Fate/Grand Cross   作:イビルジョーカー

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〜イベント〜
特異点『F』導きの天使と鋼の錬金術師


 

 

 

 マシュ=キリエライトは、絶望するしかなかった。

 魔術世界における冠位指定、グランド・オーダーを果たすべく、人類史を観測する組織『カルデア』。

 その予期せぬ不慮の事故によって偶発的にレイシフトしてしまった彼女は、名を知らぬ英霊からその力を託され、本来なら死ぬ筈だった運命を生存という形で覆し、人類史における異常…特異点の解決の為、カルデアにマスターとして

招集された一人の少年『藤丸立香』と共に事態解決に奔走していた。

 その矢先、シャドウサーヴァントと呼ばれる

存在に遭遇。

 サーヴァントとは、過去において様々な功績を残した偉人たち。

 その魂を霊体として現世へ召喚せしめた存在だ。

 そして、その影となった英霊がシャドウサーヴァント。

 本来の姿から大きく逸脱する形で変質してしまったもの。

 それが今、牙を剥き襲いかかる。

 あと数秒もしない内にシャドウサーヴァントの1体…アサシンが投擲したナイフが藤丸立香の心臓へと突き刺さり、その命を奪う。

 戦いというものを知らない全くの一般人である人間に迫り来るナイフを回避する瞬発力や、防ぐものさえない。

 マシュは周囲への警戒をもっとすべきだと。

 今この瞬間になって後悔してしまう。

 手遅れだと言うのに。

 

「マスター!!」

 

 必死に手を伸ばす。それに応えるように藤丸も手を伸ばすが、その手が繋がることは決してない。

 ナイフが心臓に到達する方が断然早い。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、このまま行けば。

 

 

 ギィィンッ!!

 

 

 金属と金属がぶつかり合い、弾き合う音が響き渡る。

 

「よっ。危なかったな」

 

 気の良いフランクな声が藤丸とマシュの耳朶に心地よく染み渡る。

 そこに悪意などなく、敵意もかんじられなかった。

 声の主は藤丸の目の前に立っていた。長い金髪を一本の三つ編みに束ね、黒いズボンを履き、上半身は裸の上に赤いコートを着るという、何とも珍妙な格好をした一人の少年。

 察するにこの少年が藤丸に迫っていたナイフを払ってくれたのだろう。

 だが、そうなると妙になる。

 金属同士の衝突音だ。

 ナイフを弾いた際の音なのだろうが、少年は

何一つとして得物を持っていない丸腰。

 どうやって弾いたのか?

 そんな疑問が湧いてくるが、その疑問は彼の右腕を見たことで瓦解する

 

『なんか新しい霊基反応が出てるんだけど、新手の敵?! いや、でも助けてくれたから……味方? どっちだ?!』

 

 取り乱した様子のロマンの声が、通信越しに

藤丸の耳朶に入っては来る。だが目の前の少年の存在に気を取られ、彼自身は正確に情報として聞き取れてはいなかった。

 

「君は……」

 

「安心しろ。味方だ。悪いが、自己紹介はコイツらをぶっ倒した後に頼む!」

 

 少年の右腕は血の通った生身の腕ではなく、無骨な金属の腕だった。

 この腕で、アサシンのナイフを弾いたらしい。そしてその金属の腕の手首、甲の位置から鋭いブレード状の刃物が顔を覗かせていた。

 

「貴様……何者だ!」

 

「何って、お前らと同じサーヴァントだよ」

 

 アサシンからの質問に少年はそう答える。

 "当たり前なことを聞くなよ"と言いたげな

表情を浮かべると両手を合わせ、パン!と一拍子鳴らしてから地面へ置く

 すると地面がまるで生きているかのように脈動し始め、次の瞬間には巨大な手となってアサシンを捕らえる。

 

「な!これは?!」

 

「"錬金術"……まぁ、こっちじゃ勝手が随分違うみたいだが」

 

