察しの悪いらでん   作:たかしクランベリー   

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1話・奇妙な1:1

 

 

――これは、ある画家の絵画を

PDF化したものです。

あなたには

この絵画の異常さがわかりますか?

おそらく一見しただけでは

ごくありふれた絵画に見えるでしょう。

 

……しかし、

注意深く隅々まで目を通すと

人物画や背景、植物小物等の描き方に

〝奇妙な違和感〟が存在することに

気がつくはずです。

 

その違和感が重なり、

やがて一つのおそろしく信じ難い事実に

結びつくのです。

 

〝もう一度ご覧ください〟

あなたには

この絵画の異常さがわかりますか。

 

―――――。

 

某日、案件予定のとある美術館から、

らでんに奇妙な絵画のPDFが送られた。

 

〜SIDE『儒烏風亭らでん』〜

 

とある日の早朝……

わたくし儒烏風亭らでんの

知り合いである

美術館のオーナー(柳沢さん)が、

PDFデータと共に相談を持って来ました。

 

彼は近々、グローバル且つ新鮮な

展覧会を開催したいらしく……

それを機にヨーロッパの新人画家たちが

手掛けた絵画なども

多く展示する決心をしたそうです。

 

彼曰く。

温故知新と新進気鋭は

表裏一体だと言います。

 

ですが。

ノリ気で様々な展示予定作品を嗜む中、

ただ一つの作品に戦慄して

鳥肌が立ったそう。

 

以前展示を行っていた

美術館に問い合わせても

〝よく分からない〟と言います。

 

展示する上で問題はないと

聞いているものの、

何となく気味が悪いので

『件の絵画』を展示するかどうか

悩んでいるそうです。

 

偶然にもわたくしの

知り合いのホロメンに

探偵業を営んでいる

アメリアさんという方が居るので、

その人に相談してみることにしました。

 

念の為一応、博衣こより先輩から頂いた

『ナンデモ言語デキール-554-』という

謎の錠剤を服用してから受話器を繋ぐ。

 

ピリリリリ――

 

カチャッ。

 

「もしもし、アメリア・ワトソン先輩で

合ってますか?

あっ、お初にお目にかかります。

わたくしホロライブの

ReGLOSSっていうグループに

所属してる儒烏風亭らでんと申す者です。」

 

「Wats? Who are you,」

 

(あ、そうだ。薬の効果を

利用するには、使用したい言語を

強く頭で念じる必要があるんだった。)

 

間違えたもんは仕方ないっちゃん。

気を取り直してテイク2行くばい。

 

「もしもし、アメリア・ワトソン先輩で

合ってますか?

あっ、お初にお目にかかります。

わたくしホロライブの

ReGLOSSっていうグループに

所属してる儒烏風亭らでんと申す者です。」

 

「あー、聞いたことあるわ。

最近デビューした子でしょ。

JPの先輩じゃなくてENのわたしを頼る

なんて何だか不思議ね。

……それにしてもあなた、

英語上手いわね。」

 

「いえいえ。

わたくしホロメンの中では

割と英語不得意寄りでして……」

 

「謙虚で真面目ね。

わたし、そういう後輩好きだわ。

で? 相談って言うのは何かしら!

じゃんじゃん頼っていいわよ!」

 

事情を話したところ。

一度件の作品を見てみたいとの事なので

PDFファイルを事務所越しで送信し、

後日また電話をする約束をしました。

 

――数日後。

 

儒烏風亭らでんの

自宅用受話器が鳴った。

 

プルルルルル……カチャッ。

 

「もしもし、儒烏風亭らでんです。」

「数日ぶりね。アメリアよ。」

 

「あ、アメリア先輩。どうも。」

「例の絵画の分析が粗方出来たわ。

今、お時間頂いて良いかしら?

メールも送っとくわね。」

「はい。大丈夫です。」

 

自分のスケジュール帳を瞬時に

ぺらりと確認したが、

本当に予定が空いてて良かった。

 

(えーと、

PCにメールが一件来とるけんね。)

 

【Mail】 

host:Watson Amelia

 

text:絵画一面、下部の描き方に注目。

(※魔法薬補正で日本語に見えてる。)

 

「既読ありがとう。

美術に関して詳しいと

同期から耳にしたのだけど……

そんな貴女はどう思ったかしら。」

 

メール専用ブラウザを縮小し、

改めて件の絵画ファイルを開く。

唐突に返事を求められても

こっちはこっちで分からず仕舞い。

 

絵画の凝視なんて

10秒で飽きて放置したぞ。

 

あと美術に詳しいってなに。

どこの眉唾? 

