「……何か」

「この地を力によって圧し潰すか奪いとるかと仄めかすのならば、かの王を超えられるだけの正当な理由があると考えられる。千年を超える約定より重んじられるのならばどのような理屈に拠って立つのか」

「……それは……」

「我々西方エルフは既に彼の正統性を認め、この国を承認している。その意味を解せないということはないはず」

「カナリア隊の隊長よ。お前はエルフとドワーフの戦争が起きると言いたいのか?」

「そうは言わない。だが、長命種を名乗り歴史と伝統に拠って世界を管理しようとするならば、千年の重みがわからぬ道理もないはず。今一度、長命種としての責務を見直すべきだ」

 

 外務卿のラメラが言葉に窮する。

 ミスルンの言葉は確かだ。相手の軍備は未だままならないとはいえ領土の請求権、正統性を欠くまま戦争を起こせばならず者の国として周囲のドワーフ国家の敵対化の口実を与え、最悪の場合包囲網の形成も考えられる。

 さらに最悪を引くとするならば西方エルフとの大戦への突入。立地上カーカブルードは間違いなくその最前線となり、国土は荒廃し滅亡する。

 現在の国の窮状も考えれば、メリニを滅ぼせたとしてもその後が続かないのは外務卿にもわかりきっている。

 戦いをちらつかせるのは脅しにならない。さりとて、ここで何かを引き出せなければどのみちいずれはゆっくりと……。

 

「ラメラ殿。潮時ですぞ」

「……わかっているが……!」

「強硬策は止めて一度戻り絡めとる方法を探るべきです。まだこやつらのカードは少ない、隙も生まれる」

 

 新たな王との知己があることを買われてメリニへと派遣されたタンスがそう耳打ちする。

 城を構え、領地を得ようと所詮メリニはまだまだ冒険者にはぐれ者に部族の集まり。政治的な駆け引きのバランス感覚を備える人材などいるはずがないし、今後大きくなってもつけこめる隙間はある。

 何より(ライオス)が素人で短命種。時間が経てば結局のところ分はこちらへ傾く。

 耳打ちが終わると、大きく息を吸って吐いたのち再び口を開いた。

 

「…………賠償について譲るつもりはない。しかし、額面の精査、償還までの期間、返済開始までの猶予など調整を要する部分は、宰相殿の言葉通り確かに検討の余地がある」

「こちらとしても返済に応じる意思は確かにあります。特に我々も手が足りない現状、失業者への職業斡旋はすぐにでも取り掛からせていただきたく存じます」

「それも含め、複数回の会談にて調整していきたい。次回の日程は追って伝える」

「了解致しました」

「であれば、この会談にこれ以上の進展は望めない。本日はこれにて失礼する」

 

 席を立ち、玉座の間を去っていく外務卿とタンスのふたり。

 その背中が完全に閉じていくドアの向こうへと、完全に消えた瞬間――――。

 

「「「「「はあああああ~~~~~~~~………………」」」」」

 

 ライオスが、カブルーが、ヤアドが、マルシルが、そしてパッタドルが張りつめた空気から解放され安堵のため息をついた。

 ただ一人、ミスルンだけは顔色ひとつ変わることもなかったが。

 

「ま……また来るのか、アレが」

「いいじゃないすか……黙ってるだけなんだから……」

みんな大事なこと喋ってるのに黙ってるだけってキツいんだぞ!?

「こわかった~~~~…………あんな怒んなくたっていいじゃん…………」

「……外交の世界が、これほど緊張感と殺気に溢れたものだったとは……」

 

 ライオスは単に怒りといった人間の負の感情を受け止めるのが苦手だし、話の蚊帳の外に置かれるのは誰でも好きではない。

 カブルーやマルシルは人当たりはいい方だが、目の前で怒鳴り散らすおっさんを見ていて緊張しない人間はそもそもいない。

 なんとなく『ダルチアンの一族』で見たような煌びやかなる宮廷外交を想像していたパッタドルは、想像と現実のギャップと責務の重さに打ちのめされている。

 

「ヤアドは慣れてそうだったからてっきり平気かと……」

「本は穴が空くほど読みましたけど、実践は初めてでしたし緊張しますよ」

「ミスルン隊長もなんか手馴れてませんでしたか」

「隊でも渉外はした。ブルード程度の木っ端に怯んでいたら南方大陸のドワーフ達とは話せない」

木っ端すかアレが

 

 どこそこで感想戦が始まる中、ライオスはこの度の経験で痛感した。

 

「こんなことがきっと毎月のように起こるんだな」

「ライオス?」

「いや。関わった人達の居場所になりたいと思ったけど、国を治めるって全然簡単じゃないなと」

「そりゃまあやってみないと分かりませんし」今更……

「俺たちもっと、勉強しないとな……」

 

 その時、ひときわ大きく王の腹の虫が鳴った。

 時はもう日が沈み始める頃で、昼餉には遅めの時間。しかし、腹が減ってはなんとやら。

 

「……みんなで何か食ってから考えようか。エルフの方々も」

「いただこう」

「ご相伴にあずかります」

 

 前に進むのは食ってから。迷宮でも宮廷でも、これだけは変わりそうにないとライオスは赤面しつつ思った。

*1
いわゆる東方大陸一般に通る"西方エルフ国"であるが、魔術的攻撃を避けるため国名の開示は現在に至るまで世界的に拒否されている






カブルー「終わった。異常なかった?」
リン「別に。魔術的な攻撃の痕跡は一切ない、そっちこそずっと怒鳴られっぱなしだけど」
カブルー「……んまぁ流石にこたえた。リンもこっちで食事にしないか?」
リン「飯ぐらい出なきゃこんな面倒なことやった甲斐がないでしょ」
カブルー「ははは、そりゃそうだ。無理言って悪かったよ」
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