 そう言って先程と同じ動作をするが、今度は地面ではなく近くの瓦礫に右手を押し当てる。

 するとまるで瓦礫の壁面から、徐々に生えるようにして一本の槍が出現。

 少年はソレを手に取り、自身へ向かって来た

骸骨の姿をしたスケルトン系エネミー10体を

一振りでバラバラに撃破し、巨大な手に拘束されて一切の身動きを封じられたアサシンの頭に

鋭利な刺突を撃ち込み、その命を奪う。

 

「……ごめんな」

 

 一瞬、後悔や悲哀を含ませた顔を浮かばせるがすぐに消し去り、残るエネミーやシャドウサーヴァントに向けて槍を構える。

 

「どっからでもかかって来い。コイツらに手は出させねぇ……」

 

 吐き出された言葉に秘めた気迫。エネミーや

シャドウサーヴァントたちはそれを肌で感じ取り、少しばかり後退る。

 だが所詮、一時的なものに過ぎない。

 理性ある人としての面を失った彼等は欲望を基点に行動する。

 会話はできるが、話は通じない。

 そんな彼等に戦闘をやめて大人しく話し合う

などと言う、そんな選択肢は存在しない。

 両勢力の緊張が一気に高まって来た、まさに

そんな時。

 

「おー!カッコいいねキミ!そんな姿見せつけられちゃったら、お姉さんも協力したくなっちゃうよ!!」

 

 翳りの一切ないハイカラな少女の声が周囲に

広がる。その出処は……なんと空からだった。

 パッと見て頭に思い浮かぶ単語はボディーラインをくっきりと出すタイプのタイツのような特殊スーツ。

 あるいは、全身タイツか。

 ピンクのカラーで所々メカ的要素を孕んだものを身に纏っているのは丁度、マシュや藤丸と

同じ年代と思わしき少女。

 赤いフレームの眼鏡をクイッと上げ、二房の

お下げを揺らし、不敵な笑みを浮かべる様は恐怖や狂気といったものを感じさせなかった。

 一欠片さえ皆無で、実に理性的と言える。

 しかし。そんな様々な要素が眼中にならない

程、ソレは一際目を引くものだった。

 彼女の背中から生えている一対の紅い両翼…

いや、生えていると言うのは適切じゃない。

 何故なら翼は個としての実体がなく、むしろ膨大なミクロ単位の粒子が奔流のように噴き出しているようなもので、はっきりとした意味で翼と定義できるかは、かなり微妙だ。

 しかしその粒子の奔流は翼のようなシルエットを浮き彫りにしている。

 そして、極め付けは少女の頭上に飾られた赤い一輪の光の輪。

 

「天使……?」

 

 マシュがふとそんな言葉を零す。

 

「にゃっははー! 天使って言うのは、まぁ、半分当たりかな?」

 

 少女は大胆不敵とばかりにニヤリと笑っては、片手に一本の槍を顕現させ握り締める。

 槍は左右赤と青の配色のオブジェクトが一本の白い槍に螺旋状に絡みつき、先端は三叉構造。

 奇異な形だが、それは紛れもなく少女の宝具であり『槍』だ。

 その事実が彼女をランサーのサーヴァントだと確定付ける。

 

「さてさて。やり合う前に自己紹介しとこっか」

 

 天使の少女は、名を紡ぐ。

 

「我が名は"ガブリエル"。偉大なる主の命の下、かの神子の誕生を告げし者』

 

 つい今までの剽軽な言動とはまるっきり異なる厳格で、有無を言わせない圧を孕んだ声が周囲へ広がる。

 だが、それも束の間だ。

 

「そして、本当の名前は『真希波・マリ・イラストリアス』。

そうだねぇ……気軽にマリさんなんて呼んでもいいよ?」

 

 秒も保たず、すぐに神々しい位の威厳さをかなぐり捨てて、少女こと真希波は不敵に自信に満ちた笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

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