どこの世界のらでんの話?

こちとら学生時代、毎年 

美術の通知表が『1』だったんだが?

 

この絵見て何らかの感想

求められても困るっちゃん。

落語やタバコ、パチスロと酒の話なら

大歓迎なのに……。

 

「えーと、絵画の一面。

下部の描き方に謎があるみたいな

文面なんですけど……

これって、何だと思いますか?」

 

「それをわたしが訊いてんのよ!?

おうむ返ししないでくれる!?」

 

「いやー、あのー。わたくしそれがぁ……

全然分からなくて。

ただの魅力的な絵画だなーって。

何だかお酒の肴になりそうな

良い色合い……ですよね。」

 

「もしかしてアンタ二日酔いなの!?

こんな時に勘弁してよ!

……まぁ、いいわ。」

 

「そうそう。そんなとこばい。

――と言う訳で悪いですが、

先輩に頼る事になるっちゃん。」

 

受話器越しに

聞こえる長く大きい溜め息ののち、

先輩は推理を語りはじめてくれた。

 

なんか分からんが。

アドリブだけど、ほろ酔い作戦大成功。

 

「一概には言えないのだけれど、

この下部の描き方は〝意図的〟に

上部と色彩をズラして

描かれたものってことね。」

 

「……意図的に、描かれたもの。

てかそもそも絵って、

そういうもんでしょ。

なーに言ってるんですか先ぱぁい。」

 

「そうね。なんかわたしと

あなたの認識も大きくズレてる気が

するのだけど、

キリがないから続けるわ。

まずは上下が一対一の比率になるよう

絵画に対し、中央の線を頭の中で

引いて考えてみて。

無かったらPCのマーカーツールを

利用しなさい。

出来れば赤が見やすいわ。」

 

言われた通りに、

マーカーツールを利用して

赤線をマウスドラックで引いてみる。

 

すると、ある一つの違和感に

頭が引っかかるが……

マグロの中トロと上トロの霜降りくらいの

ギャップしかなく、結局は

さほど変化を感じられない。

 

「この絵画……何か〝変〟……」

 

「ようやくあなたも勘を取り戻したようね。

上部は暖色を多めに、

下部は寒色を多めに用いて着色してるの。」

 

「つまり……」

「ええ。この明確に 

区切られた色遣い意味。おそらくは、

室内気温と外気の気温を表している

モノと考えられるわ。」

 

外気の気温……か。

 

「と、言いますと?」

 

「空気を伝わる熱の動きは分かるかしら。」

「えーと。あったかい空気が

上に行って、冷たい空気が

下に行く的なアレですか?」

 

「そのお通りよ。この絵は室内を

メインに描いている都合上、外の背景に

季節感を付与する描き方ができない。

逆説的に結論付けるなら、

室内に生じた寒暖の層は

予め備え付けた暖房器具によって

もたらされたと推理できる。

じゃあなぜ暖房を起動させているのか?

答えは簡単、外が寒い季節だからよ。」

 

「…………」

 

「以上の事柄から

まず第一に注目したいのは、

この絵の舞台となる

季節が『冬』であることね。」

 

「ちょっと待つたけ!

この部屋には

確かに窓があったっちゃん!」

 

そうだ。十字の格子が入った窓が

あるのに、なぜ……?

 

「果たしてそれは

――本当に『窓』なのかしら?

窓の外に雪が降る情景を描けば、

こんなまどろっこしい描き方を

せずとも傍観者たちは

絵画の季節が『冬』であると分かるわ。

この絵を見た一定数の傍観者が抱く、

絵画中央に座すセーターを着た少年が

〝単なる冷え性体質〟なのではないか?

春や秋の可能性もあるのではないか?

……という疑念を晴らす

大きな判断材料になるにも関わらずよ。」

 

「そうですよ……!」

 

「この部屋に窓が無いとしたら、

全ての辻褄が合わないかしら?

わたし、絵画の色彩バランスがどうにも

気になるから上下の彩色と明度を

調整して合わせてみたの。」

 

「…………。」

 

「日本ではこれなんて言うのかしら……

確か……百聞は一見にしかずってやつ?

取り敢えず調整済みの添付ファイルを

あなたのメールに送信したわ。

確認してみなさい。」

 

ピコンっ!

 

(よし。このメールを開いて……)

 

マウスを再び手に掴み

動かそうとしたその時だった。

 

「待ちなさい。」

「――!?」

 

「それを見るのは

わたしの望んだ事だから別に

構わないのだけど……

只それだけじゃあ

全く〝面白く無い〟わ。

個人の意見を見聞きするなんていうのは

誰でも出来るじゃない?」

 

え、マジ。

こんな謎の絵の推理をらでんも

しなくちゃいけないのぉ!?

 

美術の座学では聞いてる風装って

脳内イマジナリー落語してたし。

美術の自習で棒人間しか描かず、

放課後毎回担当の先生に

叱られまくってたわたくしが……?

 

それに。

らでんの画伯は沙花叉クロヱ先輩の

手書き文字と同レベルだと

多くのホロメンに

ネタにされてたのに……。

 

※彼女は美術関連ステータスが

『0』の世界線の儒烏風亭らでんです。

 

だからといって、

ここで引いては儒烏風亭一門

一生の恥。

 

美術の教養がドベでも、

他の面からアプローチが

出来ない訳じゃない。

 

(やけん、腹を括るしかあるまいよ。)

 

「――そうですね。」

「あら、気合の入った返事ね。

アナタも乗り気になってくれて嬉しいわ。

これぞ、探偵冥利に尽きるって奴ね。」

 

探偵さんなら自分で

解き明かしてくださいよ。

クライアントはこっちなんですから。

 

……なんて、今更言えないか。

 

「それと勘違いはしないでね。

わたしはアナタを試すつもりはない。

探偵にとって大事なのは

物証、証言……そして、『矛盾』よ。

Aの推理が生まれると同時に、

BやCの推理も当然現れる。

これは切っても切れない関係だわ。」

「ええ。」

 

「独り歩きの推理だけじゃあ、

整合性に欠けるでしょ?

だからわたしの推理の閲覧権を

与える代わりにらでんちゃん――

あなたなりの推理も聞かせて頂戴。

もちろん模倣は認めないわ。」

 

この先輩、想像の100倍手厳しい。

 

「……分かりました。」

 

「そんなに緊張しないで。

わたしが箇条書きに纏めた

絵画の留意点も共有させとくから、

それも参考にして良いわよ。」

 

前言撤回、意外とやたてぃー先輩だった。

 

「よーし! 話は長くなったけど

これで交渉成立ね!

もう押していいわ!!」

 

じゃ、お言葉に

甘えてやらせて貰いますかね。

 

ポチッとな。

 

おーおー、開いた開いた。

 

【Mail】 

host:Watson Amelia

 

text:★絵画の留意点(現時点)★

 

・上下[1:1]に振り分けられた

異質な彩色配分

 

・絵画中央に座す、

セーターを着た本読み少年

 

・勉強机の側面に置かれた

折り畳み式の椅子(折り畳んだ状態)

 

・部屋の凹みに置かれた

縦棒型の電気ストーブ(稼働中)

 

・絵画内の季節は『冬』である可能性が

極めて高い。

 

えー。これだけかー。

正直キツイとしか

言いようがないっちゃん。

 

まー、本題は色味を調整した

件の絵画だ。

とりま、そっちを見てから考えよう。

 

そいじゃ、ポチッとな……。

 

「――!? な、なんじゃこりゃあ!」

「ふふ、驚いた?」

 

そげん事が……本当に……

最初は窓にしか見えてなかったのに、

こんな仕掛けがあるなんて。

 

「窓なぁああああいっ!!!

アメリア先輩っ!

窓ありませぇぇえええん!!」

 

「じゃあそれが何なのか

また後日あなたの口から聞かせて頂戴ね。

グッバーイ☆☆」

 

「ちょまっ! ちょっと待つたけェエ!

まだ話は――」

 

ガチャっ、ピーピーピー……

 

切られた。なんと逃げ足の速い探偵だ。

これではまるで怪盗じゃないか。

だが、ここで見逃す程

らでんも甘くないぞ。

 

ピッピッピッ、カチャッ。

プルルルルル……プルルルルル……

 

(さぁ、もう一度チャレンジだ。

もっとヒントを引き出してやるばい!)

 

『こちらの電話番号は、

ただいま圏外です。』

 

「ウソダドンドコドーーーン!!」

 

 

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